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出会編
15.わかってくれるひと
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痛む箇所を押さえて、家に戻るか医者へ行くか検討する。顔を腫らして店に立てば、アンナおばさんに迷惑をかける。でも、医者から負傷の理由を聞かれたらうまく誤魔化せるかわからない。
「あれ、アベルさんですかっ」
悲しい私の気持ちにそぐわない、明るい声が後ろからして来た。ノイエさん以外は私を放っておいて欲しい。
「僕は巡回中だったんですよ、さっき相談された件で見回りを増やします」
私が先を急いでいるのに、男は後をつけてくる。声の主は団員のウィンディアだろう。私が署を出てから長くは経っていない。開拓者たちの所業は各所から寄せられてきているのだろうか。
「何かありましたか?」
精一杯歩いたのに悠々と追いつかれた。肩に手を置かれたら振り返るしかない。ウィンディア団員に、赤く熱を持つ顔を見せてしまった。
「それ……さっき言ってた男にやられたんですか?大丈夫ですか?」
明るさは長所なのは間違いない。でも今はイライラする。せっかく私が静かにおさめたのに。小さくなった種火に風を送るな。
「転んだのです。痛むので早く帰らせてください」
「わわ、確かにっ。待っててください、ペルテトさんがいい湿布を持ってますから」
なぜ彼なのよ……と叫びたくなった。気まずい別れのあとで顔を合わせづらい。ウィンディア団員に会ったのは今日が初めてだ。短時間しか接していなくてもわかる。私が逃げたら自宅まで届けにくるだろう。それはもっと嫌だ。
「……わかりました」
ペルテト様は連れてこないで!と空へ願ったのに、私の願いは聞き届けられなかったようだ。たまには聞き入れてほしい。
「リリー、転んだと聞いたが」
心配そうなペルテト様が手ぶらでやって来た。これは救護室で事情を聞かれる流れに決まっている。湿布の話が出た時に、走って逃げるのが最善だったと今更気づいた。
「はい、やってしまいました」
「ひどいんすよ、一枚くださいね。貼ってあげたいんで」
初めて入った詰め所は外観よりも綺麗だった。通りすがる団員たちは物珍しげに私を見ていく。
ウィンディア団員の登場タイミングと、私の運の悪さを呪うしかない。
「この部屋は病人や怪我人のために解放している。あとは私が」
「いえっ、僕もつきますっ!」
「まぁ、心強いです」
とりあえず笑顔を送った。ペルテト様と二人きりよりは、ずっといい。
「顔に触れるがいいだろうか」
「お願いします」
目を閉じると、濡らしたタオルで顔を拭いてくれる。ダウナー団員の爪が当たったのか、少し沁みる箇所があった。
「ひどいっすね、転んだとこに小石でもあったんすか」
そうしよう。砂利の上で転んだからこうなったとノイエさんには説明しよう。
「ふぅ」
乾いたタオルで優しく水気を取られ、湿布を貼ってもらうと声が出た。冷たく柔らかい湿布に熱が吸い込まれ気持ちがいい。心もだんだんと落ち着いていく。
「他に痛む場所は」
「ありません」
目を開いてペルテト様の顔を見た時、苦笑いをして見えた。そしてハッとした。
私は大切な約束を忘れていたのだ。どうしよう、二度と会わないとマジェレド団長に誓ったのだった。
「あの、マジェレド団長はご不在ですか? 」
「いますよ!挨拶したいなら案内しますが」
「いえいえいえ、前にお世話になったのです。怪我は恥ずかしいから秘密にしてくださいね」
ウィンディア団員は『わかりました!』と元気に返事をしてくれた。もう少しだけ声を落として欲しい。約束を反故にしたと団長が知ってしまうとまずい。
「私は先に出る。ウィンディア、任せていいか」
「はいっ、もちろんです!」
「じゃぁ、リリー」
私の焦りに気づいたのか、ペルテト様は救護室を出ていった。ぼんやりと、次回の約束がないのを安心する。
「ベッドで眠っていってもいいですよ!」
「いえ、そこまでの怪我ではありません」
あまり熱心に薦めるから見てみると、確かに良さそうなベッドだった。病人向けとは思えないフカフカな毛布と掛け布団。誰があつらえたのだろうか。
「遠慮はいらないっす。疲れた時は寝ると元気でますよ」
ウィンディア団員が何を言おうと、寝るつもりはない。また誰かに絡まれる前に帰らなくては。
「あつ、アベルさんは食い物派ですか?だったら広間の中央にある石像の正面に立って、三時方向へ歩いていった先にある店がおすすめっすよ。味が濃くてうまいんす」
場所の表現方法が独特だ。普通なら、地図を書くとか、店名を伝えるとか、実際に案内すると思う。
「今度行ってみますね」
自然に笑みが溢れた。この人は、明るく元気なバカではないようだ。勢いがすごいだけで気遣ってくれている。
「立場上、謝れないんです。とばっちりだと思ってますよ。僕もコーネリアス・アベルはグレーの認識です。だからってあなたを殴るのは違いますよね」
なぜダウナー団員との会話を知っているのだろう。騎士団には魔法使いが多数いるの?
「秘密があるんすよ、みんなで見張り合うっていうか……とにかく元気だしてください」
胸がぐっと詰まった。この人の言葉はまっすぐで、偽りがない。
「ペルテトさんも、ノイエさんも、マジェレド団長も。まぁ、すぐいなくなりますけど、それはよくて。みんなアベルさんを大切に思ってます。僕も、職を離れたら仲良くなりたいなって思うし」
話す時に体を動かすのが癖なのか、ブンブン腕を振っている。私は黙って慰めの言葉を聞いていた。
「助けの手はあります。あなたを傷つけるばかりじゃない。わかってもらえましたか?」
泣きそうになって口を閉じていたら目の前で手を振り返事をするまでやめないだろう。
「……はい」
「じゃー、帰っていいですよ。僕はこれから見回りの続きがあるので!」
心に巣喰い始めていた黒い霧は、晴れゆくように感じた。
「あれ、アベルさんですかっ」
悲しい私の気持ちにそぐわない、明るい声が後ろからして来た。ノイエさん以外は私を放っておいて欲しい。
「僕は巡回中だったんですよ、さっき相談された件で見回りを増やします」
私が先を急いでいるのに、男は後をつけてくる。声の主は団員のウィンディアだろう。私が署を出てから長くは経っていない。開拓者たちの所業は各所から寄せられてきているのだろうか。
「何かありましたか?」
精一杯歩いたのに悠々と追いつかれた。肩に手を置かれたら振り返るしかない。ウィンディア団員に、赤く熱を持つ顔を見せてしまった。
「それ……さっき言ってた男にやられたんですか?大丈夫ですか?」
明るさは長所なのは間違いない。でも今はイライラする。せっかく私が静かにおさめたのに。小さくなった種火に風を送るな。
「転んだのです。痛むので早く帰らせてください」
「わわ、確かにっ。待っててください、ペルテトさんがいい湿布を持ってますから」
なぜ彼なのよ……と叫びたくなった。気まずい別れのあとで顔を合わせづらい。ウィンディア団員に会ったのは今日が初めてだ。短時間しか接していなくてもわかる。私が逃げたら自宅まで届けにくるだろう。それはもっと嫌だ。
「……わかりました」
ペルテト様は連れてこないで!と空へ願ったのに、私の願いは聞き届けられなかったようだ。たまには聞き入れてほしい。
「リリー、転んだと聞いたが」
心配そうなペルテト様が手ぶらでやって来た。これは救護室で事情を聞かれる流れに決まっている。湿布の話が出た時に、走って逃げるのが最善だったと今更気づいた。
「はい、やってしまいました」
「ひどいんすよ、一枚くださいね。貼ってあげたいんで」
初めて入った詰め所は外観よりも綺麗だった。通りすがる団員たちは物珍しげに私を見ていく。
ウィンディア団員の登場タイミングと、私の運の悪さを呪うしかない。
「この部屋は病人や怪我人のために解放している。あとは私が」
「いえっ、僕もつきますっ!」
「まぁ、心強いです」
とりあえず笑顔を送った。ペルテト様と二人きりよりは、ずっといい。
「顔に触れるがいいだろうか」
「お願いします」
目を閉じると、濡らしたタオルで顔を拭いてくれる。ダウナー団員の爪が当たったのか、少し沁みる箇所があった。
「ひどいっすね、転んだとこに小石でもあったんすか」
そうしよう。砂利の上で転んだからこうなったとノイエさんには説明しよう。
「ふぅ」
乾いたタオルで優しく水気を取られ、湿布を貼ってもらうと声が出た。冷たく柔らかい湿布に熱が吸い込まれ気持ちがいい。心もだんだんと落ち着いていく。
「他に痛む場所は」
「ありません」
目を開いてペルテト様の顔を見た時、苦笑いをして見えた。そしてハッとした。
私は大切な約束を忘れていたのだ。どうしよう、二度と会わないとマジェレド団長に誓ったのだった。
「あの、マジェレド団長はご不在ですか? 」
「いますよ!挨拶したいなら案内しますが」
「いえいえいえ、前にお世話になったのです。怪我は恥ずかしいから秘密にしてくださいね」
ウィンディア団員は『わかりました!』と元気に返事をしてくれた。もう少しだけ声を落として欲しい。約束を反故にしたと団長が知ってしまうとまずい。
「私は先に出る。ウィンディア、任せていいか」
「はいっ、もちろんです!」
「じゃぁ、リリー」
私の焦りに気づいたのか、ペルテト様は救護室を出ていった。ぼんやりと、次回の約束がないのを安心する。
「ベッドで眠っていってもいいですよ!」
「いえ、そこまでの怪我ではありません」
あまり熱心に薦めるから見てみると、確かに良さそうなベッドだった。病人向けとは思えないフカフカな毛布と掛け布団。誰があつらえたのだろうか。
「遠慮はいらないっす。疲れた時は寝ると元気でますよ」
ウィンディア団員が何を言おうと、寝るつもりはない。また誰かに絡まれる前に帰らなくては。
「あつ、アベルさんは食い物派ですか?だったら広間の中央にある石像の正面に立って、三時方向へ歩いていった先にある店がおすすめっすよ。味が濃くてうまいんす」
場所の表現方法が独特だ。普通なら、地図を書くとか、店名を伝えるとか、実際に案内すると思う。
「今度行ってみますね」
自然に笑みが溢れた。この人は、明るく元気なバカではないようだ。勢いがすごいだけで気遣ってくれている。
「立場上、謝れないんです。とばっちりだと思ってますよ。僕もコーネリアス・アベルはグレーの認識です。だからってあなたを殴るのは違いますよね」
なぜダウナー団員との会話を知っているのだろう。騎士団には魔法使いが多数いるの?
「秘密があるんすよ、みんなで見張り合うっていうか……とにかく元気だしてください」
胸がぐっと詰まった。この人の言葉はまっすぐで、偽りがない。
「ペルテトさんも、ノイエさんも、マジェレド団長も。まぁ、すぐいなくなりますけど、それはよくて。みんなアベルさんを大切に思ってます。僕も、職を離れたら仲良くなりたいなって思うし」
話す時に体を動かすのが癖なのか、ブンブン腕を振っている。私は黙って慰めの言葉を聞いていた。
「助けの手はあります。あなたを傷つけるばかりじゃない。わかってもらえましたか?」
泣きそうになって口を閉じていたら目の前で手を振り返事をするまでやめないだろう。
「……はい」
「じゃー、帰っていいですよ。僕はこれから見回りの続きがあるので!」
心に巣喰い始めていた黒い霧は、晴れゆくように感じた。
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