自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ファウルハーバー領編

第198話 お説教

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 翌朝。夜明けとともにいつもの漁港へと行き、大量に旬の魚介類を仕入れたあと、ご飯を食べ終わった段階でルードルフたちが迎えに来たので、畑に向かう。今回はルードルフが依頼した数ができているかの確認と、スライムを使った肥料の確認をするんだと。
 まあ、一番土地の栄養が不足していた西の寒村にて結果が出ているから、それなりに栄養がある土だとどうなるかを確認するためでもあるのだ。
 もちろん、ルードルフから手紙をもらったロジーネが先行してスライムゼリーを混ぜ込んだ肥料の作成をしていて、その実験でもあるらしい。実験が成功したら量産に入り、領地全体に配る算段だそうだ。
 まずは実験場でもある甜菜とビーツを作っている畑で試したあと、北の寒村を始めとした、比較的作物が育ちにくい場所へ先に肥料を配布。それで成果が出るようであれば、次回からは有料になる。
 とはいえ、肥料作成は業者委託をして製造してはいるが、元は領地主体だった。もしスライムゼリーを混ぜ込んだ肥料が領地内全体で成果を挙げれば、他領や他国への出荷も見込める可能性が出てくる。
 そこを見越してるんだろうなあ。あるいは、逆に秘匿するか。
 どっちの方向に舵を切るか知らんが、私たちには関係ない話なので、横に置いておく。そんなことを考えているうちに畑に着いた。

「ルードルフ様! おかえりなさいませ」
「ただいま。首尾はどうですか?」
「大丈夫です。予定よりも多く作ることができました」
「それは重畳ちょうじょうですね」

 満足気に頷くルードルフたち公爵一行に、責任者であるエルフもホッとしたように顔を綻ばせる。そのあとで麻袋に入れられている甜菜とビーツの出来を確かめたルードルフは、さっそくスライムゼリーを使った肥料について、説明を始めた。
 のはいいんだが。

 つーかさ……私たち、必要?
 畑に関してはいらなくね?
 そろそろ村に帰っていいかな?

 そんなことを考えながら、離れた場所でこそこそとヤミンとヤナ、従魔たちと、依頼が終わったあとの話をする。

「やっぱ、レベル上げは必要だよね」
「俺もそう思う」
「なら、帝都の食材ダンジョンか、バンデルにでも行く?」
「バンデルなら、迷宮都市がいい!」
「あそこなら従魔のレベル上げ専用のダンジョンがあるし!」
「へえ、そんなのがあるんだ。なら、そこに行こうか」
「「やった!」」

 ここしばらく、碌に戦闘してないものね。村の魔物に関しては村人たちを中心になんとかなっているだろうけれど、畑との両立が難しくなってるんじゃなかろうか。
 それに、そろそろギルマス二人とヘラルドがキレそうな予感がするんだよねぇ。なので、できるだけ早く村に帰りたいのだ。
 あと残っているのは、大きな鍋での試運転くらいだと思うんだけれど、鍋とコンロはどうなっているんだろう。畑の件が終わったら、もう一度依頼に関して話し合わないと。

 それにさ、いい加減巻き込まれるのも面倒なわけで。
 しかも、最初に交わした依頼とは違う仕事もさせられているわけで。

 初期の依頼に上乗せするとルードルフは約束してくれてはいるが、本来は契約違反だ。もしギルド側にバレたりすると、違約金が発生してしまう。
 払うのはルードルフとはいえ、Aランク一人とBランク二人分の違約金だ。かなりの金額になるんじゃなかろうか。
 そんなことを考えたり、ダンジョンではどこまでヤミンとヤナの従魔たちのレベル上げをしたいのか話していたが、結局放置されたままお昼になってしまった。白熱というか熱心というか……それはルードルフの領地のことだからいいけれど、関係ない私たちも一緒なのはおかしいんでないかい?
 てなわけで、ちょっと高めなレストランの個室でお昼ご飯を食べながら、三人で話していた内容をルードルフと一緒にいた側近たちに告げたわけだが。

「…………」
「なに、その沈黙。なんも考えてなかったとか、言わないわよね」
「え、そ、それは」
「お貴族様だもの、しっかりと先を見据えた行動と計画を立ててくれてるのよね?」
「ボクたちも暇じゃないしね」
「そろそろ村にいるギルマスと、ヘラルドさんが怒りそうだもんな」
「「だよねー」」

 三人揃って煽ってみた。
 いや、だってさ、私たちは依頼を請ける側なわけですよ。しかも、無茶を言い出したのはルードルフなわけですよ。
 相手は公爵? 知らんがな。いくら前世で世話になったとしても、それ以上の働きはしてるはずだけど?
 しかもヤミンもヤナも、文句も言わず、依頼外のことをやってくれていたんだよ。特にヤミンは植物の種の提供や品種改良までしてるからね。
 それはヤミンの厚意からであって、ルードルフのためでも、領地の住民への施しでもない。
 てなことを、遠回しだったり直接だったりと、ネチネチと嫌味を交えて話した結果。

「すまない、調子に乗った。懐かしくて、つい、な」

 ルードルフの申し訳なさそうな声と表情に、溜息をつく。

「……気持ちはわかるけど、依頼は立派な仕事。勝手に増やされたらどうなるかなんて、どこでも同じでしょうに」
「そう、だな」
「前とは違うって、自覚してほしいわ。私はもう、ルードルフの部下じゃないんだから」

 事実を告げたら、ルードルフは溜息をつき、目を瞑る。
 側近だけあり、彼らはルードルフのことを知っているらしい。恐らくだが、ルードルフから私のことも聞いているんだろう。
 公爵と平民ではあまりにも立場と身分差がありすぎるし、その割には気安い関係と物言いだから。だからこそ、私が〝ルードルフの部下じゃない〟と告げた時、側近たちは痛ましそうな顔をしてルードルフを見ていたのだから。
 やらないと言ってるわけじゃない。親しき仲にも礼儀ありだと言ってるだけで、依頼として指名している以上、それ以外のことは範疇外ってことだし、やってほしければ依頼として出さないとダメだということを、こんこんと説明する。
 それは私だけではなく、ルードルフの周囲にも言えることだ。いくら知り合いだからといって、依頼されていないことをやれと言われても困る。
 それを自分に置き換えれば、如何に理不尽というか傲慢というか、勝手なことを言っているとわかるだろう。そこに思い至ったのか、あるいは想像できたのか、ルードルフも側近たちもすんごい嫌な顔をして黙った。
 ですよねー!

「とりあえず最終確認なんだけど、鍋とコンロの搬入はいつ?」
「コンロは予定数ができているが、鍋はまだ五つしかできていないと連絡がきている。練習と実験をするには、充分な数だと思うが……どうだろう」
「大丈夫だと思うわ。それなら、先に二セットずつ搬入してもらって、流れ作業の確認と砂糖作りをしてみたら?」
「そうしよう。人を雇うにはまだ早いし、まずは指導する立場の僕たちがきちんと把握しておかないといけないからな」

 気持ちを切り替えたのか、ルードルフも側近たちも、決意を新たに頷いている。こういうところは元王子らしくないといってしまえばそれまでだけれど、誰かに任せたりせず、きちんと確認をするのはいいことだと思う。
 きっと、こういう部分が領民たちや側近たち、使用人たちに慕われている理由なんだろう。普通なら、トップダウンで命令すればいいだけだもの。
 トップがしっかりと業務内容を把握していれば、問題が起きた時に素早く対処できる。国家事業でもあるんだから、当然といえば当然か。
 残りの時間を使って必要なものを搬入したり、鍋とコンロを取りに行く人間を決め、一旦別れる。私とヤミンとヤナはルードルフと一緒に工場へ、他は与えられた仕事をするべくあちこち奔走する。
 昼食から一時間後、工場内に必要なものが揃う。まだまだ実験段階だから数は少ないけれど、それでも砂糖の原料となる甜菜とビーツはあるのだ。
 本格的な稼働は早くて数ヶ月、遅くとも半年先になるだろうとルードルフが言っていたので、それに向かってまずは作業工程の確認を始めるのだった。

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