ゲーム世界といえど、現実は厳しい

饕餮

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4話目

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 翌朝、とても爽快に目覚めました。
 昨日まではとても憂鬱だったのですが、一晩寝て頭の中が整理されたのでしょう。今はとても気分がいいのです。
 ヴィン様が婚約者でいる限り、わたくしが悪役令嬢になることはないと考えたことも一因です。
 朝食は軽いものが出ましたが、病み上がりなので仕方がないですわね。ずっと寝ておりましたし、まずは体力を戻すことから始めましょう。
 エルサに伝えてから庭に出ます。侯爵家ほどではありませんが、我が家の庭にもバラをはじめとした木々が植わっています。まだ冬ですから咲いている花はあまりありませんが、庭師の方がお手入れをしてくださるおかげで、枯れているものはありません。
 庭を散策してから着替え、今度はお勉強をします。もうじき侯爵家に入ることになりますし。学園ではどんなお勉強をするのでしょうか? 今から楽しみです。
 今のところ家庭教師に教わった範囲の復習をしようとしばらく机に向かってお勉強をしておりましたら、エルサが来ました。

「お嬢様、ヴィンフリート様がいらっしゃいました」
「え? ヴィン様が?」

 なんというタイミングでしょうか。いい機会だからと、ヴィン様にお勉強を教わろうと思います。

「どちらにお通しいたしますか?」
「こちらにお願いしますわ」
「かしこまりました」

 ドレスに着替えていてよかったと思いつつも机から離れ、ヴィン様を待ちます。すると、すぐにエルサがヴィン様を伴ってわたくしの部屋にまいりました。

「おはよう、ジル」
「おはようございます、ヴィン様。エルサ、お茶の用意を」
「かしこまりました」

 ヴィン様に席についていただくと、すぐにエルサにお茶をお願いします。用意が整い次第下がったエルサは、部屋の隅に控えています。
 もちろん、ヴィン様にも護衛の方がいらっしゃいます。

「熱は下がったかい?」
「はい。まずは体力をつけようと、先ほどまで庭の散策をしておりました」
「おや、それは残念。僕も見てみたかった」
「これから行きますか?」
「いや、次回の楽しみに取っておこう。今回は僕が急に来てしまったし。それで、ジルはなにをしていたんだい?」
「家庭教師に教わったことの復習をしておりました」

 せっかくヴィン様がいらしたのだからと、先ほど決めたように質問をしたいと思います。

「ヴィン様、侯爵家ではどのようなお勉強をなさるのでしょうか」
「基本的なことは変わらないよ、勉強もマナーもね。ただ、領主夫人となるから、領地経営の勉強が必要になってくるんだ」
「領地経営、ですか……。わたくしにもできますか?」
「大丈夫だよ。それは学園で基礎を教えてくれるしね。……やってみたい?」
「はい! お時間があるのでしたら、さわりだけでもお願いしたいです」
「ふふ、ジルは勉強熱心なんだね。いいよ」

 快諾してくださったヴィン様が、嬉しそうに微笑んでいらっしゃいます。
 ああ……推しの微笑みは、なんと尊いのでしょうか! 心の中で拝んでしまいました。
 そんなわたくしの内心はともかく、エルサに椅子をもうひとつ持ってきてもらい、ヴィン様と並んでお勉強をします。教師はもちろんヴィン様です。
 天才と名高いヴィン様の教え方はとても上手で、素直に頭に入ってきます。もちろん、この体のスペックも高いのでしょう……砂が水を吸うが如く、ヴィン様から教わったことがするすると頭に入ってくるのです。
 その教え方も、まるで前世の兄にお勉強を教わったときのようでしたので、つい懐かしんでしまいました。

 今ごろ兄は、どこにいらっしゃるのでしょうか。わたくしは異世界に転生してしまいましたから、もしかしたらあの約束は果たせないかもしれません。
 ヴィン様が前世の兄の生まれ変わりならよかったのに……と思ってしまうほど、わたくしは少しだけ寂しさを感じていたのです。
 兄に会いたいと思う反面、会いたくないとも思います。推しであるヴィン様が婚約者となっておりますから、もしここに転生した兄が現れると、前世の約束を反故にしたと、兄に罵られる可能性もありますから。
 わたくしはともかく、兄には傷ついてほしくないのです……。わたくしの我儘ではありますが。

 二時間ほどお勉強をして、今日はおしまいと言われました。長時間やったとしても、集中力が切れてしまえばそれ以上は勉強にならないと、ヴィン様は仰います。
 それも兄と同じ考え方でしたので、本当に懐かしいと感じました。

「凄いね、ジルは。十歳で、しかも学園に入る前にここまで勉強ができるなんて。婚約者としても鼻が高いよ」
「本当ですか?」
「ああ。これなら、もしかしたら一年か二年で僕と同じ学年で一緒に勉強できるかもしれない」
「まあ! そうだと嬉しいですわ! あ……でも、その場合、飛び級試験などはあるのでしょうか」
「あるよ。冬休みが終わってすぐにやるんだ」

 なるほど、学年が上がる少し前に試験があるのですね。
 ヴィン様によると、一年の飛び級だろうと二年の飛び級だろうと、試験の時期は変わらないそうです。日々自分が所属する学年の勉強をしつつ、自分が行きたい学年までの勉強を平行して行っている方がほとんどだそうです。
 ヴィン様は六の月に十四歳になりますから、もしわたくしがヴィン様と同じ学年に行きたいのであれば、四年分の勉強を頑張らなくてはなりません。わたくしに、そこまで頑張ることができるのでしょうか……。
 わたくしはとても不安な顔をしていたのでしょう。ヴィン様は右手でわたくしの手を握ると、左手で頭を撫でてくださいます。

(おおお、推し、推しからの頭なでなで! 心臓に悪いですわ!)

 心臓がドキドキと早鐘を打ち、ヴィン様に聞こえてしまうのではないかと焦り、それと同時に顔が熱くなってきます。

「大丈夫だよ、ジル。僕と一緒に勉強をしよう。そうすれば僕は復習になるし、ジルは確実に先の勉強ができるようになるから」
「あの……本当によろしいのですか? ご迷惑ではありませんか?」
「迷惑じゃないよ。僕も本当は、ジルと同じ学年で過ごしたいんだ。だからこれは、ある意味僕の我儘でもあるんだ」
「ヴィン様……」
「学園が始まった場合の勉強は、学園の図書室でやろう」

 学園に入ったら、友人たちも紹介すると言われ、素直に頷きました。

 それからは、学園に入るまでの午前中、毎日ヴィン様とお勉強をいたしました。子爵家であったり、侯爵家であったり。侯爵家に移ってからは、そちらでお勉強をしました。
 午後はマナーの先生がいらっしゃる日もありましたので午前中で帰ることもありましたが、それ以外は侯爵家や我が家の庭を散策したり、デートと称して町に行き、お揃いの装飾品を買ったりお菓子を食べたり、食事をしたりと、楽しく過ごしました。
 それと同時に、学園に入学する日が近づくにつれ、不安も出てきたのです。

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