私の人生に貴方はもういらない

三同もこ

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対峙した私

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 三年が過ぎた。
 ナタリーのお陰で、貧しかったディンプル男爵領は新しい資源をどこにも搾取されず、とても豊かな最盛期を迎えている。
 私が雇った細工職人のクロード(そんなに有名な人だとは知らなかったのだが)が希少な宝石を使った新しい細工を考えてくれて、今やそれは上流階級御用達のものになり、王家からも礼状を貰うほどの名品へと変化を遂げていた。
 多くの上流階級の貴族たちがこの地でしか買えない品を求めてこぞってこの地を訪れ、それに追従するように多くに人々が辺境にあるこの場所に注目している。
 それは自国を越え、隣国にまで広がり、かつては寂れていたこの地は流通の要へと姿を変えていた。
 急激な成長を遂げる中で、私の立場も大きく変わる。
 時には、利権を求めて私に言い寄るもの、私に危害を加えようとするものもいたが、その全てからレオンが守ってくれた。
 人々は幸せそうに笑い、活気が街を彩り、全てが良い方へと進んでいる。

 私の意識も少しずつ変わり始めていた。
 最初は皆を幸せにしたいという漠然とした思いだったそれは、今はもっと大きく、もっと具体的なものへと変化している。
 只の男爵令嬢ではできなかった事。
 只の男爵では出来なかった事。
 ―――それが今なら出来る。その力を皆から貰うことが出来た。
 その場で足を踏みしめているだけで精一杯だった人々がそれぞれに歩き出した今、私も又、歩き始めるべきだろう。

 ずっと目を逸らしていた事がある。

 学園を卒業して四年が流れた。私ももう二十二歳。とっくに適齢期を越え、本当ならば他の学友たちと同じように、もう子供がいてもいい年齢だ。
 再会したあの日以来、全てが目まぐるしくて、ずっと目を瞑っていた事がある。

「………もう、適齢期を過ぎてしまったけれど、まだ間に合うのかしら?」

 あの日からずっと傍にいてくれるレオン。―――いいえ、そうじゃない。昔からずっと傍にいてくれた。余りにも近くて、気付けなかっただけで。

 一級騎士となり、準貴族の称号すら持つレオンには華々しい活躍があった筈だった。
 けれど、私が男爵を継承する時、彼は騎士を辞め、私の護衛になってくれたのだ。
 一級騎士を雇うお金などないと言えば、笑って気にするなと言ってくれた。―――お前の傍にいたいのだと、とても優しい顔でそう言ってくれたのだ。

 只の男爵ではなく、上流階級のものも一目置く裕福な男爵へと変わった私は、それまでとは違い、身の危険を感じる事が増えたが、レオンのお陰で無事に今まで過ごすことが出来ている。

 感謝している。とてもとても。
 けれど、この胸の中に温かに灯る光は、もう無視できない程、大きくなっていた。
 ふとした優しさに気付く時、何も言わずに目を細めて私の言葉を待ってくれている時。
 どうしようもない程、嬉しくて胸が一杯になる。
 幸せが体中を駆け巡り、涙が零れそうになるほどに愛おしさが募った。
 きっと、これがそうなんでしょう?
 ずっと知らなかった、こんな特別な気持ち。

 少しずつ降り積もった気持ちが、やっと鮮やかに色づいている事に気が付いたの。
 皆の幸せを願えるのは、きっと私が誰よりも幸せだからだって、気が付いたの。

 胸を満たす温かさも、時折胸を刺す甘い痛みだって、貴方がくれたものだって、ようやく気付いたのよ。


「ねぇ、レオンを見なかった?」
「レオン様なら、先ほど街へ向かうと言っておられましたよ」
「そうなの。じゃあ行ってみるわ」
「主様、お一人では…」
「大丈夫。直ぐに戻るから」

 弾む声でそう言って飛び出した。
 危ない道ではなかった。いつも通っている道で、開けているから見通しもいい。
 姿は見えなくても、民家も多く、声もよく通る。
 だから、決して何かが起こる場所ではなかったのだ。


「ジョアンナ」
「え」


 決して事件が起こる道ではなかった。
 事実、それは命の危機を迎えるものではない。
 けれど―――



「……ヴィジエール様…? ……何で……」



 そこにはあの日、私の運命を大きく変えた綺麗な男性が一人立っていた。

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