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優しい同僚
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アーケードは人が多くて、泣きながら走るのに向かない。道ゆく人は私を見て驚いた顔で振り返る。小さな街だから、明日には噂になるだろうな。
ただ、モカとハーティスから離れたかった。息が切れるまで走って、息を整えると、見慣れた大きな影が目の前に現れた。
「おい、プラティナ! 通報されかねないぞって、なんだ、その顔!」
見上げると、狼のヴィオレッタちゃんとドラグルが立っていた。
「ドラグル…? なんでここに?」
「ヴィオレッタの散歩だよ。お前こそなんだよ、なんかあったか?」
ヴィオレッタちゃんが私の足に鼻を擦りつけて、クゥンと鳴いた。
「なんでもない……ただ、ちょっと……」
私が言葉に詰まると、ドラグルは眉を寄せ、大きな手で頭を掻いた。
「ま、いいや。こんな時間にウロウロしてんなら、俺ん家で飯でも食ってけよ。ヴィオレッタも喜ぶし。」
「え、でも……」
「いいから来い。ほら、ヴィオレッタ、連れてけ!」
ヴィオレッタちゃんが私のズボンを軽く咥え、グイグイ引っ張る。その無邪気さに、思わず笑みがこぼれる。一人暮らしの男の家に上がるのは躊躇われるけど、今は家に帰る気になれない。
「……分かった。少しだけ、お邪魔する」
ドラグルがため息をつき、ヴィオレッタちゃんは嬉しそうに跳ねた。化粧品店の紙袋を握りしめながら、彼の後をついていく。モカとハーティスのことが、頭の片隅でチクチクと痛むけど、今はただ、この温かい気配に身を任せたい。
ドラグルの家は、街の外れにある古い石造りの一軒家だった。最新型の魔道具がたくさん置かれているような、そんなモダンな家を想像していたから意外だった。
温かみのあるヴィンテージ家具と革のソファにかけると、ヴィオレッタちゃんが私の足元でクゥンと鳴き、座ってくれた。
「で、なんだよ。泣きながら走ってた理由、話せよ」
ドラグルがソファの隣にドカッと座り、ビールを手に持つ。オレンジの瞳が、真剣に私を見ている。
「モカと、ハーティスとブティックで鉢合わせて……」
私の言葉にドラグルが眉を寄せた。わからないのも無理はない。勝手に傷ついているのは私なんだから。
「ハーティスって、あの派手な女か? モカの女友達だろ。で、なにがあった?」
「ハーティスが……私のためにドレスを選んでくれたの。私の魅力を引き出すって」
涙が滲んできて、ドラグルはビールを飲むのをやめて近くのサイドテーブルに瓶を置いた。
「メイクもドレスも、モカに愛してほしくて試したの。ハーティスみたいになりたくて。私とモカはね、白い結婚なの。一級魔術師になるために純潔を守る必要があるからって、キスすら結婚式でほっぺにだけ。手を繋いでくれない。それなのに、モカはいつもハーティスと親しげで、抱き合うことさえあるの。それでもモカが好きだから我慢してたのに……カエデから聞いたの。一級魔術師になるのに純潔は関係ないんだって。じゃあ、どうしてモカは私に触れてくれないのかな」
感情が溢れ、言葉が止まらない。ドラグルは黙って聞いて、ヴィオレッタちゃんは私の足にぐっと顔を押し付けた。
「……プラティナ。俺も黙ってたことを伝えるから聞いてくれ」
ドラグルがビールを握る手に力が入る。オレンジの瞳が、いつもと違う真剣さで私を見つめる。
「俺、お前が好きだ。結婚したと聞いて、女遊びで気を紛らわせてた。でも、前の団にいたころから、騎士団で剣を振るうお前の強さ、傷だらけでも諦めない根性に、ずっと心を奪われてた。迷惑かけて嫌われちまったけどな」
頭が真っ白になった。彼の粗野な態度の裏に、そんな想いがあったなんて。
「でも、人の女に手を出す気はねえよ。モカと決着がついたら、俺のこと考えてくれよ。ただ、今はモカとちゃんと向き合え。話さないと、何も変わらねえぞ」
ドラグルの優しさに、ポタポタ涙が止まらない。ヴィオレッタちゃんはソファに登ってきて、私の涙をぺろぺろ舐めてくれた。
「俺の胸はいつでも空いてるし、ヴィオレッタもお前が好きだからな」
ヴィオレッタちゃんがクゥンと同意するように鳴く。ドラグルの告白に、胸が締め付けられる。でも、彼の言う通りだ。モカと向き合わなきゃ、何も始まらない。
「……ありがとう、ドラグル。ちょっと、勇気が出た」
ドラグルの家を出る時、あんなに暗かった気持ちが少し楽になっていた。
ただ、モカとハーティスから離れたかった。息が切れるまで走って、息を整えると、見慣れた大きな影が目の前に現れた。
「おい、プラティナ! 通報されかねないぞって、なんだ、その顔!」
見上げると、狼のヴィオレッタちゃんとドラグルが立っていた。
「ドラグル…? なんでここに?」
「ヴィオレッタの散歩だよ。お前こそなんだよ、なんかあったか?」
ヴィオレッタちゃんが私の足に鼻を擦りつけて、クゥンと鳴いた。
「なんでもない……ただ、ちょっと……」
私が言葉に詰まると、ドラグルは眉を寄せ、大きな手で頭を掻いた。
「ま、いいや。こんな時間にウロウロしてんなら、俺ん家で飯でも食ってけよ。ヴィオレッタも喜ぶし。」
「え、でも……」
「いいから来い。ほら、ヴィオレッタ、連れてけ!」
ヴィオレッタちゃんが私のズボンを軽く咥え、グイグイ引っ張る。その無邪気さに、思わず笑みがこぼれる。一人暮らしの男の家に上がるのは躊躇われるけど、今は家に帰る気になれない。
「……分かった。少しだけ、お邪魔する」
ドラグルがため息をつき、ヴィオレッタちゃんは嬉しそうに跳ねた。化粧品店の紙袋を握りしめながら、彼の後をついていく。モカとハーティスのことが、頭の片隅でチクチクと痛むけど、今はただ、この温かい気配に身を任せたい。
ドラグルの家は、街の外れにある古い石造りの一軒家だった。最新型の魔道具がたくさん置かれているような、そんなモダンな家を想像していたから意外だった。
温かみのあるヴィンテージ家具と革のソファにかけると、ヴィオレッタちゃんが私の足元でクゥンと鳴き、座ってくれた。
「で、なんだよ。泣きながら走ってた理由、話せよ」
ドラグルがソファの隣にドカッと座り、ビールを手に持つ。オレンジの瞳が、真剣に私を見ている。
「モカと、ハーティスとブティックで鉢合わせて……」
私の言葉にドラグルが眉を寄せた。わからないのも無理はない。勝手に傷ついているのは私なんだから。
「ハーティスって、あの派手な女か? モカの女友達だろ。で、なにがあった?」
「ハーティスが……私のためにドレスを選んでくれたの。私の魅力を引き出すって」
涙が滲んできて、ドラグルはビールを飲むのをやめて近くのサイドテーブルに瓶を置いた。
「メイクもドレスも、モカに愛してほしくて試したの。ハーティスみたいになりたくて。私とモカはね、白い結婚なの。一級魔術師になるために純潔を守る必要があるからって、キスすら結婚式でほっぺにだけ。手を繋いでくれない。それなのに、モカはいつもハーティスと親しげで、抱き合うことさえあるの。それでもモカが好きだから我慢してたのに……カエデから聞いたの。一級魔術師になるのに純潔は関係ないんだって。じゃあ、どうしてモカは私に触れてくれないのかな」
感情が溢れ、言葉が止まらない。ドラグルは黙って聞いて、ヴィオレッタちゃんは私の足にぐっと顔を押し付けた。
「……プラティナ。俺も黙ってたことを伝えるから聞いてくれ」
ドラグルがビールを握る手に力が入る。オレンジの瞳が、いつもと違う真剣さで私を見つめる。
「俺、お前が好きだ。結婚したと聞いて、女遊びで気を紛らわせてた。でも、前の団にいたころから、騎士団で剣を振るうお前の強さ、傷だらけでも諦めない根性に、ずっと心を奪われてた。迷惑かけて嫌われちまったけどな」
頭が真っ白になった。彼の粗野な態度の裏に、そんな想いがあったなんて。
「でも、人の女に手を出す気はねえよ。モカと決着がついたら、俺のこと考えてくれよ。ただ、今はモカとちゃんと向き合え。話さないと、何も変わらねえぞ」
ドラグルの優しさに、ポタポタ涙が止まらない。ヴィオレッタちゃんはソファに登ってきて、私の涙をぺろぺろ舐めてくれた。
「俺の胸はいつでも空いてるし、ヴィオレッタもお前が好きだからな」
ヴィオレッタちゃんがクゥンと同意するように鳴く。ドラグルの告白に、胸が締め付けられる。でも、彼の言う通りだ。モカと向き合わなきゃ、何も始まらない。
「……ありがとう、ドラグル。ちょっと、勇気が出た」
ドラグルの家を出る時、あんなに暗かった気持ちが少し楽になっていた。
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