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枯れたオヤジに捧げる愛
七緒の場合 前編
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「あら、CEO? 日本に来るなんて珍しいわね」
「え? あら、本当。最近までイギリスにいたわよね? 日本に来るのは何年ぶりかしら?」
「さあ……。俺たちが入社した時ですらも見てないから、十年以上は日本に来てないんじゃないか?」
「花嫁探しに各国にある会社を回って歩いているなんて噂が流れてるから、いよいよ枯れオヤジを脱却するんじゃないか?」
「あら、CEOに対してひどい言い種ね! でも、花嫁探しに来てるなら私にもチャンスがあるかも!」
そんな声が上がってそっちのほうを見れば、SPに囲まれながらリムジンから降りて来た男性が目に入る。
ショートの銀髪、スカイブルーの瞳、SPよりも頭一つ分高い身長。その色合いから一目見て神族だとわかる。神族は総じて髪や瞳の色素が薄いからだ。
(神族の会社だったのかあ……道理で大きな会社よね。てことはあの人たちはエリートってことか……)
ある日のこと。郵便局に出かけて会社に戻る途中で見た大会社の入口での光景を、私はそれを横目で見ながらゆっくり歩いていた。
(まあ、小市民の私には関係ないわね)
うちの会社は普通の人間が社長をやってる会社で、小さい会社だし。そんなことを考えながらチラリと時計を見れば、そろそろお昼が近い。
「お腹すいた……早く帰って仕事の続きをしなきゃ」
ぶつぶつ言いながら歩く速度を何とか速めて二ブロック先にあるビルへと向かう。そのビルの一階が私が務めている会社で、私は事務をしている。
普段の私は郵便局に行ったりはしないのだが、いつも郵便局に行く担当者が急病で早退し、その代わりを頼まれたのが私だった。先程『明日は出勤できるから。今日は急にごめん、ありがとう』とメールをもらったから、明日は出かけなくていいことにホッとする。
足が悪い私にとって、徒歩で二ブロック歩くのですら少しきついから。
会社に戻って上司に領収書とお釣を渡すと「秋本さん、悪かったなあ……。キツかっただろ?」とチョコレートをくれた上司に内心で苦笑しつつ、「大丈夫です。ありがとうございます」とお礼を言って席に戻る。書類が積まれていることを覚悟していたけどあまり積まれていなくて驚いていたら、隣の席の先輩が「やっといたわよ」と書類をヒラヒラさせていた。
「うわ! ごめんなさい!」
「違うでしょ?」
「えと、ありがとうございます」
「よろしい。でもコレ、早退したあの馬鹿がやるはずだった仕事なんだから気にしないでいいし、そのぶん七緒ちゃんが外に行ってくれたから助かったわ。私が行けたらよかったんだけど……」
「それこそダメですよ! 長谷川さんは妊婦さんじゃないですか!」
小声でそんなことを話しながら書類を捌いて行く。急病で早退した人は朝から咳をしており、妊婦さんにうつしては大変だからと周りや上司にきつく言われて早退したという、なんとも残念な人だった。
この会社は小さいけれどとてもアットホームな会社で、託児所もあるし福利厚生がわりとしっかりしている。私みたいに脚が悪くてゆっくり歩いていても、文句を言うどころか逆に助けてくれたりして恐縮してしまうこともあるけど。
――この世界には、神様や神様の眷属である神族がいる。その方たちが治める国や会社がある。もちろん、人間の社長もいるけど。
いつからそうなったのかは歴史の教科書が教えてくれるけど、なぜなのか、どうしてなのかはあまり詳しく教えてはくれない。
尤も、神様が現れてから五百年以上はたってるらしいから、詳しい資料とかも残ってないのかも知れない。
神様が現れる前よりはマシとは言え、そんな世界でも戦争もあるし、貧困もあるし、貧富の差もあるし、孤児もいる。もちろん義足をしていたり、車椅子に乗っている人もいる……私のように。
「七緒ちゃん、お昼食べに行こう。今日はお天気がいいから隣の公園に行く?」
「行きたいのはやまやまなんですけど、今日は電話番の日なんですよね。それに急ぎの仕事が回って来てしまったから、どのみちお昼はあとになりそ……」
「真中ー!!」
書類を見せながらお昼はあとになりそうですと言おとしたら、書類を見た長谷川さんが私の話を遮って叫ぶ。
「はいぃぃぃぃっ!」
「この書類、さっきあたしが『自分でやれ!』って突っ返したヤツじゃないの! 何でまたこっちに回してくんのよ!」
「いや、あの、」
「あんたの書類担当は先月から園子でしょうが! こっちにはそんな余裕ないし、簡単な書類くらい自分でやれって何度言ったらわかるわけ?!」
「ひぃぃぃっ! ご、ごめんなさいぃぃぃ!」
「謝る前に書類を取りに来る! それと、屋上から吊るしの刑!」
「二度としませんから、それだけは勘弁してくださいぃぃぃぃっ!」
半泣きになりながら、真中さんは慌てて書類を取りに来る。取りに来てまた長谷川さんに怒らて、逆に悪いことしちゃったかなと反省していると。
「俺のせいだから、気にしないでよ」
「そうそう。物覚えの悪い真中が悪いんだから、七緒ちゃんは気にしないでいいのよ」
真中さんと長谷川さんに言われて、苦笑しながら頷く。もちろん周りも頷いていた。
(相変わらず仲がいいなあ……)
漫才みたいな喧嘩が止まらない二人を横目に、別の書類を手に取りながらパソコンに入力して行く。
真中さんと長谷川さんは同期だ。しかも幼なじみでもあるらしい。
入社当時からこんな感じだったと上司が言っていたし、真中さんは本当に屋上から吊るされたことがあるらしい。そんな真中さんだけど、営業はトップクラスだったりする。
チラリと時計を見るとお昼を十五分ほど過ぎていて、そろそろまずいんじゃないのかなと思って長谷川さんに声をかける。
「長谷川さん、そろそろお昼に行かないと時間が無くなりますよ?」
「え? あら、大変! もう、真中、あんたのせいよ!」
「俺か?! 俺のせいなのか?!」
また始まった長谷川さんと真中さんの、漫才に近い言い合いに皆で「またか……」と呆れた時だった。ノックの音と共に誰かが入って来る。
静かになった室内に驚きつつもそっちを見れば、さっき見た神族の人がキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「ユニコーン族……何でこんな小さな会社に?」
そう呟いた長谷川さんに首を傾げていたら、長谷川さんの声が聞こえたのか長谷川さんを見た。そのあとで私を見て、なぜか嬉しそうな、獲物を見つけたような笑顔を浮かべて近付いて来たのだ。
「……うん、君だ。見つけた」
「え? 何? わ、私ですか?」
「そう、君。荷物は?」
「はい?!」
なんでいきなり荷物なの?! と思っても私にはさっぱりわからない。誰かが連絡したのか社長が慌てて飛んできて、私が何かやったのかだの、失礼なことをしたのかだの、必死になって謝りながら神族の人――ユニコーン族の人に聞いている。
(失礼な! 初対面だし話したこともないわよ!)
内心で文句を言いながらもとりあえず机の引き出しに閉まってあったお弁当を鞄に入れて持ち、机の横に置いてあった車椅子に乗り込む。
「七緒ちゃん、ユニコーン族と知り合いなの?」
「まさか! さっき郵便局の帰りに、あの大きな会社の手前で車から降りて来るのをチラッと見ただけですよ?」
「それだけ? なのに、あの人はうちの会社に来て七緒ちゃんを見つけて、社長は七緒ちゃんが悪いみたいなこと言ってるわけ? ……やっぱ、あのボンクラじゃいずれ潰れるわね、この会社……そろそろ辞め時かしら……」
「だよな。あの社長になってからちょっとヤバいんだよなあ……」
長谷川さんと真中さんの三人でこそこそ話していたら、いつの間にか話が終わったのか男性が怖い顔をしながら寄って来て私を見下ろし、怖い顔が一瞬で驚いた顔になった。何に驚いたのかは何となくわかるけど、なぜ怖い顔をしたのかさっぱりわからないから聞いてみる。
「……私が貴方に対して何かしたんでしょうか? したなら謝ります」
「いや、何もしてない。私が嫉妬しただけだ。それに、あの時感じたのは匂いだけだったから……」
「匂い……?」
嫉妬したというのはよくわからないけど、匂いって……それは私が臭いってことですか?
香水は付けてないけど、毎日身体も頭も洗っている。臭うとすればさっき必死で歩いたから汗をかいたくらいだし、あとは化粧品とかシャンプーとか薬の匂いくらいしか思いつかない。
シャンプーはともかく、化粧品は無香料のものを使ってるはずだけど、と首を捻った時には浮遊感に襲われ、彼に抱き上げられていた。
「ちょ……、あのっ!」
「ああ……これだ……この匂いだ……百年ぶりの、本物の、処女の匂い……」
私の耳元で小さくう呟そいた彼に思考が一瞬固まる。
(……しまったー!)
長谷川さんが「ユニコーン族」だって言っていたではないか! なぜその時に鞄に入っていた、男性の匂いがするというフェロモン香水を付けなかったのかと今更ながら後悔する。
なぜならユニコーン族は本物の処女の匂いを嗅ぎ分けるから。一度見つかれば、見つけたユニコーン族が飽きるまで離してはもらえないから。
しかも見つけるまでは何の反応を示さない枯れたオヤジ状態なのに、一度見つけてしまえば男性と話すだけでも嫉妬し、見つけた者を抱くこともせずひたすら側に置きたがるのだ。
尤も、抱かないのは本物の処女だけで、一度性に目覚めてしまえば気に入った女性は抱くそうだけど。
だから処女の間はフェロモン香水を着け、神族の中でもユニコーン族だけには見つかってはいけないと学校でも教わるのに、私はそれをすっかり忘れていた。鞄の中には常にその香水を入れていたと言うのに。
「あの! 離して下さい! わ、私は庶民で、貴方とは……っ、ぁ……っ、はぁ……っ」
貴方とは身分が違うのにと言う暇もなく、突然身体に何かが流れ込んで来るような感じがしていきなり身体が熱くなる。
「ほう……すぐに反応するか……これは楽しみだな。悪いが彼女はもらって行く。いいな?」
「は、はい!」
「ライル、他の者と手分けして彼女の車椅子と荷物を頼む。彼女の他の荷物は纏めておいてくれ。のちほど取りに来させる」
「……わかりました」
「か……てに、決め、ないで、くださ……っ」
「私が決めたんじゃない。決めたのはあの男だ」
彼が顎をしゃくった先にいたのは、長谷川さん曰くのボンクラ社長。それを聞いたその場にいた人たちは怒りをあらわにした。
「バカだバカだと思ってたけど、思った以上のバカだったわけね。この子が居なくなって事務仕事が回るとでも? それすらもわからないあんなのが社長? 冗談じゃないわ! 悪いけど今すぐ辞めます! お世話になりました!」
「俺も辞めます。アンタが社長になってから、仕事を取って来たって全然先に進まないし」
明らかにキレている長谷川さんを皮切りに、真中さんや他の人、はたまた上司まで辞めると言い出し始め、長谷川さんにバカと言われた社長は唖然としている。
「な、な、な……」
「ほう……? それは面白いな。本当に辞める気があるなら別の場所を提供したうえで、辞めると言った全員を雇ってもいい」
但し、その条件は君が私のモノになることだ、と耳元で囁いた彼。抱き上げられている状態だし、身体は熱いし、競り上がってくるような疼きに我慢していると、さらに彼が耳元で囁いた。
その吐息でさえも身体に甘い痺れが走る。
「ぁっ……、ん……っ、はぁ……」
「私のモノになるなら、熱い身体もその疼きも沈めてやるが……どうする?」
甘くて魅惑的な、そして優しく囁く彼。それに従ってはいけないと本能的にわかっていても、庶民であり小市民でもある私が神族である彼に逆らうことなど許されるはずもなく、甘く疼く身体も何とかしてほしくて頷くと、彼は「いいだろう」と微笑みを浮かべた。
「さあ、どうする? 私に雇われるか?」
辞めると言った人たちは「お願いします」と伝えて自分の荷物をさっさと纏め始める。
「今言った中に経理担当者はいるか? あと肩書きが一番高い者も」
「僕です」
「私です」
「わかった。今までの仕事内容と経営状況が知りたい。十五時に全員迎えに来る手配をしておくから、それまで二人で、もしくは全員で資料を集め……」
彼が経理担当者と上司と話をしていたけど私は疼く身体に翻弄され、上がりそうになる声を必死で我慢していたら、どんな話をしてたのか途中までしか覚えていなかった。気づいた時には車の中で、彼は私を膝に乗せながら頭を撫でていた。
「あ……っ、ん、ここ、は……、はぅ……、貴方は……、ん」
「ここは私のリムジンの中だが……そう言えばお互いに名乗りもしてなかったな」
苦笑した様子の彼に、疼く身体を我慢しながら先に名前を告げる。
「んっ、私、は……秋本、七緒、ナナオ・アキモト、と申し、ます」
「ナナオか。私はレオニダスだ」
「レオニダス、様……」
「ふ……。言いにくいなら、特別にレオと呼ぶことを許可しよう」
「あ……、レオ、様……、ん……」
彼の名前を呼んだ途端に彼は目を細めて笑い、私の顎を持ち上げて軽くキスをする。
「……いい響きだ、ナナオ。それに……唇も処女とはな……。なら、他も当然……」
ふふ、と笑った彼が私の胸を撫でるとブラウスのボタンを外し始める。
「レオ様、な、にを……っ、ひゃんっ!」
「ふ……甘い声だな、ナナオ。だが、お前を貪るのは私の屋敷に帰ってからだ」
ブラウスを外し始めた彼に抵抗しようと腕を上げようとしたけれど、また何かが流れ込んでくるような感じがしてどんどん力が抜けてしまい、全く手が動かなかった。少しだけあらわになった肌をつうっと撫でられて思わず声を上げると、彼はさらにブラウスのボタンを外して胸をあらわにした。
フロントにあったブラのホックも簡単に外し、胸を撫でながらブラをどけて胸をあらわにしてしまった。
それを見た彼は嬉しそうに目を細め、つんと胸をつつく。それだけで身体に電流が走ったような感じになり、背中を反らせる。
「ナナオ、乳首が勃っているぞ?」
「やぁっ、ひゃんっ! レオ様ぁ……っ、い、や、ああんっ!」
「乳首に触れただけなのに……いい声で啼くな、君は。だが、ねだってもまだダメだ」
ねだってません! と言いたくても、肌や胸や乳首をそっと撫でるだけの彼の指先に身体が反応してしまい、身体を振るわせながら背中を反らせて声を上げることしかできない。
「あ、あ、……っ、ん……っ、はぁ……っ」
「ナナオ、私に乳首を吸われながら舐め回してほしいのか? 私も今すぐ吸い付きたいが、今吸い付いたら止まらなくなる……もう少し我慢しろ。……ああ、着いたな」
彼は誰かに何かを指示したあとで私にジャケットを被せると、スタスタと歩き始める。疼く身体と声を我慢しているうちにどこかの部屋へと連れていかれ、服や下着も脱がされてベッドへと寝かされていた。
「待たせたな、ナナオ。君がねだった通り乳首に吸い付いて舐め回し、約束した通り全身を愛撫してその疼きを沈めてやろう」
彼は私に覆い被さると、胸を揉みながら乳首に吸い付いて舐め回し始めた。それだけで身体が震え、乳首がじんじんと痺れたような感じがして、彼にもっと吸ってほしくなる。触ってほしくなる。
「あんっ、レオ、様ぁっ、あっ」
「力が効きすぎてる……? ということは、もともと敏感なのか……」
「ひゃあんっ! あああっ!」
軽く乳首を擦られた途端に何かが競り上がって来て視界が白く染まり、身体の疼きも楽になった気がする。でも、彼は私の胸を揉んだり乳首を吸ったり舐めたりすることを止めることはなく、その刺激でますます身体が熱く、疼くような感じになっていく。
「イったか。だが、愛撫は始まったばかりだ、ナナオ。……何度もイき、啼いて私にその声を聞かせろ。さて……こちらは……ああ、随分濡れているな。これなら簡単に入るか」
「ああんっ! ひあっ! んんんんんっ!」
乳首を舐めまわし、反対の乳首を指に挟んで胸を揉む彼。
舐め回していた乳首から口を離した彼は、私にキスをしながらアソコを弄りはじめた。
ひどく感じる場所に触れ、胎内に指を出し入れしながらくちゅ、ちゅぷ、と卑猥な水音をさせる彼。
それだけなのに常に視界が白く染まり、彼の指と唇と舌に翻弄されて行く。
アソコを舐められながら胸も揉まれ、ただひたすら声を出すことしかできず、彼に翻弄され続けた結果、疲れ果てて眠ってしまったらしい。ぞくぞくした感じがして目が覚めた時は既に夜で、彼は私を後ろから抱きかかえるにようにしながら胸を揉み、乳首を吸い、アソコを弄っていた。
結局朝まで私を愛撫していた彼はいろいろと満足したのか、動くことができなかった私とご飯を食べたあとで一緒にお風呂に入り、身体を綺麗にしたあとでベッドへと寝かせると「夜にまた来る」と言って出かけてしまった。
「え? あら、本当。最近までイギリスにいたわよね? 日本に来るのは何年ぶりかしら?」
「さあ……。俺たちが入社した時ですらも見てないから、十年以上は日本に来てないんじゃないか?」
「花嫁探しに各国にある会社を回って歩いているなんて噂が流れてるから、いよいよ枯れオヤジを脱却するんじゃないか?」
「あら、CEOに対してひどい言い種ね! でも、花嫁探しに来てるなら私にもチャンスがあるかも!」
そんな声が上がってそっちのほうを見れば、SPに囲まれながらリムジンから降りて来た男性が目に入る。
ショートの銀髪、スカイブルーの瞳、SPよりも頭一つ分高い身長。その色合いから一目見て神族だとわかる。神族は総じて髪や瞳の色素が薄いからだ。
(神族の会社だったのかあ……道理で大きな会社よね。てことはあの人たちはエリートってことか……)
ある日のこと。郵便局に出かけて会社に戻る途中で見た大会社の入口での光景を、私はそれを横目で見ながらゆっくり歩いていた。
(まあ、小市民の私には関係ないわね)
うちの会社は普通の人間が社長をやってる会社で、小さい会社だし。そんなことを考えながらチラリと時計を見れば、そろそろお昼が近い。
「お腹すいた……早く帰って仕事の続きをしなきゃ」
ぶつぶつ言いながら歩く速度を何とか速めて二ブロック先にあるビルへと向かう。そのビルの一階が私が務めている会社で、私は事務をしている。
普段の私は郵便局に行ったりはしないのだが、いつも郵便局に行く担当者が急病で早退し、その代わりを頼まれたのが私だった。先程『明日は出勤できるから。今日は急にごめん、ありがとう』とメールをもらったから、明日は出かけなくていいことにホッとする。
足が悪い私にとって、徒歩で二ブロック歩くのですら少しきついから。
会社に戻って上司に領収書とお釣を渡すと「秋本さん、悪かったなあ……。キツかっただろ?」とチョコレートをくれた上司に内心で苦笑しつつ、「大丈夫です。ありがとうございます」とお礼を言って席に戻る。書類が積まれていることを覚悟していたけどあまり積まれていなくて驚いていたら、隣の席の先輩が「やっといたわよ」と書類をヒラヒラさせていた。
「うわ! ごめんなさい!」
「違うでしょ?」
「えと、ありがとうございます」
「よろしい。でもコレ、早退したあの馬鹿がやるはずだった仕事なんだから気にしないでいいし、そのぶん七緒ちゃんが外に行ってくれたから助かったわ。私が行けたらよかったんだけど……」
「それこそダメですよ! 長谷川さんは妊婦さんじゃないですか!」
小声でそんなことを話しながら書類を捌いて行く。急病で早退した人は朝から咳をしており、妊婦さんにうつしては大変だからと周りや上司にきつく言われて早退したという、なんとも残念な人だった。
この会社は小さいけれどとてもアットホームな会社で、託児所もあるし福利厚生がわりとしっかりしている。私みたいに脚が悪くてゆっくり歩いていても、文句を言うどころか逆に助けてくれたりして恐縮してしまうこともあるけど。
――この世界には、神様や神様の眷属である神族がいる。その方たちが治める国や会社がある。もちろん、人間の社長もいるけど。
いつからそうなったのかは歴史の教科書が教えてくれるけど、なぜなのか、どうしてなのかはあまり詳しく教えてはくれない。
尤も、神様が現れてから五百年以上はたってるらしいから、詳しい資料とかも残ってないのかも知れない。
神様が現れる前よりはマシとは言え、そんな世界でも戦争もあるし、貧困もあるし、貧富の差もあるし、孤児もいる。もちろん義足をしていたり、車椅子に乗っている人もいる……私のように。
「七緒ちゃん、お昼食べに行こう。今日はお天気がいいから隣の公園に行く?」
「行きたいのはやまやまなんですけど、今日は電話番の日なんですよね。それに急ぎの仕事が回って来てしまったから、どのみちお昼はあとになりそ……」
「真中ー!!」
書類を見せながらお昼はあとになりそうですと言おとしたら、書類を見た長谷川さんが私の話を遮って叫ぶ。
「はいぃぃぃぃっ!」
「この書類、さっきあたしが『自分でやれ!』って突っ返したヤツじゃないの! 何でまたこっちに回してくんのよ!」
「いや、あの、」
「あんたの書類担当は先月から園子でしょうが! こっちにはそんな余裕ないし、簡単な書類くらい自分でやれって何度言ったらわかるわけ?!」
「ひぃぃぃっ! ご、ごめんなさいぃぃぃ!」
「謝る前に書類を取りに来る! それと、屋上から吊るしの刑!」
「二度としませんから、それだけは勘弁してくださいぃぃぃぃっ!」
半泣きになりながら、真中さんは慌てて書類を取りに来る。取りに来てまた長谷川さんに怒らて、逆に悪いことしちゃったかなと反省していると。
「俺のせいだから、気にしないでよ」
「そうそう。物覚えの悪い真中が悪いんだから、七緒ちゃんは気にしないでいいのよ」
真中さんと長谷川さんに言われて、苦笑しながら頷く。もちろん周りも頷いていた。
(相変わらず仲がいいなあ……)
漫才みたいな喧嘩が止まらない二人を横目に、別の書類を手に取りながらパソコンに入力して行く。
真中さんと長谷川さんは同期だ。しかも幼なじみでもあるらしい。
入社当時からこんな感じだったと上司が言っていたし、真中さんは本当に屋上から吊るされたことがあるらしい。そんな真中さんだけど、営業はトップクラスだったりする。
チラリと時計を見るとお昼を十五分ほど過ぎていて、そろそろまずいんじゃないのかなと思って長谷川さんに声をかける。
「長谷川さん、そろそろお昼に行かないと時間が無くなりますよ?」
「え? あら、大変! もう、真中、あんたのせいよ!」
「俺か?! 俺のせいなのか?!」
また始まった長谷川さんと真中さんの、漫才に近い言い合いに皆で「またか……」と呆れた時だった。ノックの音と共に誰かが入って来る。
静かになった室内に驚きつつもそっちを見れば、さっき見た神族の人がキョロキョロと部屋の中を見回していた。
「ユニコーン族……何でこんな小さな会社に?」
そう呟いた長谷川さんに首を傾げていたら、長谷川さんの声が聞こえたのか長谷川さんを見た。そのあとで私を見て、なぜか嬉しそうな、獲物を見つけたような笑顔を浮かべて近付いて来たのだ。
「……うん、君だ。見つけた」
「え? 何? わ、私ですか?」
「そう、君。荷物は?」
「はい?!」
なんでいきなり荷物なの?! と思っても私にはさっぱりわからない。誰かが連絡したのか社長が慌てて飛んできて、私が何かやったのかだの、失礼なことをしたのかだの、必死になって謝りながら神族の人――ユニコーン族の人に聞いている。
(失礼な! 初対面だし話したこともないわよ!)
内心で文句を言いながらもとりあえず机の引き出しに閉まってあったお弁当を鞄に入れて持ち、机の横に置いてあった車椅子に乗り込む。
「七緒ちゃん、ユニコーン族と知り合いなの?」
「まさか! さっき郵便局の帰りに、あの大きな会社の手前で車から降りて来るのをチラッと見ただけですよ?」
「それだけ? なのに、あの人はうちの会社に来て七緒ちゃんを見つけて、社長は七緒ちゃんが悪いみたいなこと言ってるわけ? ……やっぱ、あのボンクラじゃいずれ潰れるわね、この会社……そろそろ辞め時かしら……」
「だよな。あの社長になってからちょっとヤバいんだよなあ……」
長谷川さんと真中さんの三人でこそこそ話していたら、いつの間にか話が終わったのか男性が怖い顔をしながら寄って来て私を見下ろし、怖い顔が一瞬で驚いた顔になった。何に驚いたのかは何となくわかるけど、なぜ怖い顔をしたのかさっぱりわからないから聞いてみる。
「……私が貴方に対して何かしたんでしょうか? したなら謝ります」
「いや、何もしてない。私が嫉妬しただけだ。それに、あの時感じたのは匂いだけだったから……」
「匂い……?」
嫉妬したというのはよくわからないけど、匂いって……それは私が臭いってことですか?
香水は付けてないけど、毎日身体も頭も洗っている。臭うとすればさっき必死で歩いたから汗をかいたくらいだし、あとは化粧品とかシャンプーとか薬の匂いくらいしか思いつかない。
シャンプーはともかく、化粧品は無香料のものを使ってるはずだけど、と首を捻った時には浮遊感に襲われ、彼に抱き上げられていた。
「ちょ……、あのっ!」
「ああ……これだ……この匂いだ……百年ぶりの、本物の、処女の匂い……」
私の耳元で小さくう呟そいた彼に思考が一瞬固まる。
(……しまったー!)
長谷川さんが「ユニコーン族」だって言っていたではないか! なぜその時に鞄に入っていた、男性の匂いがするというフェロモン香水を付けなかったのかと今更ながら後悔する。
なぜならユニコーン族は本物の処女の匂いを嗅ぎ分けるから。一度見つかれば、見つけたユニコーン族が飽きるまで離してはもらえないから。
しかも見つけるまでは何の反応を示さない枯れたオヤジ状態なのに、一度見つけてしまえば男性と話すだけでも嫉妬し、見つけた者を抱くこともせずひたすら側に置きたがるのだ。
尤も、抱かないのは本物の処女だけで、一度性に目覚めてしまえば気に入った女性は抱くそうだけど。
だから処女の間はフェロモン香水を着け、神族の中でもユニコーン族だけには見つかってはいけないと学校でも教わるのに、私はそれをすっかり忘れていた。鞄の中には常にその香水を入れていたと言うのに。
「あの! 離して下さい! わ、私は庶民で、貴方とは……っ、ぁ……っ、はぁ……っ」
貴方とは身分が違うのにと言う暇もなく、突然身体に何かが流れ込んで来るような感じがしていきなり身体が熱くなる。
「ほう……すぐに反応するか……これは楽しみだな。悪いが彼女はもらって行く。いいな?」
「は、はい!」
「ライル、他の者と手分けして彼女の車椅子と荷物を頼む。彼女の他の荷物は纏めておいてくれ。のちほど取りに来させる」
「……わかりました」
「か……てに、決め、ないで、くださ……っ」
「私が決めたんじゃない。決めたのはあの男だ」
彼が顎をしゃくった先にいたのは、長谷川さん曰くのボンクラ社長。それを聞いたその場にいた人たちは怒りをあらわにした。
「バカだバカだと思ってたけど、思った以上のバカだったわけね。この子が居なくなって事務仕事が回るとでも? それすらもわからないあんなのが社長? 冗談じゃないわ! 悪いけど今すぐ辞めます! お世話になりました!」
「俺も辞めます。アンタが社長になってから、仕事を取って来たって全然先に進まないし」
明らかにキレている長谷川さんを皮切りに、真中さんや他の人、はたまた上司まで辞めると言い出し始め、長谷川さんにバカと言われた社長は唖然としている。
「な、な、な……」
「ほう……? それは面白いな。本当に辞める気があるなら別の場所を提供したうえで、辞めると言った全員を雇ってもいい」
但し、その条件は君が私のモノになることだ、と耳元で囁いた彼。抱き上げられている状態だし、身体は熱いし、競り上がってくるような疼きに我慢していると、さらに彼が耳元で囁いた。
その吐息でさえも身体に甘い痺れが走る。
「ぁっ……、ん……っ、はぁ……」
「私のモノになるなら、熱い身体もその疼きも沈めてやるが……どうする?」
甘くて魅惑的な、そして優しく囁く彼。それに従ってはいけないと本能的にわかっていても、庶民であり小市民でもある私が神族である彼に逆らうことなど許されるはずもなく、甘く疼く身体も何とかしてほしくて頷くと、彼は「いいだろう」と微笑みを浮かべた。
「さあ、どうする? 私に雇われるか?」
辞めると言った人たちは「お願いします」と伝えて自分の荷物をさっさと纏め始める。
「今言った中に経理担当者はいるか? あと肩書きが一番高い者も」
「僕です」
「私です」
「わかった。今までの仕事内容と経営状況が知りたい。十五時に全員迎えに来る手配をしておくから、それまで二人で、もしくは全員で資料を集め……」
彼が経理担当者と上司と話をしていたけど私は疼く身体に翻弄され、上がりそうになる声を必死で我慢していたら、どんな話をしてたのか途中までしか覚えていなかった。気づいた時には車の中で、彼は私を膝に乗せながら頭を撫でていた。
「あ……っ、ん、ここ、は……、はぅ……、貴方は……、ん」
「ここは私のリムジンの中だが……そう言えばお互いに名乗りもしてなかったな」
苦笑した様子の彼に、疼く身体を我慢しながら先に名前を告げる。
「んっ、私、は……秋本、七緒、ナナオ・アキモト、と申し、ます」
「ナナオか。私はレオニダスだ」
「レオニダス、様……」
「ふ……。言いにくいなら、特別にレオと呼ぶことを許可しよう」
「あ……、レオ、様……、ん……」
彼の名前を呼んだ途端に彼は目を細めて笑い、私の顎を持ち上げて軽くキスをする。
「……いい響きだ、ナナオ。それに……唇も処女とはな……。なら、他も当然……」
ふふ、と笑った彼が私の胸を撫でるとブラウスのボタンを外し始める。
「レオ様、な、にを……っ、ひゃんっ!」
「ふ……甘い声だな、ナナオ。だが、お前を貪るのは私の屋敷に帰ってからだ」
ブラウスを外し始めた彼に抵抗しようと腕を上げようとしたけれど、また何かが流れ込んでくるような感じがしてどんどん力が抜けてしまい、全く手が動かなかった。少しだけあらわになった肌をつうっと撫でられて思わず声を上げると、彼はさらにブラウスのボタンを外して胸をあらわにした。
フロントにあったブラのホックも簡単に外し、胸を撫でながらブラをどけて胸をあらわにしてしまった。
それを見た彼は嬉しそうに目を細め、つんと胸をつつく。それだけで身体に電流が走ったような感じになり、背中を反らせる。
「ナナオ、乳首が勃っているぞ?」
「やぁっ、ひゃんっ! レオ様ぁ……っ、い、や、ああんっ!」
「乳首に触れただけなのに……いい声で啼くな、君は。だが、ねだってもまだダメだ」
ねだってません! と言いたくても、肌や胸や乳首をそっと撫でるだけの彼の指先に身体が反応してしまい、身体を振るわせながら背中を反らせて声を上げることしかできない。
「あ、あ、……っ、ん……っ、はぁ……っ」
「ナナオ、私に乳首を吸われながら舐め回してほしいのか? 私も今すぐ吸い付きたいが、今吸い付いたら止まらなくなる……もう少し我慢しろ。……ああ、着いたな」
彼は誰かに何かを指示したあとで私にジャケットを被せると、スタスタと歩き始める。疼く身体と声を我慢しているうちにどこかの部屋へと連れていかれ、服や下着も脱がされてベッドへと寝かされていた。
「待たせたな、ナナオ。君がねだった通り乳首に吸い付いて舐め回し、約束した通り全身を愛撫してその疼きを沈めてやろう」
彼は私に覆い被さると、胸を揉みながら乳首に吸い付いて舐め回し始めた。それだけで身体が震え、乳首がじんじんと痺れたような感じがして、彼にもっと吸ってほしくなる。触ってほしくなる。
「あんっ、レオ、様ぁっ、あっ」
「力が効きすぎてる……? ということは、もともと敏感なのか……」
「ひゃあんっ! あああっ!」
軽く乳首を擦られた途端に何かが競り上がって来て視界が白く染まり、身体の疼きも楽になった気がする。でも、彼は私の胸を揉んだり乳首を吸ったり舐めたりすることを止めることはなく、その刺激でますます身体が熱く、疼くような感じになっていく。
「イったか。だが、愛撫は始まったばかりだ、ナナオ。……何度もイき、啼いて私にその声を聞かせろ。さて……こちらは……ああ、随分濡れているな。これなら簡単に入るか」
「ああんっ! ひあっ! んんんんんっ!」
乳首を舐めまわし、反対の乳首を指に挟んで胸を揉む彼。
舐め回していた乳首から口を離した彼は、私にキスをしながらアソコを弄りはじめた。
ひどく感じる場所に触れ、胎内に指を出し入れしながらくちゅ、ちゅぷ、と卑猥な水音をさせる彼。
それだけなのに常に視界が白く染まり、彼の指と唇と舌に翻弄されて行く。
アソコを舐められながら胸も揉まれ、ただひたすら声を出すことしかできず、彼に翻弄され続けた結果、疲れ果てて眠ってしまったらしい。ぞくぞくした感じがして目が覚めた時は既に夜で、彼は私を後ろから抱きかかえるにようにしながら胸を揉み、乳首を吸い、アソコを弄っていた。
結局朝まで私を愛撫していた彼はいろいろと満足したのか、動くことができなかった私とご飯を食べたあとで一緒にお風呂に入り、身体を綺麗にしたあとでベッドへと寝かせると「夜にまた来る」と言って出かけてしまった。
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