異世界転生したけど、生きるのが無理ゲーなのでフラグ折ります。

千宮寺みるく

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天敵という名の…

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 春の昼下がり。
 窓の外では小鳥がチュンチュンと鳴き、陽光が差し込んでいる。
 だが俺は――寝台の上で、布団にくるまっていた。

「……ああ、今日も健康的に怠惰だ……」

 枕元には、読みかけの本(開きっぱなしで三週間経過)、一口かじったクッキー、そして神官からもらった回復薬(未開封)。
 視界の端で薬瓶が光っているが、俺の手は布団の外に出ることすら拒否していた。

 使用人が食事を運んできても、俺は「あとで食べる」と答え、結局冷めた頃に渋々食べる。
 そんな至福の引きこもりライフに――あの男が現れる。

「アディル様~! 今日も日光浴びましょう!」

 元気いっぱいの声とともに、カーテンが一気に開け放たれた。
 まぶしい光が雪崩れ込み、俺は悲鳴を上げる。

「目がッ! 魂が焼かれるッ!」

「魂は焼けません! むしろくすみが取れてツヤが出ますよ!」

 レフェリア大神殿の神官、ユース。
 健康体そのものの青年で、俺の引きこもり生活に不定期で乱入してくる、天敵だ。

「外は危険だ……日焼けするし、転ぶし、王子に遭遇するかもしれん……」
「じゃあ、お部屋でストレッチしましょう! まずは腕をこう――」
「ほれっ」

 俺は寝たまま、腕をバタバタと上下させてみせる。

「……それは溺れている動きですか?」
「運動だ。溺れた魂が必死にもがいているんだ」

 ユースはこめかみを押さえ、「じゃあ薬草茶を飲みましょう」と切り替えてきた。
 湯気の立つ茶を差し出してくるが、俺は鼻先をしかめる。

「苦いのは嫌だ」
「じゃあ蜂蜜を混ぜますね」
「甘すぎるのは嫌だ」
「……」

 しばしの沈黙。
 そしてユースは「蜂蜜を入れてから苦味を足します!」と謎の折衷案を提示。
 結果、甘いのか苦いのかわからない液体が完成し、俺はそれを一口飲んでベッドに沈んだ。

「……舌が混乱している」

「アディル様の健康も混乱してますよ……」

 そんな押し問答を繰り返していると、ユースがふと思い出したように言った。

「そういえば、殿下がまた様子を見に来たいと仰ってますが……」
「却下だ」
「でも“心配して”――」
「絶対別の目的だろ……俺を派閥争いの駒にするつもりだ。魂が粉になる」

 ユースは苦笑して、荷物をまとめ始めた。

「ま、殿下にも都合がありますからね。ではまた明日来ます」
「明日は休んでいいぞ?」
「嫌です。寄付金をたんまりいただいてますのでちゃんとアディル様を看護いたしますよ!」

 爽やかに言い残し、部屋を出ていくユース。
 その背中を見送りながら、俺は布団をかぶる。

「……今日もよく生き延びた」

 春の風が窓から入り込み、部屋の片隅で未開封の回復薬がきらりと光った。
 そして俺は、次の来訪までの貴重な怠惰タイムを噛みしめたのだった。
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