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現代篇
フォーチュンリング 2
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火乃香に案内され、母屋の縁側でコーヒーを飲みながらくつろいでいる。
「コーヒーはちょっとした自慢なんですよ?」
そういって渡されたコーヒーは、本当にちょっとした喫茶店のよりも格段に美味しかった。料理も手際がよかったし、ますます惚れてしまう。
だが、今はそんなことを言っている場合ではないので、話の続きをすることにする。
「どこから話せばいいのか……かなり長くなるがかまわないか?」
「是非とも手短にお願いします」
あの時とは逆の立場で、お互い逆のセリフを言ってちょっとにらみ合い……プッ、とどちらからともなく笑った。
「じゃあ、手短に話す。まぁ、簡単に言えば、奈都姫の嫉妬と陰謀だな」
「は?」
意味がわかりません! と言いつつもポカーンと火乃香は口を開ける。確かにそんな簡潔に言われたら、俺でもわからないと言うだろう。
「拙者……俺は謂わば奈都姫の家庭教師でさ。姫が小さい頃からずっと振り回されて来たんだ」
嫌そうに眉を顰めると、火乃香が心配そうに俺を見ているのが視界の隅に見えた。
「任命したのは殿と明石殿だが、仕えている以上、姫は主だ。だけど主としては最悪だったから、俺は姫に恋愛対象として見たことは一度もなかった。良くて、せいぜい妹がいいとこだったよ」
静かな縁側と庭に、コーヒーをすする音がする。
「だが姫は小さい頃から俺が好きだったらしくてさ。それを突っ撥ねたら」
庭を見ながら話していたのをくるりと向きを変え、火乃香を見る。彼女は不思議そうに首を傾げていて、そんな仕草も可愛いと思える。
ほんと、どっかのじゃじゃ馬姫とは大違いだ。
「『拙者の姫を返せ』と言ったら俺を諦めるから。そう言ったんだよ、あの性悪姫は」
そう言った時、火乃香の顔が苦し気に歪んだ。あの時のことを思い出しているんだろうと思うと、俺も胸が痛い。
罠にはめられたとは言え、言葉にしたのは俺自身だ。
だからこそ、後悔しない日はなかった。
「火乃香が帰ってしまったあと、俺は後悔したよ。まぁ、そのあとイヤイヤ隣国に嫁がされてたから、自業自得と言えなくもないが」
「あ……、お殿様が言ってた縁談ですね」
「ん?」
そう言った火乃香に聞き返すと、彼女は苦笑しながらも当時の様子を教えてくれた。
「帰る前日に、『半月後、隣国の嫡子のところに輿入れが決まったから』、と言われてたんです」
「え?!」
「あの時はかなり浮かれていたから、あまり深く考えてなかったんですけど……。それに奈都姫さんに伝えたかったんだけど、そんな暇がないくらい一方的に話をされちゃったから……。まあ、騙された、助けられたのに謝罪もしない人なんだとわかった時点で、話すのを止めたというのもありますけどね。結局嫁いだんですね」
「は、ははは……。まあな。政略結婚だから仕方がない。今の時代みたいに恋愛結婚がなかったわけじゃないけど、そういうのは庶民がほとんどで、姫となるとそうはいかなかった時代なんだ」
「そうなんですか……。まるで、小説の中にあるファンタジーの話みたい」
そんな感想を漏らす火乃香に、そうだなと返す。
(奈都姫様のままだったとしても……どのみち、あの時結ばれぬ運命だったということだな)
内心乾いた声で笑いながら、俺はひとりごちたのだった。
――そしてこれを機に、合宿が終わるまで毎日夜の九時過ぎになると火乃香と話すようになる。すぐにでも抱きたい欲望はあるが、俺たち二人はともかく、周囲は知り合ったばかりだと思っている。
まあ、出会ったその日にヤる男も少なからずいるが、俺はできるだけそんなことはしたくなかったし、もっと話をしたいと思ったのだ。
まあ、結局合宿が終わる頃までしかもたなかったのだから、ある意味情けないんだろう。……三百年探したんだから、いいよな?
なんて、火乃香に心に中で言い訳をしたのだった。
「コーヒーはちょっとした自慢なんですよ?」
そういって渡されたコーヒーは、本当にちょっとした喫茶店のよりも格段に美味しかった。料理も手際がよかったし、ますます惚れてしまう。
だが、今はそんなことを言っている場合ではないので、話の続きをすることにする。
「どこから話せばいいのか……かなり長くなるがかまわないか?」
「是非とも手短にお願いします」
あの時とは逆の立場で、お互い逆のセリフを言ってちょっとにらみ合い……プッ、とどちらからともなく笑った。
「じゃあ、手短に話す。まぁ、簡単に言えば、奈都姫の嫉妬と陰謀だな」
「は?」
意味がわかりません! と言いつつもポカーンと火乃香は口を開ける。確かにそんな簡潔に言われたら、俺でもわからないと言うだろう。
「拙者……俺は謂わば奈都姫の家庭教師でさ。姫が小さい頃からずっと振り回されて来たんだ」
嫌そうに眉を顰めると、火乃香が心配そうに俺を見ているのが視界の隅に見えた。
「任命したのは殿と明石殿だが、仕えている以上、姫は主だ。だけど主としては最悪だったから、俺は姫に恋愛対象として見たことは一度もなかった。良くて、せいぜい妹がいいとこだったよ」
静かな縁側と庭に、コーヒーをすする音がする。
「だが姫は小さい頃から俺が好きだったらしくてさ。それを突っ撥ねたら」
庭を見ながら話していたのをくるりと向きを変え、火乃香を見る。彼女は不思議そうに首を傾げていて、そんな仕草も可愛いと思える。
ほんと、どっかのじゃじゃ馬姫とは大違いだ。
「『拙者の姫を返せ』と言ったら俺を諦めるから。そう言ったんだよ、あの性悪姫は」
そう言った時、火乃香の顔が苦し気に歪んだ。あの時のことを思い出しているんだろうと思うと、俺も胸が痛い。
罠にはめられたとは言え、言葉にしたのは俺自身だ。
だからこそ、後悔しない日はなかった。
「火乃香が帰ってしまったあと、俺は後悔したよ。まぁ、そのあとイヤイヤ隣国に嫁がされてたから、自業自得と言えなくもないが」
「あ……、お殿様が言ってた縁談ですね」
「ん?」
そう言った火乃香に聞き返すと、彼女は苦笑しながらも当時の様子を教えてくれた。
「帰る前日に、『半月後、隣国の嫡子のところに輿入れが決まったから』、と言われてたんです」
「え?!」
「あの時はかなり浮かれていたから、あまり深く考えてなかったんですけど……。それに奈都姫さんに伝えたかったんだけど、そんな暇がないくらい一方的に話をされちゃったから……。まあ、騙された、助けられたのに謝罪もしない人なんだとわかった時点で、話すのを止めたというのもありますけどね。結局嫁いだんですね」
「は、ははは……。まあな。政略結婚だから仕方がない。今の時代みたいに恋愛結婚がなかったわけじゃないけど、そういうのは庶民がほとんどで、姫となるとそうはいかなかった時代なんだ」
「そうなんですか……。まるで、小説の中にあるファンタジーの話みたい」
そんな感想を漏らす火乃香に、そうだなと返す。
(奈都姫様のままだったとしても……どのみち、あの時結ばれぬ運命だったということだな)
内心乾いた声で笑いながら、俺はひとりごちたのだった。
――そしてこれを機に、合宿が終わるまで毎日夜の九時過ぎになると火乃香と話すようになる。すぐにでも抱きたい欲望はあるが、俺たち二人はともかく、周囲は知り合ったばかりだと思っている。
まあ、出会ったその日にヤる男も少なからずいるが、俺はできるだけそんなことはしたくなかったし、もっと話をしたいと思ったのだ。
まあ、結局合宿が終わる頃までしかもたなかったのだから、ある意味情けないんだろう。……三百年探したんだから、いいよな?
なんて、火乃香に心に中で言い訳をしたのだった。
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