あかりを追う警察官 ―希望が丘駅前商店街―

饕餮

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帰国

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「ここに帰って来るのも久しぶりか……」

 駅の改札を抜けて歩いた先にあるのは、生まれ育った商店街。いつぶりかわからないほど、俺が実家のある商店街に帰って来たのは久しぶりだった。多分お袋の葬式で帰って来て以来か?
 帰って来た理由は他にもいろいろあるが、一番の理由は幼なじみの嗣治が結婚したことと妹の籐子が妊娠したことだった。嗣治のフラレ記録を止めた女にも興味があったし、籐子に直接お祝いを言いたかったからだ。

 籐子が結婚して十年近く。二度妊娠したものの、悪意ある者によって二度流産してしまった籐子。――それを乗り越えられたことが嬉しい。

 久しぶりに帰って来た商店街を覗きながらあちこち歩く。閉まっていた本屋が復活していたり、見たことがない青いゆるキャラがいたりと変化はそれなりにあった。

「他にもあるかもなあ……」

 そんなことを呟きながら実家の豆腐屋に顔を出すと、俺の父が店番をしていた。奥を覗けば兄貴の嫁さんが何やら作業をしていることから、父が表を見てるらしい。そんな父に手を上げて挨拶をする。

「ただいま、親父」
「……籐志朗、か?!」

 驚いた声をあげた父に義姉も振り向いて俺を見ると、やっぱり驚いた顔をされた。

「そんなに変わっちまったか?」
「それだけ真っ黒に焼けてたら、わかるわけないだろう? ほら、さっさと家ん中入れ。母さんに線香忘れんなよ?」
「……ああ」

 父に促され、一旦裏に回って自宅玄関から入る。荷物は一旦居間に入れてから仏壇のある部屋へと入ると、蝋燭と線香に火をつけて手を合わせた。お袋が亡くなって五年は経つ。心の中でこれまでのことや帰ってこれなかったことなどの会話をしてからまた居間に戻ると、義姉がお茶を淹れてまた店に戻って行った。どうやら兄の籐矢は配達に行っているらしい。

「籐志朗、元気だったか?」
「ああ。ちょっと忙しかったけどな」
「今まで全然帰って来なかったが……何してたんだ? それに若菜わかなさんはどうした? 一緒じゃないのか?」
「あー……。あいつとはとっくに別れた」
「何……? どういうことだ?」

 訝しげにそう聞いて来た父に、溜息をつきながら七年前のことを話し始めた。

 七年前……いや、正確には八年前になる。
 若菜という妻と生まれたばかりの娘がいた。当時の俺自身は皇宮警察官をやっていて、不規則ではあるが休みもちゃんとあって、親子三人で幸せに暮らしていた。
 そんなある日、一年先輩で国際刑事警察機構ICPOに行っている高林から「本部で人員を募集してるんだが、試験を受けないか」と連絡をもらったのだ。
 彼と一緒に仕事をしたのは短い期間だったが俺を覚えていてくれたことが嬉しく、現役の国際警察官からそんな言葉をもらえるとは思わなかったし、俺自身も一度は試験を受けてみたいと思っていたから内心では喜んでいた。だが、俺の一存で決めるわけにも行かず、とりあえず上司や家族と相談して決めるからとその時は電話を切った。
 上司と相談して、若菜にも話をして。上司は資料を取り寄せてくれると言ってくれたが、若菜には反対された。いや、正確には拒否されたのだ……

『外国には行きたくない。観光で行くのはいいけど、住むのは嫌』

 と。
 受かるかどうかもわからないうちから拒否され、どんなに説得しても結局若菜は首を縦には振らなかった。挙げ句に、『警察官すらも辞めてくれ』とまで言い出したのだ。

 若菜と付き合い始めたころ、俺自身は若菜に警察官だということを話していた。結婚する時もそれに納得してくれているんだと思っていた。

 だから若菜の言葉は哀しかったが、理解が得られないのなら一緒にいても仕方がないと諦め、結局は離婚に踏み切った。その程度の薄い感情しか持ち合わせていなかったのだ、俺も若菜も。

 いつからすれ違いが生じていたのか、今はもうわからない。だが、家をあけることが多かった俺に、若菜はいつしかそれに堪えられなくなったんだろう。
 離婚したあとは諸々の手続きをし、試験を受けてみれば合格してしまった。若菜には合格したことだけを伝え、そのままフランスに旅立って高林と再開、高林とコンビを組んだりしながらフランスでしばらく過ごしていたが、高林と二人で日本にへの移動願いを出し、それが通って日本に帰って来た。
 時々若菜からはメールで娘の写真が送られて来る。そして三年前に再婚したことも聞いた。娘が再婚相手になついているらしいから二人とも幸せなんだろうとは思うが、正直寂しくもある。
 そんなことをかいつまんで父に話せば、溜息をつかれてしまった。

「籐志朗……」
「いいんだよ、親父。先輩も帰りたいと言っていたし、帰国する直前に籐子からいろいろ話を聞いたからこっちに戻ってこようと思ってさ。帰国と同時に休暇をもらったし、住むところを探すまでの間でいいから泊めてくれ」
「部屋はそのままだから構わんが、布団とか干してないぞ?」
「布団くらい今から買ってくるさ。あとで籐子と徹也んとこにも顔を出すよ」
「そうしてやれ」

 苦笑しながらそう言った父に俺自身は笑って席を立つ。荷物を持って家を出るまで使っていた部屋へ行くと、部屋の中は昔のままで笑ってしまった。埃がないことから、多分義姉が掃除してくれていたんだろう。

 とりあえず財布や携帯をジーパンのポケットへと入れて、懐かしい商店街へと出る。当然のことながら身分証も持参。籐子のところはあとでもいいかと考えて布団屋を目指していたら電話が鳴った。画面を見て見れば「高林」の文字。お互いに休暇中なのに高林は何をやっているんだ、と思いつつも電話に出た。

「もしもし」
『高林だ。籐志朗、今いいか?』
「構いませんけど……何かありました?」

 電話で話しながら、邪魔にならない場所へと移動する。ふと目線をメイン通路の方へ向ければ、目の前を通った女が細長い物を落とした。それを拾って見れば扇子で、鞄の隙間に差していたものが落ちたらしかった。それを持って女を追いかけて声をかけた。

「お嬢さん、落とし物だ」
「え?」
『で、だ。休暇が終わったら狩りを手伝えって言われたんだが、お前はどうする?』
「俺は構いませんけど、俺たちがやってもいいんですかね?」

 振り向いた女は童顔で俺よりもかなり若く二十代前半に見えた。二十代後半くらいかと思っていただけにかなりびっくりしたが、落とし物を渡そうとしたら女がギョッとした顔をしていきなり走り出した。

「お嬢さん、忘れ物……って、おい!」
『籐志朗、どうした?』
「すみません、卓さん、かけ直します!」

 慌てて電話を切ると、俺自身も女が走って行ったほうへと走り出す。

(速えな、おい。それに……もしかして電話の卓さんの声が聞こえてた?)

 そんなわけないかと思いつつ、とりあえず忘れ物を渡すために女を追いかけることにした。

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