私の人生に貴方はもういらない

三同もこ

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チャンスを手に入れた僕(ヴィジエールside-1)

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 僕の人生は始まりから間違いの連続だった。

 ジョワイユ伯爵家の三男として生まれたのが、僕の苦難の始まりだったのだろう。
 実に馬鹿げた事だが、この国では余程問題がない限り、長男が家を継ぐ事が決まっている。
 長男以外は家が持つ家名を継ぐ事になるが、我がジョワイユ家では本家である伯爵家以外の家名は男爵家が一つだけで、これは二番目の兄が継ぐ事が決定していた。
 つまり、僕は名ばかりの貴族位である勲爵士になるしかなかったのだ。兄弟の中でも、一番優秀であった僕が!
 僕にはそれが耐えられなかった。僕は優秀だ。昔から頭も良く、家庭教師にはいつも褒められていた。剣術だって、指南役にはいつも筋がいいと言われていたのだ。
 それだけじゃない。

「本当にヴィジエール坊ちゃんは何て綺麗な子でしょう。こんな綺麗な子は滅多におりませんわ」

 僕は容姿にも優れている。幼い頃から、ずっとそう褒められ続けてきた。
 誰よりも優れている僕が名ばかりの貴族位である勲爵士など相応しくない。僕の才覚は、そんなものでは収まらない。―――相応しい場さえあれば、僕はもっと活躍できる。
 ずっと、そう思っていたが、僕が家を継ぐ可能性は限りなく低かった。長兄も次兄も凡庸だけど、大きな問題などない人物だったからだ。

「ヴィジー。君はもっと沢山の事を学ばなければいけないよ」

 僕より成績の悪かった長兄は、訳知り顔で僕にそう言った。

「ヴィジーは賢いのに馬鹿だな。もっと頭使えよ」

 剣術しか取り柄がないのに、その剣術の成績ですら僕に敵わない次兄が、憐れんだ顔でそう言う。

 僕は屈辱に耐え、ずっと機会を待っていた。
 そして、機会は訪れる。



 爵位を継げない男児が爵位を得るには、爵位を持つ女性と婚姻を結ぶ必要が合った。
 しかし、爵位持ちの女性など滅多にいない。数少ないその女性たちには、伯爵家よりもっと上の階級の子息たち、時には王族の婚約者がいた。
 けれど、上流階級は下位貴族には目もくれない。僕はそこが狙い目だと気付き、一人の男爵令嬢に近づいた。

 ジョアンナ・ディンプル。最下位の男爵家の令嬢。辺境にある領地は貧しく、それ故に婚約者はいない。――――だが、男爵家には彼女以外の子はなく、彼女には男爵位の継承が決まっていた。

 この国では女性が爵位を継ぐ事もあるが、爵位を継いだ女性が結婚した場合、その多くの場合が婿に入った夫が妻から爵位を譲り受ける。
 気弱で従順そうなジョアンナなら、僕は男爵位を譲り受ける事が出来る筈だ。
 打算から僕は彼女に近づいた。彼女は見た目通りに従順で、僕を素直に慕ってくれる。
 彼女からの尊敬の目は気分が良かったし、彼女は上流階級にも劣らない美しい容姿を持っていたから連れて歩くのも楽しく、素直な性格も可愛いと思っていた。
 このまま学園を卒業して、彼女と結婚して男爵を継ぐ。寂れた男爵領も僕の力があればきっと豊かになるだろう。
 自信があった。僕の人生はようやく僕に見合ったものへと変わり始めていた。

 そんな僕の人生に転機が訪れたのは学園の卒業を控えたある日の事だ。

「トレサイーユ侯爵家からの縁談、ですか?」

 突然、僕に来た上位貴族からの縁談。
 それも相手は由緒正しいトレサイーユ侯爵家の一人娘。その婿にという破格の待遇だった。

「しかし、お前にはジョアンナ嬢がいるし、この話はお断りして…」
「お受けします」
「え?」
「ジョアンナとの婚約は口約束で、正式なものではありません。ジョアンナには僕から話します。彼女も事情を知れば納得してくれるでしょう」
「だが…お前は、それでいいのか?」

 父が困惑したように、心配そうな目でそう言うが、僕には意味が解らない。
 元々ジョアンナとの婚約は僕が男爵になるためのものだった。しかし、縁談相手は侯爵だ。侯爵と男爵。比べるまでもない。

 次の日にはジョアンナに婚約の解消を申し入れた。
 僕に従順だったジョアンナはアッサリと受け入れてくれる。
 これで肩の荷が下りた。心置きなく、レティシア・トレサイーユ侯爵令嬢と結婚できる。

 チクリ、と何故か胸が痛んだ。

 正直、ジョアンナはもっと縋ってくると思っていた。
 泣かれたら面倒だが、縋られれば時々会うくらいはいいだろう。そんな風に思っていた。
 けれど、ジョアンナはアッサリと引き下がったのだ。僕の幸せすら願って。
 従順で有難い半面、従順すぎて微妙にしこりが残る。

「――――従順すぎるのも、問題だな」

 もう少し、我が儘でも良かったのに。
 僕はそんな考えを振り切るように、そのまま学園を去った。

 この先の道が光に照らされたものだと信じながら。
 やっと、正しい場所へと出たのだと――――きっと、幸せになれると思った。



 あの日が転機だったのだと思う。――――そして、あの日を境に、僕の人生は曇り始めたのだ。


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