憑依型2.5次元俳優のおれが、ビッチの役を降ろしたまま見知らぬイケメンと寝てしまった話

あまみや慈雨

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9.偽物だって

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「休憩行ってきます」と事務所に声をかけると、龍介は堀の橋を渡って城の敷地内に入っていった。

 なんでご飯食べるのにお城に向かうんだろう? 名物の店でもあるのかな?

 そんなことを考えながら階段を上って石垣の上に出ると、城は思ったよりこぢんまりとしていた。残っているのは天守閣だけなのだから、それも当然のことなのだが、石垣の分大きく感じていたのだと気づく。

 城の前の広場には芝生が植えられていて、市民の憩いの場になっているらしい。なにも催しがない今は人影もまばらで、出店らしきものものも見当たらない。
「こっちだ」

 龍介に誘われて広場の木立の角を曲がると、そこに突然洋館が現れた。

 なんでも、明治時代に天皇の行幸があり、それを迎えるために建てられたらしい。今はそれを利用したカフェが営業している旨の看板が出ていた。

 なにこれ、めっちゃいい……!

 幼い頃から母の趣味でアンティークの家具や食器に囲まれて育った百樹は、自然とそういうものを好むようになった。
 昨日まで憑依していたチャラ男とは正反対で、美しいもの、可愛いものが好きな性分だ。
 そして古い建物も好きである。

 正確には洋館じゃなくて「擬洋風建築」っていうんだよね、こういうの。

 擬洋風建築とは、その名の通り、明治維新のあと、日本が必死で欧米に並ぶ近代国家を目指していた頃の建築様式だ。まだ日本人で「西洋建築」を正確に学んだ建築家などいない時代、日本の棟梁たちが見よう見まねで「それっぽい」建物を作っちゃいました、という代物だ。

 今目の前にあるこの建物も、せり出した車寄せの柱の装飾などはいかにも洋館のたたずまいだが、その上に乗る屋根の作りは寺院風、二階のバルコニーの下には扁額と、よく見ると和洋折衷の作りだ。それがちぐはぐな印象ではなく、味わいとなっているのが擬洋風建築のいいところ。

 様式こそ見よう見まねなものの、大工の棟梁たちの確かな技術とチャレンジ精神が生み出した建物にはマニアも多い。

 ――そう。真似だって、価値があるんだよ。

 今朝読んだブログの文言に、当てつけるようにそう思う。

 柱は白、壁はペールグリーンという外装も可愛らしい。中に入ると、赤い絨毯の廊下の先にカフェがあり、龍介はそこへ入っていくと一番奥の席に座った。
 彼の背後の窓から見える景色が角度によって歪んで見えることに百樹は気がついて、密かな興奮を覚える。

 ――当時の硝子が残ってるんだ。

 まだ加工技術が未発達だった頃の硝子は、均質でない。だから角度によって外の景色がぼんやりと歪んで見える。そこがなんともいえない風情を生んで、いい。

 あー、古い建物最高。それを利用したカフェなんて最の高。

 階段を上りながら感じていたのは、後悔だった。なんで行きずりの相手にのこのこくっついて来ちゃったんだろ、と。
 でも今は龍介に感謝だ。
 城の敷地のさらに奥にあるから、事前知識のない自分一人では絶対にたどり着けなかっただろう。

「ここなら職場の知り合いが来ないからいいかと思ったんだが、ちょっと場違いだったな」
  龍介の苦笑含みの言葉で、現実に引き戻された。

 たしかに。龍介は作務衣。自分は革ジャンに謎のグラフィティが描かれたTシャツにブラックジーンズといういでたちだ。
 普段はこの建物の外装のような爽やかな色を好む百樹だが、昨日の今日で〈まだ役が降りたままセレクト〉しか手元になかった。

 いい隠れ家カフェ知ってるな、と思ってたけど、本当に隠れたかったってわけ。

 そりゃそうか。

 一夜の気の迷いで男を抱いてしまったなんて、職場の人間に知られたいノンケがいるわけない。

 でも、じゃあ、なんでわざわざ引き留めたりしたんだろう?

 掴まれた腕を熱く感じたのは、おれの気のせいだったのかーー
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