公爵様、私は「ざまぁ」されましたので優雅な余生を過ごします。【連載版】

村井田ユージ

文字の大きさ
9 / 34

海の匂いがする街で…

しおりを挟む
 

 海沿いの街に行くには、馬車で丸一日かかった。途中、休憩を入れたが、とてつもなく疲れた。

「お嬢様、しばらくはこちらの宿に泊まります。」

 街に到着し、すぐに向かった先は宿泊施設。使用人が案内した部屋に、レベッカは目を見開いて驚く。

「ちょっ、待って。どー見ても、最高級なホテルで、ここはスイートルームにしか見えないわっ!」

「もちろんで御座います。この街で最高級な宿を選びました。使用人用の部屋も付いておりますので、ご用があれば、いつでもお申し付けください。」

 この使用人は、先日街に連れて行ってくれた人。レベッカが見知らぬ人々に追いかけられたのを不憫に思っていたのか、両親のように過保護になっている。


「…あの、今更ですみません。お名前は?」

 使用人はレベッカに名前を初めて尋ねられ、最初は驚いた表情をしたが、嬉しそうに答える。

「私は、ジンジャー・ブレッドマンと申します。先日、街で怖い思いをされましたね。絶対にもう、あのような事が起こらぬよう、私がお嬢さまをお守り致します。」

「え? ジンジャー…ブレッドマンって…あの?」

 使用人の名前が、前世でクリスマス時期に良く作った人型のクッキー、『ジンジャーブレッドマン』と同じ名前で驚いた。思わずその名を口にだすと、ジンジャーは名前を呼ばれて嬉しそうに返事をした。

「はい!ジンジャーに何かご用でしょうか?」

「……あ、えと。もっと庶民的な宿にしましょう。それに、私にはこんな所に泊まるお金はありません。」

「問題ございません!奥様からもしっかりと旅の費用は預かっております。お嬢様は何もご心配なさらずに、快適にお過ごしください。」

 使用人のジンジャーは、レベッカの小さな荷物を部屋に運ぶと、お茶の準備を始めてしまう。
 彼の衝撃的な名前以上に、親の金で優雅な旅行になってしまい震えた。

(うーん。でも、目的は町娘になって、お爺さんの出店の手伝いをする事よ。後は、この街で私が出来そうな仕事がないか調べてみたいわね。)

 レベッカは、広いベランダに出てみる。
 最初に目に飛び込んできたのは、水平線に広がる美しい海だった。
 小さなティーテーブルと椅子が配置されているので座ってみる。最上階の最高級の部屋だけあって、オーシャンビューは格別だ。

「お嬢様、紅茶をお持ちいたしました。」

 景色に感動していた絶妙なタイミングで、美味しそうな焼き菓子と、高級なティーカップに注がれた紅茶が出される。もちろん、味わって残さずに頂く。

「……もう、ここは天国かな。幸せ過ぎるぅ。」

「お嬢さま、おかわりをお持ちいたしましょうか?」

 至れり尽くせりで、「貴族サイコー」と幸せを感じてしまう。
 しかし、目的は贅沢なバカンスではない。「しっかりしろ、レベッカ」と自分に言い聞かせる。

「もう大丈夫よ、ごちそうさまです。私は、市民に変装して少し街を散策したいの。ジンジャーさんは、この後は自由時間という事で好きにしていて下さい。」

 その言葉にジンジャーは驚く。

「ななな、なんですって?お一人では危ないので、私も行きます!」

「えー、じゃあ。ジンジャーさんも街の人のような服に着替えてください。」

「わかりました!すぐにお嬢様と私の服をご用意して参ります!完璧な市民に変装しましょう、少々お待ちを。」

 ジンジャーは、すぐに部屋を出て行ってしまった。
 実は市民を装うことは、反対されるかなと思っていた。だが彼はレベッカにとても協力的だった。
 勝手に出て行ったジンジャーを待っている間、髪をお下げの三つ編みにしてみた。

「ふふふ。レベッカの三つ編み可愛いな~。」

 鏡に映る自分の姿に見惚れる。
 レベッカに転生してから、派手なメイクはしない。元々可愛らしい顔なので、お下げ姿は10代の少女のようだ。

「お嬢様、お待たせいたしました。私が選び抜いた、町娘に変身出来る素敵なお洋服です!」

 ジンジャーは息を切らしながら戻って来た。
 彼はすでに普段着に着替えていた。使用人の服を着ていると若く見えたが、私服になるとそこら辺にいそうなおじさんだった。
 渡された服を見て、レベッカは驚く。

「え? すごく可愛い。これ、ジンジャーさんが選んだの?」

「はい、今の若い娘さんは、そのようなお洋服をお召しになっていましたよ。」

 現代でいうと、中世ヨーロッパ風な衣装だった。白のオフショルダーに合わせたブルーのワンピースドレス。胸元は交差する紐がついたデザインで、古風で可愛らしかった。

 レベッカは早速着替えて、街に出た。
 ジンジャーは彼女を邪魔しないように、市民に紛れ遠くで見守る。

「お祭りはまだだけど、屋台がいっぱいあるわね。これは、食べ歩きするしかないでしょ♪」

 昔のおひとり様でよくした食べ歩き。いつもはカフェラテやお茶を片手に街を歩いていたなと、思い出す。

「おじさーん。その串焼きください。」

 焼き鳥のようなタレのついた肉を頬張りながら、目を輝かせて街を見学する。
 この街の人々は『レベッカ・ランドルフ』を知らない。
 こんなに生き生きとした気持ちで過ごせるのなら、海の匂いを感じるこの街に移り住んでも良いなと思った。





 ◇ ◇ ◇




「ファーガソン公爵様、大変申し訳ありません。事前のご連絡がなかったもので、いつものスイートルームは他のお客様に5日間貸してしまい…。」

「そうか。それなら隣の部屋は空いているか?」

「はい、空いておりますので、すぐにご案内いたします。」

 街に着いたダリル・レオ・ファーガソン公爵は、御用達のホテルを訪れた。
 この地域はファーガソン公爵の管理下でもある。
 時々、仕事で訪れることがあるので、最高級のスイートルームはほとんど公爵専用の部屋だ。
 だが、あの部屋を5日間も借りられる貴族はそう多くはない。一体、誰が宿泊しているのか気になった。

「なあ、君。あの部屋を借りたのは誰か教えてくれないか?おそらく知り合いだと思うので、後で挨拶したくてね。」

 ホテルの支配人は少し困った顔をしたが、公爵の圧に負けて宿泊者の名前を教えた。

「……ええと、…レベッカ・ランドルフ侯爵令嬢様です。」

「それは本当かっ?!レベッカは今、部屋にいるか?」

 まさか、探している人が同じホテルに宿泊しているとは。
 公爵の心に嬉しい感情が沸き上がった。

「つい先ほどですが、使用人の方が鍵を預けられて…ただいま外出中でございます。」

 公爵の威圧感に、支配人は客のプライバシーを守れなかった。
 正直に全てを話してしまうと、公爵は慌てて外に出た。
 レベッカが戻るのをホテルで待っていれば良いのに、なぜか身体が勝手に動く。
 少しでも早く、レベッカに会いたかった公爵は、街の人混みをかき分け、彼女を探した。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのに、王太子殿下がバルコニーの下にいます

ちよこ
恋愛
「リリス・フォン・アイゼンシュタイン。君との婚約を破棄する」 王子による公開断罪。 悪役令嬢として破滅ルートを迎えたリリスは、ようやく自由を手に入れた……はずだった。 だが翌朝、屋敷のバルコニーの下に立っていたのは、断罪したはずの王太子。 花束を抱え、「おはよう」と微笑む彼は、毎朝訪れるようになり—— 「リリス、僕は君の全てが好きなんだ。」 そう語る彼は、狂愛をリリスに注ぎはじめる。 婚約破棄×悪役令嬢×ヤンデレ王子による、 テンプレから逸脱しまくるダークサイド・ラブコメディ!

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

放浪人
恋愛
「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています

「地味な婚約者を捨てて令嬢と結婚します」と言った騎士様が、3ヶ月で離婚されて路頭に迷っている

歩人
ファンタジー
薬師のナターリアは婚約者の騎士ルドガーに「地味なお前より伯爵令嬢が ふさわしい」と捨てられた。泣きはしなかった。ただ、明日から届ける薬が 一人分減るな、と思っただけ。 ルドガーは華やかな伯爵令嬢イレーネと結婚し、騎士団で出世する——はずだった。 しかしイレーネの実家は見栄だけの火の車。持参金は消え、借金取りが押し寄せ、 イレーネ本人にも「稼ぎが少ない」と三行半を突きつけられた。 3ヶ月で全てを失ったルドガーが街角で見たのは、王宮薬師に抜擢された ナターリアが、騎士団長と笑い合う姿だった。 「なあ、ナターリア……俺が間違っていた」 「ええ、知ってます。でも、もう関係のない話ですね」

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

一途に愛した1周目は殺されて終わったので、2周目は王子様を嫌いたいのに、なぜか婚約者がヤンデレ化して離してくれません!

夢咲 アメ
恋愛
「君の愛が煩わしいんだ」 婚約者である王太子の冷たい言葉に、私の心は砕け散った。 それから間もなく、私は謎の襲撃者に命を奪われ死んだ――はずだった。 死の間際に見えたのは、絶望に顔を歪ませ、私の名を叫びながら駆け寄る彼の姿。 ​……けれど、次に目を覚ました時、私は18歳の自分に戻っていた。 ​「今世こそ、彼を愛するのを辞めよう」 そう決意して距離を置く私。しかし、1周目であれほど冷酷だった彼は、なぜか焦ったように私を追いかけ、甘い言葉で縛り付けようとしてきて……? ​「どこへ行くつもり? 君が愛してくれるまで、僕は君を離さないよ」 ​不器用すぎて愛を間違えたヤンデレ王子×今世こそ静かに暮らしたい令嬢。 死から始まる、執着愛の二周目が幕を開ける!

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

お兄様の指輪が壊れたら、溺愛が始まりまして

みこと。
恋愛
お兄様は女王陛下からいただいた指輪を、ずっと大切にしている。 きっと苦しい片恋をなさっているお兄様。 私はただ、お兄様の家に引き取られただけの存在。血の繋がってない妹。 だから、早々に屋敷を出なくては。私がお兄様の恋路を邪魔するわけにはいかないの。私の想いは、ずっと秘めて生きていく──。 なのに、ある日、お兄様の指輪が壊れて? 全7話、ご都合主義のハピエンです! 楽しんでいただけると嬉しいです! ※「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...