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うたかたのラディア

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 どんなに言葉をつむぎたくても、れられないものが一つだけあった。

 ずっと休んでいた「きみ」は、「わたし」の転校の日に、ふと姿を現した。

 机にせったように、でも、寝てるんじゃなくて、ただ、うっすら目を開けて、ぼんやりと窓を見ているんだ。

 教えてよ。

「きみ」が読んでいた本のこと。

 どこかの文芸部が文化祭でつくったもの。
 黄緑色きみどりいろの印刷の、題名のないB5サイズの文集を。

 あの文集の、本当のタイトルを。

 今では「きみ」以外に読む人のいない、わずがたりのこと達を。
  

 聞かせてよ。

 くるきの夏のうた、うたかたのラディアたちの物語を。


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