16 / 18
出会編
16.帰り道
しおりを挟む
湿布はよく効いている。痛み止めが入っていたのか、違和感はかなり軽減した。
町を歩くと大きな変化を感じる。ずいぶんと賑やかになった。前はめったに人とすれ違わなかったのに。商機を感じて下見を始めたのかもしれない。
あと数日でフェニックス騎士団は帰るはずなのに。これからこそ人材が必要じゃないんだろうか。
「あっ」
気を取り直して、ウィンディ団員おすすめの店に行こうと、バッグに手を入れて気づいた……。
「鍵がない」
今朝、ノイエさんに投げつけた……どこに置いてとも話していない。今日が日勤であると祈るしかない。
「私たちは、お互いの勤務日程すらしらないんだ」
つぶやいた自分が一番驚いている。何も知らないまま、結婚の約束をしている。昔の私なら正気じゃないと感じるだろうな。
「持ち帰りに決めた」
お店には寄ろう。そして持ち帰りにして、家に帰る。もし家に入れなかったら、食事を献上して泊めてもらおう。
行き当たりばったりもいいなぁと、浮かれていた私は自分の顔の傷を忘れていた。
◯⚫️◯
ウィンディア団員がお勧めした店は肉料理がメインだった。多彩な串焼きが楽しめるお店で、常連客がいい気分で酔っている。私はとりあえずおすすめを20本包んでほしと頼み外のベンチで待っていた。
「金になると聞いてたのに話が違ぇな」
「あぁ、本当にあるのかね」
「間違いなくみたと言ったのは誰だったか……」
テラス席の客たちは、開拓の話をしているらしい。酒場で不用心と感じないのか疑問が湧く。まさか広めるのが狙いだろうか。
「お客さんお待たせー」
「ありがとうございます」
袋を受け取って、支払いを済ませた。
「はぁ。あ、すみませんっ」
「私も同業です。アンナおばさんのお料理店で働いています 」
「あー、あちらの」
客の前でしでかすより、少しは心が軽くなるかと思い簡単に自己紹介をした。
「最近は目がまわる忙しさですよね、うちもなんです」
「そうですよね、客層も悪くなってしまって。今晩も騎士団のお世話になっているんですよ」
噂をすれば、酔っ払い客を連れた騎士団員が店から出てきた。
「あっ」
私の驚いた声は聞こえなかったらしい。私の耳へと耳打ちしてくる。
「彼ったら素敵ですよね。街からいらしてるフェニックス騎士団の方なんですよ。いつも親切にしてくださいます」
ノイエさんだった。店員の声は楽しそうに弾んでいる。ほのかな憧れを感じているのだろう。
「こっちを見ましたよっ」
私と目があった。職務中の彼に親しげな振る舞いはできない。誰が見ているかわからないのだから。
「冷めないうちに持ち帰りますね」
「はいっ、ありがとうございましたー」
店員の話を切って家路を急いだ。この感情はなんだろう。私の知らない彼がいる。それを好ましく思う女性。
気持ちが辛い時は食べるのを勧めてきたのを思い出す。食べ尽くして、毛刈り前の羊に見えるよう太ってしまおうか。
「お酒飲みたい」
酔っ払って全て吐き出して、あの人たちは楽しそうだった。なんだか最近、急展開すぎて体も心も間に合わない。
こんな時はどうしていたっけ……。
「旅に出たい」
「新婚旅行の計画ではないよな」
ふわっと水を連想する香りがして、背後から抱かれ、一瞬だけ体が宙に浮いた。
「ノイエさん」
「会いたかった」
今朝別れたばかりでも、私も会いたかった。回された腕にしがみつき、熱を確かめる。
「お仕事はいいんですか」
「よくはないな……同僚を待たせている」
「じゃぁ戻らないと」
「充電させてくれ」
緩んだ腕が離れた先に、胸を合わせて抱き合った。嬉しくて、つい胸に顔を擦り寄せ痛みが走る。
「いたっ」
「平気か」
ノイエさんは顔の傷に触れないよう、近くの髪を耳にかけててくれた。
「……聞かないんですか」
「あなたが話したい時にして欲しい」
押し付けない優しさも好きだ。大切にしてくれても、籠に入れるほど甘やかさない。
「鍵を渡すから、先に帰ってくれ」
「先に……ですか? 」
ノイエさんの胸元から自宅の鍵が出てきた。
「報告が終われば帰れる」
「帰ってきてくれるんですね」
こんなに幸せな言葉だとは知らなかった。消え去りたい欲求がどんどん溶けて無くなっていく。すぐに溜まりがちな黒い感情は、ノイエさんといれば大丈夫な気がしてきた。
「待ってますから」
「やめてくれ、キスしたくなる」
ノイエさんは困り顔で笑って、頭をかいた。私は嬉しくて、意地悪を言ってしまう。
「抱きしめるのはいいんですか」
「これも秘密だ」
「では同じでしょう」
伸び上がってキスをした。誰に見られてもいい。幸せを精一杯に味わいたくて。
町を歩くと大きな変化を感じる。ずいぶんと賑やかになった。前はめったに人とすれ違わなかったのに。商機を感じて下見を始めたのかもしれない。
あと数日でフェニックス騎士団は帰るはずなのに。これからこそ人材が必要じゃないんだろうか。
「あっ」
気を取り直して、ウィンディ団員おすすめの店に行こうと、バッグに手を入れて気づいた……。
「鍵がない」
今朝、ノイエさんに投げつけた……どこに置いてとも話していない。今日が日勤であると祈るしかない。
「私たちは、お互いの勤務日程すらしらないんだ」
つぶやいた自分が一番驚いている。何も知らないまま、結婚の約束をしている。昔の私なら正気じゃないと感じるだろうな。
「持ち帰りに決めた」
お店には寄ろう。そして持ち帰りにして、家に帰る。もし家に入れなかったら、食事を献上して泊めてもらおう。
行き当たりばったりもいいなぁと、浮かれていた私は自分の顔の傷を忘れていた。
◯⚫️◯
ウィンディア団員がお勧めした店は肉料理がメインだった。多彩な串焼きが楽しめるお店で、常連客がいい気分で酔っている。私はとりあえずおすすめを20本包んでほしと頼み外のベンチで待っていた。
「金になると聞いてたのに話が違ぇな」
「あぁ、本当にあるのかね」
「間違いなくみたと言ったのは誰だったか……」
テラス席の客たちは、開拓の話をしているらしい。酒場で不用心と感じないのか疑問が湧く。まさか広めるのが狙いだろうか。
「お客さんお待たせー」
「ありがとうございます」
袋を受け取って、支払いを済ませた。
「はぁ。あ、すみませんっ」
「私も同業です。アンナおばさんのお料理店で働いています 」
「あー、あちらの」
客の前でしでかすより、少しは心が軽くなるかと思い簡単に自己紹介をした。
「最近は目がまわる忙しさですよね、うちもなんです」
「そうですよね、客層も悪くなってしまって。今晩も騎士団のお世話になっているんですよ」
噂をすれば、酔っ払い客を連れた騎士団員が店から出てきた。
「あっ」
私の驚いた声は聞こえなかったらしい。私の耳へと耳打ちしてくる。
「彼ったら素敵ですよね。街からいらしてるフェニックス騎士団の方なんですよ。いつも親切にしてくださいます」
ノイエさんだった。店員の声は楽しそうに弾んでいる。ほのかな憧れを感じているのだろう。
「こっちを見ましたよっ」
私と目があった。職務中の彼に親しげな振る舞いはできない。誰が見ているかわからないのだから。
「冷めないうちに持ち帰りますね」
「はいっ、ありがとうございましたー」
店員の話を切って家路を急いだ。この感情はなんだろう。私の知らない彼がいる。それを好ましく思う女性。
気持ちが辛い時は食べるのを勧めてきたのを思い出す。食べ尽くして、毛刈り前の羊に見えるよう太ってしまおうか。
「お酒飲みたい」
酔っ払って全て吐き出して、あの人たちは楽しそうだった。なんだか最近、急展開すぎて体も心も間に合わない。
こんな時はどうしていたっけ……。
「旅に出たい」
「新婚旅行の計画ではないよな」
ふわっと水を連想する香りがして、背後から抱かれ、一瞬だけ体が宙に浮いた。
「ノイエさん」
「会いたかった」
今朝別れたばかりでも、私も会いたかった。回された腕にしがみつき、熱を確かめる。
「お仕事はいいんですか」
「よくはないな……同僚を待たせている」
「じゃぁ戻らないと」
「充電させてくれ」
緩んだ腕が離れた先に、胸を合わせて抱き合った。嬉しくて、つい胸に顔を擦り寄せ痛みが走る。
「いたっ」
「平気か」
ノイエさんは顔の傷に触れないよう、近くの髪を耳にかけててくれた。
「……聞かないんですか」
「あなたが話したい時にして欲しい」
押し付けない優しさも好きだ。大切にしてくれても、籠に入れるほど甘やかさない。
「鍵を渡すから、先に帰ってくれ」
「先に……ですか? 」
ノイエさんの胸元から自宅の鍵が出てきた。
「報告が終われば帰れる」
「帰ってきてくれるんですね」
こんなに幸せな言葉だとは知らなかった。消え去りたい欲求がどんどん溶けて無くなっていく。すぐに溜まりがちな黒い感情は、ノイエさんといれば大丈夫な気がしてきた。
「待ってますから」
「やめてくれ、キスしたくなる」
ノイエさんは困り顔で笑って、頭をかいた。私は嬉しくて、意地悪を言ってしまう。
「抱きしめるのはいいんですか」
「これも秘密だ」
「では同じでしょう」
伸び上がってキスをした。誰に見られてもいい。幸せを精一杯に味わいたくて。
22
あなたにおすすめの小説
愛しいあなたは竜の番
さくたろう
恋愛
前世で無惨に処刑された記憶を持つ少女フィオナは、今世では幼い頃から番である竜族の王に保護されて塔の中で大切に育てられていた。
16歳のある日、敵国の英雄ルイが塔を襲撃しにきたが、なんとフィオナは彼に一目惚れをしてしまう。フィオナを人質にするために外へと連れ出したルイも、次第に彼女に離れがたい想いを感じ始め徐々に惹かれていく。
竜人の番として育てられた少女が、竜を憎む青年と恋に落ちる物語。
※小説家になろう様に公開したものを一部省略して投稿する予定です。
※全58話、一気に更新します。ご了承ください。
「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない
唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。
だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、
「君はもう僕のものだ」
と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる