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しおりを挟むデビットと婚約してから、約二週間が経った日の夜。
キャロルが就寝し、本日の任務を終えたセレーナは、とある疑問を抱えながら、王宮内を適当に歩いていた。
(……一体、なにが起こっているのやら)
──実は、セレーナがデビットと婚約をしたことを告げた二日後、キャロルは早速デビットをお茶会に招いた。
セレーナはキャロルの護衛騎士なので、もちろんそのお茶会の席にも同席するつもりだったのだが、下がるよう命じられた時は驚いたものだ。キャロル曰く、デビットと腹を割って話したいらしい。
そういうことならば、とセレーナは命令に従った。
とはいえ、念のための有事に備えて、セレーナは二人の会話が一切聞こえない程度の距離からキャロルを見守っていたのだが、問題はそこではなかった。
(──もう、かれこれお茶会は六回目。まさかこんなに回数を重ねることになるとは思わなかった)
なんと、キャロルとデビットのお茶会は一度ではなく、二、三日に一度の頻度で行われているのだ。
さすがのセレーナも、これには驚いた。
(キャロル様は私のためにデビット様の人となりを知ろうとしてお茶会を開いていることは分かっている。けれど、こんなにも回数を重ねる必要が……? それに──)
とある光景を思い出し、頭を悩ませたセレーナは、ドン、となにかにぶつかってしまう。
明らかに人だと分かる感触に、セレーナは勢い良く頭を下げて「申し訳ありません!」と謝罪した。
「やあ、セレーナ。久しぶり」
「……! 殿下……」
聞き慣れた声に顔を上げれば、そこには二週間ぶりに顔を合わせたフィクスの姿があった。
(そういえば、公務や遠征で王宮を空けていない殿下と二週間も会わないなんて、初めてのことかもしれない)
いつもはなにかに理由をつけて、フィクスが会いに来ることが多かったが、なにかあったのだろうか。少し不思議に思ったセレーナだったが、たまたまだろうと深く考えることはなかった。
「それで、どうするの?」
「……? なんのことでしょうか?」
突然の問いかけに、セレーナは意味が分からず聞き返した。
「一昨日、見たよ。セレーナの婚約者がキャロルの手に触れているところ。下心丸出しの顔してさ」
「…………」
──そう、セレーナの頭を悩ませていたのは、前回のお茶会の時のことだった。
テーブルの上に伸ばされたキャロルの手に、デビットがそっと手を重ねていたのだ。それも、思わず引いてしまうほどに鼻の下を伸ばして。
「……君の婚約者、キャロルのことが好きなんじゃないの? そんな相手と、セレーナはこのまま結婚してもいいわけ?」
フィクスの声はいつもより若干低い。碧い双眼がセレーナを射抜いた。
それは、こちらを試しているような目だ。
(殿下のこの目。全てを見透かしているようで苦手だ)
けれど、セレーナはフィクスから視線を逸らすことなく、口を開いた。
「……仕方ありません。私は貴族の娘です。母はこの婚約に乗り気ですし、私に早く結婚してほしいという母の願いにも応えねばなりません。なにより爵位はあちらが上です。私から婚約を解消してほしいなどと言えません。もちろん、互いの家のために、デビット様の恋心は胸のうちに秘めるようお願いしなければなりませんが」
「……ふぅん」
セレーナはデビットに対して一切特別な感情はなかった。
だから、デビットがキャロルを好いていようが、特段悲しいという気持ちにはならなかったのだが、フィクスの容赦ない言葉は、セレーナの心を抉った。
「じゃあセレーナは、そんな男のために騎士の仕事を辞めるんだ?」
「……それは……」
そりゃあ、大々的に他の女性に好意を露わにする男性との結婚のせいで、大好きな騎士の仕事を辞めなければいけないのは、多少は不満に思う。
けれど、ここまで数々の縁談を断ってきたのはセレーナだ。
今更我が儘は言えないという思いが強く、セレーナは口を結んだ。
そんなセレーナに、フィクスは小さく息を吐いてから、口元に弧を描いた。
「……まあ、悪いようにはならないよ」
「はい?」
「いや、独り言。じゃあ、俺はなにかと忙しいからもう行くよ。またね、セレーナ」
その言葉を最後に、去って行くフィクスの背中をセレーナはじっと見つめる。
(殿下のあの笑みは、一体……)
その理由が分かるのは、この時から二週間後。
デビットと婚約してから約一ヶ月が経った、初夏の頃だった。
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