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現代篇
廻って紡ぐは紅き糸 4
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ご飯を食べながら、私を抜きにした教師を含めた全員でご飯や掃除、買出しの当番表をどうするか話し合いをしていた。食材の買出しも自分たちでやらなければいけないんだけど、猛先輩と透子先輩が頑なに私をそこに引き入れようとして、とうとう教師と中村先輩や藤堂先輩に怒鳴られた。
「お前たち、いい加減にしないか! 南海も猛も何年この合宿に参加してるんだ? 後輩に手本を見せてこそOBであり先輩だろうが! そんなに自分が楽したいなら……部外者であり道場の貸主である粟国に手伝わせたいっていうなら今すぐ帰れ! 大会メンバーからも外す! しかもこっちは申し込みを忘れてたのをゴリ押しして日程を入れてもらった立場だってわかってるのか!」
「「……っ」」
「食料もそうだよ? 僕たちの時も差し入れはしてくれたけど、それは最初の二日間だけで、残りは自分たちで献立を決めて買出しに行くんだよ? 何のために合宿をする度に高い部費を集めてると思ってるのかな? そういったものを含めてるからだって、二、三年は知ってるでしょ?」
「それを人任せ? 何のために台所に冷蔵庫があると思ってんだ? 俺たちがしっかり管理できるようにっていう師範の優しさだろう?」
「藤堂と中村の言う通りだ。本来、道場だって借りるにはお金がかかる。だが、それだって粟国師範の計らいで無料にしてもらってるんだぞ? 遊びに来てるんじゃない、練習に来てるんだ、それを忘れるんじゃない!」
そこまで言われて、全員項垂れている。毎年そうなんだけど、親の目がないから、羽目を外したい気持ちはわからなくもない。
けど、大会のために合宿してるんだから、そっちが優先になるのは当たり前だし、料理だって自分たちのチームワークを作るためにやるんだから、人に頼るのはおかしいし、教師や先輩たちが怒るのは当たり前だ。
その一喝があって、当番をやっと決めた。まあ、明日から別の合宿が入っているし私が関われるのは今日までなので、どのみち手伝うことはしないけどね。
「ごちそうさまでした!」
ご飯も食べ終わり、手を合わせるとそれぞれの食器は自分たちで台所へと運ぶ。
「あ、食器はそのままおいといて? 今日は私がやるから」
「え? ほーちゃん、いいの?」
「今日だけだよ。あとはやんないし」
「え?」
「部員じゃないんだから当然じゃないですか。謂わば私は道場貸してる大家だし」
「え~~~?!」
「南海! まだわかんないようだな……? お前の手伝いはいらんから、帰っていいぞ。学校にも二度と来るな!」
私たちの話が聞こえていたらしい教師から怒号が飛ぶ。そこまで言われて項垂れる透子先輩に、周囲も呆れている。
「誰か慰めてよ!」なんて叫んでいたけど、みんなシカトしていて余計に項垂れていた。
給湯器からお湯を出し、お茶碗を先に漬けておく。それをしている間にふきんを絞りに来た人に場所を開ける。
お茶碗を漬けている間にスポンジに洗剤をつけ、お皿やお椀を洗っていると腕捲りをした中村先輩が来た。
「一人じゃ大変だろ? 今日は俺も手伝うよ」
「あ、ありがとうございます、中村先輩」
そんな声が聞こえたのか、ぎゃいぎゃい騒いでいた透子先輩の声がピタリと止む。
笑顔でお礼を言っただけなのに、私たちを尻目に道場の隅で藤堂先輩、透子先輩、猛先輩がコソコソと話している声がする。
「……何かいい雰囲気だよね、あの二人」
「でしょ?! それは私も思った!」
「……俺も狙ってたのに……」
「猛は昔っから歯牙にもかけられていないじゃない。しかもほーちゃんの嫌がることばっかやってたでしょうが」
「うー……」
藤堂先輩と透子先輩に突っ込まれ、猛先輩は目を泳がせている。
ほんとそうなんだよ。私の嫌がることしかしてなかったのに、狙ってたもなにもない。
「……お前ら、聞こえてるぞ!」
「そんなに帰りたいか? ん? なんなら今すぐ荷物を持って来てやろうか? つうか手伝う気がないなら帰れ!」
洗い物をやめて怒鳴った中村先輩と、三人に怒り心頭な教師にも怒鳴られてゴン、ゴン、ゴン、と頭を軽く小突かれている。懲りないよね、透子先輩も猛先輩も。
ぶっちゃけた話、だからこそどっちも好きではないのだ、私は。
「三百年、想い続けたからな。今更誰にも渡さんよ」
「……は? 三百年??」
意味不明な中村先輩の呟きに対し、猛先輩が突っ込みを入れていた。けど、中村先輩は目を細め、ニコニコ笑っているだけだった。
***
「重ちゃんから好き好きオーラが出てる……」
銀髪の子――この道場の師範代だという彼女の手伝いをしながら、優しげな目を向けて彼女に話しかけたり一緒に笑ったりしている幼馴染であり親友でもある宗重を見て、ポカーンとしながら透子が呟く。
「ほーちゃんと重ちゃんのあんな顔、初めてみた……」
「俺も、初めて見た。普段はクールそうな中村先輩もあんな顔できるんだな……」
透子と後輩の呟きを聞いて、何だかホッとしたというか安心したというか、そんな感情が心の奥底から涌きあがってくる。
(探してた人を、やっと見つけたんだな……)
そう思ったら、なんだか納得した。どんなに綺麗でも、どんなに可愛い女性に告白されても、眉一つ動かすことはなく、淡々と断っていた宗重。
いつも誰かを探している素振りをし、時折遠くを見つめては、切な気な目をして溜息をついていたのは知っていた。
同年の幼馴染が目に見えて変わったのは、明らかに彼女を見てからだ。
(今度こそ幸せになれるといいな……)
宗重の心からの笑顔を見て、僕はなぜか二人の幸せを心から祈った。
「お前たち、いい加減にしないか! 南海も猛も何年この合宿に参加してるんだ? 後輩に手本を見せてこそOBであり先輩だろうが! そんなに自分が楽したいなら……部外者であり道場の貸主である粟国に手伝わせたいっていうなら今すぐ帰れ! 大会メンバーからも外す! しかもこっちは申し込みを忘れてたのをゴリ押しして日程を入れてもらった立場だってわかってるのか!」
「「……っ」」
「食料もそうだよ? 僕たちの時も差し入れはしてくれたけど、それは最初の二日間だけで、残りは自分たちで献立を決めて買出しに行くんだよ? 何のために合宿をする度に高い部費を集めてると思ってるのかな? そういったものを含めてるからだって、二、三年は知ってるでしょ?」
「それを人任せ? 何のために台所に冷蔵庫があると思ってんだ? 俺たちがしっかり管理できるようにっていう師範の優しさだろう?」
「藤堂と中村の言う通りだ。本来、道場だって借りるにはお金がかかる。だが、それだって粟国師範の計らいで無料にしてもらってるんだぞ? 遊びに来てるんじゃない、練習に来てるんだ、それを忘れるんじゃない!」
そこまで言われて、全員項垂れている。毎年そうなんだけど、親の目がないから、羽目を外したい気持ちはわからなくもない。
けど、大会のために合宿してるんだから、そっちが優先になるのは当たり前だし、料理だって自分たちのチームワークを作るためにやるんだから、人に頼るのはおかしいし、教師や先輩たちが怒るのは当たり前だ。
その一喝があって、当番をやっと決めた。まあ、明日から別の合宿が入っているし私が関われるのは今日までなので、どのみち手伝うことはしないけどね。
「ごちそうさまでした!」
ご飯も食べ終わり、手を合わせるとそれぞれの食器は自分たちで台所へと運ぶ。
「あ、食器はそのままおいといて? 今日は私がやるから」
「え? ほーちゃん、いいの?」
「今日だけだよ。あとはやんないし」
「え?」
「部員じゃないんだから当然じゃないですか。謂わば私は道場貸してる大家だし」
「え~~~?!」
「南海! まだわかんないようだな……? お前の手伝いはいらんから、帰っていいぞ。学校にも二度と来るな!」
私たちの話が聞こえていたらしい教師から怒号が飛ぶ。そこまで言われて項垂れる透子先輩に、周囲も呆れている。
「誰か慰めてよ!」なんて叫んでいたけど、みんなシカトしていて余計に項垂れていた。
給湯器からお湯を出し、お茶碗を先に漬けておく。それをしている間にふきんを絞りに来た人に場所を開ける。
お茶碗を漬けている間にスポンジに洗剤をつけ、お皿やお椀を洗っていると腕捲りをした中村先輩が来た。
「一人じゃ大変だろ? 今日は俺も手伝うよ」
「あ、ありがとうございます、中村先輩」
そんな声が聞こえたのか、ぎゃいぎゃい騒いでいた透子先輩の声がピタリと止む。
笑顔でお礼を言っただけなのに、私たちを尻目に道場の隅で藤堂先輩、透子先輩、猛先輩がコソコソと話している声がする。
「……何かいい雰囲気だよね、あの二人」
「でしょ?! それは私も思った!」
「……俺も狙ってたのに……」
「猛は昔っから歯牙にもかけられていないじゃない。しかもほーちゃんの嫌がることばっかやってたでしょうが」
「うー……」
藤堂先輩と透子先輩に突っ込まれ、猛先輩は目を泳がせている。
ほんとそうなんだよ。私の嫌がることしかしてなかったのに、狙ってたもなにもない。
「……お前ら、聞こえてるぞ!」
「そんなに帰りたいか? ん? なんなら今すぐ荷物を持って来てやろうか? つうか手伝う気がないなら帰れ!」
洗い物をやめて怒鳴った中村先輩と、三人に怒り心頭な教師にも怒鳴られてゴン、ゴン、ゴン、と頭を軽く小突かれている。懲りないよね、透子先輩も猛先輩も。
ぶっちゃけた話、だからこそどっちも好きではないのだ、私は。
「三百年、想い続けたからな。今更誰にも渡さんよ」
「……は? 三百年??」
意味不明な中村先輩の呟きに対し、猛先輩が突っ込みを入れていた。けど、中村先輩は目を細め、ニコニコ笑っているだけだった。
***
「重ちゃんから好き好きオーラが出てる……」
銀髪の子――この道場の師範代だという彼女の手伝いをしながら、優しげな目を向けて彼女に話しかけたり一緒に笑ったりしている幼馴染であり親友でもある宗重を見て、ポカーンとしながら透子が呟く。
「ほーちゃんと重ちゃんのあんな顔、初めてみた……」
「俺も、初めて見た。普段はクールそうな中村先輩もあんな顔できるんだな……」
透子と後輩の呟きを聞いて、何だかホッとしたというか安心したというか、そんな感情が心の奥底から涌きあがってくる。
(探してた人を、やっと見つけたんだな……)
そう思ったら、なんだか納得した。どんなに綺麗でも、どんなに可愛い女性に告白されても、眉一つ動かすことはなく、淡々と断っていた宗重。
いつも誰かを探している素振りをし、時折遠くを見つめては、切な気な目をして溜息をついていたのは知っていた。
同年の幼馴染が目に見えて変わったのは、明らかに彼女を見てからだ。
(今度こそ幸せになれるといいな……)
宗重の心からの笑顔を見て、僕はなぜか二人の幸せを心から祈った。
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