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説教
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その柔らかい唇に思わず本気で貪りそうになるのを抑え、ただ唇を合わせるだけのキスをすること数十秒。唐突に殺気じみた鋭い視線が無くなり、内心でホッとしながら唇を離すと暁里はまだ目を見開いたまま呆然と俺を見ていた。それに溜息をつきながら暁里の両頬を摘まんで横に引っ張ると、ハッとして我に返った。
「いひゃい」
「痛いじゃねえ、このバカウサギ! 音だけ探れっつったのに、なんで見ようとするんだ! 自衛したいなら気づかないフリくらいしろ!」
柔らかい頬をグニグニと引っ張ったあとで手を離すと、暁里は両手で頬をさすりながら、しょんぼりした様子で「ごめんなさい」と謝った。
「もし、お前を狙っている犯人グループじゃなく、別の……お前の耳のことを知らない、噂を聞いただけの別のグループだったらどうするんだ? お前の行動次第じゃ噂が確定になって耳のことがバレるだろうが」
「あ……!」
「俺たちは犯人グループを逃がすつもりはない。だが、お前自身が今後も平穏無事に暮らしたいなら、それも念頭に入れて行動しろ。自分から『耳がいいです!』って暴露してどうする」
「……本当にごめんなさい。今度から気を付ける」
明らかに落ち込んだ様子で俯いた暁里に、内心また溜息をつく。普段は雑音を聞かないようにしているのは悪いことではないが、雑音を拾って行動してしまい、『聞こえる』ということを自ら暴露するのは、外ではいろいろとまずい。
しょんぼりした様子の暁里の頭に手を置き、そのまま撫でてから軽くポンポンと叩くと、暁里が顔を上げた。
「わかってくれればいい。それと、いきなりキスして悪かった。顔を動かさないようにするためとは言え、お前には悪いことをした。すまない」
頭を下げると頭上で暁里が微かに息を飲んだあと、「私が悪かったので頭を上げてください」と言った。それに従って頭を上げれば、いきなり俺の両頬を摘まもうとして……失敗したらしい。暁里の顔がムッとしていた。
「もう……摘まめないじゃないの! ムカつく!」
「……何をやってんだよ」
「頬を摘ままれたから、お返ししようかと思って」
「暁里が悪いんだろうが」
「そうなんだけど、と、と、籐志朗さんにやられっぱなしなのが悔しいじゃない!」
暁里はそんなことを言いつつ、子供っぽくプウッと頬を膨らませる。
「……ガキかよ」
つんつん、と頬を突っつけば、暁里は「むぅ……」と唸ったあとで息を吐くと、アクセサリーが入った箱を鞄にしまい、微笑んだ。
「アクセ、ありがとう」
「おう。わかってると思うが、アクセサリーやブレスレットをしたまま風呂に入るなよ?」
「入らないわよ! 本当にムカつく!」
プイッ、とそっぽを向いた暁里に思わず笑い声を上げてから立ち上がる。左腕を差し出すと、暁里は首を傾げて不思議そうに俺を見上げる。
「家まで送って差し上げましょう、お嬢様」
「っ! あ、ありがとう」
茶目っ気たっぷりの俺の言葉に一気に耳を赤くした暁里は、立ち上がって腕を絡ませる。彼女をエスコートするように病院をあとにし、「商店街で買い物をしたい」とねだった暁里に付き合って買い物をすると、商店街とは反対の駅向こうにある暁里の家まで送り届ける。
「暁里、確認」
「なあに?」
「出勤時間はいつも今日と同じか?」
「そうよ」
「なら、明日も同じ時間にな。俺が来るまで駅にいろよ?」
「わかってるわ」
「よし。じゃあな、暁里。また明日」
確認事項を済ませて手を上げると、暁里もつられたように手を振って自宅へと入った。見上げた先の窓には暁里の父親がいて俺を見ており、お互いに目礼をすると父親は窓から離れた。それを見送り、然り気無く周囲を観察する。
家が何軒も並ぶ閑静な住宅街ではあるが、近くにバスが通る幹線道路があるからか、夜の割には車通りと人通りがかなりある。希望が丘駅からバスで三十分かかるものの、白崎邸からバス停までは徒歩一分の距離で、ところどころにある電柱には、『ちかんに注意』『不審者、不審車を見かけたら警察へ』といった注意喚起の看板や張り紙もあった。
暁里によれば小学校が近くにあるという話だし、住宅のところどころに子供用の自転車もあることから、実際にそういった目撃情報もあるのだろう。
それらを見る限り、この辺の住人は暁里が誘拐されたことを知っているのだろう。その証拠に、住宅のあちこちから視線を感じる。尤も、兄や父とは違う男が暁里と一緒に歩いていたせいもあるかも知れないが。
そんな鬱陶しい視線を無視して歩き、バスに乗って駅へと向かった。商店街の入口で、商店街住人であり年下の見知った男女を見つけ、いつの間にくっついたんだか、と生温い視線を向けた。
俺がフランスから帰って来た時、男のほうは店先でたまにボーッとしながら眉間に皺を寄せていた。姉が結婚するという話を聞いたし、シスコンで有名な男だったからそれで落ち込んでいたのかと思いきや、どうやら恋愛で悩んでいたようだ。今はそんな状態は鳴りを潜め、親譲りの激甘垂れ流し状態だった。
そのことに時間の流れを感じつつ、帰りに実家の豆腐屋に寄り、親父に「豆腐を病院に持って行く方法はないか」と聞けば呆れた顔をされたものの、義姉が「プリンを作る容器はどう?」と言ってくれたことから、それで作ってくれるように頼んだ。
自宅へ帰り、暁里の母親の病院のこと、写真を撮っていた者がいたことを上司に報告後、妹がいる居酒屋へ顔を出した。
「いひゃい」
「痛いじゃねえ、このバカウサギ! 音だけ探れっつったのに、なんで見ようとするんだ! 自衛したいなら気づかないフリくらいしろ!」
柔らかい頬をグニグニと引っ張ったあとで手を離すと、暁里は両手で頬をさすりながら、しょんぼりした様子で「ごめんなさい」と謝った。
「もし、お前を狙っている犯人グループじゃなく、別の……お前の耳のことを知らない、噂を聞いただけの別のグループだったらどうするんだ? お前の行動次第じゃ噂が確定になって耳のことがバレるだろうが」
「あ……!」
「俺たちは犯人グループを逃がすつもりはない。だが、お前自身が今後も平穏無事に暮らしたいなら、それも念頭に入れて行動しろ。自分から『耳がいいです!』って暴露してどうする」
「……本当にごめんなさい。今度から気を付ける」
明らかに落ち込んだ様子で俯いた暁里に、内心また溜息をつく。普段は雑音を聞かないようにしているのは悪いことではないが、雑音を拾って行動してしまい、『聞こえる』ということを自ら暴露するのは、外ではいろいろとまずい。
しょんぼりした様子の暁里の頭に手を置き、そのまま撫でてから軽くポンポンと叩くと、暁里が顔を上げた。
「わかってくれればいい。それと、いきなりキスして悪かった。顔を動かさないようにするためとは言え、お前には悪いことをした。すまない」
頭を下げると頭上で暁里が微かに息を飲んだあと、「私が悪かったので頭を上げてください」と言った。それに従って頭を上げれば、いきなり俺の両頬を摘まもうとして……失敗したらしい。暁里の顔がムッとしていた。
「もう……摘まめないじゃないの! ムカつく!」
「……何をやってんだよ」
「頬を摘ままれたから、お返ししようかと思って」
「暁里が悪いんだろうが」
「そうなんだけど、と、と、籐志朗さんにやられっぱなしなのが悔しいじゃない!」
暁里はそんなことを言いつつ、子供っぽくプウッと頬を膨らませる。
「……ガキかよ」
つんつん、と頬を突っつけば、暁里は「むぅ……」と唸ったあとで息を吐くと、アクセサリーが入った箱を鞄にしまい、微笑んだ。
「アクセ、ありがとう」
「おう。わかってると思うが、アクセサリーやブレスレットをしたまま風呂に入るなよ?」
「入らないわよ! 本当にムカつく!」
プイッ、とそっぽを向いた暁里に思わず笑い声を上げてから立ち上がる。左腕を差し出すと、暁里は首を傾げて不思議そうに俺を見上げる。
「家まで送って差し上げましょう、お嬢様」
「っ! あ、ありがとう」
茶目っ気たっぷりの俺の言葉に一気に耳を赤くした暁里は、立ち上がって腕を絡ませる。彼女をエスコートするように病院をあとにし、「商店街で買い物をしたい」とねだった暁里に付き合って買い物をすると、商店街とは反対の駅向こうにある暁里の家まで送り届ける。
「暁里、確認」
「なあに?」
「出勤時間はいつも今日と同じか?」
「そうよ」
「なら、明日も同じ時間にな。俺が来るまで駅にいろよ?」
「わかってるわ」
「よし。じゃあな、暁里。また明日」
確認事項を済ませて手を上げると、暁里もつられたように手を振って自宅へと入った。見上げた先の窓には暁里の父親がいて俺を見ており、お互いに目礼をすると父親は窓から離れた。それを見送り、然り気無く周囲を観察する。
家が何軒も並ぶ閑静な住宅街ではあるが、近くにバスが通る幹線道路があるからか、夜の割には車通りと人通りがかなりある。希望が丘駅からバスで三十分かかるものの、白崎邸からバス停までは徒歩一分の距離で、ところどころにある電柱には、『ちかんに注意』『不審者、不審車を見かけたら警察へ』といった注意喚起の看板や張り紙もあった。
暁里によれば小学校が近くにあるという話だし、住宅のところどころに子供用の自転車もあることから、実際にそういった目撃情報もあるのだろう。
それらを見る限り、この辺の住人は暁里が誘拐されたことを知っているのだろう。その証拠に、住宅のあちこちから視線を感じる。尤も、兄や父とは違う男が暁里と一緒に歩いていたせいもあるかも知れないが。
そんな鬱陶しい視線を無視して歩き、バスに乗って駅へと向かった。商店街の入口で、商店街住人であり年下の見知った男女を見つけ、いつの間にくっついたんだか、と生温い視線を向けた。
俺がフランスから帰って来た時、男のほうは店先でたまにボーッとしながら眉間に皺を寄せていた。姉が結婚するという話を聞いたし、シスコンで有名な男だったからそれで落ち込んでいたのかと思いきや、どうやら恋愛で悩んでいたようだ。今はそんな状態は鳴りを潜め、親譲りの激甘垂れ流し状態だった。
そのことに時間の流れを感じつつ、帰りに実家の豆腐屋に寄り、親父に「豆腐を病院に持って行く方法はないか」と聞けば呆れた顔をされたものの、義姉が「プリンを作る容器はどう?」と言ってくれたことから、それで作ってくれるように頼んだ。
自宅へ帰り、暁里の母親の病院のこと、写真を撮っていた者がいたことを上司に報告後、妹がいる居酒屋へ顔を出した。
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