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ドルト村の春編

第172話 公爵夫妻の事情

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 彼らの話はまだまだ続く。

「だから土壌改革に成功したんだ……」
「ああ。年中同じ場所で野菜を作っていたからな」
「連作障害も起きてたでしょ」
「よく知っているな」
「帝国に来る前にいくつか別の国を通ってきたけど、知り合った獣人たちの村で同じことしてきたしね」
「なるほどね」
「アリサはどうしてこの世界に来たの?」

 連作障害は気づくよねー。そこでロジーネが私に質問してくる。
 やっぱ気になるか。
 主神であるリュミエールの部下の天使に間違って殺されたこと、そのお詫びとしてあれこれ魔法やスキルをもらい、体も若くしてくれたことを話す。ここまで来た経緯とかはまた後日ということで、話さなかった。
 そしてどうして私よりもあとに亡くなったであろう彼らが、この世界に転生しているのか聞いたところ、二人そろって青筋を立てた。二人とも美形なだけに、おっかねえ!

「アリサが亡くなったと弟さんから連絡をもらって、しばらく茫然としたわ。そのあと、お通夜と告別式にも参加して、弟さんを含めた他の兄姉を慰めて」
「彼らもしばらく茫然としていた。それでも、弟さんは仲間と一緒に農業をしていたからか、仲間に慰められつつ畑の世話をして、その関係で知り合った奥さんと一緒に立ち直っていた」
「そう……。結婚して幸せになっていたならよかった」

 弟のその後の話も聞けてよかった。

「てことは、ルードルフたちは天寿を全うしたってこと?」
「ええ。わたくしは九十まで、ルードルフはわたくしが亡くなる一年前に亡くなったの」
「それでも九十は超えたんだね。だけど、どうして私よりも先に転生してるの? おかしくね?」
「それは、リュミエール様の部下の天使がやらかしてな」
「ええ、ええ! そのまますぐに転生するはずが、過去に飛ばしましたの!」
「おおう……」

 老衰で亡くなったのはいいが……また天使にやらかされたのかよ! リュミエールってば苦労してんなあ。部下に恵まれてないじゃん!
 他にもいるんだろうけれど、あの天使がダメダメすぎるんだろう。
 しかも過去に飛ばしたって、何やってんだよ、バカ天使! これはあとで二人を連れて、リュミエールのところに行かねばならぬ案件だな、おい。
 で、話を戻すと。その天使は赤子の天使だったらしく、転生する直前に若い男性の声で「お前はまたやったのか!」って声が聞こえたそうだ。
 ……めっちゃ身に覚えがあるんだが! 絶対にあの天使だろ! やっぱ教会に行くべきだろ、これ!
 そして二人が転生したあと、半年は憶えていなかったという。
 そんな中、教会に行く機会に恵まれた。貴族は教会というか神殿で神官による祝福を受ける習慣がある。
 両親に連れられて神殿に行ったところ、リュミエールに話しかけられたそうだ。ルードルフとロジーネは生まれた日にちが同じだったらしく、時間は違うものの、同じ日に祝福を受けたという。
 その段階で二人は転生した記憶が蘇り、怒りをぶつける前にリュミエールに謝罪されたそうだ。まあ、そうなるよね。

「あ~、その天使だけど。たぶん、間違って私を殺した天使だと思う」
「「え」」
「私の時はまだ少年だったけど、罰として赤子の姿からやり直せってリュミエールに言われてたしね。たぶん間違ってないんじゃないかな」
「おやおや」
「あらまあ……」

 他にもやらかしてると教えると、見事に目が座り、背後におどろおどろしいモノが噴き出す幻覚を見た。こ、こえぇぇ!

「そのうち、教会に行きましょう、ルー」
「そうだな、ロジー」

 しっかりと天使を殴ってやる! という言葉は聞かなかったことにした。……二人がリュミエールに会うことができるのであれば、私が連れていく必要もなさそうだ。

「それにしても……。またアリサに会えてよかったわ」
「そう?」
「ええ。楽しいもの」
「人間嫌いのアリサをなつかせるのも大変だったしな」
「わたしゃ野良猫か!」
「似たようなものじゃない」

 さ、さすが元社長夫妻。その気質ならば、王族や貴族に馴染んでいるのも納得だ。

「先に言っておくけど、二人の部下にはならないからね? 私は冒険者をやってるのが楽しいし」
「それは残念だ。だが、たまには遊びに来てくれ」
「もちろん。まだ帝国も全部回ってないからね。旅をしつつ、遊びに行くわ」
「できれば、砂糖の精製を始める時は手伝ってほしいんだがね」
「ギルドを通して依頼して。それならば大丈夫だと思うわよ?」
「そうね。さすがにタダ働きをさせるつもりはないもの」

 事業として起こす以上、どうしても初期投資は必要だ。そこらへんのノウハウは私よりも知り尽くしているだろうから、あえて何も言わなかった。
 その後、卵の請求と、明日帝都内か牧場に寄り道したいと伝えると、二人とも了承してくれた。ついでにカモミールティーとジャスミンティーの茶葉、緑茶の茶葉を二人に進呈すると、喜んでくれる。
 特に緑茶はずっと飲みたかったそうで、ロジーネが殊の外喜んだのは言うまでもない。

「アリサ、和菓子のようなものを作れるかしら」
「作れるわ。村に着いてからでいいかしら。さすがに手元に材料がないから」
「いいわ。ああ……楽しみね、ルー!」
「そうだな。こちらのリクエストも聞いてほしいくらいだよ」
「全部の材料を見つけたわけじゃないから作れないものもあるだろうけど、そこは勘弁してね」
「もちろん」

 そんな約束をしたあと、二人は進呈された茶葉の缶を持って部屋に戻った。
 あー、疲れた!
 ヘラルドにも卵を買って帰りたいと伝えると、牧場で買い物して行こうという話になる。ヘラルドたちもチーズやミルクが欲しいんだって。
 それなら帝都で買い物するよりも、牧場で買ったほうが安いしね。
 そんな話をしたあと、何かあった時の対処などを話し合い、眠りについた。

 そして翌日。

「イデア、いい子にしてた?」
<してた! 世話してくれた人もいい人だったよ!>
「それはよかった!」

 ちょっとだけ寂しかったと言ったイデアの鼻づらと首筋を撫で、馬車に繋いでいく。今回は私たちが乗る馬車と、公爵夫妻が乗ってきた馬車の二台で村へ行くことになる。
 もちろん、先に牧場に寄ると話してあるので大丈夫だろう。
 公爵夫妻のほうは、側近の一人が馬車の中、一人が御者、一人が護衛の騎士と一緒に騎乗している。護衛は側近を含めて五人。
 少ないほうではあるが、恐らく精鋭なのだろう。帝都に来る時に野盗に出会ったけれど、問題なく対処したらしいしね。
 てなわけで出発!
 先に牧場に行って、卵とミルク、チーズを買う。もちろん、卵は公爵夫妻がお金を出した。
 ヘラルドたちも欲しいものと村人への土産なのか、お菓子を買っていた。それを見て、私もヤミンとヤナ、従魔たち用にコッコの肉と卵を購入。
 それらをすませたら牧場をあとにする。そこからしばらく村への道を走っている時だった。騎乗した側近が近づいてくる。

「アリサ殿、我らのあとをつけてくる馬車がおります」
「ふうん……? 村へ来たいのかしら」
「恐らくは。馬車の紋章を見るに、悪い噂しか聞かない家のものです」
「あらまあ。ヘラルドたちを見て、よからぬことを考えたんでしょうね」
「そうでしょうな。魔族は高く売れると言われておりますから」

 おいおい、人身売買かよ。しかも、黒い噂を聞くと、帝国で禁止している奴隷を扱っているらしい。
 バカじゃね? 皇帝と宰相の友人だぞ? そんな人を捕まえて売ったと知られたら、首チョンパになるんじゃないの?
 そんなことをオブラートに包んで側近に告げたら、苦笑しながらも「そうなるでしょう」と言われた。

「どのみちヘラルドに認められていないと、あとをつけて来たとしても村に辿り着けないないのよね」
「そうなのですか?」
「ええ。ただ、ずっとこのままってのも鬱陶しいし」
「どうなさるおつもりでしょう」
「それは秘密。この先に曲道があるの。とりあえず、そこまで行こう」

 曲道の先に、二手に分かれる道がある。しかもY字路のようになっているうえに、ヤギの角のようにぐるっとカーブしているのだ。追跡して来ている馬車はかなり離れているというし、どっちに行ったかわからないと思う。
 まあ、そんなことしなくても、まけるんだけどね。
 曲道の場所にさしかかり、全員が曲がる。その段階で範囲指定をして、村に至る直前の休憩所に転移。

「はい、奴らをまけたよ」
「…………え? は? ええっ⁉」
「村まであとちょいだし、具合が悪い人や馬がいると困るから、休憩しようか」
「「「「「えええええーーー⁉」」」」」
「喧しい! 叫ぶんじゃない! 魔物が寄ってくるでしょうが!」

 その言葉に、叫び声がピタリと止む。休憩所に入っているから魔物に襲われることはないが、声で魔物が寄ってくることがあるからね。
 特にこの周辺はAランクやらSランクの魔物が跋扈しているところなんだから、もっと静かにしてくれ。
 そんなことを言ったら、騎士たちの顔色が青くなったのだった。

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