私が拾ったのは子猫なんですけど!そして私は男じゃない!

わらいしなみだし

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仕事が手につかない!

212 社長登場!

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 隣の席の渡辺さんが丁寧に私の代わりに辞退してくれた。

「今日はこの調子なんで、無理っすよ。今川さん。明日か明後日にでも如何ですか?」

「えー?せっかく誘ってくださったのにぃ?こんなチャンスは……」
「美樹ちゃんは今日は早く家に帰らなきゃ……ダメでしょう?」
「今川さんならこの状況だからわかってくれますよね?」

「そうだね……弱っているところを狙うほど、ゴミじゃないんで……退散するよ。ところで星野さん、書類どうなってる?」

「え?ええっと……ちょっと来て貰えますか?」

 私は自分のパソコンに打ち込んでいる書類内容の画面と渡された書類を見せた。

「ここまで出来てるんだね?その上分かりやすくなっているし、彼女がミスしまくっていた数値の表もほぼ完璧じゃない?明日、彼女が戻ってくるからその時に全部引き上げるね。明日朝にでもUSBに入れといてくれるかな?大変な作業任せてしまって申し訳ない。御礼も兼ねて明日、宜しく」

「そうですか……よ、よかったぁー!」

 つい本音が出てしまい、からだを机に突っ伏した。
 大きな安堵が押し寄せてくる。
 この作業土曜日までする予定だったから本当に解放されると思うと嬉しさが込み上げてくるんだもの。

 隣でクスクスと笑う声が聞こえてその場所に今川さんがいるのを思い出した。

「ご、ごめんなさい!」

 私はガバッとからだを真っ直ぐにしてすぐに謝った。

「いいよ、こんな大変なものを押し付けてしまったのは俺の方だし」

「わかってるじゃん。だったらさっさと営業に戻りなよ」
「お茶、お出ししましょうか?もう少し油売ってもいいんじゃあ……」

 渡辺さん、美樹ちゃん、せめて意見一致させようよ?

 なんて思っている時に佐伯さんが総務課に戻ってきた。
 佐伯さんのことなんか総務課の社員は全員忘れていたと言ってもいい。

 だって、出掛けていった先も言わずに無言で出ていったんだもの。
 「逃げたな……」って皆、内心思った筈なんだよね。

「佐伯さん、遅すぎですよ!」

 渡辺さんは非難するのも束の間、総務課に入ってきたのは佐伯さんだけではなかった。

 佐伯さんの後ろにいたのは……この会社の……社長だった。

「しゃ、社長?!」

 皆、吃驚した様子で次々に呼んでしまう。

「夏川が無断欠勤だと聞いてね……ちょっと皆いいかな?」

 総務課の皆は仕事中の手を止めて社長の方を向く。
 今川さんはそーっと総務課から出ていくのを目の中で見届ける。
 最後に見えたのは軽く手を振っていた。

「夏川の居場所はわかったから安心してほしい。ただ、暫くは動けないらしいので休ませることにした。もちろん自宅には戻っていない。でも場所は教えるわけにはいかない。仕事の件だが……明日から夏川陽愛さんを臨時で雇用することになった。夏川が戻ってくるまでの間数日間だけだ。彼女は総務のことなら熟知してるから安心して仕事に取りかかってほしい。以上だ」

 ……え?!ちょ、ちょっと……
 ま、待って!

 居場所がわかるってことは雨月の居場所もわかるってこと?
 雨月は一緒じゃないの?
 一緒だとしてもまだ会えないってことなの?

 どういう……こと……なの?

「あ、あの……しゃ、社長……」

「何か質問があるのかな?あ、君は……」

「星野と言います。夏川上司……昨日私の遠縁の男の子を連れて行ったんです……。あの……一緒にいるんでしょうか……?」

「ごめん。そこまで聞いてないんだ」

 そ、そんな……

「んーそうだな。今日はもう連絡は取れないみたいだから明日にでも確認してみるよ」

「私がそこへ迎えに行くことは……」
「悪いけど不可能だね」

 ピシリと言い切られた。
 
 その言葉があまりにも冷たく突き放されたようで頭を叩きつけられたような気持ちになってしまった。

「詳しいことは私も知らないんだ。ただ居場所がわかったことと今は動けないことは確認した。戻ってくるまで数日かかるらしいってことも判明してる。ただ、詳細は聞かされていないし、聞いたとしても言える立場ではない」

 言える立場ではないって……いったいどういうこと?

「仕事に支障が出ているみたいだから夏川陽愛さんに臨時で職務についてもらえることを快諾してもらった。以上。では私は仕事があるので」

 私の真っ青な顔を見た社長は私の肩に軽く手を乗せて耳元で呟いた。

「大丈夫だよ……数日、待っていてあげて……」

 大丈夫って……なにが大丈夫なのですか?
 数日って……何日のことなのですか?
 待っていてあげて……って誰を待つっていうのですか?

 いったい、何を知っているというのですか?

 暫く固まっていた私。

 聞かなきゃ!
 ここで聞かなきゃ……雨月のことがわからなくなっちゃう?



 我に返って慌てて顔を上げたときには社長はとっくに立ち去っていたのでした。


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