14 / 18
出会編
14.騎士団の詰め所
しおりを挟む
騎士団の詰め所の前を通る機会はあった。でも、中に入っていない。
敷地内に大きさの異なる施設があり、役割も違うらしい。大きな方が詰め所と呼ばれており、自首するならばここ……そんな未来は来ないで欲しいけど。
小さな施設に正式名はなく、番所や仮宿、ボロ屋と呼ばれている。最後のは悪口ね。
とりあえず、いつでも相談を謳っているのは小さい建物方だから、そちらの中に入った。
「こんにちは」
書類書きをしていた騎士団員と目が合う。水色の瞳にピンクの虹彩は珍しい。つい見つめてしまったら、怪訝な顔をされた。
「こんにちは。何か困り事ですか。こちらへどうぞ」
中に案内され、小さな椅子で向かい合う。団員は書きかけの書類を置いて別の紙を取り出した。
「まずはお名前と、年齢、住所、お勤めなら勤務先もお願いします。話せる範囲で結構です」
「困っていたので、相談できて嬉しいです。私はリリーと申します」
こめかみがピクッと震え、私を見る目が厳しくなった。接客業に就くと表情の変化に敏感になる。
「リリー・アベルか」
私がこの町では家名を名乗っていない。聞いたとしたら、マジェレド団長が呼んだ一度だけ。積極的に開示しないだけで隠しているわけではない。
「はい、アベル商会の娘でした。今は絶縁されてただのリリーです」
膝を組み、肩肘をつき彼女は私を眺めている。私はとりあえず、微笑みを返す。
「お父上はやり手ですね。一生をかけて罪を暴くと誓う団員もいるのですよ」
なんとも悪意のある笑いだった。父と同一視され憎まれ攻撃されたのは初めてではない。
「父は父、私は私ですから」
「そうでしょうか」
ここに来たのは失敗だった。恋人だからとノイエさんに話すのは気が引けて、ボロ屋まで歩いて来たのに。この呼び方は私と同じく雑な対応を受けた人がつけたのだわ。
「あれダウナー、相談者か」
「そう、リリー・アベルさんだよ」
奥から出た来た男性団員は私の名前に一瞬だけ反応したがすぐに取り繕った。
「ダウナー、お前あがりだろ。代わる」
「いい、私が続ける」
ダウナーの苗字は最近聞いたばかりだ。まさか、血縁だろうか。
「いいから。アベルさんですね、申し訳ないです。僕はウィンディアです。最初から説明していただけますか」
「はい、もちろんです」
まだ何も話していなかったし。
客がアクアマリンにしつこく絡み、『性的な揶揄いをする・何か秘密を話せと迫る』の二つを相談した。
「今日は、ご本人は? 」
「私が気になって来ただけですから」
「そうなると、被害届は受理できないんですよね……」
「相談した記録は残せますよね? 」
後から来た団員は、ダウナーと呼ばれた団員が用意した紙に書きこみを始めた。
「静かな町だったのに、開発が始まるとそうもいきませんね」
「僕は賑やかになるのを歓迎しています」
愛想笑いをして、ボロ屋を出た。私に生身の人間が敵意をぶつけたのは久しぶり。心が疲れてしまい、無性にノイエさんと会いたい。今はどこで何をしているだろう。
◯⚫️◯
外に出ると、ダウナー団員が私を待っていた。会釈して帰ろうしたら、手首を掴まれる。上質なワンピースはこの町から浮いて、過去に会った貴族の令団員を思い出した。彼女のせいではないのに、胸がムカムカしてしまった。
「私。あなたに話がありますの」
「申し訳ございません。先を急いでおります」
細身に見えても鍛えているようだ。外そうとした手はピクリともしない。
「こちらへ」
連れて行かれたのは馬車の中だった。向かい合って座ると、扉が閉められ施錠の音がする。連れ去る気かとヒヤヒヤしてきた。
「拉致など致しませんわ」
「さすがは魔法使いの妹君ですね」
言葉に出していない感情について回答しないで欲しい。お互い逸らしていた視線が絡まった。やっぱり瞳は珍しい色合いで心惹かれる。たとえ私を嫌っているけ相手でも。
「兄はその呼び名を面白がっていたわ。抱き込むのはお手のものかしら」
誤解だと何度も叫んだ。否定してくれと頼んでも、飛び火を嫌い私を庇う人はいなかった。過去の記憶が蘇るのを止められない。
「マジェレド団長のことは誤解です。でも……ありがとうございます」
「なんですって」
「私がペルテト様に愛されていたと。ノイエさんに愛されていると認めてくださったから」
バチンではすまない衝撃が頰に走った。頭が揺れてクラクラする。痛みから自然と涙が溢れる。
「あなたの父は不正で財をなした。市民から巻き上げたお金で養育を受けわよね。現に、騎士団員を引き込んだことをあなたは認めたじゃないの」
痛い。頬が痛いし、心が痛い。父は欲深い人だが悪人ではなかった。悪評も利用して成り上がる力を持っていただけ。
「私は愛したんです、ダウナー様」
また手を振り上げ、力を込めて私を睨みつけている。逃げられない状況ながら、私の心は凪いでいた。
「ペルテト様だから、ノイエさんだから愛しました。父も騎士団も関係ありません」
ダウナー団員はふーっふーっと息を吐くと、窓の外に合図する。従者が鍵を開けて、ダウナー団員加から降りろと指を刺された。
「わたくしは認めませんわ」
振り返って会釈をする。手を受けた頬はまだ痛い。気をつけていないと人前で泣きだしてしまうだろう。
敷地内に大きさの異なる施設があり、役割も違うらしい。大きな方が詰め所と呼ばれており、自首するならばここ……そんな未来は来ないで欲しいけど。
小さな施設に正式名はなく、番所や仮宿、ボロ屋と呼ばれている。最後のは悪口ね。
とりあえず、いつでも相談を謳っているのは小さい建物方だから、そちらの中に入った。
「こんにちは」
書類書きをしていた騎士団員と目が合う。水色の瞳にピンクの虹彩は珍しい。つい見つめてしまったら、怪訝な顔をされた。
「こんにちは。何か困り事ですか。こちらへどうぞ」
中に案内され、小さな椅子で向かい合う。団員は書きかけの書類を置いて別の紙を取り出した。
「まずはお名前と、年齢、住所、お勤めなら勤務先もお願いします。話せる範囲で結構です」
「困っていたので、相談できて嬉しいです。私はリリーと申します」
こめかみがピクッと震え、私を見る目が厳しくなった。接客業に就くと表情の変化に敏感になる。
「リリー・アベルか」
私がこの町では家名を名乗っていない。聞いたとしたら、マジェレド団長が呼んだ一度だけ。積極的に開示しないだけで隠しているわけではない。
「はい、アベル商会の娘でした。今は絶縁されてただのリリーです」
膝を組み、肩肘をつき彼女は私を眺めている。私はとりあえず、微笑みを返す。
「お父上はやり手ですね。一生をかけて罪を暴くと誓う団員もいるのですよ」
なんとも悪意のある笑いだった。父と同一視され憎まれ攻撃されたのは初めてではない。
「父は父、私は私ですから」
「そうでしょうか」
ここに来たのは失敗だった。恋人だからとノイエさんに話すのは気が引けて、ボロ屋まで歩いて来たのに。この呼び方は私と同じく雑な対応を受けた人がつけたのだわ。
「あれダウナー、相談者か」
「そう、リリー・アベルさんだよ」
奥から出た来た男性団員は私の名前に一瞬だけ反応したがすぐに取り繕った。
「ダウナー、お前あがりだろ。代わる」
「いい、私が続ける」
ダウナーの苗字は最近聞いたばかりだ。まさか、血縁だろうか。
「いいから。アベルさんですね、申し訳ないです。僕はウィンディアです。最初から説明していただけますか」
「はい、もちろんです」
まだ何も話していなかったし。
客がアクアマリンにしつこく絡み、『性的な揶揄いをする・何か秘密を話せと迫る』の二つを相談した。
「今日は、ご本人は? 」
「私が気になって来ただけですから」
「そうなると、被害届は受理できないんですよね……」
「相談した記録は残せますよね? 」
後から来た団員は、ダウナーと呼ばれた団員が用意した紙に書きこみを始めた。
「静かな町だったのに、開発が始まるとそうもいきませんね」
「僕は賑やかになるのを歓迎しています」
愛想笑いをして、ボロ屋を出た。私に生身の人間が敵意をぶつけたのは久しぶり。心が疲れてしまい、無性にノイエさんと会いたい。今はどこで何をしているだろう。
◯⚫️◯
外に出ると、ダウナー団員が私を待っていた。会釈して帰ろうしたら、手首を掴まれる。上質なワンピースはこの町から浮いて、過去に会った貴族の令団員を思い出した。彼女のせいではないのに、胸がムカムカしてしまった。
「私。あなたに話がありますの」
「申し訳ございません。先を急いでおります」
細身に見えても鍛えているようだ。外そうとした手はピクリともしない。
「こちらへ」
連れて行かれたのは馬車の中だった。向かい合って座ると、扉が閉められ施錠の音がする。連れ去る気かとヒヤヒヤしてきた。
「拉致など致しませんわ」
「さすがは魔法使いの妹君ですね」
言葉に出していない感情について回答しないで欲しい。お互い逸らしていた視線が絡まった。やっぱり瞳は珍しい色合いで心惹かれる。たとえ私を嫌っているけ相手でも。
「兄はその呼び名を面白がっていたわ。抱き込むのはお手のものかしら」
誤解だと何度も叫んだ。否定してくれと頼んでも、飛び火を嫌い私を庇う人はいなかった。過去の記憶が蘇るのを止められない。
「マジェレド団長のことは誤解です。でも……ありがとうございます」
「なんですって」
「私がペルテト様に愛されていたと。ノイエさんに愛されていると認めてくださったから」
バチンではすまない衝撃が頰に走った。頭が揺れてクラクラする。痛みから自然と涙が溢れる。
「あなたの父は不正で財をなした。市民から巻き上げたお金で養育を受けわよね。現に、騎士団員を引き込んだことをあなたは認めたじゃないの」
痛い。頬が痛いし、心が痛い。父は欲深い人だが悪人ではなかった。悪評も利用して成り上がる力を持っていただけ。
「私は愛したんです、ダウナー様」
また手を振り上げ、力を込めて私を睨みつけている。逃げられない状況ながら、私の心は凪いでいた。
「ペルテト様だから、ノイエさんだから愛しました。父も騎士団も関係ありません」
ダウナー団員はふーっふーっと息を吐くと、窓の外に合図する。従者が鍵を開けて、ダウナー団員加から降りろと指を刺された。
「わたくしは認めませんわ」
振り返って会釈をする。手を受けた頬はまだ痛い。気をつけていないと人前で泣きだしてしまうだろう。
14
あなたにおすすめの小説
愛しいあなたは竜の番
さくたろう
恋愛
前世で無惨に処刑された記憶を持つ少女フィオナは、今世では幼い頃から番である竜族の王に保護されて塔の中で大切に育てられていた。
16歳のある日、敵国の英雄ルイが塔を襲撃しにきたが、なんとフィオナは彼に一目惚れをしてしまう。フィオナを人質にするために外へと連れ出したルイも、次第に彼女に離れがたい想いを感じ始め徐々に惹かれていく。
竜人の番として育てられた少女が、竜を憎む青年と恋に落ちる物語。
※小説家になろう様に公開したものを一部省略して投稿する予定です。
※全58話、一気に更新します。ご了承ください。
「愛想がなく可愛くない」と捨てられた私、最強の竜騎士に拾われる。「その美しさに僕だけが狂わされたい」と、愛の重さでベッドから下ろしてくれない
唯崎りいち
恋愛
夜会の最中、王子に「愛想がなくて可愛くない」と婚約破棄された無表情令嬢。
だが彼女の美しさに一目惚れした隣国最強の竜騎士に連れ去られ、
「君はもう僕のものだ」
と毎晩愛の重さでベッドから下ろしてくれない生活が始まる——。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる
春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。
夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。
形のない愛は信じない。
でも、出来立ての肉は信じてしまう。
肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。
これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる