略奪貴公子 ~公爵令嬢は 怪盗に身も心も奪われる~ 【R18】

弓月

文字の大きさ
27 / 43
第五章

ほどかれた真実

しおりを挟む


「──でね、あの兄ちゃんね、ずーっと僕のことを子供扱いなんだよ」

 公爵邸ではカミルの愚痴が続いていた。

「この道具はどうやって使うの?って聞いても
『怪我するから触るな』しか言わないし」

 子供扱いが悔しいカミルはぷんぷんしている。

「ここに火をつけるの?って聞いても
『お前なんかが近づくな』って言うだけだし」

「…アドルフは昔からそんな感じね」

 カミルの愚痴を聞きながら、レベッカは彼と初めて出会った頃の風景を懐かしく思い出していた。



 まだ十二歳だったレベッカと
 十三歳だったアドルフ

『 お前みたいなお嬢様が、こんなところ来るなよ 』

 似たような言葉を、昔、彼女も言われていたのだ。



「帰ったら、クロードさまにも言いつけてやる」

「……クロードに会えるの?」

「うん、お屋敷に行けばね」

「…っ、それなら彼に届けてほしいものがあるわ」

 カタンと椅子から立ち上がり、レベッカは引き出しから便箋とペン、そしてインクを取り出した。

 それらを持って椅子に座り直す。

 手紙でも書いて送り届けてもらおう。そう思い付いた彼女は、まだ内容も考えないうちにペン先にインクをつけていた。

「お手紙書くの?」

「そうです」

「…もしかして、クロードさまはお城に来なくなったの?」

「……ええ」

 来なくなった

 正確には、来られなくなった

 「今このお城に来たらね、クロードは捕まってしまうの。怪盗だって…気づかれてしまうの」

「え……!」

「…だから会えないの。だから手紙を届けてもらえないかしら?」


 ──いつまで会えないのか


 もしかして


 このままずっと…


「わたしからのお願い、頼める?」

「もちろんだよ、でも…」

 クロードがこの城に来ていないことが、カミルにとっては意外なことらしく…カミルは不思議と惑っているようだった。

「大変なんだね、クロードさま」

「悪いのはあの人なの。あんなに目立つ見た目の癖に、まんまと姿を見せるようなミスをしてきたから…っ。泥棒のくせに格好つけるからいけないの」

「──それはちがうよ!レベッカさま!」

「──?」

 バンッ!

 カミルの小さな手が机を叩く。

「クロードさまは、きっと…きっとわざと、自分の姿をお屋敷の人たちに見せてきたんだよ」

「わざとって…どういうこと?」

「僕たちが疑われないようにだよ」

 カミルの目は真剣だった。

「僕たちが盗んだって疑われないのは、クロードさまがわざと自分の姿を見せてるからなんだ。それってとても危ないことなんだよ」

「どうして…わざわざそんなこと」

「──昔、あったんだ」

 かつて──カミルの住む村近くの商人の館に、泥棒が入ったことがあった。

「そのときは、理由もなしに僕たちが盗んだって疑われたんだ」

 ただ貧しいというだけで、容疑の矛先は農民たちに向いたのだ──。

 今回の一連の事件は、どれも財力のある貴族や商人を狙ったもの。確かに…その犯人が貴族だとは誰も思わないだろう。

 小綺麗な怪盗の装束と
 なびく長いブロンド髪
 そして謎めいた置き手紙──

 これらが自然と、怪盗のイメージを貧しい農民からかけ離れたものにしてきたのだ。

「……っ」

 彼はそこまで深く考えて…

 それなら──

“ あの夜、わたしに姿を見られたのもわざとやったことなのかしら…? ”

 思えばクロードほどの男が、テラスに立つレベッカの存在に気が付かなかったなんて思えない。



「…でも困ったな」


「──…」


「クロードさまは、このお城に狙っている宝物があったんだ。なのに近づけないんじゃ…っ

 …………あ」


「…!」


 カミル?


 今の言葉はどういう意味──?


「…カミル」


「…っ」


「何て言ったの?  今──」


「……ごめん、ごめんねレベッカさま」


 口を滑らせたカミルは謝り始める。でも──もう遅かった


「…っ…ごめんね、これはレベッカさまには言っちゃダメなことだったんだ」


「……っ」


 レベッカにだってわかった。


 これは、彼女が聞いてはいけないことだ。


「クロードさまが言ってたんだ…話しちゃ、ダメなんだって…っ」


「──カミル?」


「……っ」


「お願い…っ、詳しく教えて…!クロードが狙っている宝って、何のことなの…!?」


……


 上っつらの言い逃れができない。

 子どもの純真さというものは、時に残酷なものだった──。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...