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第一章
Case 9.実質クローズド・サークルじゃん
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私達は、屋敷のエントランスまで戻り、話し合うことにした。そうはいいつつも、地面を断裂させ、盛り上げる──その強大な魔法は、世間に名を馳せる参加者にとっても異次元なようで……。ジョーカーの恐ろしさに、一様に体を震わせ、口数は少なかった。
「……裏口とかないの?」
そんな中、マキナさんが問いかける。そういえば、彼女は外に飛び出してこなかったな。あれだけの地響きを感じて、中に留まる選択をするだろうか。
「えぇないざばす。完全に、閉じ込められたざばす。そして、屋敷はこうして森の奥にあるざばすから、誰にも気づかれないかもしれないざばす……!」
激しく歯ぎしりをしながら返す、ブリリアント婦人。予告状で明確にターゲットであると名指しされ、焦燥が顔に現れている。
「というか、どうしてこれだけしか集まってないざばす!」
それは、パーティの参加者のことだろうか。確かにさっきよりも増えていない。尋ねてみようとした中、エリザベスさんが口を開く。
「まあ、ジョーカーはそれだけ世間をにぎわしてるからねー……。ここだけの話、ロゼッタとか怖いからぶっちするって言ってたし……」
「うきぃいいぃい! 尻尾巻いて逃げるなんて、とんだ腰抜けざばす! もう二度と招待してやらないざばす!」
ブリリアント婦人は、地面を踏み鳴らしながら叫ぶ。
なるほど。ジョーカーの脅威を恐れ、参加しなかった者もいるのか。確かに、昨日カナタ・ステーションで聞いた予告状では、参加者を殺す──とターゲットが明記されていなかったから、無理もないか。
「……心中察するが、今、他の参加者に怒りをぶつけても仕方ないだろう」
「……っ、そう、ざばすね」
私の言葉で、なんとか落ち着きを取り戻した婦人。ふっと深呼吸する。
「婦人は、心から信頼できる人と一緒に居るべきだろう。もっとも、万全を期して私らがすぐに駆け寄れるところに居てほしいが」
レオンさんから、依頼主も殺されるという話を聞いている。それすなわち、依頼主=ジョーカーではないと言っていい。
そして依頼主こそ、近しい人間の可能性が十二分に高いのだから、それが最善だろう。
「それができたらいいざばすけど……」
しかし、婦人の顔が陰る。ごくりと息を飲んで、大量の汗を垂らしながら、言葉を続ける。
「今……この屋敷の人間は、私とメイドしか居ないざばす。もうずっと、主人と折り合いが悪くて……そんなとき、予告状が届いて……今日の朝、屋敷の人間を連れて出て行ったざばす。私を捨てたざばす! っっ、私の周りには、クズしかいないざばす! 全員、エメラルドに潰されて死んでしまえばいいざばす!」
その言葉には、怒りが全面に充満していた。先のメイドへの言動からして、婦人に原因がある気がしてしまうが……それとこれとは話は別だ。人の命を奪っていい理由など存在してはいけないのだから。
「……そうなると、3人──いや、最低4人で行動してもらいたい」
「え……どうしてざばす?」
「3人の場合、ジョーカーと依頼主に挟まれる可能性もあるからな」
「……!! くっ……そうざばす! 誰が依頼したざばすか! あんたたちざばすか!?」
怒りをこれ以上ないくらい滲ませながら、婦人は周囲を見回す。
「落ち着いてくれブリリアント婦人。念頭に置かなければならないのは、依頼者じゃなくてジョーカーだ」
参加者、メイドを次々と責め立てる婦人を窘める。すると怒りは収まらないながらも、納得はしてくれたようだった。
「……とにかく、こうなった以上、パーティは中止。なんとしても婦人の身の安全を──」
しかし、私の発言に婦人は横槍を入れて……。
「パーティは予定通り行うざばす! ジョーカーとかいう胡散臭い殺人鬼なんかに、私が屈するなんてあり得ないざばす!」
「おい! 物語を展開するようなセリフを吐くな!」
「それは冗談じゃないデース! ミーは殺人鬼かもしれない人と一緒にパーティなんかできないデース! 一人で部屋に引き籠りマース!」
「クリスさんもそんな型にはまったこと言うな!」
「私はターゲットじゃないから、絶対大丈夫。だからなんでもいい」
「マキナちゃんも香ばしいこと言うな!」
「アタシ馬鹿だから、よく分かんないけどさ……とにかく外に出る方法模索した方がいいんじゃない? こんな状況文明じゃん、実質」
「倒置法……」
と、各々の思惑が異なっていて。混沌としてしまう。
「せめて聖麗会に連絡が取れれば……リーゼロッテ、伝書バードはまだ反抗期ざばす?」
「先程見にいったとき、反抗期からイヤイヤ期になってしまっていて、まだ……」
「きいぃいいぃい! リーゼロッテに似たざばすかね!」
「普通逆じゃないか、反抗期とイヤイヤ期」
私はそう言いながら、考える。
外界と連絡を取る方法は、見事に絶たれてしまっている。ミステリー小説でとても見たときある事態だ。
ならばジョーカーを特定するしかないのだが……現状、推理の材料が少なすぎる。なにせ、手がかりとは、被害者が出て生じるものだから。
しかし──。
私はアンジェラ婦人と誓った。もう、ベル書店の事件のような悲劇を生まないと。
「ブリリアント婦人、本当にパーティを中止にするつもりはないのだな?」
「当然ざばす。ジョーカーなどに怯えているようじゃ、高貴なローランド家形無しざばす」
胸を張って、婦人は言う。表情はもはや、恐怖が怒りに完全に成り代わっており、梃子でも動かぬプライドが押し出されている。
「……なら、ジョーカーのことは私に一任させてくれないか。パーティまでにジョーカーを必ずや特定してみせる」
「でも、今手がかりは予告状一枚しかなーいデースよ?」
眉根を寄せて、首を傾げるクリスさん。実際、難航を極めそうではあるが……。
「一応、手がかりがない訳ではない」
予告状のあの言葉に──心当たりはある。
私はブリリアント婦人の方を向いて、再度捜査の許可を得ようとする。
「……分かったざばす。聖麗会より早く事件を解決したというあなたを、信じるざばす」
逡巡の末、深く、頷く婦人。彼女目線、私がジョーカーの可能性は当然あるので、慎重になったのだろう。
そして婦人は「けれど」と続けて。
「リーゼロッテと共に行動してほしいざばす」
「……理由を訊いても?」
「このドが付く程の馬鹿で臆病者が、ジョーカーであるハズないざばすからね。もちろん、依頼者でもないざばす」
婦人の中で、確信があるようで。私目線、一様に容疑者候補ではあるのだが……彼女がそう言うなら、とりあえずは信頼していいだろう。
「承知した」
「分かりました! それでは不肖リーゼロッテ、シャーロット様の事件解決のお手伝いをいたします!」
リーゼロッテさんも、怖いくらいに、嫌な顔一つせず意を決していた。純然なやる気に満ち溢れている。
「あぁ、よろしく頼むワトソン君」
「ワトソン……? 君……?」
彼女はそう言いながら一瞬目を丸くしたが、すぐに強い光を宿した。
「頼みマースよシャーロット。このままじゃミーは怖くて漏れちゃいそうデース」
「アタシ馬鹿だからよく分かんないけどさ、シャーロットに任せるしかなさそうね」
クリスさん、エリザベスさんも頷いて、納得──というよりかは、妥協してくれた。次いで、エリオット君、マキナさんの方を見ると、二人もこくりと頷いてくれた。
「それじゃあ、僕は部屋に戻らせてもらおうかな」
「いや、待ってくれエリオット君。なるべくみんなも、単独行動は避けて欲しい」
踵を返す彼を止めて、そう言う。言葉を続けようとすると、ずっと口を閉じていたマキナさんが口を開く。
「……私達もジョーカー候補だから?」
そしてそう、核心をついてきた。一切、表情を動かさずに。
「……そういうことだな。もちろん、何かあった時に、みんなでブリリアント婦人の元へ行けるようにするためでもあるが」
気分はよく無いが、私は正直に告げる。
「……それなら心配ない。怪しい動きさせないから」
そう言いながら、彼女はポケットから光る玉を取り出した。手の平に収まるくらいで、皓々《こうこう》と白光を放っている。そしてすぐさまそれは浮かび上がった。
「……それは?」
「周囲の出来事を映像として保存してくれる、って言えばいいかな」
「なるほど。そういう魔法、か?」
「うん」
ビデオカメラのようなものか。本当に、色々な魔法があるのだな。しかし、これはかなり役に立つだろう。彼女とて容疑者であるものの、ブリリアント婦人に招待されている以上、魔法に嘘はつけないだろうし。
私はそれならと首を縦に振って、肯定の意を示す。
そして、すぐにいいことを思いついた。
「いや待て、それなら現状の映像を保存し、聖麗会まで飛ばせばいいのではないか?」
「それはできない。この玉は、私から長く距離を離せない。聖麗会まではとても無理」
「そんな都合のいい魔法はないということか」
そうして話は纏まり……みんなは蜘蛛の子を散らし、私とワトソン君は捜査に入ることになる。
私は──頭の中で、予告状のあの言葉を反芻させる。
悪魔の実──これが重要なファクターとなるだろう。
「……裏口とかないの?」
そんな中、マキナさんが問いかける。そういえば、彼女は外に飛び出してこなかったな。あれだけの地響きを感じて、中に留まる選択をするだろうか。
「えぇないざばす。完全に、閉じ込められたざばす。そして、屋敷はこうして森の奥にあるざばすから、誰にも気づかれないかもしれないざばす……!」
激しく歯ぎしりをしながら返す、ブリリアント婦人。予告状で明確にターゲットであると名指しされ、焦燥が顔に現れている。
「というか、どうしてこれだけしか集まってないざばす!」
それは、パーティの参加者のことだろうか。確かにさっきよりも増えていない。尋ねてみようとした中、エリザベスさんが口を開く。
「まあ、ジョーカーはそれだけ世間をにぎわしてるからねー……。ここだけの話、ロゼッタとか怖いからぶっちするって言ってたし……」
「うきぃいいぃい! 尻尾巻いて逃げるなんて、とんだ腰抜けざばす! もう二度と招待してやらないざばす!」
ブリリアント婦人は、地面を踏み鳴らしながら叫ぶ。
なるほど。ジョーカーの脅威を恐れ、参加しなかった者もいるのか。確かに、昨日カナタ・ステーションで聞いた予告状では、参加者を殺す──とターゲットが明記されていなかったから、無理もないか。
「……心中察するが、今、他の参加者に怒りをぶつけても仕方ないだろう」
「……っ、そう、ざばすね」
私の言葉で、なんとか落ち着きを取り戻した婦人。ふっと深呼吸する。
「婦人は、心から信頼できる人と一緒に居るべきだろう。もっとも、万全を期して私らがすぐに駆け寄れるところに居てほしいが」
レオンさんから、依頼主も殺されるという話を聞いている。それすなわち、依頼主=ジョーカーではないと言っていい。
そして依頼主こそ、近しい人間の可能性が十二分に高いのだから、それが最善だろう。
「それができたらいいざばすけど……」
しかし、婦人の顔が陰る。ごくりと息を飲んで、大量の汗を垂らしながら、言葉を続ける。
「今……この屋敷の人間は、私とメイドしか居ないざばす。もうずっと、主人と折り合いが悪くて……そんなとき、予告状が届いて……今日の朝、屋敷の人間を連れて出て行ったざばす。私を捨てたざばす! っっ、私の周りには、クズしかいないざばす! 全員、エメラルドに潰されて死んでしまえばいいざばす!」
その言葉には、怒りが全面に充満していた。先のメイドへの言動からして、婦人に原因がある気がしてしまうが……それとこれとは話は別だ。人の命を奪っていい理由など存在してはいけないのだから。
「……そうなると、3人──いや、最低4人で行動してもらいたい」
「え……どうしてざばす?」
「3人の場合、ジョーカーと依頼主に挟まれる可能性もあるからな」
「……!! くっ……そうざばす! 誰が依頼したざばすか! あんたたちざばすか!?」
怒りをこれ以上ないくらい滲ませながら、婦人は周囲を見回す。
「落ち着いてくれブリリアント婦人。念頭に置かなければならないのは、依頼者じゃなくてジョーカーだ」
参加者、メイドを次々と責め立てる婦人を窘める。すると怒りは収まらないながらも、納得はしてくれたようだった。
「……とにかく、こうなった以上、パーティは中止。なんとしても婦人の身の安全を──」
しかし、私の発言に婦人は横槍を入れて……。
「パーティは予定通り行うざばす! ジョーカーとかいう胡散臭い殺人鬼なんかに、私が屈するなんてあり得ないざばす!」
「おい! 物語を展開するようなセリフを吐くな!」
「それは冗談じゃないデース! ミーは殺人鬼かもしれない人と一緒にパーティなんかできないデース! 一人で部屋に引き籠りマース!」
「クリスさんもそんな型にはまったこと言うな!」
「私はターゲットじゃないから、絶対大丈夫。だからなんでもいい」
「マキナちゃんも香ばしいこと言うな!」
「アタシ馬鹿だから、よく分かんないけどさ……とにかく外に出る方法模索した方がいいんじゃない? こんな状況文明じゃん、実質」
「倒置法……」
と、各々の思惑が異なっていて。混沌としてしまう。
「せめて聖麗会に連絡が取れれば……リーゼロッテ、伝書バードはまだ反抗期ざばす?」
「先程見にいったとき、反抗期からイヤイヤ期になってしまっていて、まだ……」
「きいぃいいぃい! リーゼロッテに似たざばすかね!」
「普通逆じゃないか、反抗期とイヤイヤ期」
私はそう言いながら、考える。
外界と連絡を取る方法は、見事に絶たれてしまっている。ミステリー小説でとても見たときある事態だ。
ならばジョーカーを特定するしかないのだが……現状、推理の材料が少なすぎる。なにせ、手がかりとは、被害者が出て生じるものだから。
しかし──。
私はアンジェラ婦人と誓った。もう、ベル書店の事件のような悲劇を生まないと。
「ブリリアント婦人、本当にパーティを中止にするつもりはないのだな?」
「当然ざばす。ジョーカーなどに怯えているようじゃ、高貴なローランド家形無しざばす」
胸を張って、婦人は言う。表情はもはや、恐怖が怒りに完全に成り代わっており、梃子でも動かぬプライドが押し出されている。
「……なら、ジョーカーのことは私に一任させてくれないか。パーティまでにジョーカーを必ずや特定してみせる」
「でも、今手がかりは予告状一枚しかなーいデースよ?」
眉根を寄せて、首を傾げるクリスさん。実際、難航を極めそうではあるが……。
「一応、手がかりがない訳ではない」
予告状のあの言葉に──心当たりはある。
私はブリリアント婦人の方を向いて、再度捜査の許可を得ようとする。
「……分かったざばす。聖麗会より早く事件を解決したというあなたを、信じるざばす」
逡巡の末、深く、頷く婦人。彼女目線、私がジョーカーの可能性は当然あるので、慎重になったのだろう。
そして婦人は「けれど」と続けて。
「リーゼロッテと共に行動してほしいざばす」
「……理由を訊いても?」
「このドが付く程の馬鹿で臆病者が、ジョーカーであるハズないざばすからね。もちろん、依頼者でもないざばす」
婦人の中で、確信があるようで。私目線、一様に容疑者候補ではあるのだが……彼女がそう言うなら、とりあえずは信頼していいだろう。
「承知した」
「分かりました! それでは不肖リーゼロッテ、シャーロット様の事件解決のお手伝いをいたします!」
リーゼロッテさんも、怖いくらいに、嫌な顔一つせず意を決していた。純然なやる気に満ち溢れている。
「あぁ、よろしく頼むワトソン君」
「ワトソン……? 君……?」
彼女はそう言いながら一瞬目を丸くしたが、すぐに強い光を宿した。
「頼みマースよシャーロット。このままじゃミーは怖くて漏れちゃいそうデース」
「アタシ馬鹿だからよく分かんないけどさ、シャーロットに任せるしかなさそうね」
クリスさん、エリザベスさんも頷いて、納得──というよりかは、妥協してくれた。次いで、エリオット君、マキナさんの方を見ると、二人もこくりと頷いてくれた。
「それじゃあ、僕は部屋に戻らせてもらおうかな」
「いや、待ってくれエリオット君。なるべくみんなも、単独行動は避けて欲しい」
踵を返す彼を止めて、そう言う。言葉を続けようとすると、ずっと口を閉じていたマキナさんが口を開く。
「……私達もジョーカー候補だから?」
そしてそう、核心をついてきた。一切、表情を動かさずに。
「……そういうことだな。もちろん、何かあった時に、みんなでブリリアント婦人の元へ行けるようにするためでもあるが」
気分はよく無いが、私は正直に告げる。
「……それなら心配ない。怪しい動きさせないから」
そう言いながら、彼女はポケットから光る玉を取り出した。手の平に収まるくらいで、皓々《こうこう》と白光を放っている。そしてすぐさまそれは浮かび上がった。
「……それは?」
「周囲の出来事を映像として保存してくれる、って言えばいいかな」
「なるほど。そういう魔法、か?」
「うん」
ビデオカメラのようなものか。本当に、色々な魔法があるのだな。しかし、これはかなり役に立つだろう。彼女とて容疑者であるものの、ブリリアント婦人に招待されている以上、魔法に嘘はつけないだろうし。
私はそれならと首を縦に振って、肯定の意を示す。
そして、すぐにいいことを思いついた。
「いや待て、それなら現状の映像を保存し、聖麗会まで飛ばせばいいのではないか?」
「それはできない。この玉は、私から長く距離を離せない。聖麗会まではとても無理」
「そんな都合のいい魔法はないということか」
そうして話は纏まり……みんなは蜘蛛の子を散らし、私とワトソン君は捜査に入ることになる。
私は──頭の中で、予告状のあの言葉を反芻させる。
悪魔の実──これが重要なファクターとなるだろう。
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