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少しの努力
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どうしよう。モカと向き合う勇気がない。あれからよく考えてみたけど、私にはお金以外何もない。騎士団での地位も平だし、ハーティスみたいな美貌もない。モカは私の傷だらけの手を「美しい」と握ってくれるけど、それが演技だったら立ち直れない。
帰り道のアーケードで、ハーティスのブティック「リンディア」の広告が目に入った。
彼女の赤い巻き毛、大きな目、ジューシーな唇。完璧で私とは全然違う。ガラスに映る自分は、小さくて、襟から傷が見えて、ベリーショートヘアのせいで少年みたい。
「こんにちは。ご覧になりますか?」
広告を見ていたら、入店を迷っていると思われたらしい。店員に声をかけられ、流されるまま店に入ると、ここは化粧品店だった。カラフルで洗練されたパッケージに縁がないながらも心が躍る。
「何をお探しですか?」
「特に決めてなくて……良いものがあったらなって。」
「さようでございますか。では、メイク体験はいかがですか? とてもご好評いただいております」
返事をするまもなく、チェアに座らされ、ケープをかけられた。断れる雰囲気ではない。
「お願いします……」
「はい、ミランダにお任せください」
ミランダさんが運んできたラックには、ブラシやアイシャドウが並ぶ。口紅なんて、結婚式以来だ。
「お化粧を落としますか?」
「素顔です。」
「プラティナ様のお肌、ほんとに綺麗。素晴らしい透明感ですねぇ」
彼女の手が私の頬を軽く撫で、コットンで丁寧に肌を整えていく。その感触が妙に心地よくて、つい目を閉じてしまう。
「そんなこと…ないです。ハーティスみたいに華やかじゃないし」
名前を口に出した瞬間、惨めさで自分が泥の中にいるように感じた。私は美しいカーブを描く赤い唇にずっと嫉妬していたんだ。モカは私じゃなくて、ハーティスを優先することも。
「ハーティス様、ですか? リンディアのデザイナーでいらっしゃる。当店にも広告を貼らせていただいております。あの方は確かに華やかでお美しいですよね」
「だからみんな、ハーティスを好きになるんです」
ミランダさんが私のダークグリーンの髪を指先で軽く梳き、鏡越しに目があった。
「それはどうでしょうか。プラティナ様には別の魅力があると思いますよ。このグリーンの髪と瞳、森の木々を思わせる深い色合いです。凛としたお顔立ちには、同性の私もときめくものがありますよ。」
彼女の言葉は優しくて、まるで魔法のように心の硬い部分を溶かしていく。そうだったらいいのにと、少しだけ自信が湧いてきた。
「プラティナ様の強い眼差しを生かしたいので、シルバーのシャドウで少しだけ華やかさを出すのはいかがでしょうか」
ミランダさんが小さなパレットを開き、ブラシを手に取る。チークは控えめに、リップはハーティスのような鮮やかな赤ではなく、深みのあるローズを提案された。
「プラティナ様にはこのローズが似合うと思うんです。強さの中に、優しさがある。そんな色」
鏡を渡され、恐る恐る覗き込む。そこに映るのは、いつもの自分じゃない。目元は鋭くも鮮やかで、唇はほのかに誘うような艶を帯びている。モカがこの姿を見たら、どんな笑顔で褒めてくれるだろう。
「これ、私…?」
「そうですよ。素顔のままもお美しいですが、お化粧で方向性を変えるのもおすすめです。いつもと違った魅力を引き出せたでしょうか」
ミランダさんの笑顔に、初めて自信が湧いてきた。でも、同時に不安も押し寄せる。こんなメイクをしたって、モカはハーティスを選ぶんじゃないか。ハーティスとはどんな関係なのか。
あの夜、モカがハーティスの部屋に行ったきり戻らなかったこと。全部、頭の中でぐるぐる回る。
「ありがとう、ミランダさん。これ、買います」
「ふふっ、ありがとうございます」
とりあえず、何もしないよりは、自分を変えてみたいと思った。
帰り道のアーケードで、ハーティスのブティック「リンディア」の広告が目に入った。
彼女の赤い巻き毛、大きな目、ジューシーな唇。完璧で私とは全然違う。ガラスに映る自分は、小さくて、襟から傷が見えて、ベリーショートヘアのせいで少年みたい。
「こんにちは。ご覧になりますか?」
広告を見ていたら、入店を迷っていると思われたらしい。店員に声をかけられ、流されるまま店に入ると、ここは化粧品店だった。カラフルで洗練されたパッケージに縁がないながらも心が躍る。
「何をお探しですか?」
「特に決めてなくて……良いものがあったらなって。」
「さようでございますか。では、メイク体験はいかがですか? とてもご好評いただいております」
返事をするまもなく、チェアに座らされ、ケープをかけられた。断れる雰囲気ではない。
「お願いします……」
「はい、ミランダにお任せください」
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「お化粧を落としますか?」
「素顔です。」
「プラティナ様のお肌、ほんとに綺麗。素晴らしい透明感ですねぇ」
彼女の手が私の頬を軽く撫で、コットンで丁寧に肌を整えていく。その感触が妙に心地よくて、つい目を閉じてしまう。
「そんなこと…ないです。ハーティスみたいに華やかじゃないし」
名前を口に出した瞬間、惨めさで自分が泥の中にいるように感じた。私は美しいカーブを描く赤い唇にずっと嫉妬していたんだ。モカは私じゃなくて、ハーティスを優先することも。
「ハーティス様、ですか? リンディアのデザイナーでいらっしゃる。当店にも広告を貼らせていただいております。あの方は確かに華やかでお美しいですよね」
「だからみんな、ハーティスを好きになるんです」
ミランダさんが私のダークグリーンの髪を指先で軽く梳き、鏡越しに目があった。
「それはどうでしょうか。プラティナ様には別の魅力があると思いますよ。このグリーンの髪と瞳、森の木々を思わせる深い色合いです。凛としたお顔立ちには、同性の私もときめくものがありますよ。」
彼女の言葉は優しくて、まるで魔法のように心の硬い部分を溶かしていく。そうだったらいいのにと、少しだけ自信が湧いてきた。
「プラティナ様の強い眼差しを生かしたいので、シルバーのシャドウで少しだけ華やかさを出すのはいかがでしょうか」
ミランダさんが小さなパレットを開き、ブラシを手に取る。チークは控えめに、リップはハーティスのような鮮やかな赤ではなく、深みのあるローズを提案された。
「プラティナ様にはこのローズが似合うと思うんです。強さの中に、優しさがある。そんな色」
鏡を渡され、恐る恐る覗き込む。そこに映るのは、いつもの自分じゃない。目元は鋭くも鮮やかで、唇はほのかに誘うような艶を帯びている。モカがこの姿を見たら、どんな笑顔で褒めてくれるだろう。
「これ、私…?」
「そうですよ。素顔のままもお美しいですが、お化粧で方向性を変えるのもおすすめです。いつもと違った魅力を引き出せたでしょうか」
ミランダさんの笑顔に、初めて自信が湧いてきた。でも、同時に不安も押し寄せる。こんなメイクをしたって、モカはハーティスを選ぶんじゃないか。ハーティスとはどんな関係なのか。
あの夜、モカがハーティスの部屋に行ったきり戻らなかったこと。全部、頭の中でぐるぐる回る。
「ありがとう、ミランダさん。これ、買います」
「ふふっ、ありがとうございます」
とりあえず、何もしないよりは、自分を変えてみたいと思った。
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