「そのキャラ設定適当でいいよ」と言われた悪徳領主、デバッグ用の【成長率10倍】で覚醒する~クソ運営ありがとう、おかげで勇者がゴミのようです〜

SAIKAI

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6章【白亜の塔編】勇者の謎

64.運命の強制力

 ドォォォォンッ!!

 塔の最上階が、爆発したような轟音に包まれた。

 黄金色の魔力を纏った俺の剣と、アレクの白銀の聖剣が激突し、その余波だけで石畳の床が蜘蛛の巣状にひび割れる。

「……ッ!なんだその出力は……!」

 アレクが初めて、焦りの色を見せて顔をしかめた。俺の剣が、彼の聖剣を押し込んでいるのだ。これまでの俺なら、剣が触れた瞬間に衝撃で吹き飛ばされていただろう。だが今は違う。俺の意思に呼応して剣を覆った魔力が、クッション材のように衝撃を吸収し、さらに爆発的な推進力を生んでいる。

「オラァッ!!」

 俺は咆哮と共に、さらに魔力を注ぎ込む。技術もクソもない。細かい制御なんて知るか。溢れ出る魔力を、ただひたすら「叩き潰す」というイメージだけで圧縮し、ぶつける。

「くっ……!」

 アレクがたまらずバックステップで距離を取った。その純白の騎士服の袖が、余波で少しだけ焦げている。

「……チッ。汚ねぇな」

 アレクは袖についた煤(すす)を払うと、心底不愉快そうに俺を睨みつけた。その口調からは、先ほどまでの演じられた厳かさが消え失せている。

「魔力の質が粗野で下品だ。まるでドブ水をぶちまけられてる気分だぞ」

「へぇ……。それが本性か?勇者様」

 俺は剣を肩に担ぎ、挑発的にニヤリと笑う。

「もとより口は悪かったが、それ以上に剥がれてきてんぞ?その取り繕ってた『仮面』がよ」

「……あ?」

「だが、ここは戦場だ。泥仕合(ドロじあい)上等で踏み込んでくる俺に対し、服が汚れんのを嫌がって腰が引けてるようじゃ――勝てないぜ、お前は」

 身体が熱い。全身の血液が沸騰しているようだ。これが、この世界の住人が感じている「魔力」の正体か。今まで俺は、ただ数値上のステータスとして「MP」を持っていただけだった。だが今は違う。俺自身がこの膨大なエネルギーの奔流を肌で感じている。

「おいおいおい、嘘だろ!?なんなんだよそのデタラメな出力(パワー)はッ!!」

 後方から援護していたネロが、目を見開き、引きつった声で絶叫する。

「術式構成?魔力変換効率?全部無視かよ!ただ桁違いの魔力を、物理的な『質量』としてぶつけてるだけじゃねぇか!そんなの魔法じゃねぇ!ただの『魔力の暴力』だッ!!」

 ネロは頭を抱え、半笑いで叫び続ける。

「あんな垂れ流しのオーラで、聖剣をねじ伏せるなんて……ありえねぇ!最高だ!確率計算(オレのけいさん)、全部ゴミ箱行きだぜッ!!」

(……なるほどな。そういうことか)

 ネロの悲鳴で、俺は合点がいった。

 技とか、奥義とか、そんな高尚なもんじゃない。単純な話だ。

 俺には『成長率10倍』というチートがある。

 レベルやステータスだけなら、とっくに人類の限界を超えていたはずなんだ。ただ、今まではその引き出し方が分からなかった。ガソリン満タンのスーパーカーを持っていながら、エンジンのかけ方を知らずに手で押していたようなもんだ。

(それがこの塔のおかげで、ようやくアクセルが踏めるようになったってわけか)

 細かい制御?効率的な運用?知ったことか。


 有り余るリソースがあるなら――全部ぶち込めばいい。


「まあ、使えるもんは何でも使うさ」

 俺は溢れ出る金色の魔力を、無理やり腕にねじ込むように握りしめる。理屈は後だ。今はただ、この力が使えるという事実だけでいい。

「小細工はいらねぇ。……単純に力で圧倒すればいい!」

「……囀(さえず)るなよ、糞(クソ)虫がァ!!」

 バキィッ!!

 アレクが地面を踏み砕くと同時に、彼が纏う空気が瞬時に変質した。

 彼を中心に、周囲の空間が凍りついたように軋む。そこにあるのは、もはや聖なる勇者の威厳ではない。不快な汚れを根こそぎ排除しようとする、鋭利で冷徹な殺意の暴風だ。

「少し出力が上がった程度で……調子こいてんじゃねぇぞ?……あぁ、いいぜ。なら、テメェのその薄汚ねぇ肉、骨の髄まで綺麗に削(そ)ぎ落としてやるよ」

 ヒュンッ!!

 次の瞬間、アレクの姿が消えた。いや、速すぎるのだ。

「ガァッ!?」

 反応する間もなく、俺の身体が宙に浮いた。腹部に強烈な蹴りを叩き込まれたのだ。俺は石畳の上を転がる。受け身を取って立ち上がろうとした瞬間、目の前に白銀の刃が迫っていた。

「チッ……こびりついて落ちねぇな、この埃(ゴミ)は」

 アレクは聖剣を逆手に持ち替え、独楽(こま)のように身体を回転させながら斬りかかってくる。無駄を極限まで削ぎ落とし、最短距離で急所を狙う――達人の動きだ。

「ぐ、おおおおおッ!!」

 俺は剣を盾にして、雨あられと降り注ぐ斬撃を必死に防ぐ。一撃一撃が重い上に、正確無比。俺の防御の「わずかな隙間」だけを、針の穴を通すように狙ってくる。

「おいおいどうした?口ほどにもねぇな。……動きがトロすぎて、あくびが出るぜ」

 アレクは息一つ切らさず、淡々と剣を振るう。技術(スキル)の差は歴然だ。このままじゃ、いずれ削り殺される。

 ……このままであれば。

(……帝王剣術スキルでアイツの剣筋は見えてる。だが踏み込みの加速だけが理屈に合わねぇ……聖剣の力か、教会の細工か。技術面じゃどう足掻いても勝てそうにねぇ)

 俺は防戦一方の中で、思考をフル回転させる。相手は技術の塊。俺は力の暴走。奴のような繊細なコントロールなんて、今の俺にできるわけがない。

(……なら、コントロールなんてしなくていい)

 俺は腹を括った。

 当たらない攻撃を当てようとするから、かわされるんだ。急所なんて狙う必要はねぇ。

(この空間ごと、全部まとめて叩き潰せばいいんだよ……ッ!!)

「――オラァアアアアッ!!」

 俺は防御を捨て、全身の魔力を噴出させた。

「なっ……!?」

 アレクの動きが止まる。剣技でも、魔法でもない。ただ単純に、俺の中に渦巻く膨大な魔力を、加減なく周囲に炸裂させただけだ。

 ドゴォォォォォンッ!!

 衝撃波が台風のように広がり、石畳をめくり上げ、壁の本棚をなぎ倒す。アレクの「綺麗な剣技」など関係ない。空間そのものを質量で押し潰す、広範囲の圧力(プレッシャー)。

「ッ……!クソが……なんだ、このふざけた量は……ッ!」

 アレクが聖剣を地面に突き刺し、強風に耐えるように姿勢を低くする。その顔が、驚愕と嫌悪で歪んだ。

「制御もクソもねぇ……ただの汚(きた)ねぇ垂れ流しじゃねえか!オイ、テメェ……自分がどれだけのモンをぶちまけてんのか、分かってんのかァ!?」

「ハッ!知るかよ!俺の燃費は最悪でな!」

 俺は一歩踏み出す。床がミシミシと悲鳴を上げる。俺の身体から溢れる黄金のオーラは、もはや剣を覆うだけでは飽き足らず、部屋全体を埋め尽くすほどの洪水となってアレクに襲いかかっていた。

「近寄るんじゃねぇ……薄汚ねぇ菌がうつるだろうがァ!!」

 アレクが聖剣を振るい、光の斬撃を飛ばす。鋭い一撃だ。本来なら俺の首を刎ねていただろう。

 だが――。

 バヂィンッ!

 斬撃は俺に届く前に、周囲に漂う濃密すぎる魔力の奔流に飲み込まれ、霧散した。

「……なに!?」

「悪いな、勇者様。ここはもう俺のテリトリーだ」

 俺は剣を上段に構え、無防備なアレクを見下ろした。小細工はいらない。この塔にある全ての魔力を、この一撃に乗せる。

「――ぶっ飛びやがれぇぇぇぇッ!!」

 渾身の力が込められた一撃が振り下ろされる。アレクは咄嗟に聖剣を掲げて防御するが――。

 ズガアアアアアアアンッ!!

「ぐ、ぁぁぁぁぁッ!?」

 桁違いの質量に耐えきれず、アレクの身体が砲弾のように吹き飛んだ。彼はそのまま背後の壁に激突し、崩れ落ちた瓦礫の中に埋もれる。

「はぁ……はぁ……やった、か……?」

 俺は肩で息をしながら、土煙の上がる壁際を睨みつける。勝った。そう確信した瞬間だった。


 コツ、コツ、コツ……


 静まり返った塔の中に、場違いに落ち着き払った靴音が響いた。それは入り口の方から、ゆっくりと、だが確実にこちらへ近づいてくる。

 パチ、パチ、パチ。

 やがて足音が止まると同時に、乾いた拍手の音が響いた。

「……素晴らしい。実に素晴らしい破壊力ですねぇ」

 その声を聞いた瞬間、俺の全身の毛穴が開き、背筋に氷柱を突き刺されたような悪寒が走った。

 ニーナが息を呑む気配がする。セバスチャンが即座に俺たちの前に立ち塞がる。

 ゆっくりと、影の中から一人の男が現れた。

 教会の高位を示す豪奢な法衣に身を包み、手には黄金の錫杖。柔和な笑みを浮かべているが、その瞳の奥には、アレクとはまた違う種類の――底知れない暗闇が広がっている。

「ガリエル……大司教……!」

 セバスチャンが呻くようにその名を呼んだ。この国の宗教的権威、その一翼を担う大物だ。

「ですが、そこまでにしてください、アークライト卿。それ以上やると、勇者が壊れてしまいます」

 ガリエル大司教は、倒れているアレクを一瞥し、困ったように肩をすくめた。

「彼を作るのには、多額の寄付金(コスト)がかかっているのです。メルフィ殿に『管理不行き届き』だと私が叱られてしまいます」

「……管理、だと?」

 俺は剣を構えたまま、男を睨みつけた。

「アレクをおかしくしたのは、あんたらか?」

「おかしい?いえいえ、彼は正常に『進化』している途中ですよ。……まあ、具体的にどのような調整が行われているのか、上が決めたことを、私は運用しているだけなので分かりかねますが」

 ガリエルは「私は知らない」とばかりに首を振る。

 だが、その態度は明らかに嘘だ。知っていて、とぼけている様にしか見えない。

(本当に誰かの指示で動いているだけなのか?)

「さて……おやおや!アークライト卿。貴方は今、大変なことをしてしまいましたねぇ!」

 ガリエルは一歩踏み出し、演技がかった大げさな態度で声を上げると、冷ややかな視線を俺に向けた。

「教会の聖域であるこの塔を破壊し、国の象徴である勇者に重傷を負わせた。……これは立派な『国家反逆罪』に当たりますよ?」

「ここには我々しかいません。私が『悪徳領主が勇者を暗殺しに来た』と報告すれば、国中がそれを信じるでしょう。……貴方の可愛い領民や、後ろにいる『死んだはずの聖女』も含めて、全て火炙りです」

 脅しではない。淡々とした事実の列挙。

「……なら、話は早いな」

 俺は剣の切っ先を、ゆっくりとガリエルに向けた。双眸に、殺気を込める。

「逆も然(しか)りってことだ。あんたが今ここで不慮の事故死を遂げれば、証拠も何も無くなるってことだよな?」

「……おや」

 ガリエルは眉一つ動かさず、むしろ楽しそうに目を細めた。

「口封じですか。勇ましいことですね」

「俺の大切なもんを人質に取ったんだ。タダで済むと思うなよ」

 俺は地面を蹴る寸前まで重心を落とす。アレクは伸びている。この距離なら、大司教如き一瞬で首を刎ねられる。

 だが――。

「どうぞ、おやりなさい」

 ガリエルは防御もせず、胸元の法衣を寛げた。そこには、怪しく脈動する『赤い宝石』が埋め込まれたペンダントがあった。

「ただし、私が死ねば――そう、心臓が停止した瞬間に、教会高位者にのみ許された『殉教者の魔道具』が作動します。私の死は、即座に全ての教会支部に一斉送信されるのです」

「……なに?」

「私が死ぬ直前の映像、音声、つまりは『誰に殺されたか』という情報も含めてね」

 ガリエルは首を傾げ、ニッコリと微笑んだ。

「さあ、どうぞアークライト卿。私を殺せば、貴方はその瞬間、全世界を敵に回すことになる。……結末は変わりません」

「……ッ、チッ……!」

 俺は舌打ちをして、剣を下ろさざるを得なかった。

 詰み(チェックメイト)だ。こいつは、最初から自分の命すらチップにして盤面を支配している。

 俺は唇を噛んだ。

 現状、武力では勝てても、権力という盤上では俺は圧倒的に不利になった。

「……俺を捕まえるなら、さっさと聖騎士を呼べばいいだろう」

「いえいえ。私は無益な事は嫌いなのです……貴方のその『力』、実に惜しい」

 ガリエルはニヤリと笑い、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。

「取引をしましょう、アークライト卿」

「取引……?」

「今回の件、全て不問に処します。ニーナ嬢の生存についても、私の権限で黙認しましょう」

「……条件は?」

「至極、簡単なことです」

 ガリエルは羊皮紙を俺に放り投げた。

 そこに書かれていたのは、王都にある『王立魔法学園』の入学許可証。

「来月、勇者アレクは『王立魔法学園』に入学します。……彼が学園生活で暴走しないよう、貴方が監視役(ブレーキ)として入学しなさい」

「は……?俺がか?」

「ええ。見ての通り、彼は少々……不安定ですので。彼を止められる実力者で自由がきくのは、今のところ貴方しかいない」

 ガリエルは倒れ伏すアレクを、まるで出来の悪い工芸品を見るような目で見下ろした。

「だがしかし…ふむ、こちらの事情を何も知らないというのも酷ですね……」

 ガリエルは、ふむと頷いた。

「いいでしょう。…実は教会の『教育』だけでは、勇者としては不完全なのです」

「…不完全?」

「魔物を殺すだけの殺戮兵器ならこれで完成と言ってもいいですが、それでは人々が崇める『英雄』としては致命的に愛想がない。……ある程度、『人間性』という外装(ガワ)を獲得してもらわなければ困るのです」

「……人間性、だと?お前らが削ぎ落としたくせに、今さら何を……」

「いやはや、痛いところですが……おっしゃる通り、削ぎ落としすぎたのですよ。ですから、彼には学園という箱庭で、友情や青春を『学習』し、人間らしくなって貰いたいのです。学園での教育も、勇者完成には不可欠なのです」

 ガリエルは恭しく天を仰いだ。

「これは、聖女メルフィ殿の指示でもあります。私も仔細は把握しておりませんが、これが魔王討伐に最も重要であるとのことで」

「……ッ」

 メルフィ。あの狂信者が、アレクに「人間性」を求めているだと?しかもそれが魔王討伐に必要?原作(ゲーム)にそんな情報は無かった。いや、原作は今回の様な人造的な勇者じゃなく、勇者らしい勇者だったから必要なかったのか……?

 ガリエルの目が、爬虫類のように細められる。

「拒否権はありませんよ?断れば、今ここで『反逆者』として警報を鳴らします。さあ、どうしますか?」

 突きつけられた二択。

 反逆者として今すぐ国と戦うか。教会の犬として、学園生活(監獄)へ送られるか。

(……クソッ、ふざけんなよ)


 原作シナリオの強制力だって言うのか?

 
 本来、物語本編に関係無かった俺が生き残り、勇者やその仲間となるはずのメンバーと深く関わったことで「学園編」という表舞台に引きずり出そうとしてるってのか。

 俺はギリリと奥歯を噛み締め、羊皮紙を強く握りしめた。

「……いいだろう。その条件、飲んでやる」

 こうして、俺たちの救出作戦は、最悪の形での「休戦」によって幕を閉じた。

 待っているのは、狂った勇者との学園生活。二度目のチュートリアルを越えた先には、さらなる地獄が口を開けて待っていた。
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