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舞台1ー35

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 精を放出し快感に仰け反る伊久を見て観客が歓声をあげる。

 今日一番の大歓声となった。
 伊久の艶かしい見姿に欲を吐き出す者達がそれぞれ快楽の波にのまれていく。
 精独特の臭いがあちこちから放たれる。
 最前列の客達はだけでなく、他の客もあちこちで自分の手を汚していた。

「お前等、この正の手で初めてヤられた伊久の初出しだ!安く買うんじゃねーぞ!」

「おおおー!」
「は、はじめてだったとは……」
「さ、さすが正さま、手だけで伊久殿をあれほど淫らにするとは……」
「こ、これは値が上がるぞ!」
「伊久殿の初物はもうこれしかないのでは?」
「す……すげぇー!」

「佐良、初出しの肌襦袢を客達に広げて見せながら上手かみての端に形よく置け」

 舞台端にいる見習いの佐良に言いつける。

「は、はい!正にいさま!」

 まだ十もいかない佐良だが、てきぱきと肌襦袢を両手でいっぱいいっぱいに広げ客席によく見えるようにしながら舞台の端まで歩いて言われた通りに肌襦袢を置いた。
 
 佐良のからだはまだその精を知らない。
 その臭いを嗅ぐだけでなんとも言えない気持ちにさせられるのだ。

 舞台端からいつも見る兄弟子達の演舞……

 キラキラと輝いてその上知らない妖艶さが伴って……。

 密かに佐良はこの舞台に立つことを憧れの眼差しで見つめていたのだ。

 本当の現実を知らずに……。

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