〜空蝉〜高校最後の夏。空っぽになってしまった僕に、力尽くで寄り添ってくれた君

鱗。

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第四話 君の前で、どんな顔したら良いか、分からないよ、もう。

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誠也から最初に送られて来たのは、真っ赤な夕焼け空の写真だった。再会を果たしたあの日、公園からの帰り道に撮影したらしい。冷やかしで連絡先を交換したのではなくて、本当に連絡してきた事実には驚いたけど、騙されていた訳ではないという事が分かって、受け止めた印象と行動に齟齬がない誠也に、少しだけ好感を覚えた。全体的に見てみると、誠也の行動は突飛で謎が多いのだけど、年齢的に見ても、最初の連絡手段の初手として選ぶに分からないでもない選択だったから、『綺麗だね』とだけ返した。


次の日、朝早くから送られて来たのは、誠也のその日の朝食の目玉焼きだった。珍しく二卵性だった様で、文面からも割とはしゃいでいる様子が伺えた。けれど、部活から帰ってきた辺りの時間帯だろうか、母親が誤って二つの卵を割ってしまい、同時に焼いただけの代物だったという事実が判明し、しょぼくれた様子のカトクが送られてきた。だから僕は、他にどんな言葉を掛けたらいいのか分からず、一応、『ドンマイ』とワンセンテンスで慰めておいた。


その次の日送られてきたカトクには、飼っている犬の写真が添付されていた。ドーベルマンを飼っている家なんて周りには無かったから、その大きさを知って驚いた。部活帰りに散歩をしてあげるのが日課らしく、その体格もあって、散歩中は殆ど一緒に走っている状態らしい。とはいえ、部活で酷使した身体をクールダウンさせるのには打ってつけで、あまり苦には感じていないとも言っていた。身体は大きいけれど、まだ赤ちゃんに近い年齢なのだそうで、遊びたい盛りで大変だ、と親バカ発言をしていたから、『大変だね、お疲れ様』と話の流れに乗って労わってみた。


そのまた次の日は、『いま何してますか?』という、なんとも曖昧な、どんな意図があるのか判別し難い短文だけが送られてきた。その日は日曜日だったので、『家にいるよ、目下勉強中』と事実を伝えると、そこから暫く返事が帰ってこない空白の時間が続いた。忙しいのかな?まぁいいか、とあまり気にもとめずに放置していたら、昼過ぎ頃になって、突然カトクの通話の方の着信が入った。電話に出ると、間髪を入れずに誠也は。


『突然すみません。もし時間があるなら、これから燈さんの家で勉強教えてくれませんか?』


再開して2日しか経っていない人間の、距離の詰め方としては、如何なものか。僕がおかしいのか。それともやっぱり、誠也が先走っているのか。その判断が付かなかった僕は、ちょっと考えさせて、と断りを入れてから電話を切り、コミュニケーション能力が天元突破している親友に助け船を出した。


『後輩、再会、連絡先交換、毎日連絡、再会から二日後訪問依頼←早くない?』

『女の子?』

『違います』

『なら別に気にしないで入れたげれば?』

『でも、圧が凄い』

『つまり?』

『ちょっと苦手』

『へぇ、珍しい』

『そう?』

『何にせよ、俺、今からデートなんで』

『裏切り者』

『制服デートやふー』


これだけ面倒を見てやってきたというのに、何という節操の無さ。我ながら、何でこんなに長く付き合えているのか意味が分からない。年齢を重ねていけば、いつしか、それに応じた落ち着きみたいなものを備えていくんだろうか。人の話をちゃんと聞く、という人間関係の基礎が漸く定着してきたとばかり思っていたのに。三歩進んで二歩下がる。難しいですよね、子育てって。


「こんにちは」

「……うん」


だから、恐らく、この子もきっと、これでいてまだまだ成長段階で。人との距離感が、上手く測れないだけなんだろうな、なんて思ったりもするんだけど。ドーベルマンみたいにしなやかで、がっちりした体格だとか。身に纏う強い気配と、口調に漲る力強さだとかの、全体的な圧が強過ぎて。いかんせん、どう扱ったら良いのか分からなくて、戸惑う。


「お茶菓子と飲み物は用意してきたので、良ければ」

「ありがとう……じゃあ、中にどうぞ」

「失礼します」


これまでの経緯を踏まえれば、多分、懐かれているんだろうな、とは分かっているんだけど。この勢いがいつまで続くかな、というのが正直な感想だ。再会に乗じた一時の熱量に振り回されている感覚も無くはないので、如何ともし難い。言葉にはしないけども。でも、どうしても考えてしまうんだ。


この関係性の着地点って、一体何処にあるの?


「燈さんって、アイドルのポスターとか飾るタイプなんですね。意外だな」

「それ、弟のやつ」

「ああ、納得です。そういえば、ベッドも二段だし……どっちが燈さんのベッドか、当てていいですか?」

「当ててどうするの」

「そうだなぁ……今度は、俺の家に遊びに来……いや、勉強しに来るとか」


漏れてる、漏れてる。うん、でも、まぁ。


「当てても当てなくても、それくらいは別に」

「え?……本当ですか?」


絆されるの、早くない、僕。圧が強くてちょっと苦手とか言ってた舌の根も乾かないうちに、我ながら、なんて節操の無い。とすれば、人志と僕って、やっぱり類友だったりするんだろうか。いやぁ、それは、何というか……事実だとしても、認めたくない事ってあるよね。


それにしても、喜色が凄い。全身から、ぶわって。無表情なのに、溢れてる。感情とか、興奮とか、色々。久々に会ってみて、見た目から受ける印象はだいぶと変わってしまったけれど、誠也って、昔と変わらず、本当に素直な子だよなぁ。先入観とか、裏表とか、損得とか、考えるだけ無駄に思える。そんな相手、これまで人志以外で出会った事がないから、戸惑いはあるけど、単純に有難い。


剣道から離れると同時に、僕の周りから姿を消した人なんて、いくらでもいたから。今現在の、何者でもない僕自身を見ても、まだこうして慕ってくれている存在がいるんだって事実には、救われる。この子の中にある、久し振りの再会によって持ち得た高揚感が、いつまで続くかは分からないけれど。せめて、この関係性の着地点が目に見えるまでは、僕の方から距離を置くのはよそうと思った。


ただ、寂しい奴に思われているだけだとしたら、そして、同情心もあって優しくしてくれているだけだとしたら。僕はその時、どうするのかしら。


「何だか、凄く心配です。燈さん、昔と全然違うから……隙だらけじゃないですか」


剣士らしい反応だなぁ。僕もまぁ、同じ感想を抱いている真っ最中だけど。それにしても、喜んだり心配したり唖然としたり、忙しい子。でも、見ていて飽きないな。人志とはまた別の、心地良い慌ただしさがある。


「それとも、相手が俺だから優しくしてくれてるって、自惚れてもいいですか?」


とか思っていた矢先に。何を突然口走っているのかな、この子は。まだ、座ってもいないし、持って来てくれたお茶菓子や飲み物だって、ビニル袋から出して、テーブルの上に広げてもいないのに。容赦無く、懐にズバズバと斬り込んでくる。どう切り返せっていうんだ、こんなもの。こちとらブランクがあるもんだから、うっかり頷くしか無いじゃない。


「……うん」


嗚呼、違うな、これはきっと、単なる副作用だ。


「ほんとに……?」


剣の道を外れてから、こんな風に、誰かから、温かな感情を向けられた記憶が少ないから。免疫力が弱まっている所に、こんな劇薬を投与されてしまったら、堪らないよ、もう。


「ただ、もう一人、元気がいい奴、一緒に連れて行ってもいい?」


君の前で、どんな顔したら良いか、分からないよ、もう。


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