公爵様、私は「ざまぁ」されましたので優雅な余生を過ごします。【連載版】

村井田ユージ

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予期せぬ出会い…

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「お、おじょ…じゃない…、レベッカさん!大変です、ホテルを追い出されました。全て、公爵様のせいです!今日、私たちは泊まる所がありません。」

 祭りの2日目。昼の大忙しな時間に、使用人のジンジャーは泣き出しそうな顔で伝えた。

「はぁ?ちょっと、意味分かんないわよ。落ち着いたら、詳しく聞かせて。」

 レベッカは、朝から串焼きの出店で売り子として働いていた。
 行列は朝から絶えず、売り子をしながら店主と肉も焼いていた。忙しくしながらも、ジンジャーの言葉が気になってしまう。
 「公爵様のせい」とは、一体どういう意味なのだろう。
 彼は朝、優しい顔で「俺は後から行って、君を見守っているよ。」と言って送り出してくれたのに…。



 朝食は、ファーガソン公爵と海を眺めながらベランダで食べた。
 彼はコーヒーを、レベッカはカフェオレにしてクロワッサンを頬張った。
 
「朝方は寒いんだから、無理して私に付き合わなくていいのよ?」

 季節は秋分を迎えているので朝晩は寒い。互いにブランケットに包まれながら、温かい飲み物が手放せない。

「まだ恋人の設定が続いているなら、俺の膝の上に座るか?包んであげるよ。寄り添っていた方が温かいぞ。」

「ふん、冗談がキツいわね。」

「残念。振られてしまったが、次は春に来ると良い。一日中、このベランダで過ごしたくなるよ。」

 たわいもない話を続けて、お互い笑っていた。
 少し気になると言えば…。

「実は、ここは俺専用の部屋なんだ。使わない時は、今みたいに信頼出来る身分の貴族に貸すけど。泊まりたくなったら、いつでも俺に言ってくれ。仮に誰かが泊まっていたとしても、君のためにこの部屋はおさえておくよ。」

「あら、お優しいのね。でも泊まりに行っても、公爵様が押し掛けて来そうで怖いわね。」

「なんでだ?俺は君とこの景色をまた一緒に見たいのに。」

 
 冗談話をしていたと思っていた。
 あの部屋は公爵の所有物だったとしても、宿泊者を勝手に追い出す事なんてするだろうか?

「あー、何なのよ。膝の上に座らなかったから怒ったワケ?早くあの男を問い詰めてやる。」

 
 結局、レベッカは夕方まで串焼きを売り捌いた。
 初日と同じく、完売して店を閉めた。店主は大慌てで夜の分の仕込みを始める。

「お嬢ちゃん!駄賃を弾むから、今日は夜も手伝ってくれないか?」

「はい、いいですよ!また夜に来ますね。」

 レベッカはジンジャーを探した。
 彼は、今日の宿泊先を探しに行ったまま姿が見えない。
 見守っていると言ったはずの公爵の姿もない。
 人混みの中、見つけたのは昨日の‘’強盗さん”だった。

「──何か、困ってるの?」

 昨日と同じ、茶色の紙袋を被って、1つだけ開けられた小さな穴からは片目が見えた。
 彼はレベッカの正面に立つ。

「大丈夫よ、連れを探しているだけ。あ、昨日のお肉食べた?美味しかったでしょ?」

 無言でうなずく。
 彼は一度も串焼きを買いに来なかった。
 紙袋は昨日よりクシャクシャのシワだらけ、服も薄汚れている。

「また、食べたくなったら夜に来て。私の賄いのお肉を分けてあげるわ。」

 レベッカは勝手に、彼を貧しい者だと思い込んだ。
 彼女が今できる、純粋な優しさ。不審者にも見える男にレベッカは優しく微笑んだ。

「───じゃあ、行くよ……。」

 話を終えて、彼の横を通り過ぎようとした時だった。

「あなた、レベッカ・ランドルフじゃない?」

 背後から、空気を切り裂くような声が飛んできた。
 自分の名前を呼ばれて、ギクリとした。
 振り向くと、仮面をつけ、貴族だと一目でわかる女が居た。

「ダリアよ。忘れたの?昔よく連んでたでしょ。」

「あっ…。」

 確かに、読んでいた小説にレベッカの悪友であるダリアは登場していた。
 元のレベッカはダリアと一緒にクリスタをいじめていた。しっかりとその記憶も残っている。

「あなた、そんな格好で何してるのよ?もしかして、娼婦にでもなったの?」

 ダリアはレベッカの猫耳姿を見て、馬鹿にしながら笑い出した。

「それに、何この臭い。凄く煙臭さ~い。立派な侯爵令嬢が平民に見えるわよ。私、親友のクリスタ達と来てるの。そこに居て。みんなを呼ぶから待ってて。」

 更に、ダリアからクリスタの名前が出てきた。彼女はいつの間に仲良しになったんだ。
 頭の中は混乱し、何も言い返す事が出来ない。
 そんな中で、真っ先に頭に浮かんだのは、優しい父と母の顔。
 そうだ、自分はまだ侯爵令嬢の身分。
 既に婚約破棄の件で父と母は貴族達から笑い者にされた。更に自分の行いで変な噂が流れ、ランドルフ家の名を汚すことは、もう絶対にしたくない。
 急に瞳が潤む。泣き出しそうだ。

「──えっ?」

 その場から助け出してくれたのは、紙袋をかぶった‘’強盗さん”だった。
 レベッカの手を取り、人混みの中に紛れて連れ去った。

「あっ!!待ちなさいよ!レベッカ!!」
 
 ダリアの大声は、しっかりと何度も耳に届いた。彼女の声が届かない所まで走る。

「ご、強盗さん!もう大丈夫よ。わたし、これ以上、走れないよ…。」

 体力の限界を彼に知らせると、急に立ち止まる。

「───ごめん。飲み物持って来る……。」

 気がつけば、噴水がある広場に居た。
 レベッカを空いているベンチに座らせると、彼はジュースを売るワゴンに向かった。
 遠くから観察すると、彼はお金を持っていないのか、紙袋を外して売り子と話している。
 レベッカには黒髪の後ろ姿しか見えなかった。

 売り子は和やかに飲み物を渡すと、彼はまた紙袋を被って戻って来た。

「───これ、あげるよ……。」

 レベッカは、瓶に入った冷えたレモネードを受け取った。

「……強盗さん、脅して奪ってないよね?お金ちゃんと払えたの?」

「………。」

 全く彼の表情が分からないので、対応に困る。

「───この街の人は俺に優しいから。気にしないで……。」

 その言葉にレベッカは安心し、レモネードを飲んだ。
 終始、彼は無言で横に座っている。一息ついたところで、そろそろ使用人のジンジャーを探したい。

「ありがとう。あなたのおかげで、いろいろと助かったわ。ちゃんとお顔を見て感謝を伝えたいのだけど…それ外せないの?」

「──この祭りで三日間も仮面をつける意味を知ってるかい?
 今ではみんな仮装をして楽しんでいるけど。
 本当は、死んだ人になりきって、彼らが出来なかった事を代わりにやるんだ。
 俺は今、死んだ父になりきっているよ」

「…そうだったの。‘’強盗さん”なんて言ってごめんなさい」

「ふふふ。いいんだよレベッカ。俺は父になりきって、愛する妻に尽くしたいんだ。」

「なら、私じゃなくてお母様のところへ行かないと。親孝行してね」

「───母はもう死んだよ。ここで待っていて、君の探している人を連れてきてあげるよ」

 急に個人的な事情を知ってしまい、気まずくなった。
 だが、彼は走ってどこかに消えてしまう。
 言われた通り、待っていた。ぼーっと行き交う人々を眺めていると、懐かしい声が遠くから聞こえる。

「お嬢様~!じゃなかった、レベッカさ~ん!ジンジャーはここで~す!!」

 ぜえはあしながらジンジャーは走ってきた。
 思わず、飲みかけのレモネードを渡す。素直に受け取り飲みきると、やっと彼は話し出せた。

「今日、泊まれる所が見つかりました!!
 どこも満室で、本当に宿を探すのが大変だったんですよぉ」

「お疲れさま。やっぱり、あの部屋を追い出されたのは本当のようね。何があったの?」

「そ、それが……」

 ジンジャーは悲しそうに語りだした。
 話が長かったので要約すると。
 クリスタは貴族の仲間を引き連れ『ファーガソン公爵』の名前を使い、スイートルームを全て借りてしまったそうだ。
 もちろん、返金と代替部屋の用意もあった。
 だが、ジンジャーはクリスタや他の貴族達がいるホテルに、レベッカを泊まらせたくなかった。

「ナイスな選択ね。ありがとう、ジンジャー。しかし、あの男公爵は何をしていたの?失礼な奴よね」

「仰せのとおりでございます。あの男、実は来たときから、お嬢様の隣の部屋を借りていましたよ。クリスタ様が絶対にお嬢様の部屋じゃないと嫌だと、言うことを聞かなくて喧嘩しておりました」

「やばっ!あいつ、とんだ狸ね。それに結果的に、今カノの尻に敷かれてわがままを受け入れやがって…」

 しばらく、2人で公爵の悪口で盛り上がってしまった。

「ところで、今日はどこに泊まれるの?」

「はい!良くぞ聞いてくれましたっ!今日はこの祭の主催者でもあります、商人貴族のチェンバース家の別荘をお借り出来ました!なんと、無償でチェンバース家の執事やメイド、専属料理人付きです!」

「んん?どうして縁もゆかりもない、チェンバース家の別荘に泊まれるの?」

「それが…不思議なことに、宿探しに失敗し途方に暮れたわたくしに、チェンバース家の執事から声を掛けられました。なんでも、亡くなられた奥様はフランドル家の遠い親戚だったようです」

「えええ、なんか凄い偶然というのかラッキーというべきか…とりあえず、野宿にならないで良かったわ!」 

「早速、別荘に行きませんか?」

「ええ、行きましょう!働いて汗だらけ、夜も仕事するけど一度シャワーしたいわ」

 令嬢と使用人は、年頃の女子のようにきゃっきゃっしながら別荘に向かう。
 ふと、レベッカは“強盗さん”の姿を探した。どこにもあの目立つ紙袋を被った人はいなかった。

(“強盗さん”ありがとう、ジンジャーに会えたよ。夜、また会えるかな…。ちゃんと名前を聞かないと。)

「そうだわ、ジンジャー。この祭りに私を知る貴族が来ているから、顔を隠したいの。何か持ってる?」

「すみません…。昨日、公爵様が着けていた、ど汚い麻袋しか手元にございません…。」

「ぶふふ。なんで、あなたがソレを持ってるのよ…」

 レベッカは笑いながらも、ジンジャーから麻袋を受け取った。「まぁ、いいや。」と猫耳カチューシャを外して袋を被った。

「ひぃい。衣装とミスマッチですよ。歩きながら、露店で素敵なお面を探しましょう」

 可愛い衣装に、薄気味悪い麻袋を被る女の子。街人の注目を浴びている事にレベッカは気が付かない。
 でも一刻も早く、露店が続くメイン通りを抜けたかった。
 このまま自分を知る人に見つからないで、別荘に向かいたい。
 そんな些細な願いは簡単に踏み躙られた。一番知っている声が聞こえた。

「レベッカ!!」
 
 公爵に見つかった。
 彼は強引にレベッカの肩を両手で押さえた。

「やっと見つけた!すまない、レベッカ。事情があって、今日は違うホテルに泊まって欲しい。案内してあげるから来てくれ。」

「──っ!!」

 全ての事情はもう知っている。
 まるで、「俺と違うホテルに泊まろう」とも聞こえる言い方にも腹が立つ。何て罵ってやろうか、考えていた時だった。
 一番会いたくない女が現れた。

「待ってよ、ダリル! ねぇ、何してるのよ?その女性ひとは誰?」

 ダリル・レオ・ファーガソン公爵の新しいフィアンセであり、この物語の可憐で美しいヒロイン「クリスタ・アラーク」のご登場だ。
 レベッカにとって最悪な、予期せぬ出会いだった。





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