本気の恋をもう一度

蜜花

文字の大きさ
15 / 18
出会編

15.わかってくれるひと

しおりを挟む
 痛む箇所を押さえて、家に戻るか医者へ行くか検討する。顔を腫らして店に立てば、アンナおばさんに迷惑をかける。でも、医者から負傷の理由を聞かれたらうまく誤魔化せるかわからない。

「あれ、アベルさんですかっ」

 悲しい私の気持ちにそぐわない、明るい声が後ろからして来た。ノイエさん以外は私を放っておいて欲しい。

「僕は巡回中だったんですよ、さっき相談された件で見回りを増やします」

 私が先を急いでいるのに、男は後をつけてくる。声の主は団員のウィンディアだろう。私が署を出てから長くは経っていない。開拓者たちの所業は各所から寄せられてきているのだろうか。

「何かありましたか?」

 精一杯歩いたのに悠々と追いつかれた。肩に手を置かれたら振り返るしかない。ウィンディア団員に、赤く熱を持つ顔を見せてしまった。

「それ……さっき言ってた男にやられたんですか?大丈夫ですか?」

 明るさは長所なのは間違いない。でも今はイライラする。せっかく私が静かにおさめたのに。小さくなった種火に風を送るな。

「転んだのです。痛むので早く帰らせてください」
「わわ、確かにっ。待っててください、ペルテトさんがいい湿布を持ってますから」

 なぜ彼なのよ……と叫びたくなった。気まずい別れのあとで顔を合わせづらい。ウィンディア団員に会ったのは今日が初めてだ。短時間しか接していなくてもわかる。私が逃げたら自宅まで届けにくるだろう。それはもっと嫌だ。

「……わかりました」

 ペルテト様は連れてこないで!と空へ願ったのに、私の願いは聞き届けられなかったようだ。たまには聞き入れてほしい。

「リリー、転んだと聞いたが」

 心配そうなペルテト様が手ぶらでやって来た。これは救護室で事情を聞かれる流れに決まっている。湿布の話が出た時に、走って逃げるのが最善だったと今更気づいた。

「はい、やってしまいました」
「ひどいんすよ、一枚くださいね。貼ってあげたいんで」

 初めて入った詰め所は外観よりも綺麗だった。通りすがる団員たちは物珍しげに私を見ていく。
 ウィンディア団員の登場タイミングと、私の運の悪さを呪うしかない。

「この部屋は病人や怪我人のために解放している。あとは私が」
「いえっ、僕もつきますっ!」
「まぁ、心強いです」

 とりあえず笑顔を送った。ペルテト様と二人きりよりは、ずっといい。

「顔に触れるがいいだろうか」
「お願いします」

 目を閉じると、濡らしたタオルで顔を拭いてくれる。ダウナー団員の爪が当たったのか、少し沁みる箇所があった。

「ひどいっすね、転んだとこに小石でもあったんすか」

 そうしよう。砂利の上で転んだからこうなったとノイエさんには説明しよう。

「ふぅ」

 乾いたタオルで優しく水気を取られ、湿布を貼ってもらうと声が出た。冷たく柔らかい湿布に熱が吸い込まれ気持ちがいい。心もだんだんと落ち着いていく。

「他に痛む場所は」
「ありません」

 目を開いてペルテト様の顔を見た時、苦笑いをして見えた。そしてハッとした。
 私は大切な約束を忘れていたのだ。どうしよう、二度と会わないとマジェレド団長に誓ったのだった。

「あの、マジェレド団長はご不在ですか? 」
「いますよ!挨拶したいなら案内しますが」
「いえいえいえ、前にお世話になったのです。怪我は恥ずかしいから秘密にしてくださいね」

 ウィンディア団員は『わかりました!』と元気に返事をしてくれた。もう少しだけ声を落として欲しい。約束を反故にしたと団長が知ってしまうとまずい。

「私は先に出る。ウィンディア、任せていいか」
「はいっ、もちろんです!」
「じゃぁ、リリー」

 私の焦りに気づいたのか、ペルテト様は救護室を出ていった。ぼんやりと、次回の約束がないのを安心する。

「ベッドで眠っていってもいいですよ!」
「いえ、そこまでの怪我ではありません」

 あまり熱心に薦めるから見てみると、確かに良さそうなベッドだった。病人向けとは思えないフカフカな毛布と掛け布団。誰があつらえたのだろうか。

「遠慮はいらないっす。疲れた時は寝ると元気でますよ」

 ウィンディア団員が何を言おうと、寝るつもりはない。また誰かに絡まれる前に帰らなくては。

「あつ、アベルさんは食い物派ですか?だったら広間の中央にある石像の正面に立って、三時方向へ歩いていった先にある店がおすすめっすよ。味が濃くてうまいんす」

 場所の表現方法が独特だ。普通なら、地図を書くとか、店名を伝えるとか、実際に案内すると思う。

「今度行ってみますね」

 自然に笑みが溢れた。この人は、明るく元気なバカではないようだ。勢いがすごいだけで気遣ってくれている。

「立場上、謝れないんです。とばっちりだと思ってますよ。僕もコーネリアス・アベルはグレーの認識です。だからってあなたを殴るのは違いますよね」

 なぜダウナー団員との会話を知っているのだろう。騎士団には魔法使いが多数いるの?

「秘密があるんすよ、みんなで見張り合うっていうか……とにかく元気だしてください」

 胸がぐっと詰まった。この人の言葉はまっすぐで、偽りがない。

「ペルテトさんも、ノイエさんも、マジェレド団長も。まぁ、すぐいなくなりますけど、それはよくて。みんなアベルさんを大切に思ってます。僕も、職を離れたら仲良くなりたいなって思うし」

 話す時に体を動かすのが癖なのか、ブンブン腕を振っている。私は黙って慰めの言葉を聞いていた。

「助けの手はあります。あなたを傷つけるばかりじゃない。わかってもらえましたか?」

 泣きそうになって口を閉じていたら目の前で手を振り返事をするまでやめないだろう。

「……はい」
「じゃー、帰っていいですよ。僕はこれから見回りの続きがあるので!」

 心に巣喰い始めていた黒い霧は、晴れゆくように感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しいあなたは竜の番

さくたろう
恋愛
 前世で無惨に処刑された記憶を持つ少女フィオナは、今世では幼い頃から番である竜族の王に保護されて塔の中で大切に育てられていた。  16歳のある日、敵国の英雄ルイが塔を襲撃しにきたが、なんとフィオナは彼に一目惚れをしてしまう。フィオナを人質にするために外へと連れ出したルイも、次第に彼女に離れがたい想いを感じ始め徐々に惹かれていく。  竜人の番として育てられた少女が、竜を憎む青年と恋に落ちる物語。 ※小説家になろう様に公開したものを一部省略して投稿する予定です。 ※全58話、一気に更新します。ご了承ください。

「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない

唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。 だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、 「君はもう僕のものだ」 と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜

こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました! ※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)  狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。  突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。  だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。  そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。  共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?  自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。

イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)

便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC” 謎多き噂の飛び交う外資系一流企業 日本内外のイケメンエリートが 集まる男のみの会社 そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在 唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話 中山加恋(20歳) 二十歳でトオルの妻になる 何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛 中山トオル(32歳) 17歳の加恋に一目ぼれ 加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する 加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる 会社では群を抜くほどの超エリートが、 愛してやまない加恋ちゃんに 振り回されたり落ち込まされたり… そんなイケメンエリートの ちょっと切なくて笑えるお話

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

処理中です...