詰んでる不遇悪役令嬢は電波少女になり、どうにか死亡フラグを回避したい

礼瀬

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消極的選択

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白い世界には相変わらず亀裂がはしっていて、私は亀裂に向かうことも、ここに閉じこもることも選択できずにいる。

白い世界にあるフィルムは、相変わらず過去の自分を映し続けていた。フラメウが抱きしめてくれた優しさも、殿下が危険な状態で震えながら庇おうとしてくれたことも、ディーダやアントラや王妃が支えようとしてくれていることも、一歩下がってじっくりと見ればとてもよくわかる。

でも、フィルムはそれだけじゃない。悪意に晒される苦しさも、前世を思って苦しくなる日も、痛みに怯えて生きることも、私は全部が怖い。

生きることが怖い、苦しい思いをすることが怖い。辛いだけなら生きたくない。
死にたいというわけじゃないけれど、死ぬ恐怖よりも生きる恐怖の方が上回って、足がすくんで動かない。

亀裂が視界に入るのが嫌で俯いたら、ガガガッと工事でもしているかのような騒音と一緒に、亀裂がどんどんと大きくなっていく。

「な、なにこれ?」
「わぁお、私の時はもう少し穏やかに起こしてもらえたんですけど。どうやら呼びかけている主が、意地でも起こそうとしているみたいですね」

せめて迷う暇ぐらい与えてもらえませんかっ!? 私が、亀裂に向かって進もうが、ここにとどまっていようが、亀裂が私がいるところまで伸びるのは時間の問題だろう。引きこもるなら、亀裂から逃げるようにダッシュするしかない。

「ちなみに、あまり亀裂が入りすぎると、この精神世界がどういう状態になるかわかりません、最悪壊れるんじゃないでしょうか。ほら、なんかちょっとフィルムにノイズがはしっていますし」

よく見ると、フィルムにノイズがはしり消えかかっているような気がする。というか亀裂どころか、壁が壊れるかのように白い世界のあちこちがポロポロと崩れ始めていない? え、なにしてくれてんの!?

「現実から逃げるにせよ、そうでないにせよ、一度起きておいた方がいいと思います」
「理不尽な選択肢!!」

RPGなら、選択画面にはいとイエスがでていることだろう。おかしい、選択権は私にはなかったのか。思わず頭を抱えていると苦笑いしながらアリアが口を開いた。

「でも、これだけ起きてほしいと願う人がいる。そのことが起きる理由にはなりませんか?」
「……、どんなに思ってくれる人がいたって、辛いことには変わりないでしょ」

不幸は人を巻き込む。今回の騒動で他の人が怪我をしたように。直接的でなかったとしても、苦しそうな姿を見ることは苦しい。辛い話を聞くことは辛い。だから、人によっては、その不幸に呑まれることが嫌で自身を守る選択として不幸な人から距離をとる。

だから縋らない、決して甘えたくないわけじゃない、甘えたい。それでも、距離をとるような選択肢を取られたら怖いから。一緒につらい思いをして欲しいわけじゃないから。相手が手を伸ばしてこちらを救おうとしていることを信じない、信じて手を伸ばした先に何もなかったら怖いから。だからずっと一人で抱えて苦しいまま。じっと、身を固くして耐えるだけ。でも、信じた結果が裏切られてしまうより、苦しくないからそれを選ぶ。その結果として苦しいことは苦しいまま。

実際は明日には全部嫌なことは終わるかもしれない、助けを求めれば変わるかもしれない、時間が解決するのかもしれない、もっとほかに不幸な人がいて思ってくれる人がいる私は恵まれているのかもしれない、そんなことは、自分が一番わかっている。でも、そんな希望的観測より、明日も苦しいかもしれない。その事実の方がよっぽど重たくて、辛くて。

「まぁ、どっちにせよ、一度起きなきゃいけないなら仕方ないか」

積極的に生きることを選べない。積極的に死ぬことを選ぶこともできない、だからとりあえず目の前に出て来た選択肢に従おう。それだって本当は怖いけれど。

「いってらっしゃい」

亀裂に向かって一歩を踏み出すと、アリアはにっこりと笑ってそういった。

目を覚ますとベッドの上にいた。顔色の悪い殿下が杖を握っている。私が目覚めたことに気が付くと、杖に怯えないようにすぐに杖を隠してくれた。

「顔色が悪いですわ」

選択肢を与えず無理やり起こした主はこの人か、なんて思いながら体を起こす。魔力の使い過ぎだろう、顔が真っ青だ。

「だって、ここまでしなきゃ起きてくれないと思いましたので。ティア嬢がここにいることは、侯爵家にも連絡をしているので、もう少ししたら家人も来るのではないでしょうか。ニュア嬢と、エリクは先に迎えの人が来て帰りましたよ」

名前を出されて、あの場にいたアントラがどうなったか気になり周りを見回すと、先に起きていたようで視線に気が付いたアントラが安心させるようににっこりと笑っていた。どうやら無事らしい。少しするとフラメウがやってきた、心配そうにこちらを見ているが、近づいたり声をかけてくる様子がない。どうしたのだろうかと思っていると、もう一人入ってきた。

「……、お母様」

ぎゅっと抱きしめられる、心配したと涙をためながら言われる。はたから見れば、娘思いの母親といったところだろうか。微塵も心配をしていないことを私は知っている。気持ち悪さに思わず眉をよせかけたが、あとでどんないちゃもんを付けられるか分からないと、表情を変えないように気を付ける。

「傷は問題なく塞がっておりますので、ゆっくりと休めば体力も回復するでしょう、今日はお家でゆっくりとさせてあげてください」

治癒を担当していた歳を召した老魔法使いがそういった。休みたい気持ちはやまやまだけど、休ませてもらえるだろうか。そんなことを思いながら、母に促されるまま立ち上がり、城を後にした。
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