異世界転生したけど、生きるのが無理ゲーなのでフラグ折ります。

千宮寺みるく

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しつこいッッッ

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 翌日。
 俺は昼食後のまどろみに包まれ、布団にくるまりながら「今日は平和だな……」とご満悦だった。

 ――その瞬間、部屋の扉がノックもなく開いた。

「アディル様、王城からのお手紙です!」

 使用人が両手で抱えていたのは、やたら豪華な封筒の山。
 山……? いや、丘どころか小山レベルだ。

「……なんだ、この紙の暴力は」
「殿下から“お見舞い”のお手紙だそうで」

 俺は一通手に取って、封を切った。

 ――『君の健康を案じている。食欲はあるか? 塩焼き鳥が好きだと聞いた。今度、一緒に食べよう』

「…………」
 ぶるり、と全身が震える。

「お見舞いじゃなくて脅迫状だろこれ……!」

 次の手紙を開ける。
 ――『魂の疲弊が心配だ。私が癒やしてやろう。近いうちに迎えに行く』

「来る気満々じゃねーか!!」

 パニックの俺の横で、ユースがすっと手紙を受け取り、一通一通確認し始めた。
 表情は相変わらず爽やかだが、目だけが笑っていない。

「……アディル様、このままでは本当に殿下が迎えに来ますね」
「だからそれを防いでくれ!」
「防ぐのは簡単ですが……代わりに何か、殿下を納得させる“元気の証拠”が必要です」

 ユースの言葉に、俺は布団の中で考える。
 ――元気の証拠? ……いや、無理だろ。

「じゃあこうしよう。俺が布団から出た瞬間を絵に描いて、それを送る」
「それ、嘘の証拠ですよね」
「嘘も方便ってやつだ」
「方便で王族を騙すのは処刑ルートですよ?」

 真顔で言われ、俺は沈黙した。

 その時、ユースがふっと笑う。

「じゃあ、こうしましょう。今日だけ、窓際まで歩いて日光を浴びてください。それを私が“元気な様子”として殿下に伝えます」
「……窓際? 十歩くらいあるぞ」
「大丈夫です、私が支えますから」

 そう言って差し出されたユースの手は、思ったより温かくて、しっかりしていた。
 なんとなく、その手を取ってしまう。

「よし、一歩……二歩……あ、ちょっと眩しい」
「大丈夫ですよ。ほら、あと少し」

 窓際にたどり着いた瞬間、外から春の光と風が差し込む。
 久々に浴びる陽光に、少しだけ心が軽くなった気がした。

「……ほら、できたでしょう?」
「……まあ、悪くはないな」
「ふふ、それなら明日もやりましょう」
「いやそれはもう十分だ」

 俺がすぐ布団に戻ろうとすると、ユースは笑って肩を押さえた。

「この景色を覚えておいてください。殿下に“アディル様は元気です”と胸を張って言えますから」

 そう言うユースの顔は、いつものお節介な笑顔じゃなくて、少しだけ優しい目をしていた。
 そのせいで、俺はうっかり「……ありがとう」と口にしてしまった。

「お礼は塩焼き鳥でいいですよ」
「……お前まで俺を外に連れ出す気か」

 結局その日の夕方、殿下への返事はユースが代筆してくれた。
 ――『アディル様は順調に回復しております。陽光の下、穏やかな笑顔を見せられました』

(あー……これ絶対また来る気だな)

 俺は布団に沈みながら、次の侵略に備えて心を削るのであった。
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