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出会編
4.散策
しおりを挟む絵を描くのが昔から好きだった。でも、画家になる才能はないと知っていた。まれに譲って欲しいと言ってくれる人が現れるくらい。
田舎に引っ越してきてからはよく絵を描いている。なにしろ自然が豊か。季節の移り変わりで、表情がガラッと変わる。
毎日描きたいのに絵の具と紙は高価だ。だから、購入するのは月に一枚、フリーマーケットで売れたら一枚買い足すルールをつけている。
だから私の身なりはみすぼらしいかもしれない。お給料のほとんどを趣味に注ぎ込むから、前より痩せたし。
私の実家は裕福だった。両親は、騎士であるペルテト様との結婚を期待していたようだった。別れたときに縁を切られた。私は両親も失ったのだ。
わずかなお金を渡されて追い出されたし、ペルテト様からの贈り物も換金されているだろう。
○⚫️○
「私は何を着ていけばいいの……」
ノイエさんから頼まれた泉への案内を快諾したのを後悔している。
「これも、それも、繕い跡がある……」
想像以上に酷い。可愛らしいワンピースは一枚もないし、シャツやズボンは中古で購入して繕ってある。
「無事なのは制服だけじゃないの」
デートではない。それでも、若い娘としてオシャレがしたかった。素敵な男性とならばなおさら。
「諦めるしかないの」
待ち合わせ場所に食堂の制服で現れた私を、ノイエさんは笑わなかった。目を丸くしていたのはしょうがない。
穴がある服を見せるよりはずっとマシ。背中やお腹にお店の名前が書いてあるからお店の宣伝にもなる。
「気取らずに来てくれたのはありがたい」
「泉までは長い草がありますから」
ノイエさんは服装に気を使ってくれたようだ。サックスブルーのバンドカラーシャツにシワはない。靴もピカピカで楽しみにしてくれていたのかと想像してしまう。
「何持ってきたんだ?」
「せっかくですからスケッチブックを。あとはお弁当です」
バスケットを掲げて見せると、瞳がキラキラと輝いて見えた。
「君の手作りか? 」
「ご安心ください、アンナおばさんのお手製です。腕によりをかけたと言ってました。後で感想を伝えてくださいね」
遊んでもらえない子犬のようだ。幻想の耳が垂れて見える。
「君もくるんだよな? 」
「必要ならば……」
「必要だ」
アンナおばさんにからかわれるだろう。でもその想像は嫌じゃなかった。
待ち合わせた中央広場から湖は歩いて十五分かかる。空が綺麗ですねとか、ノイエさんは街に住んでるんですかとか、なんだかお見合いみたいな話をした。
書き出した情報になるとノイエさんはノイエ・ベルナルドと名乗った。貴族ではなく平民の生まれで次男。23歳だからペルテト様よりも一歳下。騎士団では階級で序列が決まり年齢は関係ないらしい。
私のことは話さなかった。聞かれなかったし。仕事にやりがいはあるのかとは聞かれたから大きく頷いたけど。
「あ、見えてきましたよ。あの大きな木の影が目的地です」
「あぁ、新鮮な水の香りがする」
「わかるのですか? 」
特異体質かとびっくりした。反応がないから見つめていると、ノイエさんがおかしそうに吹き出す。どうやら冗談だったらしい。
「まさか、そんなこと。んー、冗談がお好きなんですね」
「すまない、まさか信じるとは」
涙が滲むほど笑われて、なんだかこれをきっかけに打ち解けた気がする。
「わぁ、今日は貸切です」
「いつもは違うのか」
湖の端にシートをしき、ノイエさんと腰掛けた。
「いつもは人気スポットで家族連れや恋人たちで賑わうんですよ」
「だからか」
「といいますと? 」
「君の湖の絵には誰もいない。なのに全体から愛のメッセージを感じた」
うまく、言葉を紡げない。込めた願いを読みとってもらったのは初めてだった。心の中に、覚えがある芽が生えている。私はそれに気づかないふりをした。
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