自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ガート帝国編

第76話 出発準備

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 ディエゴは別の商談があるからと先に帰り、私は残ってお昼までの残り時間で真珠の選別を手伝ったり、腕輪や指輪のデザインについていろいろと質問されたりいて、それに答えていた。中でも腕輪担当の人がミスリルやプラチナを使った腕輪に興味津々で、こと細かく質問されたのだ。
 だからデザインを起こしつつスライムの魔石を嵌めて作る方法や幅広のバングルを彫る方法など、世界中にあったデザインを、覚えている限り教えてみた。リング状のものは伸縮自在をかけるように話したりもした。
 指輪担当の職人も触発されたようで、一緒になってデザインを考えたりもしたし、ネックレス担当も、石を使わずに作る方法や、カットして出た小さな屑石を研磨して、それをワンポイントとして飾るといいという話もしておく。

「着想はなんだっていいと思うわ。季節の花だったり、動物だったりね」
「なるほど……」

 しばらく考えていたネックレス担当の職人は、花を彫り、その中心に小さな石を嵌めるデザインを描く。おお、可愛いじゃない! うんうん、その調子でどんどん作って、貴族用と庶民用でいろいろ考えてくれ。
 ビーズにも興味を示したのでみほんのビーズを見せたところ、作ってみたいというので砂を少し渡してみた。すると腕輪担当の職人が見事に色付きのビーズを作り上げたので、これも彼らに任せることにする。
 鉱石同様に砂も海があるダンジョンで採れるそうなので、材料に関しては問題ないとのこと。それだったらと、港町で売ったビーズの腕輪を錬成し、それをみほんとして渡したら、ずっごいキラキラとした目で見ていたよ。
 本当に作ることが好きなんだなあ。ちなみに、職人は全員獣人である。
 そんなことをしているうちにお昼となったので、工房をあとにする。いろんな工房が立ち並ぶ通りを見学しつつ、屋台や工房のウィンドウショッピング。
 屋台は串焼きが中心だけれど、ジュースが売られていたり、ピタパンに近いものが売られていたり。ピタパンの中身はコッコの塩焼きとレタス、トマトとチーズが挟んであって、美味しそうだった。
 そしてトルティーヤもあった。中身はいろいろ選べるようになっていて、数種類の肉とキャベツを入れ、クレープのように丸めてくれるものみたい。
 このあたりは転移者か転生者が広めたんだろうな。
 なのに、なんでミショの実が広まってないんだよ! 不思議だし不自然だよ!
 日本人がいなかったのか、それともいたけど、ミショの実の存在に気付かなかったのか。あの転生者たちですら、気付けの実としてしか認識していなかった。
 きっと、すり下ろそうなんて思わなかったんだろうなあ。見た目はオレンジというかみかんというか、そういう形だしね。
 工房がある通りを抜けて、カッテリーニ商会がある通りに戻ってくる。明日から村に行くので、ちょっとした準備をするつもり。
 といっても買うのなんて乾燥野菜と乾燥キノコ、目についたこの世界の野菜くらいだ。とうもろこしとピーマン、三種類のパプリカとナスもある。
 桃も商業都市で買ったものとは違う種類のようで、それも買ってみた。味見させてくれたけど、商業都市のは白桃、こっちのは黄桃だったから、いろいろできそう♪
 確か種も売られていたなあ……と思い出しているうちに店に着いたので、ついでにカッテリーニ商会の中を見てみる。
 売っている種類はそんなに多くはないが、工房を抱えているだけあって装飾品と魔道具、毛布やテントなど、主に旅に必要なものを売っている店のようだ。他に石鹸やタオルなどもあることから、生活必需品を中心に売っているのかもしれない。
 貴族が買いにくるからなのか、タオルもなかなかいい品質のものを置いているし、石鹸も香りのいいものがある。ちょっと試しに買ってみることにした。

「おかえりなさいませ、アリサ」
「ただいま。このタオルと石鹸をお願い」
「かしこまりました」

 フェイスタオルとバスタオルを各五枚とミントの香りがする石鹸を一個、リボンがあったのでそれもレジカウンターに持っていく。リボンは自分用だ。
 さすがに厨房は暑いから、リボンで結ぶつもりなのだ。
 ゴムでもあればシュシュを作ってもいんだけれど、ゴムの樹はダンジョンにもなかったからね。別の大陸に行くか、この大陸の南に行かないとないかもしれない。
 まあ、必ずしも必要というわけではないから、リボンで充分だ。
 包まなくていいと言ってお金を払い、商品はウエストポーチにしまう。一回外に出て厩に行くと、リコを探した。

「お、リコ発見。世話をきちんとされている?」
<アリサ! ああ、されている>
「よかった」

 嬉しそうに鼻を鳴らして顔を擦り付けてくるリコを、しっかりと撫で回す。ついでに道具を借りてブラッシングをした。
 念のため蹄も確認したがこれといった問題もなく整えられているし、肌も鬣も尻尾も角も艶々サラサラピカピカで、きちんと世話されているのがわかる。

「明日からでかけるからね」
<<<<どこに行くの?>>>>
「辺鄙な村があるんだって。そこがよさそうなところなら、住んじゃおうかと思って」
<<<<おお~!>>>>

 喜ぶ従魔たちに、つい笑ってしまう。
 私たち、定住先を求めて旅をしてきたものね。そりゃあ楽しくなるよね~。私も楽しみだし。
 従魔たちと一緒にどんなところなのか、どんなふうにして過ごしたいとか。家はどんなものがいいとか、全員でベッドに寝たいとか。
 ここまでの旅でも話してきたことを確認するようにみんなで話していると、料理長が呼びに来た。

「アリサ、いいボアの肉が手に入ったんだ。別の料理を知らねえか?」
「たとえば?」
「肉料理がいいんだが、ステーキや串焼きじゃないものがいい」
「んー、ならハンバーグにしようか」
「ハンバーグ? どんなものだ?」
「肉を細かくしてから成型して食べるもの、かな」
「よくわかんねぇが、それで頼む」

 角煮は早々に教えちゃったしね。バイソンならローストビーフにしたけれど、ボアならハンバーグのほうがいいだろう。
 ボアだけだとくどい味になるから、これに一角兎の肉を混ぜれば、マイルドになるかな? 実験を兼ねてやってみようと思う。
 一番いいのはオークとバイソンなんだよね。あれが豚肉と牛肉の合い挽き肉に一番近いから。
 まあ、それは作りながら教えるか~と、借りていた道具を返し、料理長と一緒に厨房に入る前に生活魔法で綺麗にし、買ったリボンで髪をくくってから厨房に入る。

「ハンバーグというものを作るわ。必要なのは肉と玉ねぎ、卵とパン粉、ナツメグ。これが基本よ」
「基本ってことは、他に何かを入れるんだな?」
「ええ。何だと思う?」
「……チーズが合いそうだな。他には野菜を入れてもよさそうだな」
「正解。アレンジもあるけど、それはあとで説明するわ」

 さすが料理長。あの宿屋でもやっていた野菜を入れるのを指摘してきたよ。
 まずはひき肉作り。包丁を二本使って、必死にやってもらっている。今回はミンサーは出さないよ、料理を提供するのはカッテリーニ家にいる人たちだけだからね。
 もしレシピ化して一般家庭でも作れるようになってきたら、ミンサーを売り出してもいいかもしれないが、そこはディエゴと相談したうえで、かなあ。絶対に食いつくと思うんだよね、ディエゴも料理長も。
 まあ、それはいいとして。
 ひき肉を作っている人以外にも人手があるので、トマトを煮込んでもらう。宿でも教えた通り、煮込みハンバーグも作るつもりなのだ。
 スープはミネストローネに、サラダはマカロニサラダかコールスローがいいだろう。カッテリーニ商会にいる料理人は全部で五人。それぞれに担当が決まっているから、それぞれに分かれて教えながら作ってもらった。
 一番大変だったのは肉担当の料理長と補佐だ。もちろん私も手伝ったよ、ひき肉作業はね。
 大きなボウルに基本の種を入れてまぜ、魔法で冷やして寝かせた状態にしてから楕円形にする。そういった説明をしながら全員で形成し、どんどん焼いてもらった。
 半分は焼いてからトマトソースの中に入れ、半分はそのままにしてもらう。どれも美味しそうにできていて、さすがだと思った。
 特にひき肉を作っていた二人は感無量だったみたいで、やり切った! って顔を――ドヤ顔をしていて笑ってしまった。
 ハンバーグをはじめとした料理は、ディエゴたちにも住み込みで働いている従業員たちにも好評だったと言っておこう。

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