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ドルト村の冬編

第139話 異世界での新年は

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 新年でござる。
 といってもテレビやラジオ、スマホなどの文明の利器はない世界なので、時間が過ぎれば……といった感じだろうか。除夜の鐘もなければ年越しそばも食べてないしね。蕎麦の実がなかったともいう。
 あれば緑の手で量産していたとも。
 うどんを作るという発想を誰もしなかったこともあり、オードブルで年越しをした。
 起きたあとは囲炉裏で餅を焼き、お雑煮を食べる。味噌を使ったものにしてみた。
 これはヤナのリクエストで、実家が味噌味だったんだとさ。私は醤油ベースのすまし、ヤミンは白味噌だったらしいので、見事に味が分かれた形になる。
 なので、まずは味噌ベースで作ったってわけ。
 美味しゅうございました。
 おせちも従魔たちに好評で、綺麗さっぱりなくなってしまった。三が日の意味とは……。
 まあ、それはともかく。
 雪が降っているというのに、従魔たちだけじゃなくてヤミンとヤナまで外に出て、一緒になって転げまわってるのが凄い。さすがに私はそんなテンションではなく、お昼用に白味噌のお雑煮を作っておいた。
 その流れで夜はすまし。
 そんな流れで元旦を過ごし、雪の中ヤミンとヤナは帰っていった。ずっと楽しそうにしていたから、それはそれでよかったよ。
 二日目も雪が降る中従魔たちは外に出て雪まみれになり、それを見ながらきりたんぽ鍋の用意。ご飯を炊いて、串用にとっておいた木を使って棒にし、ご飯を適度に潰してから棒に巻き付け、囲炉裏でじっくりと焼く。
 これが正しい作り方かどうかは知らないけれど、テレビで見たものをそのまま真似てみた。思っていた以上にうまくできたからよしとしよう。
 昼は磯辺を食べて、夜は野菜たっぶりで焼いた餅が入ったきりたんぽ鍋。
 三日目は、昼はカレーで夜は野菜と海鮮たっぷりな寄せ鍋にしてと、なんだかんだと食べてばかりいた三が日であった。
 そうなると、従魔たちと違って動かなかった私は、若干体が重いなあ……と思うわけで。

「白菜の様子を見てみようかな。ついでに氷豆腐も作ってみるか」

 雪に埋もれた白菜は甘いと聞いたことがあるので、一部の冬野菜はそのままにしてある。ただ、さすがに二メートル近くも積もるとなると、雪の重さで野菜が潰れてしまう可能性があるので、様子を見ながら雪かきをしないとなあ。
 いざとなったら従魔たちの誰かに魔法を使って除去してもらおう。
 こういう時、自分が魔法を使えないと不便だなあと感じるが、魔法の才能はないとリュミエールにきっぱりと告げられているので、仕方ない。とりあえず、今あるのだけでも雪かきをしてしまおう。
 そう思って作業を始めたらジルとノンが寄ってきた。何をしているのか聞かれたので野菜のことと雪かきの説明をすると、二匹は喜々として魔法を使い、雪を溶かしたり庭の隅に積み上げたりしてくれた。
 …………せっかくの労働が………。

「まあいっか! ジル、ノン。手伝ってくれてありがとう」
<<うん!>>
「ついでにこのあたりの雪もあそこに積み上げて、雪を固めてくれる?」
<いいけど、何をするのー?>
<我も気になる>
「ふふふ……できてからのお楽しみ!」

 不思議そうな顔をして首を傾げる二匹に、にっこりと笑って何をするのか教えない。といっても、かまくらを作るだけなんだよね。
 固めるのは魔法でやってもらい、中をくり抜くのは自分の労働で。普通にやっていたら固くて掘るのは大変だっただろうけど、そこはスキルを使って普通に掘ったとも。
 広さはヤミンとヤナが来た時のことも考えて三人プラス、ノン以外は小さくなってもらうことにして。どのみち、雪の塊自体もそれくらいの広さしか掘れなかったともいう。
 中を掘り終わったら一旦家の中へ入り、火鉢に囲炉裏の炭を入れる。その中に小さくした薪を入れて、一回火を熾しておく。
 鉄のインゴットを出して金網を作り、かまくらの中でも寒くないよう皮のシートや毛皮を用意していると、従魔たちと一緒にヤミンとヤナ、ヘラルドとレベッカが来た。

「「あけましておめでとうございます」」
「あけましておめでとうございます。どうしたの?」
「新年の挨拶ですよ。確か、ではそう言うんでしたよね」
「そうね。やっぱり王様が?」
「ええ」

 じいさん、やっぱりやりやがったな!
 そんな口汚い言葉を呑み込み、家の中へと入ってもらう。緑茶とみかんを出すと、ヤミンとヤナが喜んだ。

「アリサ、外にあったのは何かしら」
「かまくらという、雪で作ったものね。雪を固めてから中を掘って、その中で過ごすの」
「まあ! 面白そう!」
「ボクも中に入ってみたい!」
「俺も!」

 おおう……まさかの中に入ってみたい宣言が来た!

「さすがに従魔たちとこの人数だと全部は入りきらないから、ズルをして空間拡張してくるから待ってて。食べたいものがあるなら用意するから、戻ってくるまでに考えておいてね」

 そう告げてかまくらのところへと行き、中を拡張する。自分の家でやりたいのであれば、あとで作り方を教えればいいしね。
 今はそれほどの雪があるわけじゃないけれど、いずれは簡単に作れる量の雪が降るんだから、最初は子どもたちと大人二人くらいで楽しめるような大きさのものを作り、大人はあとで作ればいいだろう。
 家に戻ると、まずは敷物を中へと広げる。ついでにクッションも用意してみた。それから火鉢の数をふたつにし、もうひとつも準備したらかまくらの中へと入れておく。

「何を食べるか決まった?」
「「肉!」」
「野菜がいいわ」
「餅が食べたいですね」
「はいよー」

 少年二人は肉と来たよ。串焼きでいいかと旅をしていた時に作ったものがあったのでそれを出し、野菜もいろいろ串に刺す。餅は角餅にして、砂糖醤油とチーズ、海苔でいいか。
 飲み物は緑茶でいいやと小さめのやかんにお湯を入れ、金網の上に載せられるようにした。もちろん、重量軽減付きだ。
 皿や湯飲みなど諸々のものが準備できたら、全員で食材やらを持ってかまくらの中へ。毛皮は処理する前のものなので、土足でOK。
 火鉢の上にやかんを載せ、それぞれが食べたいものを金網に載せてもらう。焼きながら話をしていると、やっぱりヘラルドとレベッカが作り方を聞いてきたので教え、さっき考えた通り、子どもたち優先にしてもらった。
 新たに作るまでは、子どもたちが使い終わったら大人が使えばいいしね。もしくは順番や日にちを決めて使うとか。
 雪が大量になるまではそれで凌げばいいと話すと、ヘラルドとレベッカは頷いた。

「いいわね、これ。室内ではないから少し寒いけれど、これはこれで楽しいわ」
「たまにはいいですよね。ボクがいた国では滅多に雪が降らなかったから、嬉しいです」
「俺も! こうやって焼きあがるのを待つのも楽しい!」
「ふふ、そうね。楽しいわね」

 少年とレベッカが串を引っくり返しながら、楽しそうに話をしている。ヘラルドは緑茶が気に入ったようで、同じく餅を引っくり返しながらも湯飲みを手放さない。
 従魔たちはといえば、それぞれが座っている間に一匹ずつ座り、私だけではなく他の人たちが寒くないよう、ぴったりとくっついていた。
 ああ~! いやつじゃー! いい子やー!
 そうこうするうちに焼けて来て、食べながらまた次のものを焼き始める。

 ちらちらと舞う雪を見ながら、空が暗くなってくるまで、のんびりとかまくらの中で過ごしたのは言うまでもない。

 その後、何故かドルト村でかまくらブームが起き、一家にひとつは家の外にあるという現象が起きて乾いた笑いしか出なかった。

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