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出会編
6.決別
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キスは深くならず、二人の顔はさっと離れた。優しい指で頬を撫でられ、むず痒い心地になる。笑い合って、また明日と約束して別れた。
部屋に帰るまでふわふわした気持ちで、うっとりして。まさかペルテト様が見ていたとは思わなかった。
「リリー」
部屋の扉を開けたのと同時だった。振り返るとペルテト様が怖い顔をして立っていて、私を部屋に力尽くで押し込み鍵をかける。
「なっ、何するんですか。騎士ともあろう方が強盗ですか」
冗談に持ち込もうとしたけど無理だった。ペルテト様の表情は変わらない。今にも掴みかかられない。慎重に、できるだけ距離をとった。
「ノイエと何をしていたの」
咎めるような物言いに、私の心がささくれ立つ。
「見た通りです」
「なんでアイツなんだっ」
恐れていた事態が起き始めている。肩を掴まれ、顔を間近に寄せてきた。
「私は気になっている男性とデートをしました。ノイエさんは、たまたまペルテト様の同僚でした。ご迷惑ならお詫びいたします」
「なぜ。なぜオレを突き放すんだ。そんな……他人のように」
「だって事実でしょう」
「リリーっ」
殴る気だと直感して、歯を食いしばり目を伏せた。なのに、いつまで経っても衝撃が来ない。そっと目を開けるとペルテト様の瞳には涙が滲んでいた。
「私がなんと言えば満足ですか」
故郷を捨てるほど好きだった人が今は霞んで見える。別れの時に、もっと足掻くべきだったかもしれない。
「田舎に越してきて一年間はペルテト様が恋しくて泣いておりました」
嬉しげにされても困る。これは過去の回想なのだから。
「あなたは私を思い出しましたか? 」
自分でも冷たい言い方だと思う。こう言わないと伝わらないと思うから。
「私からの手紙を待ちましたか?」
こんなことを言う、私が間違っている。私たちは憎み合ったわけでも、大きな力に引き裂かれたわけでもない。情熱を失って別れを決めたのだから。
「ペルテト様、ご結婚が決まったと聞いています。おめでとうございます」
「なぜそれを」
ハッとして、口を押さえている。知られていないつもりだったのだろう。
「ローズ・カイン様はお綺麗ですね。手紙に写真が同封されておりました」
私と出会ったバラ園を仲睦まじく歩く二人の写真に、心が痛まなかったといえば嘘になる。
「婚約者様からのお手紙の内容を読み聞かせましょうか」
ペルテト様に会うな、別れろ、諦めろ。美しい文字で書き連ねた便箋は憎悪に満ちていた。
婚約者から何も聞いていなかったのだろう。驚いた表情のまま固まっている。
「だからノイエなのか」
「おっしゃる意味がわかりません」
「もしも……ローズがオレとリリーを引き離すためにノイエを当てがったと言ったら?」
今更だわ。ペルテト様に言われずとも、真っ先に考えた。覚悟の上でいたのに……。
目をギュッと瞑り、渾身の力でペルテト様の肩を押した。
「どうかローズ様とお幸せに」
運命だと信じた恋は二度目の終わりを迎えた。
◯⚫️◯
私はスケッチブックに絵を描き始めた。周りの音が聞こえなくなって、気づけばペルテト様はいなかった。
「このまま時間が巻き戻っても、ペルテト様に恋をする。別れが来ようとかまわない」
部屋に、頭に、体に、虚しさが詰まっている。何か描いていないと心が死ぬ気がした。
手の動くまま任せていたら、書き上げた絵に自分で驚いてしまった。
「やだ。ペルテト様に初めて出会ったバラ園じゃない」
成り上がりとバカにされ、虐めにあった私と、見かねて助けてくださったペルテト様のワンシーン。
破り捨てられず、抱きしめていつまでも泣いた。
部屋に帰るまでふわふわした気持ちで、うっとりして。まさかペルテト様が見ていたとは思わなかった。
「リリー」
部屋の扉を開けたのと同時だった。振り返るとペルテト様が怖い顔をして立っていて、私を部屋に力尽くで押し込み鍵をかける。
「なっ、何するんですか。騎士ともあろう方が強盗ですか」
冗談に持ち込もうとしたけど無理だった。ペルテト様の表情は変わらない。今にも掴みかかられない。慎重に、できるだけ距離をとった。
「ノイエと何をしていたの」
咎めるような物言いに、私の心がささくれ立つ。
「見た通りです」
「なんでアイツなんだっ」
恐れていた事態が起き始めている。肩を掴まれ、顔を間近に寄せてきた。
「私は気になっている男性とデートをしました。ノイエさんは、たまたまペルテト様の同僚でした。ご迷惑ならお詫びいたします」
「なぜ。なぜオレを突き放すんだ。そんな……他人のように」
「だって事実でしょう」
「リリーっ」
殴る気だと直感して、歯を食いしばり目を伏せた。なのに、いつまで経っても衝撃が来ない。そっと目を開けるとペルテト様の瞳には涙が滲んでいた。
「私がなんと言えば満足ですか」
故郷を捨てるほど好きだった人が今は霞んで見える。別れの時に、もっと足掻くべきだったかもしれない。
「田舎に越してきて一年間はペルテト様が恋しくて泣いておりました」
嬉しげにされても困る。これは過去の回想なのだから。
「あなたは私を思い出しましたか? 」
自分でも冷たい言い方だと思う。こう言わないと伝わらないと思うから。
「私からの手紙を待ちましたか?」
こんなことを言う、私が間違っている。私たちは憎み合ったわけでも、大きな力に引き裂かれたわけでもない。情熱を失って別れを決めたのだから。
「ペルテト様、ご結婚が決まったと聞いています。おめでとうございます」
「なぜそれを」
ハッとして、口を押さえている。知られていないつもりだったのだろう。
「ローズ・カイン様はお綺麗ですね。手紙に写真が同封されておりました」
私と出会ったバラ園を仲睦まじく歩く二人の写真に、心が痛まなかったといえば嘘になる。
「婚約者様からのお手紙の内容を読み聞かせましょうか」
ペルテト様に会うな、別れろ、諦めろ。美しい文字で書き連ねた便箋は憎悪に満ちていた。
婚約者から何も聞いていなかったのだろう。驚いた表情のまま固まっている。
「だからノイエなのか」
「おっしゃる意味がわかりません」
「もしも……ローズがオレとリリーを引き離すためにノイエを当てがったと言ったら?」
今更だわ。ペルテト様に言われずとも、真っ先に考えた。覚悟の上でいたのに……。
目をギュッと瞑り、渾身の力でペルテト様の肩を押した。
「どうかローズ様とお幸せに」
運命だと信じた恋は二度目の終わりを迎えた。
◯⚫️◯
私はスケッチブックに絵を描き始めた。周りの音が聞こえなくなって、気づけばペルテト様はいなかった。
「このまま時間が巻き戻っても、ペルテト様に恋をする。別れが来ようとかまわない」
部屋に、頭に、体に、虚しさが詰まっている。何か描いていないと心が死ぬ気がした。
手の動くまま任せていたら、書き上げた絵に自分で驚いてしまった。
「やだ。ペルテト様に初めて出会ったバラ園じゃない」
成り上がりとバカにされ、虐めにあった私と、見かねて助けてくださったペルテト様のワンシーン。
破り捨てられず、抱きしめていつまでも泣いた。
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