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出会編
7.出勤
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「ひどい顔、看板娘が台無しじゃない」
ノイエ様は羊にたとえていた。肩下までの白っぽい髪は巻毛で、瞳が金だからよね。肌が白い方だから涙を擦った跡が真っ赤に目立つ。
「おばさんに判断してもらおうかな……」
泣いて腫れた顔で働いていいか私にはわからない。出勤の準備をして扉をあけると、コツンと音が鳴った。
ひ隙間から這い出てみると、薔薇の花束が倒れて、近くにカードが落ちていた。花束を開い、カードの名前に目をやる。
「マジェレド・ダウナー」
カードの差出人は、聞かない名前だった。裏にはメッセージが添えてあった。
「騎士団の詰所へ寄れですって?」
町に騎士団の詰め所は一箇所しかない。気のいいおじさんが多くて、前を通ると元気に挨拶をしてくれる。団長の名前は違ったはずただ。
「用がある方が出向くべき」
情緒がいそがしい。幸せから地獄の底まで落とされたし、顔が腫れて仕事に影響が出ている。
「後ろ向きで歩いていたら転ぶのよ……」
前を向きたい時に呟く、自分を元気づける言葉。
「よしっ、これはプレゼントよね」
ピンクの薔薇は部分的に紫がかっていて珍しい色合いだった。それに、芳しい香りがする。
「食堂に飾るのは難しいかしら……」
強い香りは食事の邪魔をしてしまう。これもアンナおばさんに判断してもらおうと決めて扉を閉めた。
◯⚫️◯
今日はいつも以上に忙しい。休む暇もなくお客さんは来店するし、みんなよく食べる。捌ききれない分は謝罪してお断りした。
「リリー二卓さんに運んで戻ってきて」
「はいっ」
忙しいのは好きだ。体を動かし汗をかくと心が晴れる。
「今日はどうしたんでしょうね」
「あたしの料理が美味しいのはもちろんね。ここらに開発の話が来ているらしいわよ」
開発の下見か……。珍しい動物が出るか、鉱石か。つまりこの忙しさはとうぶん続くのね。
「リリーちゃん、注文お願い」
「はーいっ」
常連のおじさんたちの注文を取っていると、カランと来客を知らせるベルがなった。
今日だけ臨時で入ってくれていたアクアちゃんが向かった。見覚えのある制服たちに、ギョッとする。気づかなかったふりをしてお客さんとのやりとりに集中したいのに耳が勝手に会話を拾ってしまう。
「リリーちゃん?」
「ごめんなさい、お魚セット二つですね」
背中への視線を無視して振り返らなかった。
◯⚫️◯
ランチタイムが終わってアクアちゃんが先に休憩へ入った時だった。最後のお客さんが帰ればディナーまで私たちは休憩に入る。
「ごちそうさま」
「ありがとうこざいました」
最後のお客様を見送るため店の外に出ると、今は会いたくない顔が二つあった。そして、見覚えのある配色の男が一人。
「先ほどは断りがあったが……今はどうだろう」
黙って掛け替えようとした札は、声の主の手の中にある。バラと同じ色の髪と目を持った男は、中のアンナおばさんに声をかけた。
「ご婦人。ぜひこちらで食事がいただきたい。対応してもらえるだろうか」
私は冷や汗をかきながら見守った。どうせ答えはわかっている。
「んまー、いい男。入って入って、大歓迎よ」
おばさんはイケメンに弱い。この男のような可愛い系に目がないらしい、前に言っていた。
「だそうだ、世話になるよ」
首を傾げるのも、笑顔も可愛らしいと思う。ただのお客様として来店すれば、アンナおばさんと盛り上がっただろう。
バラの送り主は間違いなくこの人だ。呼び出しを無視したからと店に来るとは思わなかった。
「アベル殿。君もこれから休憩だろう。一緒にいただこう」
その言葉には、結構ですと合わせない圧力があった。
仕方なくともに中へ戻ると、選ばれた席はドアから一番遠く、私は奥の席。流さないためか隣にはノイエさんが座った。
「ここは何がおすすめなの?」
「どうぞお好きなメニューを」
マジェレド・ダウナーだろう男は、部下と思われる二人には見せず、さっさとメニューを片付けた。
「君と同じ料理にするよ」
この人からは支配者然とした雰囲気を感じる。従えて当然なのだろう。貴族かもしれない。
「アンナおばさーん、今日のランチを三つおねがいします」
「あいよっ」
休憩時間を返上しているのにおばさんは楽しそうだ。私は全く違うけど。
「食事の前に少し話そうか」
はぁーっとため息をつくのを止められなかった。
「私の容疑はなんですか」
「ぶっ」
「リリー」
ノイエさんは吹き出し、ペルテト様は眉間にシワを寄せている。
「なんだと思う」
「検討もつきません」
「では、なぜそう思うの?」
「何度も経験があるからです」
どうせ調べられているのだから正直に答えた。
名乗らない男は面白そうに私を観察している。過去を思い出すと、胸の奥がチクチクする。私は引っ越してきてから誰にも家名を告げていない。バラした上に、自らは名乗らないことを怒りたい気分なのだ。
「すまないね、私はマジェレド・ダウナー」
「心が読めるのですか」
ここでは思っても、口には出していない。ノイエさんを見ると、プルプルしている。私の一挙一動がツボに入ってしまうのか。
「強いて言うなら慣れかな」
嘘はわかると言われた気がした。
「質問にはすべて答えます」
探られて痛い腹はない。一人の町娘として平凡に暮らしているだけだ。
「まずは礼を言うよ。部下たちが世話になっているようだ」
「ご丁寧にありがとうございます」
慇懃無礼に頭を下げると、少しだけ薄い紫の瞳が細まった。
「そろそろ真面目に話をしないか」
威圧されている。普通の女性なら怯えるのだろうけど、今日の私はやさぐれている。何もかもこの二人のせいで。
ノイエ様は羊にたとえていた。肩下までの白っぽい髪は巻毛で、瞳が金だからよね。肌が白い方だから涙を擦った跡が真っ赤に目立つ。
「おばさんに判断してもらおうかな……」
泣いて腫れた顔で働いていいか私にはわからない。出勤の準備をして扉をあけると、コツンと音が鳴った。
ひ隙間から這い出てみると、薔薇の花束が倒れて、近くにカードが落ちていた。花束を開い、カードの名前に目をやる。
「マジェレド・ダウナー」
カードの差出人は、聞かない名前だった。裏にはメッセージが添えてあった。
「騎士団の詰所へ寄れですって?」
町に騎士団の詰め所は一箇所しかない。気のいいおじさんが多くて、前を通ると元気に挨拶をしてくれる。団長の名前は違ったはずただ。
「用がある方が出向くべき」
情緒がいそがしい。幸せから地獄の底まで落とされたし、顔が腫れて仕事に影響が出ている。
「後ろ向きで歩いていたら転ぶのよ……」
前を向きたい時に呟く、自分を元気づける言葉。
「よしっ、これはプレゼントよね」
ピンクの薔薇は部分的に紫がかっていて珍しい色合いだった。それに、芳しい香りがする。
「食堂に飾るのは難しいかしら……」
強い香りは食事の邪魔をしてしまう。これもアンナおばさんに判断してもらおうと決めて扉を閉めた。
◯⚫️◯
今日はいつも以上に忙しい。休む暇もなくお客さんは来店するし、みんなよく食べる。捌ききれない分は謝罪してお断りした。
「リリー二卓さんに運んで戻ってきて」
「はいっ」
忙しいのは好きだ。体を動かし汗をかくと心が晴れる。
「今日はどうしたんでしょうね」
「あたしの料理が美味しいのはもちろんね。ここらに開発の話が来ているらしいわよ」
開発の下見か……。珍しい動物が出るか、鉱石か。つまりこの忙しさはとうぶん続くのね。
「リリーちゃん、注文お願い」
「はーいっ」
常連のおじさんたちの注文を取っていると、カランと来客を知らせるベルがなった。
今日だけ臨時で入ってくれていたアクアちゃんが向かった。見覚えのある制服たちに、ギョッとする。気づかなかったふりをしてお客さんとのやりとりに集中したいのに耳が勝手に会話を拾ってしまう。
「リリーちゃん?」
「ごめんなさい、お魚セット二つですね」
背中への視線を無視して振り返らなかった。
◯⚫️◯
ランチタイムが終わってアクアちゃんが先に休憩へ入った時だった。最後のお客さんが帰ればディナーまで私たちは休憩に入る。
「ごちそうさま」
「ありがとうこざいました」
最後のお客様を見送るため店の外に出ると、今は会いたくない顔が二つあった。そして、見覚えのある配色の男が一人。
「先ほどは断りがあったが……今はどうだろう」
黙って掛け替えようとした札は、声の主の手の中にある。バラと同じ色の髪と目を持った男は、中のアンナおばさんに声をかけた。
「ご婦人。ぜひこちらで食事がいただきたい。対応してもらえるだろうか」
私は冷や汗をかきながら見守った。どうせ答えはわかっている。
「んまー、いい男。入って入って、大歓迎よ」
おばさんはイケメンに弱い。この男のような可愛い系に目がないらしい、前に言っていた。
「だそうだ、世話になるよ」
首を傾げるのも、笑顔も可愛らしいと思う。ただのお客様として来店すれば、アンナおばさんと盛り上がっただろう。
バラの送り主は間違いなくこの人だ。呼び出しを無視したからと店に来るとは思わなかった。
「アベル殿。君もこれから休憩だろう。一緒にいただこう」
その言葉には、結構ですと合わせない圧力があった。
仕方なくともに中へ戻ると、選ばれた席はドアから一番遠く、私は奥の席。流さないためか隣にはノイエさんが座った。
「ここは何がおすすめなの?」
「どうぞお好きなメニューを」
マジェレド・ダウナーだろう男は、部下と思われる二人には見せず、さっさとメニューを片付けた。
「君と同じ料理にするよ」
この人からは支配者然とした雰囲気を感じる。従えて当然なのだろう。貴族かもしれない。
「アンナおばさーん、今日のランチを三つおねがいします」
「あいよっ」
休憩時間を返上しているのにおばさんは楽しそうだ。私は全く違うけど。
「食事の前に少し話そうか」
はぁーっとため息をつくのを止められなかった。
「私の容疑はなんですか」
「ぶっ」
「リリー」
ノイエさんは吹き出し、ペルテト様は眉間にシワを寄せている。
「なんだと思う」
「検討もつきません」
「では、なぜそう思うの?」
「何度も経験があるからです」
どうせ調べられているのだから正直に答えた。
名乗らない男は面白そうに私を観察している。過去を思い出すと、胸の奥がチクチクする。私は引っ越してきてから誰にも家名を告げていない。バラした上に、自らは名乗らないことを怒りたい気分なのだ。
「すまないね、私はマジェレド・ダウナー」
「心が読めるのですか」
ここでは思っても、口には出していない。ノイエさんを見ると、プルプルしている。私の一挙一動がツボに入ってしまうのか。
「強いて言うなら慣れかな」
嘘はわかると言われた気がした。
「質問にはすべて答えます」
探られて痛い腹はない。一人の町娘として平凡に暮らしているだけだ。
「まずは礼を言うよ。部下たちが世話になっているようだ」
「ご丁寧にありがとうございます」
慇懃無礼に頭を下げると、少しだけ薄い紫の瞳が細まった。
「そろそろ真面目に話をしないか」
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