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しおりを挟む(はい? ……つまり、どういうこと……?)
セレーナの思考はなかなか纏らない。
そんな中で、フィクスは自身の側近に目配せを送った。
「まあ、詳しいことはまた後にしようか。……とにかく、証拠は既に揃っているから、ウェリンドット侯爵令息──いや、そこの罪人を捕らえろ」
「ハッ!」
「……や、やめろ!」
(証拠が揃ったって、いつの間に……)
疑問が増えていくセレーナの一方で、デビットは抵抗虚しく、フィクスの側近──リックに両腕を取られ、床に膝をついた。
リックは、事務処理はもちろんのこと、過去に騎士として活躍していた経歴もあるため、人一人を拘束するのは容易いようだ。
「僕は何もしていません! 証拠なんて嘘です……!冤罪です! どうかお助けを……!!」
捕縛を指示したフィクスではなく、デビットはキャロルに縋るように叫んだ。
一方キャロルは、セレーナに「少し話してくるわね?」と伝えると、セレーナの前に出る。
そして、見せたことがないような冷たい双眼で、膝をつくデビッドを見下ろした。
「私のことを名前で呼ぶ許可をした覚えはなくてよ」
「!? そ、そんな……! 僕たちの仲じゃないですか……!」
「僕たちの仲、ですって……?」
キャロルの低い声に、まるで吹雪の中に放り出されたような冷気を感じた気がして、セレーナは身震いがした。
それはデビットも同じだったようで、彼の顔はどんどんと青ざめていく。
「私たちの仲って一体なんのことかしら? 軽率な発言は控えてくださる? 私が貴方とお茶会の時間を持ったのは、貴方の父上が暗殺者を雇った証拠を探っていたに過ぎないわ。……ま、フィクスお兄様に話をされるまでは、貴方の嫌なところを探して、セレーナに伝えるだけのつもりだったのだけどね」
「……えっ」
そう語るキャロルは、口元にだけ笑みを浮かべている。
セレーナは驚きのあまり口元を手で覆ってから、ポツリと呟いた。
「まさか、王女殿下が証拠を探っていただなんて……」
予想していなかった出来事に頭がいっぱいだ。
脳内に余裕がなかったセレーナは、デビットの嫌なところを探して伝えるつもりだったというキャロルの発言を深く考えることはなかった。
「なっ! それじゃあ、キャロル様が僕のことを好きだと言ったことも、セレーナが貴方様に嫌がらせをしていたという話も嘘なのですか!?」
「私は好きだなんて言ってないわ。『デビッド様のこと色々知りたいわ』って言っただけじゃない! それと、一応言っておくけれど、嫌がらせのことは全て嘘よ。弱いところを見せたほうが貴方が警戒を解いて、より一層多くのことを話してくれると思っただけ」
見目麗しいキャロルに色々知りたいだなんて言われたら、多くの男性は期待してしまうだろう。
しかも、そんな相手に弱いところを見せられたら、きっとデビットでなくともキャロルの虜になってしまう気がする。
(デビット様、なんと哀れな。真実の愛とまで言っていたのに)
少し離れたところに居るキャロルの侍女も、デビットに対して哀れみの目を向けている。
デビットは、恋情が砕けた無念から、まるで魂が抜けたような顔をしていた。
「それにしても、手を触られるのは本当に苦痛だったわ……」
そこに、キャロルの追加の一発である。
セレーナは少しだけ、デビットに同情した。
「……さて、話を戻そうか」
いつもは緩んだ表情が多いフィクスだが、今はかなり真剣だ。
セレーナも気を引き締めて、フィクスの言葉に耳を傾けた。
「君がキャロルにたくさん話してくれた中に、とても興味深いものが合った。君の父である侯爵は、『ルーフィス』というバーがお気に入りで、そこによく知人を連れて行くみたいだね」
「……! そ、その話は……その……」
デビットの額には、大粒の汗が滲む。再び目も泳ぎ始めた。
そんなデビットの姿に、話の確信はそろそろなのだろうとセレーナは悟った。
「調べてみたら、その知人の一人は裏の世界では有名な暗殺者を仲介する業者だったよ。さっき、その業者から、ウェリンドット侯爵と暗殺者のサインと報酬金額が入った書類を受け取ったところだ。もう言い逃れはさせないよ。それと、今頃、騎士団の一部の部隊がウェリンドット侯爵を捕縛している頃だろう」
「そ、そんなぁ……っ」
──フィクス曰く、ウェリンドット侯爵は、公にはしていないものの、昔から反王政派だったらしい。
国王やフィクスたちはそのことを知っていたが、罪を犯す前に捕らえることはできないため、常に目を光らせていたようだ。
そんな時、キャロルの暗殺未遂事件が起こった。
セレーナのおかげで事なきを得たものの、物的証拠が出なかったため、息子のデビットを泳がせて、証拠を掴もうとしていたらしい。
「お待ち下さい……! それは全て父のしたこと! 僕には関係ありません! それに僕は今、心からキャロル様のことを愛しているのです! そんな方の暗殺に関与しているはずないではありませんか!」
全ては父の罪だと言い張り、自身は無実無根だと言い張るデビット。
セレーナにはデビットの言葉が嘘か本当かなんて分からなかったけれど、キャロルに好意を抱いていることだけは本当なのだろうと思った。
必死な形相のデビットに、フィクスはハァ、溜息を漏らした。
「……なら聞こうか。どうしてウェリンドット侯爵家は、今まで関わりのなかったセレーナに突然婚約を申し込んだ?」
「それはあれです! 一目惚れです……!」
「さっき自信満々に婚約破棄したばかりか、キャロルを愛しているだなんて言う口がなにをほざいてるの」
フィクスの言葉に、セレーナは「確かに」と呟く。
「そ、それは……その……」と目を泳がせるデビッドに、フィクスはハッと鼻で笑って見せた。
「言い訳は良いよ。そこの調査も済んでる。──侯爵は、キャロルの暗殺を未然に防いだセレーナのことを強く恨んでいた。だから復讐するために、息子の君とセレーナを結婚させ、その後は適当に理由をつけて離縁をするつもりだったんだろ? ま、君がキャロルに惚れたことは想定外だったけどね」
「クソ……! なんでそれもバレて……!!」
マクフォーレン王国の貴族の女性は、離縁されると、もう二度と社交界の晴れやかな場に戻って来れないと言われている。
国の要である騎士の仕事に復帰することも、簡単ではないだろう。
「……なるほど。確かに、離縁されて騎士の仕事にも戻れないとなったら、私は絶望していたかもしれません」
独りでに呟いたセレーナに、フィクスは穏やかな声色で「もう大丈夫だよ」と伝えた。
すると、扉の外からドタドタドタと激しい足音が聞こえてくる。
バァン! と勢いよく開く王の間の扉が開かれたと思ったら、現れたのは騎士たちだった。
「失礼いたします! 先程ウェリンドット侯爵が全ての罪を認めたそうです! 自身が王女殿下の暗殺計画を企て、セレーナ・ティアライズ伯爵令嬢に復讐するために、息子と婚約させたと!」
どうやらウェリンドット侯爵は吐いたらしい。
騎士たちの発言に、フィクスは一瞬安堵の表情を見せた。
「お前たち、ご苦労だったね。まだ大事な話が残ってるから、そこの罪人連れて行って」
「「ハッ!」」
そうしてデビッドはフィクス付きの護衛騎士から、報告に来てくれた騎士へと引き渡された。
「そ、そんな……! キャロル様ー!!」
連行される際、懇願するようにキャロルの名前を呼ぶデビットに、セレーナはただただ哀れみの目を向けたのだった。
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