私が拾ったのは子猫なんですけど!そして私は男じゃない!

わらいしなみだし

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なーちゃって何者?

179 その頃ふたりは ……夏川side

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 ……その頃、社員食堂では夏川課長に抱き抱えられたおさない雨月と夏川課長がカウンターの前で料理を注文している最中だった。

「雨月君、何が食べたい?」
「おむらいちゅ!」

 おさない雨月が右手を上げて元気よく答えた。

「オムライスだね。花江さん、悪いんだけど特別に作ってくれるかな?私にも同じものを頼むよ。この子は私の上客なんだよ……」
「おやおや、夏川さんがこちらに来るだなんて珍しいわねー!夏川さんの頼みならおやすい御用だよ。抱いているその子は息子さんかい?でも、似てはいないわねぇ……。遠縁の子かい?」

 厨房にいる古株の主に特別に料理を注文しても、彼女は笑顔の皺を作って朗らかにそれを承諾した。ついでに抱えられている男の子の事も聞くのは欠かさない。

「そんなところかな?」

 曖昧な答えで交しきる。

「おむらいちゅ、できりゅ?」

 雨月君が不安そうな顔で聞いている。
 可愛いにも程がある。何も知らない無垢な表情だね……君は。

「任しといて!おばさん、なんでも作れるのよ。ここではメニューのものしか作らないけどね!」
「ぼくねー、おじゃことたまごのおじやもちゅきなの!」

 星野君がいつも作ってあげてるメニューなのかな?
 雨月君はその料理も大のお気に入りのようだ。

「カルシウムが好きだなんて、ボク、いいからだになるわね!」
「いいかりゃだ?」

 コテンって頭を横に傾けてわかんないポーズをして態度を示している。
 ここはしっかりと答えてあげないとね。

「『逞しくなる』ってことだよ。私みたい、ってことかな?」

 態と『私みたい』と言ってみた。

「なーちゃみたいになれりゅの?」
「……なりたいのかい?」
「はいなのぉー!」

 即答で手を上げて答える君を護ってあげたく思うのはやはり同族の匂いがするからだろうか?

 気のせいであって欲しいのだが……。

「『なーちゃ』だなんて……うふ、可愛らしいねぇ」
「……からかわないで下さい」

 花江さんがからかい気味に言うのをいなせられそうになく、不満気に言葉を返した。

「夏川課長、可愛らしい坊やですね!夏川課長のお子さんですか?」
「知り合いの子供なんだよ」

 何処かの部署の女性社員たちに囲まれてしまった。
 私が抱き抱えている子供に興味津々みたいだ。
 取り敢えず当たり障りなく返答しておいた。

「えー、そうなんですか?」

 雨月君を見る目は好奇心いっぱいで少しばかり邪魔である。
 そっとしておいて欲しいとは思うのだが、こういう状況になるのは予想は出来ていた。致し方あるまい。

「可愛いわね!ボク、名前なんて言うの?」
「……?」

 人見知りしている訳では無いのだろう。
 ちょっと驚いているだけのようだから、私が答えてみるとしますか。

「雨月君って言うんだよ。いい名前だろ?」
「雨月君かぁ……じゃあ『うーちゃん』だね!」

 あ……、彼の一番弱い所を響かせたのでは?と気になったのはその通りになってしまう。

「ひっく……ひっく……びえぇええええええんーーーん!や、やなのーーー!」

「え?やだ……どうして?」

 突然泣かれたので女性社員たちはどうしていいのかわからない状態。
 この状況はある意味諭すのにいい場面かもしれない。
 役立てることにしよう。

「雨月君はね、子供扱いされる名前の呼び方が嫌なんだよ。愛称呼びより本当の名前で呼ばれるのが好きな子なんだ」

 名前呼びの方が好き……そう、これはきっと……
 やはり……なのか?

「あ……そうなのね!ごめんね!そういう意味をちゃんとわかってあげられなくて……」
「ひっく……、もう……いわにゃい?」

 傍にいる女性社員は、あやすのを苦にしない。流石母性本能とでも言うべきか。

「言わないわよ、雨月君でいいんだよね?」
「ひゃい……、ひっく……」
「雨月君が可愛らしいから彼女たちは雨月君のことを愛称を作って呼んでみただけだよ。わかってあげてくれるかな?」

『うーちゃん』呼びで毎度毎度泣かれたら、星野君が困るだろう。そこの所はしっかりと教育するべき……だよな。

「……」

「本当にごめんね!雨月君」
「……うん、わかりゅ?……うん、わかりゅ……」

「はいはい、その辺で話はやめときな。雨月君っていうんだね?オムライス出来たわよー。夏川さん、特別にサラダとスープも付けといたから」

「花江さん、ありがとう」

 私は片手でオムライスのトレーを一つ取った。
 もうひとつは後で取りに来よう。

「は、……はなーちゃ、おむらいちゅ!あーとー!」

 私が呼んでいるのを聞いてちゃんと名前で呼ぼうとするところなんか、名前に執着しているのは否めない気がする。

 気のせいであって欲しいのだが……
 そうはいかないと……いいたいのかい?

 彼に気づかれないようにため息をつく。
 そう思ってしまったのは、雨月君の爪の色を見てしまったからかも知れない。

「どういたしまして!温かいうちに食べてね!」

「はいなのぉー!」

 元気いっぱいに答える雨月君をせつなく見つめてしまった。
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