公爵様、私は「ざまぁ」されましたので優雅な余生を過ごします。【連載版】

村井田ユージ

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目が覚めるとあなたはいない…

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 目が覚めると、公爵は居なかった。
 彼に掛けたブランケットが、自分に掛けられている。

「あれ、今何時だ…?」

 普段は音を立てないボロボロの長時計の針が、「カタン」と音を立てて、12時になった。
 耳を澄ませば、外からは正午を知らせる鐘の音が聞こえる。

「やば、寝過ぎた。」

 テーブルには空のカップと、置き手紙があった。見覚えのある手紙は、街で買った私のレターセット…。


 〝お茶ご馳走様。次は淹れたてを2人で飲もう。また来るよ〟

 手紙の内容はこれだけ。

「うぐぐぐ…。もう来なくていいわよ!このレターセットの便箋、一枚いくらだと思ってんのよ!」
 
 高価なレターセットとペンは、まだ使えていなかった。早く母に手紙を書きたいが、この便箋一枚でパンが買えそうだと思うと、手が震える。

 公爵は、冷めた紅茶を飲んで帰ってしまったようだ。
 寝てしまい、朝食のパンケーキは作れなかった。
 まだ悪態を吐きながら、レベッカはブランチを作る。
 配給のパンと、頑張って乳搾りした牛乳で、フレンチトーストを作ろう。早く、お土産でもらった蜂蜜を使ってみたい。
 キッチンからは、楽しそうな鼻歌が聞こえる。




 ◇◇◇




 いつのまにか眠っていた。
 気がつくと、レベッカの香りがするブランケットが掛かっていた。
 目の前で、レベッカは横になって眠っている。別人になった彼女は、なんて無防備なんだろう。
 それに元婚約者だが、男の前であんな薄着は不用心すぎる。
 しっかり者にも見えるが、ところどころズボラな気もする。少女のような反応を見せるかと思えば、急に大人の女性な一面も見せる。

「…本当に、君は一体誰なんだ?」

 この際、初めましてと挨拶した方が良いくらい、レベッカ・ランドルフは俺の知らない女性に変身していた。

 彼女にブランケットを掛けようと、近づいた。
 やはり、胸が透けて見える気がする。
 疲れ目だったから気にならなかった。
 先ほどの仮眠で少し疲れが取れた。
 もっとコンディションの良い状態なら、ちゃんとはっきりと見えた気がする。
 気がつくと、彼女の身体を凝視してしまった。

「俺は何をしているんだ…。」

 すぐにレベッカにブランケットを掛けてやる。
 でも、もう少し君の寝顔を近くで見ていたい。
 顔に掛かる長い髪を、耳に掛けてやる。なめらかな肌に少し触れてしまった。
 その瞬間、レベッカが寝返りを打つ。

「うーん……お肉ぅ……」

 はっきりと、「肉」と聞こえた。

「あはは。次は『肉』を手土産にしようか」

 思わず、笑みがこぼれる。
 キッチンに肉らしい物は見当たらない。
 夢の中で、何を食べているのだろう。

 やはり、別人になったレベッカも、この生活は似合わない。

「俺なら……こんな暮らしはさせない」

 思わず零れた言葉に、自分で息を詰まらせた。
 残酷に別れを告げた相手に、何を言っているんだと、ちゃんと自覚はある。
 こんな生活にさせたのも自分のせいだ。
 だが、恋人のクリスタには財は無いが、彼女との生活と比べて、天地の差を感じてしまった。

「幸せに暮らしていると言った君に対して、失礼だな」

 冷たくなった紅茶を飲み干す。
 冷めていても、懐かしい香りだけは残っていた。

 ペンと紙を見つけ、短く置き手紙を書いてから、家を出る。

 レベッカのパンケーキを食べそびれた公爵は、また次の日を思い浮かべながら、馬を走らせた。




 ※




 帰宅すると、書斎には恋人のクリスタが居た。

「どこに行っていたの?目が覚めるとあなたはいない、一体何をしているの?」

 クリスタの質問責めに思わず、ため息が出る。

「仕事だ。すまないが、これから書き仕事があるから出て行ってくれないか?」

「最近、すごく冷たいわよ?いいえ、舞踏会で交際宣言してから様子が変よ。」

 彼女の言葉は何故か頭が痛くなる。
 書斎机に座り、無視して仕事を始めた。

「もしかして、レベッカ嬢が自殺未遂したのを、まだ気にしているの?」

「クリスタ、すまない。仕事に集中したい。」

は、彼女が望んだ選択だったの。あなたのせいでは無い。だから気にしてはだめよ。」

 ペンを走らせていた手が止まる。

「……。クリスタ、紅茶が飲みたい。今すぐに、淹れて来てくれないか?」

「ええ!もちろんよ。一緒に飲みましょう。」

 クリスタは嬉しそうな顔で部屋を出た。
 やっと、部屋は静かになった。
 
 公爵は、溢れてくる感情を全て無にしようとする。
 何も考えない、気持ちを抑えるのに必死だった。
 だが、すぐにクリスタは戻って来てしまう。

「さあ、仕事なんて止めて飲みましょうよ。今、流行りの苺の香りがする紅茶なの。」

 クリスタが美味しそうに飲むので、一口味わってみる。
 しかし、苺以外に花の香りが強く、自分には合わなかった。
 レベッカの家で飲んだ冷めたあの紅茶が、とても恋しくなった。

「なあ、君は俺と出会う前は町娘のようだったけど、紅茶は飲めたのか?」

「私は亡国の王女よ?子供の頃から毎日お茶会をして、貴族でも飲めないお茶を飲んでいたのよ。確かに、平民として隠れていた時は飲めなかったわ。ふふ、でもあなたに出会えて、本当に良かった。」

 目の前の恋人は、自分の財産で毎日美しいドレスと宝石をまとい、優雅に紅茶を楽しんでいる。
 外見以外にも彼女に惹かれていた所はあったはずなのに、どうしてか今は見当たらない。

「ねえ、来週なんだけど商人達で栄えた街でお祭りがあるの。貴族も平民も仮装をするみたい。お忍びで行ってみない?」

「ああ、貿易が盛んな海沿いの街か。確かこの時期はそんな祭りがあったな。わかった、行ってみよう。」

 クリスタの笑みは、誰が見ても見惚れるくらいに愛らしい。
 そう、思ったと同時に、レベッカを思い出してしまう。付き合っていた時には見れなかった、彼女の喜怒哀楽。全てが新鮮で愛おしかった。

「すまない、仕事が溜まっている。祭りまではしばらく仕事に集中させてくれ。」

「わかったわ。でも、夕食は必ず一緒よ。今日はフォアグラをリクエストしたのよ♪」

 クリスタは楽しそうに、部屋を出た。
 バタンと扉が閉まると、部屋は一瞬にして静まり返る。
 彼女が居た時は、息が詰まりそうだった。ようやく深呼吸が出来そうだ。

 今、大切にすべきは恋人なのに、どうして別れたレベッカが気になってしまうのだろう。
 静寂の中、公爵は考える事が出来た。
 抑えこんだ気持ちを、一つだけ言葉に出してみる。

「その祭りに、君と行けたら良いのに。」

 すると、少し気持ちが落ち着いた。





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