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出会編
13.疑惑
しおりを挟む愛を交わした次の朝の目覚めは慌ただしい。
私が目覚めると出勤時間まであと十分だった。慌ててベットから抜け出し顔を洗い髪をたかし身支度をしていると、ノイエさんが嬉しげにコチラを見ている。
「な、起こしてくださいよノイエさんっ」
「寝顔がかわいらしくてつい……」
いい性格をしている。自分はすでに準備万端で靴を履くだけなのだから。起こしてくれたなら、昨日は楽しかったとか、話はたくさんあったのに。
「あんなおばさんは怖いんですよー」
一度だけ寝坊して遅刻した。自分の行いで何人のお客様が食事にありつけなかったのか、私の笑顔が見られなくて悲しんだかと説教されたのが懐かしい。
「食事は? 」
「そんな時間はありません」
制服を着て歯磨きをして、もう出勤時間だ。走れば間に合うだろう。
「ノイエさんっ」
悠然とお茶を飲む愛しい人相手に、鍵を投げつけた。さすがの反射神経で鍵は手のひらに収まる。
「施錠を忘れないでくださいね」
とにかく間に合わせるしか頭になくて、私は部屋を出た。
◯⚫️◯
「リリーさん、おはようございます」
「おはよー。アクアマリンちゃん。ギリギリに来てごめんね」
私が従業員口から入るとアクアマリンちゃんはすでに開店準備を始めていた。
「おっはよう、今朝は動けるのね?」
「昨日はありがとうございました」
私が頭を下げると、アンナおばさんはふふっと笑った。
「あの子もまだまだねぇ、ピンピンしてるじゃないの」
言葉の意味を理解して、私は顔が熱くなる。状況を理解していないアクアマリンちゃんは『何か運動を始めたんですか?』と遠からずな質問をするから余計に恥ずかしい。
「さぁ、恒例の行くわよー」
お店を開く恒例のセリフをみんなで叫ぶ。
「今日も稼ぐぞー」
よく働き、来店した客様を満足させる。支払われたお金は尊い。多ければ多いほどいい。お店の方針だ。
今日は顔見知りの騎士団員たちは来なかった。代わりに、やけに話しかけてくるスーツ姿の男が多い。私はノーサンキューときっぱり言うけど、アクアマリンちゃんは捕まってしまう。
「ねぇ、この辺にあるって聞いてるよ。僕たちだけの秘密にしよう」
「いや、離してください」
アンナおばさんがフライパンを構えたから、私が間に入った。
「お客様、何か粗相がありましたか」
値踏みする視線は不快だ。顔から胸までじっくり見てくる。許す理由はないから、メニューを抱えて塞いだ。
「楽しくお話ししてただけだよぉ。おねぇさんはこの辺でいいものが採れるって知ってる?宝石好きそうだよなぁ」
開発が入るとは聞いていた。鉱石の予想が当たっていたらしい。
「女性はみんな宝石が好きです。贈っていただけるのならば」
渾身の笑顔を向けたら、スーツの男たちは一瞬ひるんだ。まぁ、それだけで引くやつらではない。
「そうだよねぇ、でももし何か思い出したら連絡して」
アクアマリンちゃんの手に紙を握りこみ、さっさと会計して出ていってしまった。
「リリーさん……」
「捨てたらいいわ。あと、手を洗うといいと思うの」
コクンと頷いてアクアマリンちゃんはカウンターへ入っていった。
「こんなに残して……食材にも作り手にも感謝がない奴ら」
胸騒ぎがする。後で騎士団へ報告に行こう。『犯罪の芽はどこにでもあります。気になる事柄はいつでも相談してくださいね』と張り紙がしてあるし。間に受けたっていいだろう。
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