【R18版】饕餮的短編集 ―現代・現代パラレル編―

饕餮

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部長と間違いのキス

選択を間違えた結果(芦田視点)

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 彼女の右胸に頭を乗せ、左胸を揉みながら長かったな、と内心溜息をつく。


 彼女――田嶋 亜沙子が幼なじみの女と違うと認識したのは、情けないことに彼女が俺たちの喧嘩にさんざん巻き込み、自分の職場である総務課から出て来なくなってからだった。
 それに気付いたのは、幼なじみの女――中里 真沙子だった。

『そう言えば、最近あの子を巻き込んでないわね』

 その呟きに、そう言えばと思い出す。確かに最近は巻き込んでいなかった。それでも運が悪いのか、たまに彼女を巻き込んでしまっていたのだが。
 最初付き合っていた俺たちもこのころには既に別れていたし、喧嘩の原因も真沙子の付き合っている相手の愚痴を聞いたり、相手が相手なのでそのカムフラージュのために真沙子と付き合っているふりを続けていた。もちろん、真沙子の相手もそれを承知していたが。

 いつも彼女を巻き込んでしまうことを申し訳なく思うも、いつまでも彼女を巻き込むわけにはいかなかったから、いつしか彼女をこっそり観察することにした。
 よくよく見れば真沙子と身長が違うし、髪型が似てると言っても、長さが違う。それに歩き方も。
 でもそれは、真沙子と別れたから気付いたことであって、もしまだ真沙子と付き合っていたら気付けたかどうかはわからない。
 それでも、カムフラージュのために彼女を巻き込むことに罪悪感を覚えつつも、彼女の仕事の噂を聞くたびに苛つく自分がわからず混乱していた。

 その日も、いつもの真沙子の愚痴に付き合うつもりで待ち合わせ場所に行ったら、なぜか真沙子に怒られた。

「雅樹、いい加減自覚しなよ。本当はわかってるんでしょ?」 
「……何が」
「彼女……田嶋さんのこと」

 そう言われて黙り混む。真沙子の言葉で気付いてしまったから。

「いつまでもカムフラージュしてもらうわけにはいかないのよ? いい加減動いたら?」
「だが……」
「全く……。何で彼女の時に限ってそんなにヘタレてるわけ? 昔は全然違ったじゃない! って、あっ! 彼女に協力してもらおうよ! 田代さん! ちょっと、話があるの!」
「えっ?!」

 迷って返事を渋っている間に、真沙子は彼女の先輩である田代を見つけてここに呼んだ。田代は大学時代の先輩である羽佐間の恋人だ。
 というか、表向きは恋人だが、実はもう結婚していたりする。それを知っているのは俺と真沙子だけだ。
 普通ならとっくにバレていそうな話だが、今まで二人の噂は一度も聞いたことがないのが不思議だった。

「中里さん、どうしたんですか?」
「実はね……」

 俺をほっぽり出し、二人で隅っこのほうへ行って、俺をチラチラ見ながら小声でこそこそ話してるのが気に食わない。

「ああ、それはいいですね!」
「でしょ? だから協力してくれない?」
「もちろん! それで、実は……」
「あ、やっぱりそうなのね?」
「そうなんですよ。あとはきっかけだけだと思うんですよね。ということで、芦田部長、頑張ってください!」
「は?!」
「キスの一つでもぶちかましたあと、私の名前かなんか出せば彼女の気持ちもわかるかもよ?」
「意味がわからん!」
「今から話すから。田代さん、お願いね」
「はーい」

 階段を上がって行った田代に声をかける暇もなくそれを見送り、真沙子が俺に話した内容はあまりにもバカげていた。そのことで喧嘩をしているうちに彼女が来てしまい、「ほら、行くよ!」と言った真沙子にしぶしぶ従って真沙子を追いかけるふりをして、彼女を階段の途中で捕まえる。

(あー、もう、自棄だ!)

 彼女の唇の位置を確認してからキスをする。触れあうだけのキスにするつもりだったのに、彼女の柔らかい唇と鼻から漏れる声に夢中になり、そのまま舌を絡めて吸い上げ、舌を唇で愛撫し、やっとの思いで彼女の唇から離すと真沙子に言われたようにその言葉を吐く。
 悲しそうに顔を歪めた彼女に希望を見つけ、それに安堵して……油断した。振り返った時には階段だったことを忘れて踏み外し、手摺に掴まればいいものを咄嗟に彼女の手を掴んでしまってそのまま階段から転げ落ちた。
 顔と手に当たる感触が柔らかいと思った時にはそれを揉んでいて、重いからどいてくれと言った彼女の声に喘ぎ声が混じるのを不思議に思っていたら、揉んでいたのは彼女の胸だった。思わず本音が出たら「セクハラ!」と叫ばれたが、俺にしてみればラッキーだった。
 だが、彼女は階段が落ちたせいで左手を骨折し、足首も捻挫してしまった。

(俺のせいだ……俺が掴むものを間違えたから……)

 それがショックだった。田代のせいでもあるのに彼女からは睨まれ、彼女の兄の秀一にも怒られ……。
 病院の検査ではアザ一つなくて、「なんともないから仕事に戻んなさい」と怒りMAXでオネエ言葉全開の秀一に追い払われ、一旦会社に戻った。
 急ぎの仕事をして一段落着いたから、「田嶋さんの様子を見に病院に行って来る」と声をかけて病院に行き、バッタリあった秀一にどこにいるのかを聞く。彼女にもう一度謝って、しばらく送り迎えは俺がやるからと言うつもりで決心して診察室のドアを開ければ彼女は上半身裸だった。
 検査着を着ようとしていたのか、胸を付きだしながら何とか検査着を着ようとしていた。

 揺れる、想像以上に形のいい大きな胸と、ピンク色の乳首。触ったら滑らかそうな、白い肌。
 アレを服ごしとは言え揉んだのかと思うとかなり嬉しかったのだが、徐々に赤く染まって行く彼女の肌と顔、腹にあるアザを見つけて我に返り、謝ってからそのまま会社へと飛んで帰った。
 仕事をしていても先ほど見た彼女の胸が脳裏から離れず、溜息をついては部下に変な目で見られる始末。
 自宅に帰ってからも、女の裸に興味を示し始めたばかりのガキかと思えるような自分の思考に頭を抱えた。


 ――その日見た夢は、彼女の胸に顔を埋め、乳首を舐めたり吸ったり揉んだりする夢で、目覚ましの音で目が覚めたのは彼女のナカに挿れる直前だった。


(この年で……マジか)

 はあ、と溜息を付いて風呂に入る。夢が強烈すぎて、一向に萎える気配のないムスコを宥めるために夢を思い出しながらヌいた。

「……まるでガキだな」

 溜息をついて、着替えて。出社してエントランスに着くと田代に呼ばれた。話を聞けば今は先生の自宅にいて、彼女は今週いっぱい休むと言う。

「俺のせいだ……」
「気持ちはわかりますけど、煽ったあたしや中里さんも同罪です。その辺については、昨日彼にも怒られました」

 気にしないでくださいと言った田代は、そのままエントランスをあとにした。
 帰りにでも病院に寄ってお見舞いに行こうかと昼休みに病院に電話をすれば、「今は熱があって会えません」と冷たく言われて電話を切られてしまった。
 仕事をしながらも彼女のことが気になって仕方がない。ミスがなかったことは幸いだったが、溜息をつくたびに部下に気味悪がられた。
 次の日にも病院に電話すると、やっぱり「順調に回復してますから」と冷たく言われ、今日もお見舞いは無理かと思ったら、羽佐間が「俺と田代で見舞いに行くんだが、芦田も来るか?」と言ってくれたので、一緒について行くことにした。
 ただ、お見舞いの品を用意してないし、現金を渡すにしてもそれだけでは嫌だった。彼女との繋がりがほしくて、彼女の看病がしたくて、病院に行って先生夫妻と話しながら土下座をした。

「先生、俺に看病させてください!」
「てめえにしてもらう必要はねぇよ」

 そう言ったのは、電話をかけるといつも冷たく言われて切られていた女性の声。その声は、電話以上に冷たくて怒っていた。

「さ、早苗……」
「オレは怒ってんだよ! 仕掛けるんなら、場所を考えて仕掛けやがれ!」
「は、はい! 申し訳ありません! ですが、俺は彼女を看病したい……彼女が好きだから、怪我をさせてしまったことが辛いんです! 彼女が許してくれるかはわかりませんが、何度でも謝って、彼女が治るまで彼女の世話をしたいんです! お願いします! 俺の家で看病することを許してください!」

 ガバッ、と額をつける勢いでもう一度頭を下げると、盛大に溜息をつかれた

「もう~、だったら最初から亜沙子ちゃんが好きだからって言えばいいじゃな~い!」

 いきなり口調が変わった先生の奥さんに唖然としながら頭を上げると先生は苦笑していて、奥さんは両手を腰に当てて「めっ!」と言った。

「芦田部長、ごめん。ウチの奥さん、元レディースでね。怒るとあんな感じになるんだよ。あ、僕とは逆になる、ってことかな。亜沙子はそれを知らないから、内緒だよ」
「あら~? あたし、やっちゃったかしら~?」
「亜沙子にバレなきゃいいんじゃない?」
「そうねよ~」
「早苗、悪いけど、亜沙子の荷物を纏めて」
「は~い」
「薬は帰りに渡すよ。説明書も一緒に入れておく。ただ、亜沙子の怪我の具合も見たいから、月曜日にまた来てくれ。お風呂はまだ熱があるから今日はダメだ。明日以降ならいいよ。ギブスを濡らさないための袋とかいろいろ用意しておくから、先にお見舞いに行っておいで」
「……っ! ありがとうございます!」

 二人に許されたことが嬉しい。
 俺の様子を見ていた羽佐間と田代は、笑いを堪えているのか肩が揺れていた。というか、元はと言えば真沙子と田代のせいなのに。
 そういう思いで田代を睨んだら、それを理解したのか急に項垂れた。

 夫人に案内されて彼女がいるという部屋に行くと、彼女は寝起きだったのか、目をトロンとさせてボーッとしていた。それに見惚れていたら、羽佐間が夫人に持っていた紙袋を渡す声を聞いて我に帰り、夫人が「ごゆっくり~」と声をかけて出て行ったあとで彼女に頭を下げる。

「いろいろと、本当に、すまん!」
「アホだろ、お前は」
「う……」

 低い声で羽佐間に怒られて首を竦める。
 羽佐間の隣では、やはり同じように田代も首を竦めていたから二人に対して言った言葉なんだろうと思うが、彼女は気付かないようだった。そんな彼女が、柔らかく笑う。

「私はともかく、芦田部長に怪我がなくて良かったです」
「無駄に身体がデカイからな。そのせいで田嶋は骨折と捻挫したわけだが。しかも、ベッドの上ならともかく、廊下で女を下敷きにするとか、女に怪我させるとか、自分は青タン一つ作ってねえとかあり得ねえ」
「いや、はい、すみません……」

 彼女の言葉は嬉しかったが、羽佐間の言葉にまた縮こまる。羽佐間にそう言われても仕方がないことだった。
 実際に俺は青タンどころか次の日も普通に動けたから、それが申し訳ない。

「それと、田嶋。先に言っておくが、コイツのせいで『辞める』とか言うなよ?」
「え……?」
「お前は自分はどんくさいと思ってるようだが、オレはお前の丁寧な対応とか、書類捌きの速さとか気に入ってるんだ。それに、急ぎは急ぎ、後回しでも大丈夫なもの……そういった書類をちゃんと分けて持ってくるのも気に入ってる。他の連中もな。そういった部分は、他の部署の人間も何気にお前を誉めてる。だから、『辞める』なんて言うなよ?」
「…………っ、はいっ」

 羽佐間の言葉に彼女が頷く。俺のせいで辞めて欲しくなかったし、彼女の仕事ぶりは羽佐間の言う通り営業部でも評判だった。……それが気に食わなかったと今ならわかる。

 羽佐間と田代が彼女の仕事の話をしている間、彼女はニコニコしながらずっと聞いていた。
 その笑顔が珍しくて……会社では見ることのできない、無防備な笑顔が本当に珍しくてずっとその顔を見ていたら、不意に彼女と目があった。

(う、わ……!)

 目が合った瞬間、彼女がふわりと笑ったのだ。その顔が可愛くて、思わず視線を逸らして、漏れそうになった「可愛い」という言葉を手で遮る。
 今言ったら、確実に羽佐間と田代にニヤつかれる。
 そう思っていたら、羽佐間と田代が立ち上がった。

「じゃあ、オレたちは帰るから。田嶋の元気な顔も見れたし、芦田の珍しい姿も見れたしな」

 くくく、と笑った羽佐間に、田代も同じように笑う。

(ったく、似た者夫婦め!)

 内心で罵りながらも二人が部屋を出たあと、俺も立ち上がって彼女の側に寄る。

「じゃあ、俺たちも行こうか」
「俺、たち……?」

 不思議そうな顔をした彼女に、俺の家で看病することを伝えると、彼女は戸惑ったような声をあげた。

「……それくらい、させてくれよ」

 思わず本音が出てしまった俺に、彼女は苦笑しながらもOKしてくれた。それが嬉しくて笑顔になった俺を、彼女がずっと見ている。思わず彼女の唇にキスをすると、一瞬で顔を赤く染めた彼女にフッと溢す。

「ああ真っ赤になって、なんて可愛いんだ。っと、こんなことしてる場合じゃないな。じゃあ、行こうか」

 そう言って彼女を抱き上げ、子供にするように抱っこするとグラグラ揺れる身体が怖かったのか、俺の首に右手を回して来た。左腕に乗せても思った以上に軽い体重と、肩近くに当たる彼女の胸の柔らかさに思わず「柔らかい……」と小さく呟き、向きを変えて部屋から出て行く。
 玄関には荷物を持った先生夫妻がいて、荷物は持てないだろうからと、車が置いてある会社の駐車場までくっついて来てくれた。

「泣かせんなよ」
「わかっています」

 先生と短いやり取りすると彼女を車に乗せる。車のトランクに荷物を積んでいると、先生に話しかけられた。

「薬はこの鞄の中に入ってる。もちろん、湿布や包帯もあるから。湿布は朝晩変えて」
「わかりました」
「あと、同じ鞄には、羽佐間部長たちからいただいたお見舞い金とお菓子が入ってるから、亜沙子の食費に使ってくれ」
「ですが、それは……。それに、俺は彼女の見舞い金どころか、治療費すらまだ払っていませんし……」
「治療費はとりあえずいいから。そのぶん食費や何かに当てて」

 先生の言葉が嬉しい反面、痛い。彼女のためにと言うなら、彼女のために使わせてもらう……そう決めて頷いた。

「亜沙子ちゃんをお願いね~」
「月曜日の診察、忘れないで来て。もし熱が上がったりしたら、すぐに連絡すること。あと、着替えやお風呂もできる範囲で手伝ってあげて」
「着替……っ?! わ、わかりました。診察の件は、彼女に必ず伝えます」

 着替えやお風呂と言われて動揺する。そこまで考えてなかったからだ。
 羽佐間の言う通り俺はアホだと内心溜息をつきながら、二人に頭を下げてから車に乗り込み、走らせた。

 ぼんやりしながら外を見ている彼女を心配しつつも、傷にさわらないように運転する。無意識なんだろうが、手を唇に当て、頬をうっすらと染めながら溜息をついた彼女は、多分さっきのキスのことを考えているんだろうと思う。

「ああ、キスのことなら、真沙子とは別れたから。それに、今は田嶋さんが……気になる」

 危うく「好き」と言いそうになるのを堪えてそう言ったら、彼女は俺を見ながら混乱していた。くるくると表情を変える彼女は、見ていて飽きない。
 マンションの地下駐車場に車を停めてエンジンを切ると「先に荷物を置いて来るから、悪いが車の中で待っててくれ」と車内で待たせ、トランクから荷物を持つと家に行って彼女に使ってもらう予定の部屋に荷物を置く。いずれ誰かと結婚した時に主寝室として使おうと思っていた部屋だ。
 薬などが入っている鞄をキッチンのほうへと移動してコーヒーの用意をし、冷蔵庫を覗くと碌な食材が入っていない。明日買い物でもしてくるかと溜息をついて駐車場に行くと、彼女は車内で寒そうにしていた。
 熱があると言われたことを思い出して、慌てて車から出す。

「遅くなってごめん。じゃあ行こうか」

 車から降りた彼女を抱き上げると、彼女を部屋へと連れて行った。

「おじゃまします……」
「ベッドのシーツとかまだ変えてないんだ。悪いが、ここで待っててくれ」

 彼女をソファーに下ろしてからキッチンへ行ってコーヒーを入れ、彼女の目の前にコーヒーを置くとあの寝室へと向かう。
 シーツや布団を全部入れ替えてダイニングへ戻ると、彼女はソファーに座りながら、ぼんやりしていた。

「お待たせ。田嶋さんに使ってもらう部屋はここだ」

 今度は彼女を横抱きにすると、彼女を部屋へと案内すると、キョロキョロと辺りを見回している。目がキラキラと輝いていることから、どうやら気に入ってくれたというのがわかった。

「田嶋さんは多分恥ずかしいだろうと思うが、着替えや風呂は手伝うから。というか、手伝うように田嶋先生に言われてるから、我慢してくれ」
「は……?!」
「お風呂は今日は無理だと言われたから、とりあえず身体だけ拭こうか」

 そう言ってベッドへと寝かせ、風呂場に行ってお湯やタオルを数枚用意して彼女がいる部屋へと戻ると「じゃあ、拭いてやるから」と言って、彼女のパジャマを脱がせ始めた。

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