自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮

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ファウルハーバー領編

第199話 砂糖作り

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 気持ちを切り替え、砂糖作りの練習を開始する。
 まずは側近たちが集めてきたコンロと鍋を設置したあと、作業部屋へ。一番最初は芋を洗って籠に入れるところからだ。

「これは……。温かい季節ならいいですが、冬場は手が冷たいし、荒れますね」
「そうだね。皮の手袋を用意したほうがいいかも」
「あとは、薬師が作る手荒れ用の薬も必要ですね」
「奥様が使っていらっしゃる、ハンドクリームでしたか。あれがいいかもしれません」
「そうだな。ロジーネに確認してみよう」

 イケメン揃いな高位貴族の子息たちが、芋洗いを体験。間近で見ると、すんごいシュールな絵面なんだが。
 内心では大草原不可避な状態ではあるが、まあ、そこはいい。
 体験することで、どうなるかがわかるのはいいことだ。ただ、ここは魔法がある世界なんだが……使わないんだろうか。
 とはいえ、生活魔法で洗うのも限度がある。そこはルードルフがのちのち考えるんだろう。
 甜菜とビーツを一袋ずつ洗い終えたあと、底に穴が開いた木箱に入れ、皮を剥く部屋へと移動。本来は洗う段階で甜菜とビーツを分けて作業することになっているけれど、今回は稼働実験と試作なので、同じ部屋で皮むきだ。
 ただし、機材は同じ素材を使ったほうが好ましいので、試作をする時は部屋を分けることになっている。
 皮むきはナイフを使ってする。丁寧に剥いて木箱に入れ、別の人が小さく刻んでゆく。刻んだものは布の袋に入れ、鍋がある部屋へと運ぶ。

「んー……、この段階で鍋に入れてしまいたいな」
「それですと、あの大きさの鍋では持ち運びが大変なのでは」
「確かに。一応重量軽減をかけてはいるが、二人がかりで運ぶのもね」
「冒険者や商人が使っているような、手押し車はダメでしょうかね」
「あれをもっとこう、低くすればいいのでは」
「採用。形については、あとで煮詰めよう」

 ルードルフを筆頭に、彼の側近たちが作業をしながらあれこれと話をしている。台車があることを言わず、側近たちに意見を出させるルードルフも凄いというか呆れるというか。
 まあ、ルードルフがあれこれ言うのは簡単だが、視察や帝都に行っている間に何かあった場合、対処するのはロジーネか側近たちだもんね。そこをしっかりと教育しているんだろう。
 だったら最初から私たちに迷惑かけんなと言いたい。
 布に入れたものを鍋が置いてある場所へ持って行き、その中に入れる。水と切った芋の分量は伝えてあるから、鍋の大きさに見合った量の芋が入った袋を入れたあと、水を張る。
 水に関しては誰でも使える生活魔法を使って入れる。ただ、人によって魔力量が違うから、設置している水を生み出す魔道具と併用して使うことにすると、ルードルフが話している。
 側近たちもメモを取りつつ、作業をしている。今やっているのは、最初から煮だす方法と、通常通り一時間ほど水に漬けてからやる方法だ。
 ルードルフとしては、いろいろと実験してみたいんだろう。そうじゃないと量産なんて難しいだろうし。
 今やっているのは甜菜だ。ビーツもあとでやるようだが、先に一時間漬けるものを鍋に入れ、漬け込んでいる。
 そして袋を入れたまま最初から煮ているものだが、煮詰めていくうちにそれなりにいいものになってきている。ただ、袋に入れているからあくまでもそれなりで、確実に砂糖になるとは限らない。
 ルードルフも側近たちもそう考えたのか、途中で袋から出して中身を鍋の中にぶちまけていた。おいおい、大胆だな。煮詰めたあとはどうするんだろう?
 そんなことを思いつつ見ていたら、三十分ほど煮たところで一旦火を止め、布を使って漉し始めた。素手だと熱いのはわかっているので、手袋を使用して鍋を持っているし、漉し終わった布も最後の一滴までとばかりに、思いっきり絞っている。
 漉し終わった液体はまた火にかけられ、煮詰めていく。

「ルードルフ、こっちがそろそろ一時間たつよ」
「ああ、ありがとう。では、そっちも火を入れてみようか」
「はい!」

 ルードルフの合図で側近たちが二手に別れ、火をかけていく。コンロは二台しかないというのに、大きいせいで周囲の温度が上がり、火の傍にいる人たちが汗をかき始める。
 タオルで汗をぬぐいながら水分を摂る、ルードルフと側近たち。もちろん私たちも手伝っている。
 水分はなんちゃってスポドリ。つまり、お手製の経口補水液だ。
 砂糖の代わりにはちみつを使ってはいるけれど、それ以外は塩と水だけなので、材料は日本にいた時とほぼ同じ。どうやらロジーネが作り方を知っていたらしく、料理人に指示して作らせたものらしい。
 さすがは年の功ってか?
 味はまあ、まんまお手製の経口補水液と同じだった。不味くはないが美味しいわけでもない。そこは前世と変わらなかった。
 それをチビチビと飲みつつしっかり煮詰めること数時間。

「よし、これくらいでいいだろう。あとは天日干しにしてみよう」
「はい。ここでも手押し車が必要ですね」
「そうですね。ひとつの鍋にひとつ、もしくはふたつでひとつですかね」
「そうだな。当面の間はふたつで一台にしてみよう。それで支障が出るようであれば、増やせばいい」
「そうですね」

 火を消し、ホッと一息ついたルードルフたちは、水分を摂りながらも効率よく作業するにはどうするかを話し合っている。考えるのは作業をする彼らの仕事なので、私とヤミンとヤナは黙々と作業したとも。
 下手に口を出して巻き込まれるのも面倒だし。聞かれたら答えるけれど、聞かれない以上口を噤んでいる。
 鍋ごと乾燥させる部屋に移動し、台の上に煮詰めたものを広げる。できるだけ重ならないように広げるのがコツだ。
 風通しと日当たりがよく、雨が降っても作業できるようになっているこの部屋は、天井の一部がガラス張りになっている、サンルームのような作りだ。なので、夏は暑いと思われる。
 とはいえ、風通しがいいのでそこまで室内の温度が上がるでもないし、ずっとここに居座るわけでもないという。もちろん監視や確認のための人員は必要だが、扇風機なり団扇なり用意すると聞いている。
 問題は、やはりコンロが置いてある部屋だ。二台だけでもかなり熱かったんだから、予定数量が入ったうえで夏ともなると相当熱く、そして暑くなるんじゃなかろうか。
 それらのことについても言及されているから、そのうち対策するだろう。

 そこまでやって甜菜は終わり。ビーツのほうも同時進行していたので、そっちについても側近たちがルードルフに報告している。そこまでやって日が暮れてしまったので、今日の作業は終わりとなった。
 煮詰める作業については特に問題はなかったので、あとは作業をした彼らが安全対策と作業効率をどうするか、決めればいい。作業以外のことは依頼外なので、聞かれるまでだんまりを決め込む。
 まあ、聞かれたところで、そういった工場勤務をしたことはないから、素人でも思いつくようなことしか言えないが。
 片付けと戸締りをしっかりとやり、忘れ物がないか確認したあと、出入口の鍵をかけるルードルフ。屋敷に戻ったあとは反省会を兼ねた会議を開くんだそうだ。
 明確に誘われたわけではないので、私たちは知らん顔だ。
 屋敷に着いたのでそこでルードルフたちと別れる。

「「「疲れた……」」」

 離れに辿り着いたところで、三人同時に溜息混じりの愚痴をはく。マジで疲れた!
 各自の部屋に戻って汗を流したあと、ご飯の準備。きっちり作るのが面倒だねという話になり、コッコの親子丼で済ませた。

 さて、一応依頼された内容は全て終わったけれど……ルードルフはどう出るかな?
 明日の内容次第で、いつ出発するか話し合おうとヤミンとヤナと話すと、部屋に戻って眠った。

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