本気の恋をもう一度

蜜花

文字の大きさ
4 / 18
出会編

5.自覚

しおりを挟む
「ノイエさんの方がお上手ですね……私ったら、何を教えようとしていたのかしら」

 ノイエさんの写生技術は素晴らしかった。精密に、目に映る全てを描き取っていく。嫉妬心が起きないほど、私との力量差があった。

「仕事柄、現場の絵を残す機会がある。オレの絵は写し取るだけで、リリーの絵とは違い心がない」

 優しい言葉に、胸がぽかぽかとあたたかくなる。

 あと十日足らずで帰ってしまう人だし、ペルテト様の同僚だし、考えてはいけないのに。

「どうかしたか」

 優しい表情に勘違いをしそうになる。私と同じ気持ちでいてくれているんじゃないかって。まだ出会ってから二回目なのに。

「なんでもありません、そろそろ帰りませんか。アンナおばさんがお待ちかねですよ」

 空はほんの少し黄色味を帯びてきて、長い時間が経ったのに気づいた。ご飯をたべて、絵を描いて、楽しい時間はあっという間に過ぎる。

 短い帰り道も、二人で話しながら歩いた。

「アンナ殿の食事はうまかったな。あれだけの腕なら街に店を持てるだろうに」
「あ、元は街に出店していたらしいですよ。おばさん曰く、恋に敗れて田舎に引っ越したんですって。だから私を雇う気になったそうで……あ」

 気まずい話をしてしまった。ノイエさんは苦笑いしている。

「その……聞いてもいいか」
「なんなりと」
 
 聞かれることは分かりきっているし、答えはもうあるから声を出すだけ。

「ペルテトに未練は」
「ございませんっ!」

 食い気味で答えると、ノイエさんは目を見開いてからケラケラと笑った。

「あなたは面白いなぁ、こんな女性もいるとは」

 ノイエさんの地位と美貌ならば女性なんて星の数が比喩ではないだろうに。私なんかを面白がってくれる。

「幸せな、良い思い出です。願わくば、ペルテト様もそうであってほしいですね」

 これまで何もなかったとは言わない。でももうとっくに思い出なのだ。いつかみんなわかってくれるはず。

◯⚫️◯

「おや、本当に来てくれたのかい」
「リリーからテイクアウトは特別だと聞きました。残念です、ぜひこれからもいただきたい」

 アンナおばさんはイケメンに弱い。ジャンルは問わないそうだしノイエさんもタイプなんだろうな。

「いやだぁ、あたしの料理が毎日食べたいって言うの。ごめんなさい。プロポーズには応えられませんっ」

 冗談よね。おばさんたら顔を隠して乙女な仕草をするから、私がドギマギしてしまう。ノイエさんは慣れているのか涼しい顔だ。

「こっちに来てちょうだい、あんた可愛いからいいいことしてあげる」
「あっ、アンナおばさんっ」
「ありがとうございます」

 アンナおばさんたら肉食すぎる。ノイエさんはついていったけど乗り気なの……。なんだかすごく、モヤモヤする。

○⚫️○

 しばらくして、ノイエさんが戻ってきた。
 
「ただいま」
「じゃあね。リリーまた明日!」
「また明日!」
 

 アンナおばさんは夕方でも元気だ。私も同じくらいの勢いで挨拶して店を出た。

「あの……アンナおばさんと何をしていたんですか」
「妬いてるのか」

 そう思われてま仕方ない。だってそうなのだし。
 頷くと、長い腕の中に閉じ込められた。

「あ、ノイエさんっ」
「良いことを教えてもらった」
「……それって」
「今日はデートをしたと思っている。君はどうだ」
「あ、えと」

 認めたくはないけれど……そうだと思う。
 アンナおばさんは私の気持ちに気がついているんだ。

「デートでした……」

 ふわっと、海を連想する香りが近づいた瞬間に、私の視界はノイエさんでいっぱいになった。熱い唇が心地よくて、目を閉じる。この時間が永遠に続けばいいと願った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しいあなたは竜の番

さくたろう
恋愛
 前世で無惨に処刑された記憶を持つ少女フィオナは、今世では幼い頃から番である竜族の王に保護されて塔の中で大切に育てられていた。  16歳のある日、敵国の英雄ルイが塔を襲撃しにきたが、なんとフィオナは彼に一目惚れをしてしまう。フィオナを人質にするために外へと連れ出したルイも、次第に彼女に離れがたい想いを感じ始め徐々に惹かれていく。  竜人の番として育てられた少女が、竜を憎む青年と恋に落ちる物語。 ※小説家になろう様に公開したものを一部省略して投稿する予定です。 ※全58話、一気に更新します。ご了承ください。

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...