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ボランティア二日目、浴衣を着て現れた薫と平の姿に、雅と俺は頭を抱えた。ですよね、と、未来と光臣が静かに頷く。初日を終えた時点で、浴衣を着るのが楽しみだとはしゃいでいた姿を思い出し、嫌な予感が当たったことに肩を落とす。浴衣の上にボランティアのはっぴを着てきた姿を目の当たりにすると、頭痛がするというものだ。自治会の人達も苦笑いかと思って見ると、全員は困るが二人くらいなら、お祭りの雰囲気が出てきて良い、と高評価だった。更には、二人の容姿とスタイルも宣伝になるから、と、地元のホームページ用に写真を撮られる始末。寛大にも程がある。
祭りが始まり一時間、すでに迷子が四人。雅の実家から連れてきた雑種犬こんぶの活躍で、泣き止ませる事は簡単だったが、自分の名前を言える子も居れば言えない子も居る。放送で呼び出したとしても、特有の騒音の中で親の耳に入るかは不明だ。親を探すのはまだやれる。しんどいのは子供を探す方だ。放送を聞く余裕もここを訪ねる知識もない相手は、不安から動き回るのは想像がつく。昨日程は出ないでほしいな。
「幸慈ー、野菜切ってくれ。後、焼きそばの麺って余裕ある?」
何故か自治会の出店が今年は人気らしく、昨日の様子を見て、急遽材料を買い足したが、明日には更に補充が必要になるかもしれない。材料の入っている段ボールの中身を確認して、現段階での販売数から今後使う量を予想する。
「んー、麺は大丈夫だが、野菜が心もとないな」
「了解。光臣、未来、悪いが集会所から焼そば用の野菜取ってきてくれ。焼そば用って書いてある段ボールに全部入ってるから、段ボールごと持ってきてくれると助かる」
「「はーい」」
「こんぶ、ボディーガード宜しく」
「ワン!」
最後の迷子が両親と帰る後ろ姿を見送っていたこんぶは、雅の言葉を理解したのか、光臣の隣に並んでゆっくりと尻尾を振った。犬の十二才は人間でいうと高齢者と同い年と聞いたが、こんぶの動きは老犬とは思えない。二人と一匹を見送って、俺はキャベツを切ることにした。
「ありがとうございました!さて、迷子も居なくなったな。薫達は見回り担当にしてやるから、ついでに俺達の飯買ってこい」
「やったー!千秋、何食べる?」
雅の言葉に薫は素早く平に抱き付いた。
「薫の好きなりんご飴あったよ」
いつ見つけたんだ。
「りんご飴!食べたい!」
「俺らの分忘れるなよー」
二人の世界に入った状態で、どれくらい耳に届いているのか疑問だが、せっかく浴衣を着て来たんだ、昨日みたいに旅行感ゼロでは気の毒というもの。雅もそれを考えて二人を見回り担当にしたんだろう。
「雅ちゃん、ソースある?」
「お、環奈が来るなんて珍しいな。いつもお袋さんが取りに来るのに」
自治会テントに来たのは、手にソースが入っていたであろう空の容器を持ち、黒い髪を頭の上で丸く纏めた姿勢の良い女の人だった。女の人の後ろに男の人が並ぶのを見て、恋人だと判断した雅は腕を組んで楽しそうに笑う。
「さては彼氏とデートするための口実か」
「まぁねー。パパには秘密にしてるから黙っててよ。焼そば買ってあげるから」
「そりゃどーも」
作り置きしてある方ではなく、新しくパックに入れて渡そうとする辺り、雅の優しさが覗き見える。
「キャベツ多すぎない?」
「うるせぇ客だな」
「口悪い店員ね」
二人のやり取りに苦笑しながら、切った野菜をボウルに入れ、使ったものを水洗いするためにテントの裏へまわる。蛇口を捻って洗い物を済ませテントへ戻ると、何やら口論している様だった。五分もしないで口論が始まるのも田舎の成せる技なんだろうか。
「ソースが付いたって言ってんだよ。弁償しろや」
「ぶつかってきたのそっちでしょ。それに、服のどこにソースが付いてんのよ。むしろ私の服に付いたんですけど」
喧嘩を買っている所は、さすが雅の知り合いと言った感じだ。手に持っていた物を簡易テーブルに置いて、雅の右隣に早足で並ぶ。何事か聞くと、雅はニッコリと笑顔を作って俺にヘラを渡してきた。
「テメェ等、そういうのまだやってんのか?」
「あぁ?んだテメェ、なんか文句……兄貴!帰って来てたんすか!言って下さいよ!」
兄貴?
「ごめんな、環奈。これ、自称舎弟共で俺の知り合い。金は要らねぇし、お好み焼きもサービスすっから持ってって。ちゃんと教育しとくからさ」
雅の言葉を聞いて、鉄板の上にあったお好み焼きをパックに入れる。二人分をビニール袋に入れて彼氏の方に渡す。そろそろ作らないと数が無くなってきたな。
「ソースも多めに貰えたから良しとするわ。ちゃんと教育しといてよ」
「「「「すみませんでした!」」」」
その態度の変化はなんなんだ。姿勢を正して見事な直角で頭を下げる自称舎弟四人の姿を見て、雅は項垂れた。ここでも気苦労が絶えないのは大変だな。お好み焼きの生地を鉄板の上に乗せながら、励ましの言葉を考えるが出てこない。
「あれは俺の従姉で隣は彼氏。顔覚えとけよ」
「「「「はいっ」」」」
「こっちは多木崎幸慈。後で今居ないも二人紹介するから」
二人?今居ないのは四人だが、内二人とはすでに面識があるということか。まぁ、消極方で考えて、薫と平が顔見知りって所だな。
「「「「幸慈兄貴!宜しくお願いします!」」」」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
自称舎弟四人組、で、覚えれば良いのかな。
「右から、坊主、野菜、魚、干物」
人名じゃないように聞こえたのは気のせいだろうか。
「服に書いてあるから解るだろ」
確かに書いてある。手書きで。どうやら気のせいでは無いらしい。
「何で喧嘩売ったんだ?」
「ぶつかった時に相手の服にソースかかったの見えて、怖くなってガンつけちまいました」
小心者と判断するべきなんだろうな。でも、小心者は喧嘩を売らないから、少し違うか。
「普通に謝れよ。和解出来なかったら自治会テントに来い。その為の俺等だ」
「うっす!」
「さすが兄貴!」
「カッケーっす!」
「勉強になります!」
何を勉強してんだか。
「雅、未来に連絡してお好み焼き用の玉子と豚肉も頼んでくれ」
「ん?あー、確かに残り少ないな。電話しとく」
「助かる」
こういう時に携帯が無いのは不便だな。でも、今みたいに頼む事を選択肢の一つにすればそうでもないか。お好み焼きをひっくり返し、隣のスペースに玉子を割って落とす。黄身と白身を軽く混ぜて少し焼く。
「スゲー!片手!」
「幸慈兄貴カッケー!」
カッケー、の、レベルが特殊で面白い。しかし、この四人は何でまだここに居座ってるんだろうか。雅からの言葉がないと自分で判断が出来ないのか、と、考えて、本当にそうなら、可哀想と羨ましいのどちらを彼等に向けるべきかとも考える。玉子の上にお好み焼きの生地を乗せ、煙の向こうへと視線を向けて、息を吐く。
「ご注文は?」
「あそこで電話してる子」
「悪いが、人間は売ってない」
「マジか。仕方ねぇ、直接交渉するか」
何でここが?とは聞かないでおこう。ホームページに写真が乗るかもって言ってたし、平が言わないにしても、尾行は好まないが調べる事は出来るだろう、と、そこまで考えてサービスエリアでの事を思い出す。妙な視線や動きを捉えることがあったが、あれって……。
「出直すってのは?」
「ここまで来たのにか?バーカ、んな事するかよ」
だよな。
「わー、舎弟達だー!今年も律儀に問題起こした?」
思ったより早いな。やはり顔見知りだったらしく、薫と平に向かって舎弟四人は頭を下げた。
「「「「うっす!薫兄貴、千秋兄貴、お久しぶりっす!」」」」
「うっす、じゃねぇだろ……うっわ、出た面倒事」
俺の前に立つ神川を認識した雅は、心底嫌そうな顔をした。
「めちゃくちゃ嫌そうな顔して言うんじゃねぇよ」
そう言う神川は相変わらず楽しそうに笑って、手に持ったビニールを揺らしながらテントに入ってきた。
「兄貴の知り合いっすか?」
「兄貴?」
野菜と書いてある服を着た舎弟の質問に大和は首を傾げる。
「舎弟達は昨日来なかったけど、今日は客?パシリ?」
「「「「今日は兄貴のパシリっす!」」」」
平の質問に舎弟四人は声を揃えて答えた。
「ほぉー、おもしれぇ事になってんじゃん」
「なってねぇ」
文句を言いながらも、神川からの差し入れを受け取る所はちゃっかりと言うか、なんと言うか。
「ワン!」
「おっ、お帰りこんぶ。ボディーガード……したわりには、なーんか増えてねぇ?」
光臣の後ろに、焼そば用と書かれた段ボールを持った檜山の兄弟の姿を見て息を吐く。確かにボディーガードとしての仕事はしてないな。
「イッテ、ちょっ、わかったって。ちゃんと仕事出来て偉かったな。偉い偉い。うっは、ちょっ、たんまっ」
褒めてくれと、雅に飛び掛かって上に乗り、顔を舐めるこんぶは、尻尾をこれ以上ないくらいに振っている。なんの気無しに神川に視線を向けると、雅に向かって携帯を構えていた。見たことのある様な、経験したことのあるような、複雑な光景に深く息を吐く。こんなに知った顔が来るってことは、そういう事だろうな。
「雅、大丈夫?」
光臣がこんぶをなだめて雅から離して座らせる。体を起こした雅はこんぶの頭を撫でながら光臣に礼を言う。
「な、なんとか。葵、段ボールはあそこの下に置いてくれ」
「はいはい。全く、光臣にこんな重いの持たせようとするとか、信じらんねぇ」
「そ、その言い方は、駄目、です」
文句を言いながら段ボールを置く檜山の兄弟の言葉に、光臣は珍しく厳しい言葉を言った。檜山葵に向かってちゃんと怒れるのか。
「ごめんね。嫌な言い方した。少し八つ当たりし過ぎたね」
「……い、言わなかったのは、ごめんなさい。でも、俺もちゃんとやれるって、大丈夫だって知ってほしくて」
そうか、光臣は過保護に接してくる相手を、自分に縛り付けさせないように、今回のボランティアに参加したんだな。やっぱり、光臣はすごい。ちゃんと向き合うべき相手の事を考えてる。それが上手く伝わらない時も、投げやりになる事はしないで、耐える事を選ぶ。言葉を重ねて、伝わるまで何度も声にするだろう。
「知ってるよ。それでも、傍で支えたいし助けたい。俺の気持ちも少しは解って」
檜山の兄弟の言葉に光臣は、少し寂しそうに俯く。光臣はその気持ちを理解している。それが相手には伝わっていない。信じて待っていてほしかったのに。光臣からは、そんな声が聞こえてきそうだった。光臣の可能性が摘み取られているように感じたのは、俺だけじゃないと思いたい。
「光臣も葵もありがとうな。で、未来は?」
確かに帰ってこない。
「もうすぐ帰ってくると思うよ」
お好み焼きをヘラで半分に切って、鉄板の隅に並べる。光臣の曖昧な反応を見ると、俺に会わせないために頑張ってくれてるんだろう。
「坊主、魚、幸慈と店番変われ。焼そばとお好み焼きは毎年作ってるから出来んだろ」
「「ウッス!」」
「野菜、干物、設置してるゴミ箱のゴミ袋変えてこい。袋はそこにあるやつ使え。ついでにゴミ拾いもしてこい」
「「ウッス!」」
テキパキとした動きで二人はテントから出ていき、もう二人は俺と店番を変わった。初対面の印象は悪かったが、こうして関わってみると、根は素直なんだと解る。俺の周りは昔からずっと、好奇心や拒絶、蔑みや同情の様な扱いばかりで、雅みたいな人間関係は考えられなかった。これが毎日続くのは疲れるし大変だと思う。でも、俺には触れることすら出来ない世界が目の前に有ることが、少し羨ましとも思える。それでも、欲しいとは思わない。
「幸慈何食べる?」
薫に差し出されたビニール袋とその中身に素直に驚く。
「すごい量だな」
「せっかくのお祭りだからね。ある程度は制覇したいって思うのは当然でしょ」
制覇、とは、食べ物の事だろうか。
「二人は?」
「俺と千秋のは別で買ってきたから平気」
薫の言葉に、平が持っていたビニール袋を見える様に少し持ち上げる。
「かき氷とかバナナチョコは先に食べたけどね。光臣ー、イチゴ飴あるよー」
薫はビニール袋からイチゴ飴を取り出して光臣の手に持たせる。
「りんご飴以外にもあるんだね」
「りんご飴も大中小ってサイズがあって、俺は中にした。幸慈はチョコクレープで、雅はベビーカステラ、未来はわたあめ……って、未来遅くない?おやきと肉巻きおにぎり冷めちゃうじゃん」
「たこ焼きとフランクフルトもね」
どんだけ買ってきてんだか。手に持たされたチョコクレープの存在に、最後に食べたのはいつだったかと暢気に考える。
「あ、お金返す」
「駄目!縁の切れ目はなんとやら。ここは俺と千秋の奢りって決まってるの!」
「千秋の、だろ」
不貞腐れた薫は雅に向かってベビーカステラの袋を投げ付ける。食べ物を投げるのは駄目だろ。
「俺達のは共有財産なの!」
平にしがみついて言っても効力がない。気にせずイチゴ飴を食べる光臣を見る限りだと、いつものやり取りだと解る。そろそろ未来を迎えに行かないとな。そう思ってクレープを一口齧ると、平の携帯が鳴った。それに出た平は、ゆっくりと俺に視線を向けて携帯を差し出してくる。時間切れか。受け取った携帯を耳に当て、ノイズのように聞こえる未来と檜山の声に息を吐く。
『多木崎?』
「未来だけを連れて帰るのは難しそうだな」
『まぁ、その……保護者付きなんだ』
「……は?」
何故保護者までもが関わってくるところまで、事が重大になってるんだ。未来か?鹿沼か?出所が色々有りそうで答えにたどり着かない。いや、一人簡単に教える人物が居るじゃないか。その場で頭を抱えてしゃがみ込む俺の左に、薫が同じ様にしゃがむ。
「幸慈、何かあった?」
「いや、ちょっと、思ってたよりも大事に……」
「大事?」
絶対に母さんだ。未来の家に泊まって、そのまま祭りに行くことを伝えたのは未来の両親以外に母さんしかいない。伯父さんに母さんの事を頼んだから、多分家に顔を出してくれてるはず。それをボディーガードが見て、檜山の保護者に連絡していたなら、母さんを心配して何かしらの方法で接触した後、今日の祭りの事を知ってここまで出向いてきた。そう考えるのが妥当だ。にしてもオマケが多すぎる。
「ジジイが来てるって話だろ。大したことねぇよ。やらかしたの一人だけだし」
どうでも良いという思考を持ってるのは知ってるが、今日は放置を決められても困る。
「えっ!お、お、お家の人、き、来てるんですか!?」
「来てるよー。あ、もしかして、お嫁に来ますーって挨拶してくれるのー?」
「ししし、し、しません!」
全力で否定してるな。
「なんだ、ガッカリ」
「心の底からガッカリしてる場合かよ。他の客の迷惑になったら怒られんのボランティア含めてこの場に居る全員だぞ」
確かに。神川の正論に頷く俺と雅は、危機感なく薫からもらったおやつを食べる。
「ボランティア……この場の全員……ちょっと黙らせてくる」
「「いやいやいや」」
ボランティアの中に光臣が含まれていると理解したのか、苛立ちを露にした檜山の兄弟を薫と神川が止めに入る。
「ここで喧嘩したら、祭りが台無しだろうが」
「そうだよ!皆楽しみにしてたんだから!ね、光臣!」
薫に意見を求められた光臣は、寂しそうにうつ向いた。
「う、うん。喧嘩は、嫌だな」
「はーい」
「「(チョロい奴)」」
光臣が居てくれて良かった、と、その場に居る全員が思った。
「ようは、ボランティアとバレる前に片せば良いんだな」
いつの間にかボランティア用のはっぴを脱いでいた雅は、こんぶの背中にそれを被せて、両手を腰に当てながら問題事が待っているであろう方へ目を向ける。
「「さすが兄貴!カッケーっす!」」
「行くぞー、こんぶー」
「ワン!」
「雅ー、この時期にタンクトップは風邪引くぞー」
右腕を回しながらテントを出て行く後ろ姿を見送りながら、神川が当然のように付いていく姿に、薫が再び俺の横に座り込み首を傾げる。
「教えてないって言ってたのに」
薫の言葉に頷く平は、俺と薫の前にしゃがみこんで声を抑えて喋り出す。
「照れ隠し?」
「雅に限ってそれはない」
薫の言葉に俺は何度も頷く。
「(オマケに関しては)やっぱり尾行としか」
「尾行?」
薫は平ばっかり見てたから気付いてなくても当然か。
「ホームページで見つけただけじゃない?(やっぱり気付かれてたか)ねぇ、電話、繋がったまま」
忘れてた。
「鹿沼、今そっちに雅と神川が行ったから、未来に頼んでたやつを持ってきてくれ」
『解った』
必要最低限の事だけ伝えると通話が終わった。しかし、雅と神川はどう話し合いをしてくるつもりなんだろうか。悩む俺に薫はフランクフルトを差し出してきた。それを受け取り一口食べながら、何故か檜山と初めて会ったときの事を思い出す。タコウインナーなんて、切れ目入れて焼くだけなのに。
「光臣ー、たこ焼き食べよー」
ビニールを揺らしながら光臣と檜山の兄弟の所に行く薫を追わない平の視線は、俺に注がれていた。
「で、何があったの?俺相手なら言えるんじゃない?」
言わないと駄目なやつか。
「雅からメールがあった日……」
なるべく簡潔に物事を伝えた俺は、立ち上がってフランクフルトを一口齧る。誰に話したところで気持ちは楽にはならない。本当に、俺の中の根本的な部分の問題なんだろうな。平も立ち上がり、呆れた様に息を吐く。
「クズだと思ってたけど、ここまでとは。あぁ、今の発言は茜に対しての世間一般とか、個人的感情を持った人の気持ちを配慮してない事を前提にしてるから、重く捉えそうなら受け流して構わない」
「いや、その通りだと思う」
クズなのは最初から知っている。最初から、は少し違うな。でも、まともな人生を送ってこなかったのはすぐに解った。水を被ったのはあの時が初めてだったからな。あの後も個人的な理由で色々連れ回されたし、服は捨てられるし、風邪も引いて怪我もしてと散々な事ばかり。
「何であんなのと関わってるんだろう」
「それ、もっと早くに疑問に思うべきじゃない?」
「返す言葉もない」
全くもってその通りだ。簡素化した関係を望んでいたのに、何故かこんなにも歪になってしまった。修復するべきか。でも、どの形に?壊したとして、その先は?
「先、を望んでないくせに。中途半端に引っ掻き回すのは止めろ」
見透かしたみたいな顔をして、俺の横に来て嘲笑う檜山の兄弟の姿に眉をしかめる。何でこんなに嫌われないといけないんだ。
「それとも、望んでる?」
先を、か?馬鹿げている。
「そっちだって望まれてないくせに」
胸ぐらを掴んできた右手の動きは早く迷いがなかった。それでも、避けようと思えば出来た事をしなかったのは、逃げた、と、言わせない為だ。それを察しているような、苛立ちと殺意のこもった視線をただ見返す。
「葵、光臣の前」
平の言葉に、殺意の背後に怯える光臣の姿を見た俺は、気不味さから軽く謝罪の言葉を口にする。
「本当、何から何まで気に食わねぇ」
そう言って手を離し、テントから出ていった。俺は謝罪したのにオマエは無しで良いのか。
「幸慈、大丈夫!?」
薫が、光臣の手を引いて俺の傍まで駆け寄ってきた。舎弟二人なんて、真っ青な顔をしている。
「不公平だ」
「え?」
「多木崎の方が大人って話」
平は、俺の言葉に首を傾げる薫の頭を撫でて、不公平の理由を簡単に話す。内容を理解した薫は出ていった背中を追いかけようとしたが、それを止めて平に押し付ける。平はすぐに薫をなだめる言葉を口にし始め、沸騰しかけの恋人を落ち着かせた。
「け、怪我は?」
「平気」
安堵の表情を浮かべた光臣は、すぐに俯いてしまった。
「お、俺のせい?」
「檜山茜のせい」
「「だね」」
不安な顔をする光臣の頭を左手で撫でて、大丈夫だと伝える。しかし、また喧嘩を買ってしまった。自分から一度も売ったことがない事を褒めたい。うん、多分ないはず。
「ただいま。ごめんね、遅くなって」
「おかえり。鹿沼も迷惑かけて悪いな」
「いや、もう慣れた」
複雑な返答だな。確かに色々と迷惑をかけてきてる自覚はあるが、改めて言われると重くのし掛かるものがある。
「おかえり未来ー!はい、お土産!」
「わぁー、ありがとう!」
わたあめを受け取った未来は、さっきまで檜山と睨み合ってたとは思えない位に上機嫌だ。
「ボランティアって、浴衣着て良いのか?」
駄目に決まってるだろ。
「俺と薫は歩く広告塔だから」
自治体の人達も、遠くからきたボランティアに、着替えてこい、と強く出れなかったんだろう。雅への信頼があっての事だとは思うが。
「広告塔?なんだそれ。どんなボランティアだか。多木崎、段ボールどこに置けば良い?」
「あそこの下に置いてくれ」
これでしばらくは乗りきれるな。
「未来と鹿沼は休んでてくれ。光臣、下準備手伝ってもらえるか?」
「もちろん!」
鹿沼とテーブルの方へ歩いていく光臣の背中は、喜ばしい事に弾んで見えた。
「葵さん怒ってたけど、喧嘩買ってないよね?」
未来に小声で聞かれた質問に肩が揺れた。
「あー、うん……多分」
「買ったんだ」
「……はい」
肩を落として俯く俺を見て薫は少し声を出して笑う。
「幸慈って、未来には敵わないよなー」
あながち間違ってない。そんなことはない、と、言う未来は普段のやり取りの事を言っているんだろうけど、俺は人として大事な部分の事を言われている様な気がした。
「お邪魔して良いかな?」
背後から聞こえた声に覚悟を決めて振り返ると、檜山兄弟の保護者が立っていた。場違いなスーツ姿に、抱かなくても良いはずの罪悪感が脳を掠め、冷や汗が出る。
「孫二人が迷惑をかけて申し訳ない」
この人と何を話せと言うんだ。光臣なんて緊張して石みたいに固まってしまった。
「い、いえ、こちらこそ、その、御迷惑を……」
かけた覚えがない。
「かけてはいないのだから、謝る必要はないよ」
ごもっともです。
「少し、時間をもらう事は出来るかな?茜の居ない所で話をしよう。被害者と、加害者の親として」
何の話をしたいのか解ってはいたが、実際に言われると息苦しい。
「聞いてよオジィ!葵の奴が幸慈の悪口ばっか言ってんだけど!あんな天使他には……」
勢いよく不満を口にしながらテントに入ってきた檜山は、保護者越しに俺を見付けて固まった。目が合ってしまい、どうしたものかと眉をしかめる俺の前に、未来が守るようにして間に立つ。
「何が天使だ!光臣の方が天使だろうが!」
兄弟喧嘩は他所でやれ。
「悪い幸慈、まさかズボンの生地が切れるとは思ってなくて」
そう言って帰ってきた雅の横を通り抜け、テントに入ってきたこんぶの加えている生地を見て、檜山の足元に視線を向ける。右足のズボンの裾が切れているのを見つけ言葉を失う。こんぶ、その切れ端がいくらすると思ってるんだ。こんぶは咥えていた切れ端を俺の足元に置いて、その場に座って軽く尻尾を振る。こんぶ、何故ここに置く。
「こんぶお利口さんだねー」
未来が上機嫌なのは良いことだが、あのズボンを弁償するのにいくら掛かると思ってるんだ。いつも連れていかれる店の値段を考えても、俺の今の手持ちで足りるとは思えない。いや、そもそも破ったのはこんぶだから、雅の責任になるのか?でも、元々は俺が原因で起こった事に違いはないんだ。出来れば雅に被害がない様に和解を申し出よう。幸い保護者が居るし、上手くいけは分割にしてもらえるかも。
「幸慈くん」
「はいっ」
保護者の呼び掛けに、慌てて伏せていた顔をあげる。
「顔色が悪いが大丈夫かい?服の事は気にしなくて良い」
「でも、すごく高いやつですよね?これ」
足元にある生地を見ると、雅がそれを手に取って燃えるゴミ箱に捨てた。今のやり取りを聞いていなかった訳ではないよな。
「気にしなくて良いって言ってんだから、無視すりゃ良いじゃん」
「「さすが兄貴!カッケーっす!」」
「酒屋の婆ちゃん、腰痛めてるらしいから出店手伝って来い。昨日と同じ場所に出してっから」
「焼きとうもろこしっすね!」
「喜んでパシられてくるっす!」
喜ぶポイントが特殊で面白い。一礼してからテントを出ていく姿は律儀だと思う。
「ま、話すなら集会所だな俺もゴミ捨てあるし、途中まで一緒に行くから、構え過ぎんなよ」
雅の気遣いに、そこまで難しい顔をしているだろうか、と、未来を見ると深く頷かれてしまった。未来が携帯を渡してきたのを見て、保護者と二人で話すことは止めない姿勢でいるのだと解る。
「千秋、戻るまでここ頼む」
「解った。薫、光臣と下準備してもらえる?」
「やった!千秋からのお願い!喜んで!」
薫が隣に立って一緒に下準備を始める光臣の姿は、どこか安堵の表情を浮かべている気がした。一人で居ると檜山の兄弟が世話を焼きたがるだろうからな。平も、それを回避するために薫へ頼んだのだろう。ゴミ袋を持った雅に大和が手伝うと申し出ていたが、見事に断られていた。代わりに俺が一袋持つことにしたが、何故かこんぶが俺のはっぴの裾を咥えて放さない。
「はっぴが気に入ったみたいでさ、俺のも返してくれねぇ始末」
「そうか、なら僕のもこんぶに預けようかな」
「ワン!」
はっぴを脱いでこんぶに渡すと、器用に地面に広げ、その上に寝転んで眠り始めてしまう。
「結構頑張ったからな」
労るように頭を撫でる雅の横顔は、少しだけ寂しげだ。
「こんぶは俺が見てるから、二人は行っておいでよ」
未来の言葉に、雅はゴミ袋を持ち直す。
「悪い。頼むな」
「俺にも頼めよ」
「うるせー」
未来と神川に対する態度の温度差ってどこからきてるんだろう。
「幸慈くん、このテントの裏から出ることは出来るかな?」
「はい。でも、狭くて危ないので、歩きにくいと思います」
「構わないよ。茜の横を通らせるわけにはいかないからね。そのまま、茜を見ずに行きなさい」
「は、はい」
ここまで気を使われると、こっちが加害者の気分だ。テントの裏に出て、保護者が歩きやすい場所を選んで足を進める。付き人の人がいつでも支えられる様に歩いている姿を見ると、やはり檜山の横を通ってでも、整えられた道を歩いてもらうべきだったと後悔した。
「雅はいつから兄貴なんだ?」
「中学の時、こんぶの散歩中に知り合ったんだ。反抗期の終わらせ方を知らないまま戸惑ってるって感じの奴らで、万引きしようとしてる所を止めて、話を聞いて、取り敢えず殴った」
悪いことをしたらきちんと償いをしないといけない、と、いうことを教える為に殴ったそうだ。今思えば、母さんに殴られた事ないな。
「で、そっからなつかれて、自称舎弟四人が出来たわけ。まぁ、アイツ等が地に足つけて、自分の力で歩いて行けるようになるまでは、兄貴でいてやる事にしたんだけど、それが、アイツ等の可能性を減らしてる気もしてさ」
「そんな事はない」
弱気な雅の言葉に、檜山の保護者が落ち着いた声で話し出す。
「君は、あの子達にきちんと役割を与えて、それから先の事は口出しせずに居たじゃないか。何をするかはまだ決められなくても、与えられたそれに対して、どうすれば良いのか考える事が彼等には出来る。それは君が見つけて育んだ可能性だ。それはいつか君の糧と財産になる。自信を持ちなさい。彼等の可能性は間違いなく増えているよ」
「……ありがとう、ございます」
少し俯き、感謝を口にする雅の頬は少し赤い様な気がした。自分の中の不安が晴れ、尚且つ、素晴らしい事だと認められたんだ。照れ臭くても、嬉しい事に変わりはない。この人は本当に不思議な人だ。まるで心の中を知っているかの様な事を言ってくるのに、それが不快にならない。生きてきた時間がそうさせるのか解らないが、誰にでも出来る事でないのも解る。
集会所に向かう途中、ゴミ捨て場の方からボランティアの人が歩いてきたので軽く会釈をする。すれ違いざまに、タバコの臭いがして眉をしかめた。集会所で吸う決まりになっているはずなのに、何故ゴミ捨て場から歩いてきたんだ。それに、ボランティアの顔合わせの時には居なかった人達ばかり。胸騒ぎがする。雅も同じ事を思ったのか、ゴミ捨て場へと視線を向けていた。遠くの一点がチカッと光った気がした後、いくつもの光がその周辺に現れる。
「まずい」
雅は持っていたゴミ袋をその場に投げ捨て、ゴミ捨て場の方へ走っていった。
「雅っ、行くな!すいません、話し合いの場は改めてご用意しますので、今は安全な場所へ避難をしてください。事情は後程お伝えします」
檜山の保護者を付き人に託し、ゴミ袋をその場に残して雅を追いかける。制止の声を背に受けながら未来の携帯で薫に電話をかけ、平に変わってもらい現状を伝える間にも、微かな明かりが近付くにつれて胸騒ぎが現実のものとして目の前に現れた。
「くそ、思ったより火の回りが早い」
目で雅を探すと、ゴミ捨て場近くの備品庫のドアが開いているのを見つけて中を覗く。雅の姿に安堵した俺は、手元の消火器に気が付いて安堵する。この勢いでどこまで時間稼ぎが出来るか解らないが、無いよりは良い。
「消火は僕がやる。雅は平に状況の説明を頼めるか?今繋がってるから……」
「駄目だ」
「駄目って、何で?……これって」
改めて手元の消火器を見ると、既に栓は抜かれていて、使用済みの状態だった。
「今朝確認した時は未使用だったのに。窓も外されてた。立て付けが悪かったから、簡単に外されたんだと思う」
見回す限り外された窓はない。外に置かれたままか、持ち去られたか。さっきすれ違った奴等が一番怪しいが、証拠がない。消火器も持ってなかったし。
「誰がこんな事、何の為に」
悔しそうに歪む雅の表情に目を細めながら、他に消火器が無いかと探したが、当然見当たらなかった。朝未来と確認したときは三本あったのに。事前に何度か下見をしていた可能性もあるが、今は犯人探しより消火が最優先だ。
「雅、近くに川とか、他の消化設備は無いか?」
「備品庫の裏に蛇口が二つある。ホースかバケツがあれば……」
雅の顔色が悪い。呼吸も不規則だ。微かな焦げ臭さと、物が燃える音がする。早く鎮火しないと雅への負担が大きくなってしまう。携帯を雅に預け、備品庫の中にあるはずのホースとバケツを探す。確か、未来が上の方にあったのを朝確認してたはず。棚上の奥にバケツを見つけて手を伸ばすが、後少しが届かない。
「これ、足場に出来ないか?」
「助かる。ありがとう」
雅が見つけて勧めてくれた木箱に乗ってもう一度手を伸ばす。取ったバケツには、幸いなことに穴は無く、問題なく使えそうだ。木箱から足を下ろすと、ガラスを失った窓枠目掛け、外から火花が飛び込んできた。左手に走る熱さに気をとられ、バランスを崩した俺を雅が手を伸ばし支えてくれたが、そのせいで雅の目は窓の外に向いてしまう。
「駄目だ!見るな!」
子供の頃の事がフラッシュバックし始めた雅は、その場に崩れ落ちて体を抱き締める様に丸くなった。俺は手にしたバケツを床に放って雅の体を抱き締める。荒い息と震える体に、どれ程の恐怖心を圧し殺して備品庫にきたのかが解る分、ここに来させてはいけなかったと、後悔が身体中を走る。くそ、あの時保護者に伝えるよりも先に、雅の手を掴んで止めるべきだった。
「雅!」
備品庫に駆け込んできた神川は、雅を見て素早く近くに腰を下ろす。俺から雅を奪うようにして、その体を抱き締めこっちを鋭く睨む。
「何で止めなかった!火事を前にしたらどうなるか知ってたろうが!」
俺を責める言葉に、何も言い返せなかった。その通りだ。俺がきちんと止めるべきだったのに。
「違う……幸慈は止めた。責めるなら、俺だけにしろ」
雅の掠れる声に、俺の罪悪感は深くなる。
「また幸慈かよ……何でだよ」
「大和っ、早く集会所行け!これ以上白井を留めるのは良くない!」
「解ってんだよ!そんなことは!」
鹿沼の言葉に神川は苛立ちを露にして、雅を抱き上げて備品庫から出ていく。
「あんな大和初めて見たな」
恋人ごっこ、は、きっと雅だけだろうな。神川は本当に雅が好きで、少しでも傍に居たくて、恋人ごっこなんてものを提案したんだろうから。
「鹿沼、裏に蛇口がある。少しでも消さないと」
「問題ねぇよ」
鹿沼の言葉にゴミ捨て場へと視線を向けると、自治体の人達が消化活動を始めていた。その中に消火器を持った檜山を見つけて息を吐く。大人しくするって事を知らないのか。ゴミ捨て場の屋根から花火が一つ上がったのが見えて、目を凝らすとまだいくつもの花火が置かれているのが解った。さっきこっちに飛び込んできたのは花火か。火が屋根までたどり着いたら、もっと大きな被害が出るのは確実だ。
「檜山っ!」
俺が名前を呼ぶと、檜山は目を輝かせたてこっちに顔を向ける。
「この状況下で喜んでるぞ」
頭を抱えながら鹿沼の言葉に同意した。
「屋根にかけろ!花火がいくつも置かれてる!引火させるな!」
「りょーかい!」
「笑顔だな」
「言うな」
花火の存在を確認した檜山は、自治体の人達へ話し掛けながら屋根へと消火器を向ける。
「うん、やっぱり多木崎なんだな」
「?」
鹿沼の言葉に首を傾げる。
「アイツが笑えるのは、多木崎がいるからなんだなぁって」
檜山を見てしみじみ言う鹿沼の言葉に、更に解らない、と、眉をしかめる。
「アイツ、笑い方が解らないって言って、どうやって笑顔を作るのか聞いてきたんだ」
予想してなかった言葉に驚き、瞬きを繰り返す。
「いつも、ヘラヘラ笑ってるじゃないか」
「あぁ。だから、多木崎が居ないと笑えないんだなぁって」
そんなことを言われても、俺に何かが出来る訳じゃない。俺のせいだ、と、神川の様に責めてくれた方がまだ楽だ。雅は大丈夫だろうか。
「白井の事は大和に任せる事にしようぜ。あれでも恋人なんだし」
「あ、あぁ、そうだな」
偽物だと言えないのは、雅との約束だからでもあるが、神川への後ろめたさも含まれているからかもしれない。雅の手から落ちた未来の携帯を拾って、通話中の画面に肩を落とす。
「俺が話す」
「悪いな」
鹿沼に未来の携帯を渡し、平とのやり取りを頼むと、人影が近付いてくるのが見えて目を凝らす。
「幸慈くん、遅れてすまない」
檜山の保護者が現れて、避難していなかったのか、と、焦った俺を鹿沼が冷静に宥める。
「いや、むしろ自治体に的確に指示を出してくれたお陰で、早くに対応が出来たんだ」
「そうだったんですか。ご迷惑……」
謝罪しようとした俺を右手で制して、言葉を切った保護者は柔らかく笑う。
「前にも言ったが、私は幸慈くんから謝罪の言葉を聞くつもりはない」
こんな時に謝罪以外の言葉が必要とは思えない。頭を掻きながら悩んだ結果、場違いな言葉を口にする事にした。
「えっと……自治体の人を呼んで下さって、ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
場違いなやり取りに気まずさから目を反らすと、保護者は俺の左手を取った。
「あぁ、大変だ。怪我をしているじゃないか」
そう言って保護者は俺の左手の甲から手首に触れて、眉をしかめた。ピリッとした痛みが走って、怪我の存在を知る。言われるまで気が付かなかった。さっきの花火だろう。熱かった覚えがある。火傷は大した事ないだろうから、平気だと伝えたが、強制的に集会所へと連行される事になった。雅の様子も気になっているから問題はないが、神川が近寄らせてくれるだろうか。それに、祭りはどうなるんだ。中止になったら沢山の人が残念がる。楽しみにしていた人達の事を思うと、居たたまれない。集会所に着くと、未来が駆け寄ってきて、俺に抱き付いた。その背中を両手で三回軽く叩いて宥める。
「ただいま。心配かけてごめん」
腕に少し強く力を入れて三秒程しがみついた未来は、ゆっくりと体を放して俺と鹿沼を交互に見る。
「二人とも怪我してない?」
「多木崎が少し火傷してるから、早く冷やしてやってくれ」
「火傷!?どこ!?早く来て!」
鹿沼のやつ、未来に言うと必要以上に騒ぐって解ってて言ったな。鹿沼を睨み付けながら、未来に手を引かれて縁側へと連れていかれた。縁側に着くと、座布団を枕にして眠る雅の姿があって急いで近づくが、傍にいた神川に睨まれて足を止める。どこに居ても、嫌われものにしかなれないんだろうか。何を今更残念がっているんだ。嫌われるなんて、俺にとっては日常じゃないか。
「神川さん、救急箱取ってもらって良いですか?」
「救急箱?あーっと、これか……ほれ」
「ありがとうございます。ほら、幸慈、ここ座って手出して」
未来に言われても、素直に縁側に座ることが出来なくて、刺されるような痛みを訴える左手を後ろに隠す。
「大した事じゃない。放っておいても問題ない程度だから、大袈裟に構えなくて……」
「そんな訳にはいかない」
檜山の保護者に左手を掴まれて、痛みから眉をしかめ息を止める。正直、かなり痛い。
「さっきよりも腫れているし、赤みも増している。少し動かすだけでも痛いはずだ。それを強がったところで誰の為にもならないよ」
「……すいません。あ、また謝罪を、えっと、あの、本当にそれしか出てこなくて」
「幸慈の事、心配してくれて、ありがとうございます」
そうか。そういう言葉もあるのか。
「手当ては私がしよう。茜と葵で慣れているからね。香山くんと鹿沼くんは、テントの皆に状況を伝えてきてくれないかな?火事も大事にはなっていないから、祭りは最終日まで続ける事も加えてくれると嬉しいんだが」
「本当ですか!?皆喜びます!幸慈、大人しくしてるんだよ」
大人しく。いつもそうしてるつもりなんだが。
「返事」
「はい」
未来にはそう見えないらしい。まぁ、大人しくしてたらこんな怪我してないか。離れていく未来と鹿沼の背中を見送りながら、短く息を吐く。
「さて、改めて見せてもらえるかな」
「はい」
保護者は俺の手を取って火傷の具合を見た後、掌や足に怪我がないかも見てくれた。
「手にも擦り傷があるね。指先も少し出血しているから、瘡蓋になるまでは乱暴に動かしてはいけないよ。瘡蓋になっても完治したわけではないから、無理はしないように。んー、木くずが刺さってる様子はないな」
言うことが病院の先生みたいだ。
「それと、右足を痛めているんじゃないかな?」
的確な指摘に苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
「敵いませんね」
「やんちゃが二人もいると観察力も身に付くものでね」
なるほど。ということは、俺もやんちゃに入るのか。それは悲しいな。
「足は少し腫れているから、先に何か冷やすものを用意させよう」
保護者は付き人に頼んで冷やすものを取りに行かせる。
「救急箱の中身はきちんとしていて素晴らしい。幸慈くん、先に火傷の手当てをするから左手をあげていてくれ」
下げていた左手を上げて保護者の前に出す。ガーゼに薬を塗って火傷に貼る動作はとても綺麗だ。包帯の巻き方も母さんがやったみたいに綺麗だった。これは慣れている以上の腕前だな。
「何それ」
綺麗に巻かれた包帯を見て、感心していた俺の耳に届いた声に指先が跳ねた。
「見て解らないのかい?」
呆れたように息を吐く保護者は、戻ってきた付き人から氷嚢を受け取って、俺の右足首に当てる。思ったよりも熱を持っていたせいか、ひんやりしていて気持ちいい。
「何で怪我してるの?誰のせい?知ってる相手?」
「そこで止まりなさい。今の茜には幸慈くんに触れる資格はない」
保護者の言葉に、檜山の顔は微かに歪む。こんなに冷たい言葉を言う事もあるのか。さっき雅に言った言葉とは違いすぎる言葉使いに、俺の方が責められてる気持ちになってしまう。手に出来た擦り傷を丁寧に消毒してくれる動きは、とても優しいのに。
「靴下を脱いでもらえるかな」
「はい」
氷嚢を一旦ずらして靴下を脱ぐと、保護者は足首に遠慮がちに触れてきた。足の項の傷にも配慮してくれているのが解る。
「少し赤くなってきているね。腫れも目立ってきた。明日は今より辛いだろうから、ボランティアに参加するにしても、動かないよう気を付けなさい」
「はい」
返事はしたものの、何をどう気を付ければ良いんだろうかと悩む。
「オジィ、全治どれくらい?」
近づくな、と、言われた檜山は一定の距離を置いた場所から、俺の怪我の様子を伺ってくる。
「G・Wの間、きちんと安静にしていれば大丈夫だ」
「そう、良かった。あ、俺、秋谷達のいるテント戻るね」
長く居たらまた怒られると判断したんだろう。でも、このまま返すには冷たすぎる気もする。
「檜山」
背を向けたばかりの檜山は、俺の声に慌てた様に振り返る。
「火、消してくれて、ありがとう」
「うんっ」
笑っている。鹿沼の言葉が信じられない。鹿沼が嘘を言うとは思っていないが、それでも、笑顔が解らない、と、言う檜山の姿が想像出来なかった。軽い足取りの後ろ姿に、俺の足は重くなるばかり。
「雅、気づいたか?具合どうだ?」
神川の言葉に雅へと顔を向ける。ゆっくりと起き上がる雅の顔色は大分良くなっていて安堵した。
「平気。迷惑かけて悪かった」
雅は俺に気がついてすぐ、手と足に視線が向かって険しい顔をする。
「その怪我……」
「雅のせいじゃない。火事に紛れて飛んできた花火が当たったせいだ。雅が自分を責める必要はない」
そんな事を言っても、雅は自分を責めるだろうな。
「でも……」
「はぁ、また御得意のタラレバか?勝手に判断して動かなければ、俺がバケツを取ってれば、そもそも火事なんか経験してなければってか?止めろ止めろ、結果は変わんねぇって」
神川の他人事の様な言葉に、雅は枕にしていた座布団を叩き付けた。
「何だよ」
不機嫌そうな神川は、間違ったことは言っていないと顔に出ていた。それが、更に雅を煽る。
「だったら、オマエは誰一人傷付けずに生きてきたのかよ。傷付けられずに生きてきたのかよ」
雅を宥めようと体を動かすと、保護者にそっと止められた。でも、このままだと、雅は自分を追い込んで傷つける。神川だって、それは望んでない。なのに、何で動かないんだよ。
「俺の人生はっ、オマエと比べて後悔まみれで、タラレバ並べて生きないと、息苦しくて、死にたくなるんだよ!」
吐き捨てる様な雅の言葉に、苛立ちを顔に出した神川は雅の胸ぐらを掴んで睨み付ける。雅も目の前の瞳を睨み返す。
「それは諦めろっつったろーが」
「俺の問題で、大和は関係ない」
「あるんだよ」
神川の言葉を、雅は鼻で笑う。
「形だけのものだろ。暇潰しの自己満は他所でやれ」
雅の言葉に、神川の眉間のシワが深くなる。
「雅こそいい加減にしろや」
「はぁ?」
「いつまでも死んだ人間追いかけてんじゃねぇよ!」
神川の言葉に、雅は目を見開いて、辛そうに顔を歪めて下を向く。雅の求めた愛は、もうこの世界には居ない。それでも想い続けている。それは、なんて尊くて強い愛なんだ。
「追いかけて悪いかよ!簡単に終わらせられれば、こんな想いしてねぇんだよ!何も知らねぇ他人がっ、偉そうに説教すんじゃねぇ!」
震える唇から吐き出される言葉が、とても羨ましく思った。雅のように、誰かを想い続けることが、俺に出来るだろうか。近づいてきた人の声と足音に、俺は神川に近づき、雅を放すように伝える。
「うっせーな。幸慈には関係ねぇだろ!」
雅を掴んでいた手が、俺を邪魔者として突き飛ばす。思ったよりも強い衝撃に、踏ん張りが効かない足は、素直にバランスを崩し体が後ろに傾く。背中に強い衝撃が来るだろうと思って覚悟したが、それに襲われる事はなかった。
「幸慈っ、大丈夫!?」
予想してなかった檜山の姿に、俺は言葉を失う。俺を抱き止めるように、後ろから回された檜山の腕が懐かしいと思ったが、それだけだ。それだけの自分に安堵した。
「大和。テメェ、幸慈に何してんだ」
体勢を立て直し、今にも掴み掛かりそうな檜山の前に立ち、どうにか引き留める。
「よせっ、怒るなっ、もめるなっ。檜山が怒ると面倒事にしかならないから黙ってろ」
視界の端に深く頷く保護者が見えて頭痛がした。面倒事しか起きないのは昔からみたいだ。制止を訴える俺に、檜山は不満全開な顔をした。
「何で!?今のは一方的に大和が悪いじゃん!」
「僕達が簡単に口を出したらいけないことが色々あるんだ」
「色々って何さ!幸慈を突き飛ばすのに正当な理由が有るとかあり得ない!」
「正当防衛とか、何かしらあるだろ。そんな感じのやつだと思え」
「どんな感じ!?」
平行線のままな気がして保護者に救いの目を向けると、すぐに動いてもらえて助かった。
「一先ず、茜は靴を脱ぎなさい」
「靴?……あ」
土足で家に上がり込んだのか。予想してなかった檜山の行動に頭を抱える。
「神川くん。君にしては珍しく一方的な言葉が多い。少し冷静になりなさい」
神川は自分でも自覚があるらしく、深く息を吐き出して俺を見る。
「ごめん」
「いや、こういうのは慣れてるから平気だ。気にするな」
「慣れてんじゃねぇよ。はぁー、頭冷やしてくる」
部屋を出て行った神川が心配ではあったけど、今は雅の方が辛いだろうと思って後を追うことはしなかった。
「雅」
雅の前に座り込み、そっと様子を伺うと、弱々しく笑った。
「ごめんな。でも、駄目なんだ」
トラウマは誰にでもある。それに当たった時、弱い部分が顔を出して、どこまでも脆く砕けていく音が耳から離れない。
「期待しちまうんだ。先生が殺してくれるって……迎えに来たんだって……あるわけないのに……」
その音が聞こえなくなったら、俺達は何かを見つける事が出来るんだろうか。
「殺しに来たと思う時は僕にもあるさ。堪らなく怖くて、体が動かなくなる。求めるものが違くても、息苦しさがまとわり付いてくるのは変わらない。弱いとか、情けないとか、仕方ないさ。虚しくても、僕達は生きてるんだ」
愛が殺しそびれた俺と、愛が殺せなかった雅。俺達は、背中合わせに生きている。そんな錯覚を抱く。静かに流れた雅の涙が嗚咽を連れてくる頃、震え出した肩の存在は俺の腕だけが知っていた。愛なんてなければ、こんなに苦しい想いをしなくて済んだのに。させずに済むのに。どうして、叶わない事ばかり俺達に押し寄せてくるのだろう。押し寄せるばかりで引くことのない現実に、どう立ち向かうのか、どこかに逃げ道があるのか。考えて考えて疲れて果てた俺達を労ることなく、波は高くなるばかり。いっそ、雅の様に愛してみたかった。居ない誰かを想って、息絶える。でも、愛した人が待っていてくれるなら、死も恐ろしくはない。だからこそ、雅は死を願うのだろう。
「オジィ、説明してよ。ボディーガードも突っ立ったまま何もしないし。大和は自暴自棄になってるしでワケわかんない。幸慈にも怒られるしさ」
「当人同士でしか伝わらない言葉があるからだよ。それより、さっき縁側に投げ捨てたそれは何だい?」
保護者は縁側に転がる食べ物の入った容器を指で示す。
「それ?……忘れてた!」
檜山は容器をビニールに入れ直して保護者に差し出す。
「途中千秋と会って、皆がお腹空いてるだろうから持ってけって。薫に会いたいから押し付けた感は満載だけど。ミーちゃんにも秋谷通して電話で確認して許可貰ったよ。オジィが居るから大丈夫って……今、渡すの変だよね?」
「良く解ったじゃないか。少しは幸慈くんと離したかいがあったというものだ」
「まぁ、どんな説教よりも効果があるのは認めるよ」
どんな効果だ。檜山の居ない場所で気分転換をしようと決めて、雅のナンパに乗っかったのに、これじゃ意味がないじゃないか。最終日までいるとか言い出すんだろうか。言い出したとして、泊まる先はどうなんだ。平と薫みたいに旅館に泊まるなら雅に迷惑はかからないが、今日の事もあるし、神川とは顔を合わせたくないだろうな、と、色々心配していると、うつ向いていた雅の体が少し動いた。
「悪かったな。色々と、さ。話したかったんだけど」
「いや、前から二人でのんびり話したいって約束してから、こういうことは予想してたさ」
「何だよそれ」
「自慢の友達って話」
右手の人指し指で雅の目尻に残る涙を拭うと、乱暴な足音が近付いてきて、ドアの方へと目を向ける。開かれたままのドアの向こうから、自治体の人に連れられた、見覚えのある男が三人と、見覚えのない男が四人入ってきた。
「俺等がやったって証拠あんのかよ」
文句を言う先頭の男は、俺と雅の姿を見て汚く笑う。俺と雅の前に檜山が立つが、その姿に面倒事が始まるのかと気落ちした。保護者とボディーガードも俺と雅の傍に来て、守るように立ってくれた事が、少し照れ臭い。自治体の人の居たたまれない気持ちには同情する。
「うわー、本当に男?」
入ってきた三人目の男が見定めるような言葉を吐く。誰の事だ?と、小声で雅に訪ねる。雅は黙って俺の顔を左手で指差した。それは無い、と否定するも、保護者が、俺は可愛らしいから勘違いされても仕方がない、と、さらりと言ってのけたので、気まずさから苦笑する。本当にそういうつもりで相手が言っているのなら、時と場合を間違えたな。俺には関わらない方が身のためなんだが、今はそんな事も言える状態ではない。最後に入ってきた男が、雅を見て鼻で笑う。
「何々、火事が怖くて泣いちゃった感じ?ごめんなー、あんな大事になるとは思わなグッ」
男の言葉は神川が後ろから首を絞めたことで途切れる。それを見た自治体の人は、慌てて俺達の方へと避難してきた。賢明な判断だな。この部屋の中で一番安全なのは、俺と雅の傍だけだ。
「今の自白だよなぁ。それ以外認めねぇし。俺の宝を傷付けた罪を償わせてやるよ」
笑顔の神川が怖い。
「大和ー、半分ちょーだーい。特に、前から三番目の奴」
二人の言葉で平和的な和解は無理だと悟った俺と雅は、諦めて縁側の外へと二人して右手の親指を向ける。
「「せめて外でやれ」」
「「よっしゃ!」」
大の男を纏めて外に放り出した檜山と神川は、ストレスが貯まっていたのか、イキイキと喧嘩を始めた。
「ま、雅くん。これから警察が来るんだが、彼等は大丈夫なのかい?」
「警察って山田さんですよね。顔効くんで、俺から話しときますよ。怖い思いさせてすいません」
警察に顔が効く高校生は、全国で何人いるんだろう。
「そうかい?じゃあ頼むよ。消防の方はこっちでやっておくから。それにしても、雅くんの回りは賑やかなのがよく集まるねぇ」
「しみじみ言うの止めて下さいよ」
賑やか。改めて雅の周りを見返した俺は、神川や他の皆の行いを考えて少し笑った。
「ふっ、確かに賑やかだな」
「笑うなよ」
自治体の人を見送って、立ち上がろうと足を動かすが、予定以上の痛みに動きを止める。それを見た雅は、救急箱からテーピングと湿布を取り出して、慣れた手付きで俺の右足首を固定した。その上に保護者の付き人がくれた氷嚢を乗せる。
「重病感すごいな」
「幸慈が怪我してるのよく見る気がする」
「気のせいだ」
俺の些細な切り傷や擦り傷を消毒する保護者の手は優しくて、暖かい。なのに、この人は自分を加害者の親だと言う。それが苦しい。
「あの、檜山……茜くんとの事ですけど……」
俺が言葉に詰まると、保護者は付き人に縁側の障子を閉めさせる。
「距離を置くべきだと思っている」
保護者の言葉に俺は驚く。
「幸慈くんの事はとても好きだ。我が子の様に守りたいと思っている」
我が子。やっぱり母さんと再婚するのかな。でも、母さんから付き合ってるなんて聞かないし。
「だからこそ、今回の茜のしたことは簡単に許して欲しくはない」
普通なら許してくれと願い出る所を、そうしないのはこの人の、人としての強さなんだと思う。
「君は血の繋がった家族に殺されかけた。だからこそ、命を重んじる事が出来る子だ。だが、茜にはそれが出来ない。死ぬと言った子に対して、死ねと言ってしまうような子だ。それが以前の恋人であっても口にしてしまう。このまま許してしまっては、また幸慈くんが同じことで傷ついてしまうのは目に見えている」
本当に、俺の事を真剣に考えてくれてるんだ。こんな、俺なんかの事を。
「明日、茜を海外の両親の元へ連れて行く事にした」
予想してなかった言葉に、俺は微かに目を開く。
「学校もあるから、連休明けには戻るが、茜が同じことをするようなら、二度と会わせない事も念頭に入れている」
「そ、れは、茜の中から幸慈が一生消えなくても、ですか?」
雅の質問に、保護者は強く頷く。
「幸慈くんが望むなら、今すぐ引き離すことも出来るが」
保護者の言葉に、俺はなんて言葉を並べるべきか解らないまま俯く。
「白紙に、戻せたらどんなに良いか、と、何度も考えます。ただの、友達の彼氏の友達で居られたらって。どこで、間違えたんでしょうか。僕は、愛されずに生きていきたかったのに。どうして僕は、誰かを人殺しにすることしか出来ないんでしょう」
この両手が血塗れなら良かったのに。そうすれば、誰とも出会わずに、関わらずに今日を生きれた。全てをやり過ごして、吐き捨てて、ゴミみたいと指を指されて生きることが、本当の俺に思える。今の俺は偽りなんだ、と。
「僕以外の誰かを、と、願っているのに叶わない。檜山茜の一番の空席は、いつも僕に向けられているのが怖くて仕方がないんです」
消えるべきは俺なのに、その勇気すらない。
「何で生かさせてるんでしょうか。こんなにも……」
嫌われているのに。誰よりも、自分自身に。
あの日は本当に恐ろしかった。目が覚めても現実が受け止められなくて、現実だと信じたくなくて俺を偽る様になった僕を、責めることなく、否定することもなく受け入れた環境にすら、嫌気がしたのを覚えてる。我が儘なものだ。逃げたくせに、僕を否定してほしいなんて。未来だけは、訝しげな顔をしたのを覚えてる。それでも、また遊べることの方が大事だからと言って、あっさり開き直る姿にだけは救われた。
「あのさ」
凛とした雅の言葉に呼ばれ顔を向けると、不思議そうな顔とぶつかる。
「俺は幸慈が好きだけど、それだけじゃダメなのか?」
雅の言葉に障子が勢いよく開いて、綺麗な形が崩れる。
「オマエは壊すことしか出来ねぇのか!誰が直すと思ってんだ!」
「雅こそ浮気してんじゃねぇよ」
「友情の好きの何が悪い!自慢の寛大はどこに行ったんだよ!」
「障子の十枚や百枚余裕で弁償してやるよ」
「その寛大じゃねぇ!そういう金銭感覚の無さが気に食わねんだよ!」
さっき喧嘩したばかりなのに。喧嘩するほど仲が良いってやつか。でも、それを言ったら雅は、神川の味方になるつもりか、なんて不貞腐れるに違いない。
「オジィ!お巡りさんが俺だけを悪者にするんだけど!何とか言ってやってよ!」
遠くから救いを求める檜山の周りは、さっきまで喧嘩してたのが解る程の光景があった。無傷で七人を見下ろして居れば、悪者に見えても仕方がないと言うものだ。
「おやおや、日頃の行いがここにも響くとは。雅くん、協力してもらって良いかな」
「はい」
日頃の行い。確かにここまで不憫に働くとは思ってなかったな。
「幸慈さ、色々と慣れんな」
障子の壊れ具合を確認しながら呟いた神川の言葉に目を細める。
「生き安いかもしれねぇけど、それは空しいだけだ」
そうだろうな。まるで機械だと言われた事もある。未来のお陰で人として生きれては来たが、見切りをつけてしまったら、きっと戻れないだろう。神川は、いつも俺を遠くから観察していたから、それに気がついただけに過ぎない。それでも、俺はその忠告を真摯に受け止める事にした。人でいたいと、思っているからかもしれない。
「あ、障子のサイズはまちまちだから、弁償するなら雅にちゃんと確認しろよ」
「マジか。雅ー、障子のサイズさー」
その話は後にしろ、と、怒る雅の声が聞こえて少し笑う。最近、笑うようになったと自覚する。光臣が笑わなかったと聞いた時、俺自身もあまり笑うことがないな、と、気づいた。それでも何かが変わる訳もなく、時間と季節をやり過ごす。それが、今は惜しいと感じる事が増えた。それが何でかは解らないが、嫌ではない。火傷の上を指で辿る。火傷特有の痛みが走って指を止めて息を吐く。今回も生き延びた。いつ終わるのか教えてほしいものだ。そうすれば、少なくとも、微かでも、夢を見れるのに。俺も雅が好きだ。皆、とても大切で好きな人達。掌の傷のように大切な好きが増えても、きっと俺は満たされない。
「痛い?」
縁側に座り込んで、俺の様子を伺って来る姿に息を吐く。
「痛いよね。もっと早く助けに行けなくてごめんね」
「こういう体質なんだ。仕方ない。それにもう……」
慣れた、と、言いかけて口を閉じる。真摯に受け止めたばかりじゃないか。これは口癖かもしれない。気を付けて直していこう。
「もう、何?」
「厄除けのお守りも効果がないんだ。そんなものに立ち向かうのも疲れる」
「幸慈、基本省エネだもんね」
のんびりと続く会話に拍子抜けしながらも、距離を縮めてこようとしない檜山に安堵する。
「雅とマラソンしてた日にさ」
「マラソン?」
「クソ女のヤツ」
「あぁ、あれ」
マラソン扱いになるのか。
「そう、それ。幸慈、怒ってたでしょ。色々あって聞きそびれてたなぁって」
あの社会の汚点代表作とも言える女の事は、今思い出しても腹が立つ。まぁ、話すと言っておきながら、栄養失調で倒れたせいで話すどころじゃ無くなったのは確かだ。にしても、今更話すことに意味が有るとも思えない。
「大分前の事だろ」
「んー、でも、今怒ったでしょ」
本当に、檜山は俺の事をすぐに見抜く。
「檜山が言わなければ怒らなかった」
「ごめん。ね、教えてよ」
申し訳なさそうにする顔に、少し罪悪感を抱いた俺は、膝を抱えて氷嚢を揺らしながら口を開く。
「淫乱って言われた」
何も知らないくせに。
「最初に会ったときに、社交辞令でもお見舞いを言わなくて良かったと、心底思った」
婚約と言えど、親が勝手に決めた事に対して、嫌な思いをしただろうから、と、一瞬は同情をしたが、今は全く同情出来ない。あの日はネットか何かで不良を集めて、俺と雅を狙ってきたんだろうけど、考えが浅はかだ。だからこそ、人を淫乱呼ばわり出来たんだろうな。
「本当にクズだね。幸慈の事を知らないくせに。知ろうともしないヤツが、偉そうに評価するなんて許さない」
檜山の声に苛立ちが含まれた事を認識した俺は、あの女へ報復でもするのだろうか、と、暢気に考えた。
「檜山も大半は犯罪者と同じことをしてるからな」
「それは愛と思って受け止めてよ」
「要らん」
「まぁ、今はミーちゃんに全部データ取られたから、かなり落ち込んでるけど。ミーちゃん怒らせると怖いね」
「まぁ、今回は僕も口を出せないからな。自力でどうにかしろ」
「だよねー」
保護者の付き人が檜山を呼びに来た。そろそろ空港に向かうらしい。檜山は祭りが終わるまで居たい、と、駄々をこねるが、保護者に睨まれて口を閉じる。その代わり、檜山は土足で俺の前まで走り寄ってきた。何事だと少し身構えた俺に、檜山はチークキスをする。
「幸の怪我が、早く治りますように」
檜山は満足そうに笑って、縁側から外へと足を踏み出す。保護者から逃げるように走り去る背中を見て息を吐く。
「幸慈くん、茜がすまなかったね。嫌な事は言われなかったかい?」
「大丈夫です。少し、時間も作れますから、僕は僕で、考えてみます」
「そうか。私は日本に居るから、いつでも頼ってきなさい。これは私にしか繋がらない様になっているから、話したい時は遠慮なく掛けてくると良い」
保護者は俺の手に携帯を持たせてくれた。何から何まで申し訳ないな。
「ありがとうございます」
保護者を見送った俺と雅と神川は、過ぎ去った嵐に息を吐き出した。知らないくせに、と、相手を責めるけれど、なら知ってほしいと努力をしたことがあるのか、と、聞かれるとそれはノーだ。だから、檜山は犯罪者と同じことをしてでも俺を知ろうした。どれくらい知っているんだろう。どれくらい見透かされているんだろう。俺を知らないと言いながら、見透かしたように選ぶ言葉に言い返せないのは、その通りだと思うから。檜山の感触が残る頬に眉をしかめる。無かった事にしたいのに、それを望まない自分がいるのが嫌だ。愛だと思って?冗談じゃない。そんなもの欲しくない。こんな俺に、それを欲する資格なんてないんだ。
祭りが始まり一時間、すでに迷子が四人。雅の実家から連れてきた雑種犬こんぶの活躍で、泣き止ませる事は簡単だったが、自分の名前を言える子も居れば言えない子も居る。放送で呼び出したとしても、特有の騒音の中で親の耳に入るかは不明だ。親を探すのはまだやれる。しんどいのは子供を探す方だ。放送を聞く余裕もここを訪ねる知識もない相手は、不安から動き回るのは想像がつく。昨日程は出ないでほしいな。
「幸慈ー、野菜切ってくれ。後、焼きそばの麺って余裕ある?」
何故か自治会の出店が今年は人気らしく、昨日の様子を見て、急遽材料を買い足したが、明日には更に補充が必要になるかもしれない。材料の入っている段ボールの中身を確認して、現段階での販売数から今後使う量を予想する。
「んー、麺は大丈夫だが、野菜が心もとないな」
「了解。光臣、未来、悪いが集会所から焼そば用の野菜取ってきてくれ。焼そば用って書いてある段ボールに全部入ってるから、段ボールごと持ってきてくれると助かる」
「「はーい」」
「こんぶ、ボディーガード宜しく」
「ワン!」
最後の迷子が両親と帰る後ろ姿を見送っていたこんぶは、雅の言葉を理解したのか、光臣の隣に並んでゆっくりと尻尾を振った。犬の十二才は人間でいうと高齢者と同い年と聞いたが、こんぶの動きは老犬とは思えない。二人と一匹を見送って、俺はキャベツを切ることにした。
「ありがとうございました!さて、迷子も居なくなったな。薫達は見回り担当にしてやるから、ついでに俺達の飯買ってこい」
「やったー!千秋、何食べる?」
雅の言葉に薫は素早く平に抱き付いた。
「薫の好きなりんご飴あったよ」
いつ見つけたんだ。
「りんご飴!食べたい!」
「俺らの分忘れるなよー」
二人の世界に入った状態で、どれくらい耳に届いているのか疑問だが、せっかく浴衣を着て来たんだ、昨日みたいに旅行感ゼロでは気の毒というもの。雅もそれを考えて二人を見回り担当にしたんだろう。
「雅ちゃん、ソースある?」
「お、環奈が来るなんて珍しいな。いつもお袋さんが取りに来るのに」
自治会テントに来たのは、手にソースが入っていたであろう空の容器を持ち、黒い髪を頭の上で丸く纏めた姿勢の良い女の人だった。女の人の後ろに男の人が並ぶのを見て、恋人だと判断した雅は腕を組んで楽しそうに笑う。
「さては彼氏とデートするための口実か」
「まぁねー。パパには秘密にしてるから黙っててよ。焼そば買ってあげるから」
「そりゃどーも」
作り置きしてある方ではなく、新しくパックに入れて渡そうとする辺り、雅の優しさが覗き見える。
「キャベツ多すぎない?」
「うるせぇ客だな」
「口悪い店員ね」
二人のやり取りに苦笑しながら、切った野菜をボウルに入れ、使ったものを水洗いするためにテントの裏へまわる。蛇口を捻って洗い物を済ませテントへ戻ると、何やら口論している様だった。五分もしないで口論が始まるのも田舎の成せる技なんだろうか。
「ソースが付いたって言ってんだよ。弁償しろや」
「ぶつかってきたのそっちでしょ。それに、服のどこにソースが付いてんのよ。むしろ私の服に付いたんですけど」
喧嘩を買っている所は、さすが雅の知り合いと言った感じだ。手に持っていた物を簡易テーブルに置いて、雅の右隣に早足で並ぶ。何事か聞くと、雅はニッコリと笑顔を作って俺にヘラを渡してきた。
「テメェ等、そういうのまだやってんのか?」
「あぁ?んだテメェ、なんか文句……兄貴!帰って来てたんすか!言って下さいよ!」
兄貴?
「ごめんな、環奈。これ、自称舎弟共で俺の知り合い。金は要らねぇし、お好み焼きもサービスすっから持ってって。ちゃんと教育しとくからさ」
雅の言葉を聞いて、鉄板の上にあったお好み焼きをパックに入れる。二人分をビニール袋に入れて彼氏の方に渡す。そろそろ作らないと数が無くなってきたな。
「ソースも多めに貰えたから良しとするわ。ちゃんと教育しといてよ」
「「「「すみませんでした!」」」」
その態度の変化はなんなんだ。姿勢を正して見事な直角で頭を下げる自称舎弟四人の姿を見て、雅は項垂れた。ここでも気苦労が絶えないのは大変だな。お好み焼きの生地を鉄板の上に乗せながら、励ましの言葉を考えるが出てこない。
「あれは俺の従姉で隣は彼氏。顔覚えとけよ」
「「「「はいっ」」」」
「こっちは多木崎幸慈。後で今居ないも二人紹介するから」
二人?今居ないのは四人だが、内二人とはすでに面識があるということか。まぁ、消極方で考えて、薫と平が顔見知りって所だな。
「「「「幸慈兄貴!宜しくお願いします!」」」」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
自称舎弟四人組、で、覚えれば良いのかな。
「右から、坊主、野菜、魚、干物」
人名じゃないように聞こえたのは気のせいだろうか。
「服に書いてあるから解るだろ」
確かに書いてある。手書きで。どうやら気のせいでは無いらしい。
「何で喧嘩売ったんだ?」
「ぶつかった時に相手の服にソースかかったの見えて、怖くなってガンつけちまいました」
小心者と判断するべきなんだろうな。でも、小心者は喧嘩を売らないから、少し違うか。
「普通に謝れよ。和解出来なかったら自治会テントに来い。その為の俺等だ」
「うっす!」
「さすが兄貴!」
「カッケーっす!」
「勉強になります!」
何を勉強してんだか。
「雅、未来に連絡してお好み焼き用の玉子と豚肉も頼んでくれ」
「ん?あー、確かに残り少ないな。電話しとく」
「助かる」
こういう時に携帯が無いのは不便だな。でも、今みたいに頼む事を選択肢の一つにすればそうでもないか。お好み焼きをひっくり返し、隣のスペースに玉子を割って落とす。黄身と白身を軽く混ぜて少し焼く。
「スゲー!片手!」
「幸慈兄貴カッケー!」
カッケー、の、レベルが特殊で面白い。しかし、この四人は何でまだここに居座ってるんだろうか。雅からの言葉がないと自分で判断が出来ないのか、と、考えて、本当にそうなら、可哀想と羨ましいのどちらを彼等に向けるべきかとも考える。玉子の上にお好み焼きの生地を乗せ、煙の向こうへと視線を向けて、息を吐く。
「ご注文は?」
「あそこで電話してる子」
「悪いが、人間は売ってない」
「マジか。仕方ねぇ、直接交渉するか」
何でここが?とは聞かないでおこう。ホームページに写真が乗るかもって言ってたし、平が言わないにしても、尾行は好まないが調べる事は出来るだろう、と、そこまで考えてサービスエリアでの事を思い出す。妙な視線や動きを捉えることがあったが、あれって……。
「出直すってのは?」
「ここまで来たのにか?バーカ、んな事するかよ」
だよな。
「わー、舎弟達だー!今年も律儀に問題起こした?」
思ったより早いな。やはり顔見知りだったらしく、薫と平に向かって舎弟四人は頭を下げた。
「「「「うっす!薫兄貴、千秋兄貴、お久しぶりっす!」」」」
「うっす、じゃねぇだろ……うっわ、出た面倒事」
俺の前に立つ神川を認識した雅は、心底嫌そうな顔をした。
「めちゃくちゃ嫌そうな顔して言うんじゃねぇよ」
そう言う神川は相変わらず楽しそうに笑って、手に持ったビニールを揺らしながらテントに入ってきた。
「兄貴の知り合いっすか?」
「兄貴?」
野菜と書いてある服を着た舎弟の質問に大和は首を傾げる。
「舎弟達は昨日来なかったけど、今日は客?パシリ?」
「「「「今日は兄貴のパシリっす!」」」」
平の質問に舎弟四人は声を揃えて答えた。
「ほぉー、おもしれぇ事になってんじゃん」
「なってねぇ」
文句を言いながらも、神川からの差し入れを受け取る所はちゃっかりと言うか、なんと言うか。
「ワン!」
「おっ、お帰りこんぶ。ボディーガード……したわりには、なーんか増えてねぇ?」
光臣の後ろに、焼そば用と書かれた段ボールを持った檜山の兄弟の姿を見て息を吐く。確かにボディーガードとしての仕事はしてないな。
「イッテ、ちょっ、わかったって。ちゃんと仕事出来て偉かったな。偉い偉い。うっは、ちょっ、たんまっ」
褒めてくれと、雅に飛び掛かって上に乗り、顔を舐めるこんぶは、尻尾をこれ以上ないくらいに振っている。なんの気無しに神川に視線を向けると、雅に向かって携帯を構えていた。見たことのある様な、経験したことのあるような、複雑な光景に深く息を吐く。こんなに知った顔が来るってことは、そういう事だろうな。
「雅、大丈夫?」
光臣がこんぶをなだめて雅から離して座らせる。体を起こした雅はこんぶの頭を撫でながら光臣に礼を言う。
「な、なんとか。葵、段ボールはあそこの下に置いてくれ」
「はいはい。全く、光臣にこんな重いの持たせようとするとか、信じらんねぇ」
「そ、その言い方は、駄目、です」
文句を言いながら段ボールを置く檜山の兄弟の言葉に、光臣は珍しく厳しい言葉を言った。檜山葵に向かってちゃんと怒れるのか。
「ごめんね。嫌な言い方した。少し八つ当たりし過ぎたね」
「……い、言わなかったのは、ごめんなさい。でも、俺もちゃんとやれるって、大丈夫だって知ってほしくて」
そうか、光臣は過保護に接してくる相手を、自分に縛り付けさせないように、今回のボランティアに参加したんだな。やっぱり、光臣はすごい。ちゃんと向き合うべき相手の事を考えてる。それが上手く伝わらない時も、投げやりになる事はしないで、耐える事を選ぶ。言葉を重ねて、伝わるまで何度も声にするだろう。
「知ってるよ。それでも、傍で支えたいし助けたい。俺の気持ちも少しは解って」
檜山の兄弟の言葉に光臣は、少し寂しそうに俯く。光臣はその気持ちを理解している。それが相手には伝わっていない。信じて待っていてほしかったのに。光臣からは、そんな声が聞こえてきそうだった。光臣の可能性が摘み取られているように感じたのは、俺だけじゃないと思いたい。
「光臣も葵もありがとうな。で、未来は?」
確かに帰ってこない。
「もうすぐ帰ってくると思うよ」
お好み焼きをヘラで半分に切って、鉄板の隅に並べる。光臣の曖昧な反応を見ると、俺に会わせないために頑張ってくれてるんだろう。
「坊主、魚、幸慈と店番変われ。焼そばとお好み焼きは毎年作ってるから出来んだろ」
「「ウッス!」」
「野菜、干物、設置してるゴミ箱のゴミ袋変えてこい。袋はそこにあるやつ使え。ついでにゴミ拾いもしてこい」
「「ウッス!」」
テキパキとした動きで二人はテントから出ていき、もう二人は俺と店番を変わった。初対面の印象は悪かったが、こうして関わってみると、根は素直なんだと解る。俺の周りは昔からずっと、好奇心や拒絶、蔑みや同情の様な扱いばかりで、雅みたいな人間関係は考えられなかった。これが毎日続くのは疲れるし大変だと思う。でも、俺には触れることすら出来ない世界が目の前に有ることが、少し羨ましとも思える。それでも、欲しいとは思わない。
「幸慈何食べる?」
薫に差し出されたビニール袋とその中身に素直に驚く。
「すごい量だな」
「せっかくのお祭りだからね。ある程度は制覇したいって思うのは当然でしょ」
制覇、とは、食べ物の事だろうか。
「二人は?」
「俺と千秋のは別で買ってきたから平気」
薫の言葉に、平が持っていたビニール袋を見える様に少し持ち上げる。
「かき氷とかバナナチョコは先に食べたけどね。光臣ー、イチゴ飴あるよー」
薫はビニール袋からイチゴ飴を取り出して光臣の手に持たせる。
「りんご飴以外にもあるんだね」
「りんご飴も大中小ってサイズがあって、俺は中にした。幸慈はチョコクレープで、雅はベビーカステラ、未来はわたあめ……って、未来遅くない?おやきと肉巻きおにぎり冷めちゃうじゃん」
「たこ焼きとフランクフルトもね」
どんだけ買ってきてんだか。手に持たされたチョコクレープの存在に、最後に食べたのはいつだったかと暢気に考える。
「あ、お金返す」
「駄目!縁の切れ目はなんとやら。ここは俺と千秋の奢りって決まってるの!」
「千秋の、だろ」
不貞腐れた薫は雅に向かってベビーカステラの袋を投げ付ける。食べ物を投げるのは駄目だろ。
「俺達のは共有財産なの!」
平にしがみついて言っても効力がない。気にせずイチゴ飴を食べる光臣を見る限りだと、いつものやり取りだと解る。そろそろ未来を迎えに行かないとな。そう思ってクレープを一口齧ると、平の携帯が鳴った。それに出た平は、ゆっくりと俺に視線を向けて携帯を差し出してくる。時間切れか。受け取った携帯を耳に当て、ノイズのように聞こえる未来と檜山の声に息を吐く。
『多木崎?』
「未来だけを連れて帰るのは難しそうだな」
『まぁ、その……保護者付きなんだ』
「……は?」
何故保護者までもが関わってくるところまで、事が重大になってるんだ。未来か?鹿沼か?出所が色々有りそうで答えにたどり着かない。いや、一人簡単に教える人物が居るじゃないか。その場で頭を抱えてしゃがみ込む俺の左に、薫が同じ様にしゃがむ。
「幸慈、何かあった?」
「いや、ちょっと、思ってたよりも大事に……」
「大事?」
絶対に母さんだ。未来の家に泊まって、そのまま祭りに行くことを伝えたのは未来の両親以外に母さんしかいない。伯父さんに母さんの事を頼んだから、多分家に顔を出してくれてるはず。それをボディーガードが見て、檜山の保護者に連絡していたなら、母さんを心配して何かしらの方法で接触した後、今日の祭りの事を知ってここまで出向いてきた。そう考えるのが妥当だ。にしてもオマケが多すぎる。
「ジジイが来てるって話だろ。大したことねぇよ。やらかしたの一人だけだし」
どうでも良いという思考を持ってるのは知ってるが、今日は放置を決められても困る。
「えっ!お、お、お家の人、き、来てるんですか!?」
「来てるよー。あ、もしかして、お嫁に来ますーって挨拶してくれるのー?」
「ししし、し、しません!」
全力で否定してるな。
「なんだ、ガッカリ」
「心の底からガッカリしてる場合かよ。他の客の迷惑になったら怒られんのボランティア含めてこの場に居る全員だぞ」
確かに。神川の正論に頷く俺と雅は、危機感なく薫からもらったおやつを食べる。
「ボランティア……この場の全員……ちょっと黙らせてくる」
「「いやいやいや」」
ボランティアの中に光臣が含まれていると理解したのか、苛立ちを露にした檜山の兄弟を薫と神川が止めに入る。
「ここで喧嘩したら、祭りが台無しだろうが」
「そうだよ!皆楽しみにしてたんだから!ね、光臣!」
薫に意見を求められた光臣は、寂しそうにうつ向いた。
「う、うん。喧嘩は、嫌だな」
「はーい」
「「(チョロい奴)」」
光臣が居てくれて良かった、と、その場に居る全員が思った。
「ようは、ボランティアとバレる前に片せば良いんだな」
いつの間にかボランティア用のはっぴを脱いでいた雅は、こんぶの背中にそれを被せて、両手を腰に当てながら問題事が待っているであろう方へ目を向ける。
「「さすが兄貴!カッケーっす!」」
「行くぞー、こんぶー」
「ワン!」
「雅ー、この時期にタンクトップは風邪引くぞー」
右腕を回しながらテントを出て行く後ろ姿を見送りながら、神川が当然のように付いていく姿に、薫が再び俺の横に座り込み首を傾げる。
「教えてないって言ってたのに」
薫の言葉に頷く平は、俺と薫の前にしゃがみこんで声を抑えて喋り出す。
「照れ隠し?」
「雅に限ってそれはない」
薫の言葉に俺は何度も頷く。
「(オマケに関しては)やっぱり尾行としか」
「尾行?」
薫は平ばっかり見てたから気付いてなくても当然か。
「ホームページで見つけただけじゃない?(やっぱり気付かれてたか)ねぇ、電話、繋がったまま」
忘れてた。
「鹿沼、今そっちに雅と神川が行ったから、未来に頼んでたやつを持ってきてくれ」
『解った』
必要最低限の事だけ伝えると通話が終わった。しかし、雅と神川はどう話し合いをしてくるつもりなんだろうか。悩む俺に薫はフランクフルトを差し出してきた。それを受け取り一口食べながら、何故か檜山と初めて会ったときの事を思い出す。タコウインナーなんて、切れ目入れて焼くだけなのに。
「光臣ー、たこ焼き食べよー」
ビニールを揺らしながら光臣と檜山の兄弟の所に行く薫を追わない平の視線は、俺に注がれていた。
「で、何があったの?俺相手なら言えるんじゃない?」
言わないと駄目なやつか。
「雅からメールがあった日……」
なるべく簡潔に物事を伝えた俺は、立ち上がってフランクフルトを一口齧る。誰に話したところで気持ちは楽にはならない。本当に、俺の中の根本的な部分の問題なんだろうな。平も立ち上がり、呆れた様に息を吐く。
「クズだと思ってたけど、ここまでとは。あぁ、今の発言は茜に対しての世間一般とか、個人的感情を持った人の気持ちを配慮してない事を前提にしてるから、重く捉えそうなら受け流して構わない」
「いや、その通りだと思う」
クズなのは最初から知っている。最初から、は少し違うな。でも、まともな人生を送ってこなかったのはすぐに解った。水を被ったのはあの時が初めてだったからな。あの後も個人的な理由で色々連れ回されたし、服は捨てられるし、風邪も引いて怪我もしてと散々な事ばかり。
「何であんなのと関わってるんだろう」
「それ、もっと早くに疑問に思うべきじゃない?」
「返す言葉もない」
全くもってその通りだ。簡素化した関係を望んでいたのに、何故かこんなにも歪になってしまった。修復するべきか。でも、どの形に?壊したとして、その先は?
「先、を望んでないくせに。中途半端に引っ掻き回すのは止めろ」
見透かしたみたいな顔をして、俺の横に来て嘲笑う檜山の兄弟の姿に眉をしかめる。何でこんなに嫌われないといけないんだ。
「それとも、望んでる?」
先を、か?馬鹿げている。
「そっちだって望まれてないくせに」
胸ぐらを掴んできた右手の動きは早く迷いがなかった。それでも、避けようと思えば出来た事をしなかったのは、逃げた、と、言わせない為だ。それを察しているような、苛立ちと殺意のこもった視線をただ見返す。
「葵、光臣の前」
平の言葉に、殺意の背後に怯える光臣の姿を見た俺は、気不味さから軽く謝罪の言葉を口にする。
「本当、何から何まで気に食わねぇ」
そう言って手を離し、テントから出ていった。俺は謝罪したのにオマエは無しで良いのか。
「幸慈、大丈夫!?」
薫が、光臣の手を引いて俺の傍まで駆け寄ってきた。舎弟二人なんて、真っ青な顔をしている。
「不公平だ」
「え?」
「多木崎の方が大人って話」
平は、俺の言葉に首を傾げる薫の頭を撫でて、不公平の理由を簡単に話す。内容を理解した薫は出ていった背中を追いかけようとしたが、それを止めて平に押し付ける。平はすぐに薫をなだめる言葉を口にし始め、沸騰しかけの恋人を落ち着かせた。
「け、怪我は?」
「平気」
安堵の表情を浮かべた光臣は、すぐに俯いてしまった。
「お、俺のせい?」
「檜山茜のせい」
「「だね」」
不安な顔をする光臣の頭を左手で撫でて、大丈夫だと伝える。しかし、また喧嘩を買ってしまった。自分から一度も売ったことがない事を褒めたい。うん、多分ないはず。
「ただいま。ごめんね、遅くなって」
「おかえり。鹿沼も迷惑かけて悪いな」
「いや、もう慣れた」
複雑な返答だな。確かに色々と迷惑をかけてきてる自覚はあるが、改めて言われると重くのし掛かるものがある。
「おかえり未来ー!はい、お土産!」
「わぁー、ありがとう!」
わたあめを受け取った未来は、さっきまで檜山と睨み合ってたとは思えない位に上機嫌だ。
「ボランティアって、浴衣着て良いのか?」
駄目に決まってるだろ。
「俺と薫は歩く広告塔だから」
自治体の人達も、遠くからきたボランティアに、着替えてこい、と強く出れなかったんだろう。雅への信頼があっての事だとは思うが。
「広告塔?なんだそれ。どんなボランティアだか。多木崎、段ボールどこに置けば良い?」
「あそこの下に置いてくれ」
これでしばらくは乗りきれるな。
「未来と鹿沼は休んでてくれ。光臣、下準備手伝ってもらえるか?」
「もちろん!」
鹿沼とテーブルの方へ歩いていく光臣の背中は、喜ばしい事に弾んで見えた。
「葵さん怒ってたけど、喧嘩買ってないよね?」
未来に小声で聞かれた質問に肩が揺れた。
「あー、うん……多分」
「買ったんだ」
「……はい」
肩を落として俯く俺を見て薫は少し声を出して笑う。
「幸慈って、未来には敵わないよなー」
あながち間違ってない。そんなことはない、と、言う未来は普段のやり取りの事を言っているんだろうけど、俺は人として大事な部分の事を言われている様な気がした。
「お邪魔して良いかな?」
背後から聞こえた声に覚悟を決めて振り返ると、檜山兄弟の保護者が立っていた。場違いなスーツ姿に、抱かなくても良いはずの罪悪感が脳を掠め、冷や汗が出る。
「孫二人が迷惑をかけて申し訳ない」
この人と何を話せと言うんだ。光臣なんて緊張して石みたいに固まってしまった。
「い、いえ、こちらこそ、その、御迷惑を……」
かけた覚えがない。
「かけてはいないのだから、謝る必要はないよ」
ごもっともです。
「少し、時間をもらう事は出来るかな?茜の居ない所で話をしよう。被害者と、加害者の親として」
何の話をしたいのか解ってはいたが、実際に言われると息苦しい。
「聞いてよオジィ!葵の奴が幸慈の悪口ばっか言ってんだけど!あんな天使他には……」
勢いよく不満を口にしながらテントに入ってきた檜山は、保護者越しに俺を見付けて固まった。目が合ってしまい、どうしたものかと眉をしかめる俺の前に、未来が守るようにして間に立つ。
「何が天使だ!光臣の方が天使だろうが!」
兄弟喧嘩は他所でやれ。
「悪い幸慈、まさかズボンの生地が切れるとは思ってなくて」
そう言って帰ってきた雅の横を通り抜け、テントに入ってきたこんぶの加えている生地を見て、檜山の足元に視線を向ける。右足のズボンの裾が切れているのを見つけ言葉を失う。こんぶ、その切れ端がいくらすると思ってるんだ。こんぶは咥えていた切れ端を俺の足元に置いて、その場に座って軽く尻尾を振る。こんぶ、何故ここに置く。
「こんぶお利口さんだねー」
未来が上機嫌なのは良いことだが、あのズボンを弁償するのにいくら掛かると思ってるんだ。いつも連れていかれる店の値段を考えても、俺の今の手持ちで足りるとは思えない。いや、そもそも破ったのはこんぶだから、雅の責任になるのか?でも、元々は俺が原因で起こった事に違いはないんだ。出来れば雅に被害がない様に和解を申し出よう。幸い保護者が居るし、上手くいけは分割にしてもらえるかも。
「幸慈くん」
「はいっ」
保護者の呼び掛けに、慌てて伏せていた顔をあげる。
「顔色が悪いが大丈夫かい?服の事は気にしなくて良い」
「でも、すごく高いやつですよね?これ」
足元にある生地を見ると、雅がそれを手に取って燃えるゴミ箱に捨てた。今のやり取りを聞いていなかった訳ではないよな。
「気にしなくて良いって言ってんだから、無視すりゃ良いじゃん」
「「さすが兄貴!カッケーっす!」」
「酒屋の婆ちゃん、腰痛めてるらしいから出店手伝って来い。昨日と同じ場所に出してっから」
「焼きとうもろこしっすね!」
「喜んでパシられてくるっす!」
喜ぶポイントが特殊で面白い。一礼してからテントを出ていく姿は律儀だと思う。
「ま、話すなら集会所だな俺もゴミ捨てあるし、途中まで一緒に行くから、構え過ぎんなよ」
雅の気遣いに、そこまで難しい顔をしているだろうか、と、未来を見ると深く頷かれてしまった。未来が携帯を渡してきたのを見て、保護者と二人で話すことは止めない姿勢でいるのだと解る。
「千秋、戻るまでここ頼む」
「解った。薫、光臣と下準備してもらえる?」
「やった!千秋からのお願い!喜んで!」
薫が隣に立って一緒に下準備を始める光臣の姿は、どこか安堵の表情を浮かべている気がした。一人で居ると檜山の兄弟が世話を焼きたがるだろうからな。平も、それを回避するために薫へ頼んだのだろう。ゴミ袋を持った雅に大和が手伝うと申し出ていたが、見事に断られていた。代わりに俺が一袋持つことにしたが、何故かこんぶが俺のはっぴの裾を咥えて放さない。
「はっぴが気に入ったみたいでさ、俺のも返してくれねぇ始末」
「そうか、なら僕のもこんぶに預けようかな」
「ワン!」
はっぴを脱いでこんぶに渡すと、器用に地面に広げ、その上に寝転んで眠り始めてしまう。
「結構頑張ったからな」
労るように頭を撫でる雅の横顔は、少しだけ寂しげだ。
「こんぶは俺が見てるから、二人は行っておいでよ」
未来の言葉に、雅はゴミ袋を持ち直す。
「悪い。頼むな」
「俺にも頼めよ」
「うるせー」
未来と神川に対する態度の温度差ってどこからきてるんだろう。
「幸慈くん、このテントの裏から出ることは出来るかな?」
「はい。でも、狭くて危ないので、歩きにくいと思います」
「構わないよ。茜の横を通らせるわけにはいかないからね。そのまま、茜を見ずに行きなさい」
「は、はい」
ここまで気を使われると、こっちが加害者の気分だ。テントの裏に出て、保護者が歩きやすい場所を選んで足を進める。付き人の人がいつでも支えられる様に歩いている姿を見ると、やはり檜山の横を通ってでも、整えられた道を歩いてもらうべきだったと後悔した。
「雅はいつから兄貴なんだ?」
「中学の時、こんぶの散歩中に知り合ったんだ。反抗期の終わらせ方を知らないまま戸惑ってるって感じの奴らで、万引きしようとしてる所を止めて、話を聞いて、取り敢えず殴った」
悪いことをしたらきちんと償いをしないといけない、と、いうことを教える為に殴ったそうだ。今思えば、母さんに殴られた事ないな。
「で、そっからなつかれて、自称舎弟四人が出来たわけ。まぁ、アイツ等が地に足つけて、自分の力で歩いて行けるようになるまでは、兄貴でいてやる事にしたんだけど、それが、アイツ等の可能性を減らしてる気もしてさ」
「そんな事はない」
弱気な雅の言葉に、檜山の保護者が落ち着いた声で話し出す。
「君は、あの子達にきちんと役割を与えて、それから先の事は口出しせずに居たじゃないか。何をするかはまだ決められなくても、与えられたそれに対して、どうすれば良いのか考える事が彼等には出来る。それは君が見つけて育んだ可能性だ。それはいつか君の糧と財産になる。自信を持ちなさい。彼等の可能性は間違いなく増えているよ」
「……ありがとう、ございます」
少し俯き、感謝を口にする雅の頬は少し赤い様な気がした。自分の中の不安が晴れ、尚且つ、素晴らしい事だと認められたんだ。照れ臭くても、嬉しい事に変わりはない。この人は本当に不思議な人だ。まるで心の中を知っているかの様な事を言ってくるのに、それが不快にならない。生きてきた時間がそうさせるのか解らないが、誰にでも出来る事でないのも解る。
集会所に向かう途中、ゴミ捨て場の方からボランティアの人が歩いてきたので軽く会釈をする。すれ違いざまに、タバコの臭いがして眉をしかめた。集会所で吸う決まりになっているはずなのに、何故ゴミ捨て場から歩いてきたんだ。それに、ボランティアの顔合わせの時には居なかった人達ばかり。胸騒ぎがする。雅も同じ事を思ったのか、ゴミ捨て場へと視線を向けていた。遠くの一点がチカッと光った気がした後、いくつもの光がその周辺に現れる。
「まずい」
雅は持っていたゴミ袋をその場に投げ捨て、ゴミ捨て場の方へ走っていった。
「雅っ、行くな!すいません、話し合いの場は改めてご用意しますので、今は安全な場所へ避難をしてください。事情は後程お伝えします」
檜山の保護者を付き人に託し、ゴミ袋をその場に残して雅を追いかける。制止の声を背に受けながら未来の携帯で薫に電話をかけ、平に変わってもらい現状を伝える間にも、微かな明かりが近付くにつれて胸騒ぎが現実のものとして目の前に現れた。
「くそ、思ったより火の回りが早い」
目で雅を探すと、ゴミ捨て場近くの備品庫のドアが開いているのを見つけて中を覗く。雅の姿に安堵した俺は、手元の消火器に気が付いて安堵する。この勢いでどこまで時間稼ぎが出来るか解らないが、無いよりは良い。
「消火は僕がやる。雅は平に状況の説明を頼めるか?今繋がってるから……」
「駄目だ」
「駄目って、何で?……これって」
改めて手元の消火器を見ると、既に栓は抜かれていて、使用済みの状態だった。
「今朝確認した時は未使用だったのに。窓も外されてた。立て付けが悪かったから、簡単に外されたんだと思う」
見回す限り外された窓はない。外に置かれたままか、持ち去られたか。さっきすれ違った奴等が一番怪しいが、証拠がない。消火器も持ってなかったし。
「誰がこんな事、何の為に」
悔しそうに歪む雅の表情に目を細めながら、他に消火器が無いかと探したが、当然見当たらなかった。朝未来と確認したときは三本あったのに。事前に何度か下見をしていた可能性もあるが、今は犯人探しより消火が最優先だ。
「雅、近くに川とか、他の消化設備は無いか?」
「備品庫の裏に蛇口が二つある。ホースかバケツがあれば……」
雅の顔色が悪い。呼吸も不規則だ。微かな焦げ臭さと、物が燃える音がする。早く鎮火しないと雅への負担が大きくなってしまう。携帯を雅に預け、備品庫の中にあるはずのホースとバケツを探す。確か、未来が上の方にあったのを朝確認してたはず。棚上の奥にバケツを見つけて手を伸ばすが、後少しが届かない。
「これ、足場に出来ないか?」
「助かる。ありがとう」
雅が見つけて勧めてくれた木箱に乗ってもう一度手を伸ばす。取ったバケツには、幸いなことに穴は無く、問題なく使えそうだ。木箱から足を下ろすと、ガラスを失った窓枠目掛け、外から火花が飛び込んできた。左手に走る熱さに気をとられ、バランスを崩した俺を雅が手を伸ばし支えてくれたが、そのせいで雅の目は窓の外に向いてしまう。
「駄目だ!見るな!」
子供の頃の事がフラッシュバックし始めた雅は、その場に崩れ落ちて体を抱き締める様に丸くなった。俺は手にしたバケツを床に放って雅の体を抱き締める。荒い息と震える体に、どれ程の恐怖心を圧し殺して備品庫にきたのかが解る分、ここに来させてはいけなかったと、後悔が身体中を走る。くそ、あの時保護者に伝えるよりも先に、雅の手を掴んで止めるべきだった。
「雅!」
備品庫に駆け込んできた神川は、雅を見て素早く近くに腰を下ろす。俺から雅を奪うようにして、その体を抱き締めこっちを鋭く睨む。
「何で止めなかった!火事を前にしたらどうなるか知ってたろうが!」
俺を責める言葉に、何も言い返せなかった。その通りだ。俺がきちんと止めるべきだったのに。
「違う……幸慈は止めた。責めるなら、俺だけにしろ」
雅の掠れる声に、俺の罪悪感は深くなる。
「また幸慈かよ……何でだよ」
「大和っ、早く集会所行け!これ以上白井を留めるのは良くない!」
「解ってんだよ!そんなことは!」
鹿沼の言葉に神川は苛立ちを露にして、雅を抱き上げて備品庫から出ていく。
「あんな大和初めて見たな」
恋人ごっこ、は、きっと雅だけだろうな。神川は本当に雅が好きで、少しでも傍に居たくて、恋人ごっこなんてものを提案したんだろうから。
「鹿沼、裏に蛇口がある。少しでも消さないと」
「問題ねぇよ」
鹿沼の言葉にゴミ捨て場へと視線を向けると、自治体の人達が消化活動を始めていた。その中に消火器を持った檜山を見つけて息を吐く。大人しくするって事を知らないのか。ゴミ捨て場の屋根から花火が一つ上がったのが見えて、目を凝らすとまだいくつもの花火が置かれているのが解った。さっきこっちに飛び込んできたのは花火か。火が屋根までたどり着いたら、もっと大きな被害が出るのは確実だ。
「檜山っ!」
俺が名前を呼ぶと、檜山は目を輝かせたてこっちに顔を向ける。
「この状況下で喜んでるぞ」
頭を抱えながら鹿沼の言葉に同意した。
「屋根にかけろ!花火がいくつも置かれてる!引火させるな!」
「りょーかい!」
「笑顔だな」
「言うな」
花火の存在を確認した檜山は、自治体の人達へ話し掛けながら屋根へと消火器を向ける。
「うん、やっぱり多木崎なんだな」
「?」
鹿沼の言葉に首を傾げる。
「アイツが笑えるのは、多木崎がいるからなんだなぁって」
檜山を見てしみじみ言う鹿沼の言葉に、更に解らない、と、眉をしかめる。
「アイツ、笑い方が解らないって言って、どうやって笑顔を作るのか聞いてきたんだ」
予想してなかった言葉に驚き、瞬きを繰り返す。
「いつも、ヘラヘラ笑ってるじゃないか」
「あぁ。だから、多木崎が居ないと笑えないんだなぁって」
そんなことを言われても、俺に何かが出来る訳じゃない。俺のせいだ、と、神川の様に責めてくれた方がまだ楽だ。雅は大丈夫だろうか。
「白井の事は大和に任せる事にしようぜ。あれでも恋人なんだし」
「あ、あぁ、そうだな」
偽物だと言えないのは、雅との約束だからでもあるが、神川への後ろめたさも含まれているからかもしれない。雅の手から落ちた未来の携帯を拾って、通話中の画面に肩を落とす。
「俺が話す」
「悪いな」
鹿沼に未来の携帯を渡し、平とのやり取りを頼むと、人影が近付いてくるのが見えて目を凝らす。
「幸慈くん、遅れてすまない」
檜山の保護者が現れて、避難していなかったのか、と、焦った俺を鹿沼が冷静に宥める。
「いや、むしろ自治体に的確に指示を出してくれたお陰で、早くに対応が出来たんだ」
「そうだったんですか。ご迷惑……」
謝罪しようとした俺を右手で制して、言葉を切った保護者は柔らかく笑う。
「前にも言ったが、私は幸慈くんから謝罪の言葉を聞くつもりはない」
こんな時に謝罪以外の言葉が必要とは思えない。頭を掻きながら悩んだ結果、場違いな言葉を口にする事にした。
「えっと……自治体の人を呼んで下さって、ありがとう、ございます」
「どういたしまして」
場違いなやり取りに気まずさから目を反らすと、保護者は俺の左手を取った。
「あぁ、大変だ。怪我をしているじゃないか」
そう言って保護者は俺の左手の甲から手首に触れて、眉をしかめた。ピリッとした痛みが走って、怪我の存在を知る。言われるまで気が付かなかった。さっきの花火だろう。熱かった覚えがある。火傷は大した事ないだろうから、平気だと伝えたが、強制的に集会所へと連行される事になった。雅の様子も気になっているから問題はないが、神川が近寄らせてくれるだろうか。それに、祭りはどうなるんだ。中止になったら沢山の人が残念がる。楽しみにしていた人達の事を思うと、居たたまれない。集会所に着くと、未来が駆け寄ってきて、俺に抱き付いた。その背中を両手で三回軽く叩いて宥める。
「ただいま。心配かけてごめん」
腕に少し強く力を入れて三秒程しがみついた未来は、ゆっくりと体を放して俺と鹿沼を交互に見る。
「二人とも怪我してない?」
「多木崎が少し火傷してるから、早く冷やしてやってくれ」
「火傷!?どこ!?早く来て!」
鹿沼のやつ、未来に言うと必要以上に騒ぐって解ってて言ったな。鹿沼を睨み付けながら、未来に手を引かれて縁側へと連れていかれた。縁側に着くと、座布団を枕にして眠る雅の姿があって急いで近づくが、傍にいた神川に睨まれて足を止める。どこに居ても、嫌われものにしかなれないんだろうか。何を今更残念がっているんだ。嫌われるなんて、俺にとっては日常じゃないか。
「神川さん、救急箱取ってもらって良いですか?」
「救急箱?あーっと、これか……ほれ」
「ありがとうございます。ほら、幸慈、ここ座って手出して」
未来に言われても、素直に縁側に座ることが出来なくて、刺されるような痛みを訴える左手を後ろに隠す。
「大した事じゃない。放っておいても問題ない程度だから、大袈裟に構えなくて……」
「そんな訳にはいかない」
檜山の保護者に左手を掴まれて、痛みから眉をしかめ息を止める。正直、かなり痛い。
「さっきよりも腫れているし、赤みも増している。少し動かすだけでも痛いはずだ。それを強がったところで誰の為にもならないよ」
「……すいません。あ、また謝罪を、えっと、あの、本当にそれしか出てこなくて」
「幸慈の事、心配してくれて、ありがとうございます」
そうか。そういう言葉もあるのか。
「手当ては私がしよう。茜と葵で慣れているからね。香山くんと鹿沼くんは、テントの皆に状況を伝えてきてくれないかな?火事も大事にはなっていないから、祭りは最終日まで続ける事も加えてくれると嬉しいんだが」
「本当ですか!?皆喜びます!幸慈、大人しくしてるんだよ」
大人しく。いつもそうしてるつもりなんだが。
「返事」
「はい」
未来にはそう見えないらしい。まぁ、大人しくしてたらこんな怪我してないか。離れていく未来と鹿沼の背中を見送りながら、短く息を吐く。
「さて、改めて見せてもらえるかな」
「はい」
保護者は俺の手を取って火傷の具合を見た後、掌や足に怪我がないかも見てくれた。
「手にも擦り傷があるね。指先も少し出血しているから、瘡蓋になるまでは乱暴に動かしてはいけないよ。瘡蓋になっても完治したわけではないから、無理はしないように。んー、木くずが刺さってる様子はないな」
言うことが病院の先生みたいだ。
「それと、右足を痛めているんじゃないかな?」
的確な指摘に苦笑いを浮かべるしか出来なかった。
「敵いませんね」
「やんちゃが二人もいると観察力も身に付くものでね」
なるほど。ということは、俺もやんちゃに入るのか。それは悲しいな。
「足は少し腫れているから、先に何か冷やすものを用意させよう」
保護者は付き人に頼んで冷やすものを取りに行かせる。
「救急箱の中身はきちんとしていて素晴らしい。幸慈くん、先に火傷の手当てをするから左手をあげていてくれ」
下げていた左手を上げて保護者の前に出す。ガーゼに薬を塗って火傷に貼る動作はとても綺麗だ。包帯の巻き方も母さんがやったみたいに綺麗だった。これは慣れている以上の腕前だな。
「何それ」
綺麗に巻かれた包帯を見て、感心していた俺の耳に届いた声に指先が跳ねた。
「見て解らないのかい?」
呆れたように息を吐く保護者は、戻ってきた付き人から氷嚢を受け取って、俺の右足首に当てる。思ったよりも熱を持っていたせいか、ひんやりしていて気持ちいい。
「何で怪我してるの?誰のせい?知ってる相手?」
「そこで止まりなさい。今の茜には幸慈くんに触れる資格はない」
保護者の言葉に、檜山の顔は微かに歪む。こんなに冷たい言葉を言う事もあるのか。さっき雅に言った言葉とは違いすぎる言葉使いに、俺の方が責められてる気持ちになってしまう。手に出来た擦り傷を丁寧に消毒してくれる動きは、とても優しいのに。
「靴下を脱いでもらえるかな」
「はい」
氷嚢を一旦ずらして靴下を脱ぐと、保護者は足首に遠慮がちに触れてきた。足の項の傷にも配慮してくれているのが解る。
「少し赤くなってきているね。腫れも目立ってきた。明日は今より辛いだろうから、ボランティアに参加するにしても、動かないよう気を付けなさい」
「はい」
返事はしたものの、何をどう気を付ければ良いんだろうかと悩む。
「オジィ、全治どれくらい?」
近づくな、と、言われた檜山は一定の距離を置いた場所から、俺の怪我の様子を伺ってくる。
「G・Wの間、きちんと安静にしていれば大丈夫だ」
「そう、良かった。あ、俺、秋谷達のいるテント戻るね」
長く居たらまた怒られると判断したんだろう。でも、このまま返すには冷たすぎる気もする。
「檜山」
背を向けたばかりの檜山は、俺の声に慌てた様に振り返る。
「火、消してくれて、ありがとう」
「うんっ」
笑っている。鹿沼の言葉が信じられない。鹿沼が嘘を言うとは思っていないが、それでも、笑顔が解らない、と、言う檜山の姿が想像出来なかった。軽い足取りの後ろ姿に、俺の足は重くなるばかり。
「雅、気づいたか?具合どうだ?」
神川の言葉に雅へと顔を向ける。ゆっくりと起き上がる雅の顔色は大分良くなっていて安堵した。
「平気。迷惑かけて悪かった」
雅は俺に気がついてすぐ、手と足に視線が向かって険しい顔をする。
「その怪我……」
「雅のせいじゃない。火事に紛れて飛んできた花火が当たったせいだ。雅が自分を責める必要はない」
そんな事を言っても、雅は自分を責めるだろうな。
「でも……」
「はぁ、また御得意のタラレバか?勝手に判断して動かなければ、俺がバケツを取ってれば、そもそも火事なんか経験してなければってか?止めろ止めろ、結果は変わんねぇって」
神川の他人事の様な言葉に、雅は枕にしていた座布団を叩き付けた。
「何だよ」
不機嫌そうな神川は、間違ったことは言っていないと顔に出ていた。それが、更に雅を煽る。
「だったら、オマエは誰一人傷付けずに生きてきたのかよ。傷付けられずに生きてきたのかよ」
雅を宥めようと体を動かすと、保護者にそっと止められた。でも、このままだと、雅は自分を追い込んで傷つける。神川だって、それは望んでない。なのに、何で動かないんだよ。
「俺の人生はっ、オマエと比べて後悔まみれで、タラレバ並べて生きないと、息苦しくて、死にたくなるんだよ!」
吐き捨てる様な雅の言葉に、苛立ちを顔に出した神川は雅の胸ぐらを掴んで睨み付ける。雅も目の前の瞳を睨み返す。
「それは諦めろっつったろーが」
「俺の問題で、大和は関係ない」
「あるんだよ」
神川の言葉を、雅は鼻で笑う。
「形だけのものだろ。暇潰しの自己満は他所でやれ」
雅の言葉に、神川の眉間のシワが深くなる。
「雅こそいい加減にしろや」
「はぁ?」
「いつまでも死んだ人間追いかけてんじゃねぇよ!」
神川の言葉に、雅は目を見開いて、辛そうに顔を歪めて下を向く。雅の求めた愛は、もうこの世界には居ない。それでも想い続けている。それは、なんて尊くて強い愛なんだ。
「追いかけて悪いかよ!簡単に終わらせられれば、こんな想いしてねぇんだよ!何も知らねぇ他人がっ、偉そうに説教すんじゃねぇ!」
震える唇から吐き出される言葉が、とても羨ましく思った。雅のように、誰かを想い続けることが、俺に出来るだろうか。近づいてきた人の声と足音に、俺は神川に近づき、雅を放すように伝える。
「うっせーな。幸慈には関係ねぇだろ!」
雅を掴んでいた手が、俺を邪魔者として突き飛ばす。思ったよりも強い衝撃に、踏ん張りが効かない足は、素直にバランスを崩し体が後ろに傾く。背中に強い衝撃が来るだろうと思って覚悟したが、それに襲われる事はなかった。
「幸慈っ、大丈夫!?」
予想してなかった檜山の姿に、俺は言葉を失う。俺を抱き止めるように、後ろから回された檜山の腕が懐かしいと思ったが、それだけだ。それだけの自分に安堵した。
「大和。テメェ、幸慈に何してんだ」
体勢を立て直し、今にも掴み掛かりそうな檜山の前に立ち、どうにか引き留める。
「よせっ、怒るなっ、もめるなっ。檜山が怒ると面倒事にしかならないから黙ってろ」
視界の端に深く頷く保護者が見えて頭痛がした。面倒事しか起きないのは昔からみたいだ。制止を訴える俺に、檜山は不満全開な顔をした。
「何で!?今のは一方的に大和が悪いじゃん!」
「僕達が簡単に口を出したらいけないことが色々あるんだ」
「色々って何さ!幸慈を突き飛ばすのに正当な理由が有るとかあり得ない!」
「正当防衛とか、何かしらあるだろ。そんな感じのやつだと思え」
「どんな感じ!?」
平行線のままな気がして保護者に救いの目を向けると、すぐに動いてもらえて助かった。
「一先ず、茜は靴を脱ぎなさい」
「靴?……あ」
土足で家に上がり込んだのか。予想してなかった檜山の行動に頭を抱える。
「神川くん。君にしては珍しく一方的な言葉が多い。少し冷静になりなさい」
神川は自分でも自覚があるらしく、深く息を吐き出して俺を見る。
「ごめん」
「いや、こういうのは慣れてるから平気だ。気にするな」
「慣れてんじゃねぇよ。はぁー、頭冷やしてくる」
部屋を出て行った神川が心配ではあったけど、今は雅の方が辛いだろうと思って後を追うことはしなかった。
「雅」
雅の前に座り込み、そっと様子を伺うと、弱々しく笑った。
「ごめんな。でも、駄目なんだ」
トラウマは誰にでもある。それに当たった時、弱い部分が顔を出して、どこまでも脆く砕けていく音が耳から離れない。
「期待しちまうんだ。先生が殺してくれるって……迎えに来たんだって……あるわけないのに……」
その音が聞こえなくなったら、俺達は何かを見つける事が出来るんだろうか。
「殺しに来たと思う時は僕にもあるさ。堪らなく怖くて、体が動かなくなる。求めるものが違くても、息苦しさがまとわり付いてくるのは変わらない。弱いとか、情けないとか、仕方ないさ。虚しくても、僕達は生きてるんだ」
愛が殺しそびれた俺と、愛が殺せなかった雅。俺達は、背中合わせに生きている。そんな錯覚を抱く。静かに流れた雅の涙が嗚咽を連れてくる頃、震え出した肩の存在は俺の腕だけが知っていた。愛なんてなければ、こんなに苦しい想いをしなくて済んだのに。させずに済むのに。どうして、叶わない事ばかり俺達に押し寄せてくるのだろう。押し寄せるばかりで引くことのない現実に、どう立ち向かうのか、どこかに逃げ道があるのか。考えて考えて疲れて果てた俺達を労ることなく、波は高くなるばかり。いっそ、雅の様に愛してみたかった。居ない誰かを想って、息絶える。でも、愛した人が待っていてくれるなら、死も恐ろしくはない。だからこそ、雅は死を願うのだろう。
「オジィ、説明してよ。ボディーガードも突っ立ったまま何もしないし。大和は自暴自棄になってるしでワケわかんない。幸慈にも怒られるしさ」
「当人同士でしか伝わらない言葉があるからだよ。それより、さっき縁側に投げ捨てたそれは何だい?」
保護者は縁側に転がる食べ物の入った容器を指で示す。
「それ?……忘れてた!」
檜山は容器をビニールに入れ直して保護者に差し出す。
「途中千秋と会って、皆がお腹空いてるだろうから持ってけって。薫に会いたいから押し付けた感は満載だけど。ミーちゃんにも秋谷通して電話で確認して許可貰ったよ。オジィが居るから大丈夫って……今、渡すの変だよね?」
「良く解ったじゃないか。少しは幸慈くんと離したかいがあったというものだ」
「まぁ、どんな説教よりも効果があるのは認めるよ」
どんな効果だ。檜山の居ない場所で気分転換をしようと決めて、雅のナンパに乗っかったのに、これじゃ意味がないじゃないか。最終日までいるとか言い出すんだろうか。言い出したとして、泊まる先はどうなんだ。平と薫みたいに旅館に泊まるなら雅に迷惑はかからないが、今日の事もあるし、神川とは顔を合わせたくないだろうな、と、色々心配していると、うつ向いていた雅の体が少し動いた。
「悪かったな。色々と、さ。話したかったんだけど」
「いや、前から二人でのんびり話したいって約束してから、こういうことは予想してたさ」
「何だよそれ」
「自慢の友達って話」
右手の人指し指で雅の目尻に残る涙を拭うと、乱暴な足音が近付いてきて、ドアの方へと目を向ける。開かれたままのドアの向こうから、自治体の人に連れられた、見覚えのある男が三人と、見覚えのない男が四人入ってきた。
「俺等がやったって証拠あんのかよ」
文句を言う先頭の男は、俺と雅の姿を見て汚く笑う。俺と雅の前に檜山が立つが、その姿に面倒事が始まるのかと気落ちした。保護者とボディーガードも俺と雅の傍に来て、守るように立ってくれた事が、少し照れ臭い。自治体の人の居たたまれない気持ちには同情する。
「うわー、本当に男?」
入ってきた三人目の男が見定めるような言葉を吐く。誰の事だ?と、小声で雅に訪ねる。雅は黙って俺の顔を左手で指差した。それは無い、と否定するも、保護者が、俺は可愛らしいから勘違いされても仕方がない、と、さらりと言ってのけたので、気まずさから苦笑する。本当にそういうつもりで相手が言っているのなら、時と場合を間違えたな。俺には関わらない方が身のためなんだが、今はそんな事も言える状態ではない。最後に入ってきた男が、雅を見て鼻で笑う。
「何々、火事が怖くて泣いちゃった感じ?ごめんなー、あんな大事になるとは思わなグッ」
男の言葉は神川が後ろから首を絞めたことで途切れる。それを見た自治体の人は、慌てて俺達の方へと避難してきた。賢明な判断だな。この部屋の中で一番安全なのは、俺と雅の傍だけだ。
「今の自白だよなぁ。それ以外認めねぇし。俺の宝を傷付けた罪を償わせてやるよ」
笑顔の神川が怖い。
「大和ー、半分ちょーだーい。特に、前から三番目の奴」
二人の言葉で平和的な和解は無理だと悟った俺と雅は、諦めて縁側の外へと二人して右手の親指を向ける。
「「せめて外でやれ」」
「「よっしゃ!」」
大の男を纏めて外に放り出した檜山と神川は、ストレスが貯まっていたのか、イキイキと喧嘩を始めた。
「ま、雅くん。これから警察が来るんだが、彼等は大丈夫なのかい?」
「警察って山田さんですよね。顔効くんで、俺から話しときますよ。怖い思いさせてすいません」
警察に顔が効く高校生は、全国で何人いるんだろう。
「そうかい?じゃあ頼むよ。消防の方はこっちでやっておくから。それにしても、雅くんの回りは賑やかなのがよく集まるねぇ」
「しみじみ言うの止めて下さいよ」
賑やか。改めて雅の周りを見返した俺は、神川や他の皆の行いを考えて少し笑った。
「ふっ、確かに賑やかだな」
「笑うなよ」
自治体の人を見送って、立ち上がろうと足を動かすが、予定以上の痛みに動きを止める。それを見た雅は、救急箱からテーピングと湿布を取り出して、慣れた手付きで俺の右足首を固定した。その上に保護者の付き人がくれた氷嚢を乗せる。
「重病感すごいな」
「幸慈が怪我してるのよく見る気がする」
「気のせいだ」
俺の些細な切り傷や擦り傷を消毒する保護者の手は優しくて、暖かい。なのに、この人は自分を加害者の親だと言う。それが苦しい。
「あの、檜山……茜くんとの事ですけど……」
俺が言葉に詰まると、保護者は付き人に縁側の障子を閉めさせる。
「距離を置くべきだと思っている」
保護者の言葉に俺は驚く。
「幸慈くんの事はとても好きだ。我が子の様に守りたいと思っている」
我が子。やっぱり母さんと再婚するのかな。でも、母さんから付き合ってるなんて聞かないし。
「だからこそ、今回の茜のしたことは簡単に許して欲しくはない」
普通なら許してくれと願い出る所を、そうしないのはこの人の、人としての強さなんだと思う。
「君は血の繋がった家族に殺されかけた。だからこそ、命を重んじる事が出来る子だ。だが、茜にはそれが出来ない。死ぬと言った子に対して、死ねと言ってしまうような子だ。それが以前の恋人であっても口にしてしまう。このまま許してしまっては、また幸慈くんが同じことで傷ついてしまうのは目に見えている」
本当に、俺の事を真剣に考えてくれてるんだ。こんな、俺なんかの事を。
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予想してなかった言葉に、俺は微かに目を開く。
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雅の質問に、保護者は強く頷く。
「幸慈くんが望むなら、今すぐ引き離すことも出来るが」
保護者の言葉に、俺はなんて言葉を並べるべきか解らないまま俯く。
「白紙に、戻せたらどんなに良いか、と、何度も考えます。ただの、友達の彼氏の友達で居られたらって。どこで、間違えたんでしょうか。僕は、愛されずに生きていきたかったのに。どうして僕は、誰かを人殺しにすることしか出来ないんでしょう」
この両手が血塗れなら良かったのに。そうすれば、誰とも出会わずに、関わらずに今日を生きれた。全てをやり過ごして、吐き捨てて、ゴミみたいと指を指されて生きることが、本当の俺に思える。今の俺は偽りなんだ、と。
「僕以外の誰かを、と、願っているのに叶わない。檜山茜の一番の空席は、いつも僕に向けられているのが怖くて仕方がないんです」
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「何で生かさせてるんでしょうか。こんなにも……」
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あの日は本当に恐ろしかった。目が覚めても現実が受け止められなくて、現実だと信じたくなくて俺を偽る様になった僕を、責めることなく、否定することもなく受け入れた環境にすら、嫌気がしたのを覚えてる。我が儘なものだ。逃げたくせに、僕を否定してほしいなんて。未来だけは、訝しげな顔をしたのを覚えてる。それでも、また遊べることの方が大事だからと言って、あっさり開き直る姿にだけは救われた。
「あのさ」
凛とした雅の言葉に呼ばれ顔を向けると、不思議そうな顔とぶつかる。
「俺は幸慈が好きだけど、それだけじゃダメなのか?」
雅の言葉に障子が勢いよく開いて、綺麗な形が崩れる。
「オマエは壊すことしか出来ねぇのか!誰が直すと思ってんだ!」
「雅こそ浮気してんじゃねぇよ」
「友情の好きの何が悪い!自慢の寛大はどこに行ったんだよ!」
「障子の十枚や百枚余裕で弁償してやるよ」
「その寛大じゃねぇ!そういう金銭感覚の無さが気に食わねんだよ!」
さっき喧嘩したばかりなのに。喧嘩するほど仲が良いってやつか。でも、それを言ったら雅は、神川の味方になるつもりか、なんて不貞腐れるに違いない。
「オジィ!お巡りさんが俺だけを悪者にするんだけど!何とか言ってやってよ!」
遠くから救いを求める檜山の周りは、さっきまで喧嘩してたのが解る程の光景があった。無傷で七人を見下ろして居れば、悪者に見えても仕方がないと言うものだ。
「おやおや、日頃の行いがここにも響くとは。雅くん、協力してもらって良いかな」
「はい」
日頃の行い。確かにここまで不憫に働くとは思ってなかったな。
「幸慈さ、色々と慣れんな」
障子の壊れ具合を確認しながら呟いた神川の言葉に目を細める。
「生き安いかもしれねぇけど、それは空しいだけだ」
そうだろうな。まるで機械だと言われた事もある。未来のお陰で人として生きれては来たが、見切りをつけてしまったら、きっと戻れないだろう。神川は、いつも俺を遠くから観察していたから、それに気がついただけに過ぎない。それでも、俺はその忠告を真摯に受け止める事にした。人でいたいと、思っているからかもしれない。
「あ、障子のサイズはまちまちだから、弁償するなら雅にちゃんと確認しろよ」
「マジか。雅ー、障子のサイズさー」
その話は後にしろ、と、怒る雅の声が聞こえて少し笑う。最近、笑うようになったと自覚する。光臣が笑わなかったと聞いた時、俺自身もあまり笑うことがないな、と、気づいた。それでも何かが変わる訳もなく、時間と季節をやり過ごす。それが、今は惜しいと感じる事が増えた。それが何でかは解らないが、嫌ではない。火傷の上を指で辿る。火傷特有の痛みが走って指を止めて息を吐く。今回も生き延びた。いつ終わるのか教えてほしいものだ。そうすれば、少なくとも、微かでも、夢を見れるのに。俺も雅が好きだ。皆、とても大切で好きな人達。掌の傷のように大切な好きが増えても、きっと俺は満たされない。
「痛い?」
縁側に座り込んで、俺の様子を伺って来る姿に息を吐く。
「痛いよね。もっと早く助けに行けなくてごめんね」
「こういう体質なんだ。仕方ない。それにもう……」
慣れた、と、言いかけて口を閉じる。真摯に受け止めたばかりじゃないか。これは口癖かもしれない。気を付けて直していこう。
「もう、何?」
「厄除けのお守りも効果がないんだ。そんなものに立ち向かうのも疲れる」
「幸慈、基本省エネだもんね」
のんびりと続く会話に拍子抜けしながらも、距離を縮めてこようとしない檜山に安堵する。
「雅とマラソンしてた日にさ」
「マラソン?」
「クソ女のヤツ」
「あぁ、あれ」
マラソン扱いになるのか。
「そう、それ。幸慈、怒ってたでしょ。色々あって聞きそびれてたなぁって」
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「大分前の事だろ」
「んー、でも、今怒ったでしょ」
本当に、檜山は俺の事をすぐに見抜く。
「檜山が言わなければ怒らなかった」
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申し訳なさそうにする顔に、少し罪悪感を抱いた俺は、膝を抱えて氷嚢を揺らしながら口を開く。
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「本当にクズだね。幸慈の事を知らないくせに。知ろうともしないヤツが、偉そうに評価するなんて許さない」
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「それは愛と思って受け止めてよ」
「要らん」
「まぁ、今はミーちゃんに全部データ取られたから、かなり落ち込んでるけど。ミーちゃん怒らせると怖いね」
「まぁ、今回は僕も口を出せないからな。自力でどうにかしろ」
「だよねー」
保護者の付き人が檜山を呼びに来た。そろそろ空港に向かうらしい。檜山は祭りが終わるまで居たい、と、駄々をこねるが、保護者に睨まれて口を閉じる。その代わり、檜山は土足で俺の前まで走り寄ってきた。何事だと少し身構えた俺に、檜山はチークキスをする。
「幸の怪我が、早く治りますように」
檜山は満足そうに笑って、縁側から外へと足を踏み出す。保護者から逃げるように走り去る背中を見て息を吐く。
「幸慈くん、茜がすまなかったね。嫌な事は言われなかったかい?」
「大丈夫です。少し、時間も作れますから、僕は僕で、考えてみます」
「そうか。私は日本に居るから、いつでも頼ってきなさい。これは私にしか繋がらない様になっているから、話したい時は遠慮なく掛けてくると良い」
保護者は俺の手に携帯を持たせてくれた。何から何まで申し訳ないな。
「ありがとうございます」
保護者を見送った俺と雅と神川は、過ぎ去った嵐に息を吐き出した。知らないくせに、と、相手を責めるけれど、なら知ってほしいと努力をしたことがあるのか、と、聞かれるとそれはノーだ。だから、檜山は犯罪者と同じことをしてでも俺を知ろうした。どれくらい知っているんだろう。どれくらい見透かされているんだろう。俺を知らないと言いながら、見透かしたように選ぶ言葉に言い返せないのは、その通りだと思うから。檜山の感触が残る頬に眉をしかめる。無かった事にしたいのに、それを望まない自分がいるのが嫌だ。愛だと思って?冗談じゃない。そんなもの欲しくない。こんな俺に、それを欲する資格なんてないんだ。
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平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。
そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。
彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。
「お前だけが、俺の世界に色をくれた」
蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。
甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー
【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―
綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。
一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。
もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。
ルガルは生まれながらに選ばれし存在。
国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。
最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。
一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。
遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、
最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。
ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。
ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。
ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。
そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、
巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。
その頂点に立つ社長、一条レイ。
冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。
異世界転生した俺のフェロモンが「全種族共通の特効薬」だった件 ~最強の獣人たちに囲まれて、毎日代わりばんこに可愛がられています~
たら昆布
BL
獣人の世界に異世界転生した人間が愛される話
一部終了
二部終了
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-
mao
BL
力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。
無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?
天才、秀才、凡人、そして無能。
強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?
※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。
のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。
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