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私は穏やかに暮らしたい、…
しおりを挟むその日の夜、レベッカはベッドに入り、公爵の事を考えた。
真剣に聞く態度を取らなかったが、彼はレベッカに謝罪した。
多分、彼の性格だと、ずっと舞踏会での婚約破棄を後悔していたのだろう。
愛が無くなった相手でも、きちんとした終わらせ方はあった。
私は、あんな方法でレベッカの心を傷つけた事に怒っていた。
公爵がレベッカに冷めて、ヒロインに浮気した話はまた別だ。
元のレベッカは本当に性格が悪かった。
頭の中は常に〝公爵様〟。
猛烈に彼を愛してはいたが、彼に近づく者は誰でもいじめる。
今まで欲しいモノは何でも与えられ、自分の思い通りの人生を歩んでいた女性。
傲慢で我儘、誰もが彼女に手を焼いた。
「わ、別れるの大変そ~。」
思わず口に出てしまった。
だから二股状態になっていた?
否、レベッカにも非はあったのは認めるが、ちゃんとお別れ出来なかった公爵が悪い。
「はぁ、恋愛と言う人間関係は難しいわね。」
そういう自分も、付き合った人の数と同じく、別れも経験している。
忘れかけていた、前世の記憶を思い出した。
自分が癌だと分かった時、最後に付き合っていた人がいた。
彼は、変なB級ホラー映画好きの趣味を除けば、優しくて、自分にはもったいないくらいの良い人だった。
もう、長く生きられないとわかって、その彼には
「好きな人が出来た、もう好きじゃ無い」
とか嘘を並べ、別れた。
最期を見られたくなかったし、彼の事を想えばの嘘だ。
結果、私の嘘で彼を傷つけ、悲しませ、泣かせてしまったが……。
私はまだ、元のレベッカのように、猛烈に誰かを好きになった事は無い。
最後に振った彼とも、付き合いはまだ短かった。
だから簡単に、あんな嘘を言えた。
愛し合った時間が長かったら、あの時の私はどんな決断をしたのだろう?
「駄目だわ。このテーマは重すぎる。
そもそも、この小説の作者が、レベッカを悪役令嬢として作ったのが悪いのよ!」
それなら、公爵とレベッカは幸せに暮らしましたとさ。
ハッピーエンド。
私は彼女に転生しない……。
現実も物語も、思い通りにはならないのね。
レベッカの思い通りにならなかった物語。
あなたは、命を投げ出してしまったけど、
私はあなたの代わりに、その命を紡ぐ。
私たちは二人で一つなの。
だから、私なりに今は、穏やかで幸せな余生を過ごすわ。
あなたが好きな『優雅な』生活が、まだ出来なくてごめんね。
いつかは、優雅に暮らしてやるわよ。
「レベッカ、一緒に幸せになろうね。」
外から、夜12時を知らせる鐘の音が鳴る。
その音は、今日はとても心地よく聴こえた。
レベッカは、静かに眠りに落ちる。
※
翌朝、玄関の呼び鈴で目が覚めた。
「嘘でしょ……何時だと思っているのよ……。」
寝起きのまま、ガチャンと玄関の扉を開けた。
「本当に、何度も言っているが、君はすぐに扉を開けて——」
案の定、目の前にはファーガソン公爵様がいた。
「公爵様も、こんな早朝に訪ねて来て、
常識と言うものは無いのでしょうか?」
公爵の説教を無視して、眠そうに目をこする。
「う、すまない。
……思ったよりも早く着いた。
中に入るぞ。今日は手土産がある。」
許可もなく、公爵は家に入る。
着ているジャケットをレベッカに羽織らせると、
いつもの暖炉前に向かい、火を点す。
これが毎日のルーティンになったら嫌だな、と思いながら、
レベッカは、いつもの様にお茶の準備をする。
「これ、お土産だ。」
渡された紙袋には、紅茶缶が何個も入っていた。
アールグレイ、ダージリン、オレンジペコー……。
ラベルを見ただけで、ずっと飲みたかった紅茶の香りが、脳内で蘇る。
「わっ!
こ、これは……!」
紅茶用の蜂蜜もあった。
オレンジ色の綺麗な蜂蜜。
思わず、涎が垂れそうだ。
はっ、と我に返り、公爵を睨み顔で見た。
「これは手土産だ。
『施しはいらない』と言って、受け取らないのは、
客人に対して失礼だぞ。
常識のある侯爵令嬢様?」
レベッカが話し出す前に、公爵は受け取るようにと釘を刺す。
「ぐっ。」
嬉しくて、顔がほころぶのを、歯を食いしばって耐えている。
何かと葛藤している様にも見えるが、
そんな彼女の顔が、公爵には面白かった。
「この紅茶、香りが良いんだ。
香ってみて、良かったら、これを淹れてくれ。」
公爵は、その紅茶缶を開けた。
どれどれ、と、レベッカは鼻を近づける。
「わっ!
本当だ、凄く良い香り!
これ好きかも。すぐに淹れてきます。」
昔、元のレベッカがよく飲んでいたのか、
懐かしさが蘇る。
少女の様な笑顔を見て、公爵の顔は優しくなった。
「ああ。君が淹れる紅茶、楽しみだよ。」
はしゃぎながらキッチンに向かうレベッカを、
ソファに座りながら、穏やかな気持ちで見送った。
「公爵様、お茶を用意しました。
……って、あれ?」
戻って来た時には、公爵はソファに座ったまま眠っていた。
目に髪がかかっていたのを、レベッカは優しく直す。
いつ見ても、綺麗で整った顔だ。
でも、よく見ると、公爵は疲れ顔に見えた。
レベッカは起こさずに、ブランケットを掛けてやる。
彼の寝顔を眺めながら、一人で紅茶を楽しんだ。
懐かしい香りに包まれて、
目の前には、元レベッカが好きだった人が眠っている。
「不思議ね、レベッカ。
あなたを捨てた男が、
私の目の前で、無防備に眠っているわ。」
そこには、あなたが見たかった景色が、確かにあった。
暖炉の火が、ほんわりと温かく、
レベッカも、彼につられて眠くなる。
「公爵様だけずるいわね。私も二度寝しよ。」
レベッカは脚を伸ばして、
スヤスヤと眠ってしまった。
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