12 / 23
砂糖祭り(1)
しおりを挟む
そうこうしているうちに、砂糖祭りが近づいてきた。当然おれも、なにか出品してみろと命じられている。
おれは興奮していた。
砂糖祭りでこの国の豊かさを他国に見せつけるのがどれだけ大事かってことを理解したからってのもあるけど、現代日本にいたときにも、コンテストなんて参加させてもらったことはないから。公の場で、思う存分腕を振えるチャンスだ。
通りを練り歩くんだから、目立たないとだめだよな。ってことは、立体的ななにか……
細工しやすさで考えたらチョコレートなんだけど、イルディズにはまだない(おれが作って大儲けする予定)。
今あるものだけで、砂糖をふんだんに使って、他の奴に作れないもの――シュガークラフトか。
シュガークラフトっていうのは、主に粉砂糖をメインに使って立体物を作ることだ。花とか、動物とか、建物とか。
おれは日本で見た数々のシュガークラフトを思い出していた。
こっちの世界の菓子は、まずくはない。まずくはないけど、なんていうか、日本人的には繊細さが足りない。細工も同様だ。とにかく甘いということが一番重要で、造りは ちょっと大雑把。
日本のセンスで細工を作ったら、ほとんどの相手を圧倒できるんじゃないか?
「よーし!」
早速取りかかろうと厨房を見渡して、おれはとても重大なことに気がついた。
なにしろ王様の厨房だから、砂糖は、ふんだんにある。
だけど、こっちの技術だと、それはただ精製された荒い砂糖だ。
シュガークラフトに使うのはさらさらとした、粒子の細かい粉砂糖。だからこそ細かい細工が可能になるわけで。
粉砂糖自体の作り方は簡単だ。文字通り、普通の砂糖をミキサーなんかで粉に……
「ミキサー……」
自分で口にして、絶望する。そんなものはここにはない。ミキサーなしで砂糖を粉にするには――
「すり鉢で……?」
練習用も含めたら、いったい何キロ必要なんだ。
途方にくれて呟いたとき、厨房の入り口に影が差した。
アスランだ。
「ウミト、なにをしている。なぜすぐ来ない」
公務のときに着るカフタンを脱いで、薄手のラフな長着姿だ。柔らかく薄い生地の胸元は開いていて、相変わらず、男のおれでもちょっと変な気分になる色気が、だだ漏れていた。
そういえば、今日も呼ばれていたっけ。
「ああ、砂糖祭りの案考えてたら、つい遅くなって」
砂糖祭りの準備だって、半分はこいつのためみたいなもんだ。そんなに不機嫌にならなくても。
「――そうか。なら、いい」
そんな気持ちが通じたのか、アスランはちょっと申し訳なさそうに頷く。わかればいいんだよ。
アスランが気まずげに長い髪をかきあげる。
めくれた袖からのぞく腕には、はっきりと筋肉の線が見て取れた。たくましくて男らしいその体。
――たくましい?
おれは立ち上がり、スルタンをじっと見つめたままつかつかと歩み寄った。褐色の凜々しい腕を両手で握る。
「どうした。今日はずいぶんと積極的だな?」
色気たっぷりに訊ねてくるアスランの顔を、おれはにっこりと笑顔で見上げた。
おれは興奮していた。
砂糖祭りでこの国の豊かさを他国に見せつけるのがどれだけ大事かってことを理解したからってのもあるけど、現代日本にいたときにも、コンテストなんて参加させてもらったことはないから。公の場で、思う存分腕を振えるチャンスだ。
通りを練り歩くんだから、目立たないとだめだよな。ってことは、立体的ななにか……
細工しやすさで考えたらチョコレートなんだけど、イルディズにはまだない(おれが作って大儲けする予定)。
今あるものだけで、砂糖をふんだんに使って、他の奴に作れないもの――シュガークラフトか。
シュガークラフトっていうのは、主に粉砂糖をメインに使って立体物を作ることだ。花とか、動物とか、建物とか。
おれは日本で見た数々のシュガークラフトを思い出していた。
こっちの世界の菓子は、まずくはない。まずくはないけど、なんていうか、日本人的には繊細さが足りない。細工も同様だ。とにかく甘いということが一番重要で、造りは ちょっと大雑把。
日本のセンスで細工を作ったら、ほとんどの相手を圧倒できるんじゃないか?
「よーし!」
早速取りかかろうと厨房を見渡して、おれはとても重大なことに気がついた。
なにしろ王様の厨房だから、砂糖は、ふんだんにある。
だけど、こっちの技術だと、それはただ精製された荒い砂糖だ。
シュガークラフトに使うのはさらさらとした、粒子の細かい粉砂糖。だからこそ細かい細工が可能になるわけで。
粉砂糖自体の作り方は簡単だ。文字通り、普通の砂糖をミキサーなんかで粉に……
「ミキサー……」
自分で口にして、絶望する。そんなものはここにはない。ミキサーなしで砂糖を粉にするには――
「すり鉢で……?」
練習用も含めたら、いったい何キロ必要なんだ。
途方にくれて呟いたとき、厨房の入り口に影が差した。
アスランだ。
「ウミト、なにをしている。なぜすぐ来ない」
公務のときに着るカフタンを脱いで、薄手のラフな長着姿だ。柔らかく薄い生地の胸元は開いていて、相変わらず、男のおれでもちょっと変な気分になる色気が、だだ漏れていた。
そういえば、今日も呼ばれていたっけ。
「ああ、砂糖祭りの案考えてたら、つい遅くなって」
砂糖祭りの準備だって、半分はこいつのためみたいなもんだ。そんなに不機嫌にならなくても。
「――そうか。なら、いい」
そんな気持ちが通じたのか、アスランはちょっと申し訳なさそうに頷く。わかればいいんだよ。
アスランが気まずげに長い髪をかきあげる。
めくれた袖からのぞく腕には、はっきりと筋肉の線が見て取れた。たくましくて男らしいその体。
――たくましい?
おれは立ち上がり、スルタンをじっと見つめたままつかつかと歩み寄った。褐色の凜々しい腕を両手で握る。
「どうした。今日はずいぶんと積極的だな?」
色気たっぷりに訊ねてくるアスランの顔を、おれはにっこりと笑顔で見上げた。
6
あなたにおすすめの小説
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる