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──話は現在に戻る。
「それで、これはどういうことなのでしょうか?」
王の間に現れてから即座に腰に抱きついてきたキャロルを労ったセレーナは、このままでは話が進まないからと思い、キャロルを優しく引き剥がした。
そして、残念そうな顔をするセレーナではなく、至近距離にある、どこか余裕そうな顔つきのフィクスに問いかけた。
「どうしようか。セレーナが可愛くお願いって言ってくれたら、教えてあげようかな」
「……殿下。お戯れは後にしてください。とりあえず説明をお願い致します」
今はフィクスの冗談に付き合っていられるほど、余裕はない。
セレーナの淡々とした言葉に、フィクスはアーモンドのような形をした目をを薄っすらと細めた。
「後でなら戯れても良いんだ?」
「……っ、揚げ足を取らないでください」
「ごめんごめん。怒った顔も可愛いよ。……ふ、耳まで真っ赤にして本当に可愛いね、セレーナ」
(……駄目だ、話にならない)
キャロルも「セレーナ可愛い……!」と破顔しており、落ち着いて話せる様子ではない。
ここには現状を説明してくれる人間は居ないのかと絶望するセレーナだったが、救いの手は玉座から差し出された。
「フィクス、きちんとセレーナ嬢に説明しなさい。お前が近日中には全ての証拠が揃うと言っていたから、万が一でもウェリンドット侯爵令息にこちらの動きが怪しまれないよう、致し方なく先のくだらん茶番に付き合ったんだ。私とて暇ではないんだぞ」
「……!」
国王の発言に、セレーナは目を見開く。
確かに冷静になって考えれば、セレーナとデビットのことに関しての話が王の間で行われ、更に王が証人になるなど、あり得ない話だ。
(けれど、また証拠って──。一体どういうこと?)
「失礼致しました、陛下。ではまずは──」
フィクスは国王に対して頭を下げると、口をぽかんと開けているデビットの方を見た。
そんなデビットと、彼に相反するように冷静な面持ちのフィクスの横顔を、セレーナはじっと見つめた。
「ウェリンドット侯爵令息。まず俺とキャロルがここに現れたのはね、君の父親の悪事の証拠を掴んだから、君に教えてあげようと思ったからだよ」
「な、なんのことです……!」
なにか思い当たることがあるのか、デビットは大袈裟に肩を揺らす。
(悪事の証拠……?)
セレーナも脳内の引き出しを開けてみるものの、なんのことかは分からない。
フィクスは数歩前進し、デビットとの距離を二メートルほどに詰めると、いつもより低い声で話し始めた。
「約半年前、キャロルに暗殺者を仕向けたのは君の父、ウェリンドット侯爵だろう? そして、君もそのことを知っている」
「えっ」
「そ、それは……! いや、その……!」
セレーナが驚きのあまり上擦った声を漏らすと、デビットは目を泳がせながら、口をモゴモゴと動かした。
(暗殺事件と言えば──)
遡ること、約半年前。
秋の季節になると、キャロルは国中の上位貴族の令嬢たちを王女宮に集めて、お茶会を行っていた。
そのお茶会に、セレーナはキャロルの護衛として参加していたのだが、思いもよらぬ事件が起こったのだ。
──キャロル・マクフォーレン! 死ね!
招待客の令嬢の一人に化けていた暗殺者が、隠れ持っていたナイフでキャロルを亡き者にしようとしたのだ。
セレーナは、キャロルの周辺を警戒するに当たり、どこか様子のおかしいその令嬢(暗殺者)に目を付けていたので、すぐさま対応に当たる事ができた。
結果として、キャロルや会場の令嬢たちは無傷で済み、その暗殺者はセレーナの手によって確保され、現在は投獄されている。
「──まさか、あの暗殺者を雇ったのが、ウェリンドット侯爵だったなんて……」
セレーナは驚きながらも、デビットからキャロルを隠すように護衛体制に入る。
しかし、はたと疑問が頭を過ったセレーナは、フィクスに対して問いかけた。
「……待ってください。何故それを王女殿下の専属護衛騎士である私が聞かされていないのでしょうか?」
王族の暗殺を企てている証拠が出た場合、デビットやウェリンドット家が無実でいられるはずはない。
今ここにデビッドが居るということは、証拠不十分のために侯爵家を罪に問えなかった、ということで間違いないのだろう。
だとしても、何故そのことをキャロルの護衛騎士である自分が知らされていないのか。
「簡単に言えば、証拠の隠滅を防ぐためだよ」
「……と、言いますと」
「暗殺者は投獄されてすぐ、ウェリンドット侯爵に雇われて行った犯行であると吐いた。けれど、この国では状況証拠や、第三者の証言だけでは法で裁くことはできず、物的証拠や自白が必要になる。だから、必要最低限の人員でウェリンドット侯爵について調べようという話になっていたんだ。多くの人間が関われば関わるほど、ウェリンドット侯爵にこちら側の動きを知られる可能性が高まり、証拠を隠滅される可能性が高くなるからね」
だから、セレーナにも、もちろん、セレーナの家族にも、黒幕がウェリンドット侯爵だとは知らされていなかったのだという。
「なるほど。そういうことでしたか……」
「ま、知らないとはいえ、セレーナの婚約者がデビットだと聞いた時は、さすがに驚いたよ」
冷ややかな視線をデビットに送りながら、フィクスはそう話す。
しかしここで、セレーナは、新たな疑問を持った。
セレーナは引き続きデビットに警戒しながら、顔だけ振り返ると、セレーナに問いかけた。
「王女殿下も事の経緯を知っておられたのですか?」
デビッドの家が自身に暗殺者を仕向けたと知っていれば、安易に二人きりにならないはずだとセレーナは考えたのだ。
しかし、キャロルの表情に一切同様はなく、デビッドに対して怯えている様子はない。
セレーナの疑問に、キャロルは満面の笑みで答えた。
「ええ! セレーナが婚約すると言っていた次の日に、フィクスお兄様からデビットについての話は全て聞いたわ。まあ、セレーナの婚約者が暗殺に関与をしていようがしていまいが、私の心は決まっていたのだけどね! フィクスお兄様も、同じ気持ちだったから、作戦は難なく決まったわ!」
「……? あの、お二人の作戦とは……」
イマイチ話が読めないセレーナは、か細い声でキャロルに尋ねる。
すると、護ってくれているセレーナからひょっこりと体を斜めに出したキャロルは、フィクスと目を合わせた。
「「題して、ウェリンドット侯爵の悪事を暴いて、セレーナの婚約をぶっ壊す大作戦」」
清々しいほどの笑顔で言ってのけた、息の合ったフィクスとキャロルに、セレーナは目をパチパチと瞬かせた。
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