本気の恋をもう一度

蜜花

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出会編

16.帰り道

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 湿布はよく効いている。痛み止めが入っていたのか、違和感はかなり軽減した。

 町を歩くと大きな変化を感じる。ずいぶんと賑やかになった。前はめったに人とすれ違わなかったのに。商機を感じて下見を始めたのかもしれない。

 あと数日でフェニックス騎士団は帰るはずなのに。これからこそ人材が必要じゃないんだろうか。

「あっ」

 気を取り直して、ウィンディ団員おすすめの店に行こうと、バッグに手を入れて気づいた……。

「鍵がない」

 今朝、ノイエさんに投げつけた……どこに置いてとも話していない。今日が日勤であると祈るしかない。

「私たちは、お互いの勤務日程すらしらないんだ」

 つぶやいた自分が一番驚いている。何も知らないまま、結婚の約束をしている。昔の私なら正気じゃないと感じるだろうな。

「持ち帰りに決めた」

 お店には寄ろう。そして持ち帰りにして、家に帰る。もし家に入れなかったら、食事を献上して泊めてもらおう。

 行き当たりばったりもいいなぁと、浮かれていた私は自分の顔の傷を忘れていた。

 ◯⚫️◯

 ウィンディア団員がお勧めした店は肉料理がメインだった。多彩な串焼きが楽しめるお店で、常連客がいい気分で酔っている。私はとりあえずおすすめを20本包んでほしと頼み外のベンチで待っていた。

「金になると聞いてたのに話が違ぇな」
「あぁ、本当にあるのかね」
「間違いなくみたと言ったのは誰だったか……」

 テラス席の客たちは、開拓の話をしているらしい。酒場で不用心と感じないのか疑問が湧く。まさか広めるのが狙いだろうか。

「お客さんお待たせー」
「ありがとうございます」

 袋を受け取って、支払いを済ませた。

「はぁ。あ、すみませんっ」
「私も同業です。アンナおばさんのお料理店で働いています 」
「あー、あちらの」

 客の前でしでかすより、少しは心が軽くなるかと思い簡単に自己紹介をした。

「最近は目がまわる忙しさですよね、うちもなんです」
「そうですよね、客層も悪くなってしまって。今晩も騎士団のお世話になっているんですよ」

 噂をすれば、酔っ払い客を連れた騎士団員が店から出てきた。

「あっ」

 私の驚いた声は聞こえなかったらしい。私の耳へと耳打ちしてくる。

「彼ったら素敵ですよね。街からいらしてるフェニックス騎士団の方なんですよ。いつも親切にしてくださいます」

 ノイエさんだった。店員の声は楽しそうに弾んでいる。ほのかな憧れを感じているのだろう。

「こっちを見ましたよっ」

 私と目があった。職務中の彼に親しげな振る舞いはできない。誰が見ているかわからないのだから。

「冷めないうちに持ち帰りますね」
「はいっ、ありがとうございましたー」

 店員の話を切って家路を急いだ。この感情はなんだろう。私の知らない彼がいる。それを好ましく思う女性。

 気持ちが辛い時は食べるのを勧めてきたのを思い出す。食べ尽くして、毛刈り前の羊に見えるよう太ってしまおうか。

「お酒飲みたい」

 酔っ払って全て吐き出して、あの人たちは楽しそうだった。なんだか最近、急展開すぎて体も心も間に合わない。

 こんな時はどうしていたっけ……。

「旅に出たい」
「新婚旅行の計画ではないよな」

 ふわっと水を連想する香りがして、背後から抱かれ、一瞬だけ体が宙に浮いた。

「ノイエさん」
「会いたかった」

 今朝別れたばかりでも、私も会いたかった。回された腕にしがみつき、熱を確かめる。

「お仕事はいいんですか」
「よくはないな……同僚を待たせている」
「じゃぁ戻らないと」
「充電させてくれ」

 緩んだ腕が離れた先に、胸を合わせて抱き合った。嬉しくて、つい胸に顔を擦り寄せ痛みが走る。

「いたっ」
「平気か」

 ノイエさんは顔の傷に触れないよう、近くの髪を耳にかけててくれた。

「……聞かないんですか」
「あなたが話したい時にして欲しい」

 押し付けない優しさも好きだ。大切にしてくれても、籠に入れるほど甘やかさない。

「鍵を渡すから、先に帰ってくれ」
「先に……ですか? 」

 ノイエさんの胸元から自宅の鍵が出てきた。

「報告が終われば帰れる」
「帰ってきてくれるんですね」

 こんなに幸せな言葉だとは知らなかった。消え去りたい欲求がどんどん溶けて無くなっていく。すぐに溜まりがちな黒い感情は、ノイエさんといれば大丈夫な気がしてきた。

「待ってますから」
「やめてくれ、キスしたくなる」

 ノイエさんは困り顔で笑って、頭をかいた。私は嬉しくて、意地悪を言ってしまう。

「抱きしめるのはいいんですか」
「これも秘密だ」
「では同じでしょう」

 伸び上がってキスをした。誰に見られてもいい。幸せを精一杯に味わいたくて。
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