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第五章
ほどかれた真実
しおりを挟む「──でね、あの兄ちゃんね、ずーっと僕のことを子供扱いなんだよ」
公爵邸ではカミルの愚痴が続いていた。
「この道具はどうやって使うの?って聞いても
『怪我するから触るな』しか言わないし」
子供扱いが悔しいカミルはぷんぷんしている。
「ここに火をつけるの?って聞いても
『お前なんかが近づくな』って言うだけだし」
「…アドルフは昔からそんな感じね」
カミルの愚痴を聞きながら、レベッカは彼と初めて出会った頃の風景を懐かしく思い出していた。
まだ十二歳だったレベッカと
十三歳だったアドルフ
『 お前みたいなお嬢様が、こんなところ来るなよ 』
似たような言葉を、昔、彼女も言われていたのだ。
「帰ったら、クロードさまにも言いつけてやる」
「……クロードに会えるの?」
「うん、お屋敷に行けばね」
「…っ、それなら彼に届けてほしいものがあるわ」
カタンと椅子から立ち上がり、レベッカは引き出しから便箋とペン、そしてインクを取り出した。
それらを持って椅子に座り直す。
手紙でも書いて送り届けてもらおう。そう思い付いた彼女は、まだ内容も考えないうちにペン先にインクをつけていた。
「お手紙書くの?」
「そうです」
「…もしかして、クロードさまはお城に来なくなったの?」
「……ええ」
来なくなった
正確には、来られなくなった
「今このお城に来たらね、クロードは捕まってしまうの。怪盗だって…気づかれてしまうの」
「え……!」
「…だから会えないの。だから手紙を届けてもらえないかしら?」
──いつまで会えないのか
もしかして
このままずっと…
「わたしからのお願い、頼める?」
「もちろんだよ、でも…」
クロードがこの城に来ていないことが、カミルにとっては意外なことらしく…カミルは不思議と惑っているようだった。
「大変なんだね、クロードさま」
「悪いのはあの人なの。あんなに目立つ見た目の癖に、まんまと姿を見せるようなミスをしてきたから…っ。泥棒のくせに格好つけるからいけないの」
「──それはちがうよ!レベッカさま!」
「──?」
バンッ!
カミルの小さな手が机を叩く。
「クロードさまは、きっと…きっとわざと、自分の姿をお屋敷の人たちに見せてきたんだよ」
「わざとって…どういうこと?」
「僕たちが疑われないようにだよ」
カミルの目は真剣だった。
「僕たちが盗んだって疑われないのは、クロードさまがわざと自分の姿を見せてるからなんだ。それってとても危ないことなんだよ」
「どうして…わざわざそんなこと」
「──昔、あったんだ」
かつて──カミルの住む村近くの商人の館に、泥棒が入ったことがあった。
「そのときは、理由もなしに僕たちが盗んだって疑われたんだ」
ただ貧しいというだけで、容疑の矛先は農民たちに向いたのだ──。
今回の一連の事件は、どれも財力のある貴族や商人を狙ったもの。確かに…その犯人が貴族だとは誰も思わないだろう。
小綺麗な怪盗の装束と
なびく長いブロンド髪
そして謎めいた置き手紙──
これらが自然と、怪盗のイメージを貧しい農民からかけ離れたものにしてきたのだ。
「……っ」
彼はそこまで深く考えて…
それなら──
“ あの夜、わたしに姿を見られたのもわざとやったことなのかしら…? ”
思えばクロードほどの男が、テラスに立つレベッカの存在に気が付かなかったなんて思えない。
「…でも困ったな」
「──…」
「クロードさまは、このお城に狙っている宝物があったんだ。なのに近づけないんじゃ…っ
…………あ」
「…!」
カミル?
今の言葉はどういう意味──?
「…カミル」
「…っ」
「何て言ったの? 今──」
「……ごめん、ごめんねレベッカさま」
口を滑らせたカミルは謝り始める。でも──もう遅かった
「…っ…ごめんね、これはレベッカさまには言っちゃダメなことだったんだ」
「……っ」
レベッカにだってわかった。
これは、彼女が聞いてはいけないことだ。
「クロードさまが言ってたんだ…話しちゃ、ダメなんだって…っ」
「──カミル?」
「……っ」
「お願い…っ、詳しく教えて…!クロードが狙っている宝って、何のことなの…!?」
……
上っつらの言い逃れができない。
子どもの純真さというものは、時に残酷なものだった──。
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