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ハダカの再会 ※

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“ 嘘でしょう…? ”

 ミレイは咄嗟に岩影に隠れた。

 置いていたタオルも急いで引き寄せて、入り口に背を向ける。

 相手の反応が何もないことを考えるに、彼女の存在に気付いてはいないらしい。

 扉を閉めた音──
 濡れた洗い場を踏む足音──

 間髪入れず、ザブンと湯に入った水音が。

 大きな水音から推測するに乱暴な入り方だ。

“ わたし……っ、裸なのに……!! ”

 こうなったら

 向こうが入浴を済ませて出ていくまで、ここにこうして隠れているしかない。

“ どのくらいだろう……。あまりにも長いとのぼせてしまう ”

 見つからないように奥の方に隠れてしまったから、入り口が遠い。

 気付かれずに先に上がることはできそうになかった。


「──ハァ」


 湯に浸かった相手が息を吐いた。

 それはリラックスしているというより、苛立ちを含んだ溜め息に聞こえた。

 その溜め息は低く、やはり男だった。

“ なんだか機嫌が悪そうね ”

 ますます見付かるのは御免だと、ミレイが肩をすぼめた時だった。

「──…チッ」

 微かにだが、舌打ちが聞こえた。

 そして湯の中を……奥へと歩いてくるのがわかった。


ザブン..ザブッ..


 奥へと──つまり、ミレイが身を潜める場所へと。

 そんな筈はない。そう思いたくても、音は確実に近付いてくる。

 揺れる水面──

 細波が、目の前の岩に打ち付けられた。


「‥‥‥!!」


 すぐそこまで、迫ってきている。


 唾を呑むのにも緊張して、彼女はピクリとも動けずに待つだけだった。


......



 あ、れ…?


“ 止まった……!? ”


 もうばれたと諦めた時

 近付いてくる音が止まった……。

 助かったの?


「‥‥‥」


「──…まだ隠れんのか!」


「…ッッ…きゃああ!!」


 胸を撫で下ろした刹那、突如腕を掴まれて岩影から引っ張り出された。


「…っ、うるせッ…!!」

「…っ…!! …あ!」

 腕を引かれ、向かい合わせにされる。

 相手の顔を確認したミレイは血の気が引く思いだった。

 よりによってこの男は……!!

「東城……ハルト……」

「っんだよ。また抜き打ちの試験でも始まったのかと思ったら、裸の女じゃねぇか」

「…!!」

 昼食の時に食堂で出会い最悪な別れ方をした相手。

 《 天才 》と呼ばれる得たいの知れない男。

 東城ハルトだった。

「……入り口の鍵……は?」

「鍵?──そういえば閉まってたな」

「……」

「閉まってたから開けた」

 早速──意味がわからない。

 ハルトの方は彼女の顔を見ていないようだ。

 かん高い悲鳴に驚いた後、しかめ面で彼女の裸体をまじまじと見ながら話す。

「どこの職員だ?わざわざ俺にヤラれに来たか?」

「は…!?」

「──…ハァ、面倒くせ。まぁ相手してやってもいいけど」

「やめてよ…っ」

 品定めをするかのような目線に耐えきれず 

「離して!」

 ミレイは風呂の湯をハルトの顔に思いきりかけた。

「なっ…!?」

「…はなし…て…っ」

「お前……」

 彼女の抵抗が予想外だったのか。

 やっとハルトは、その目線を顔に移した。


「お前、食堂の……」

「…っ」

「──クッ、はは……。そういう事かよ」

 ハルトが腕を離す気配はない。

 記憶力もいいのだろう。彼はすぐにミレイのことを思い出し、そしてさも愉快気に笑ったのだった。

「なるほどな。お前の狙いはこれだったわけか」

「何の、話…!!」

「あえて俺に歯向かって気を引こうとした女は初めてじゃない。……クク、お前もか」

「…ち、違う」

「違う?なら…──どうしてここにいるんだよ」

 屈辱的な誤解をされている。

 早く……早く経緯を説明しなければ。

 寮に入れてもらえず、東城家に部屋を借りることになったのだと。

 そう思うのに、間近で威嚇してくる彼の目に釘付けられ、上手く舌が回らない。

「だが残念だったな。俺はそんな生ぬるい奴じゃない」

「わたし は……」

「探し出す手間が省けた。ちゃんと清算はつけさせてもらうぜ?そうだな……

──…ここで潜水の自己タイムを更新しとくか?夜まで気絶せずに堪えられたら褒美に抱いてやってもいい」

「……!!」

「どうする?お前に選択権はねぇけど」

 不気味な事を話す口

 ギラつく瞳。

 彼は片手でミレイの前髪を掴むと、ぐっと下に力を入れた。

「じゃ頑張んな」

「──…ッ…違う!わたしはそんなつもりじゃない!あなたになんか抱かれるつもりないわ!」

「……っ」

 湯に顔を沈められそうになって、その直前でミレイはなんとか叫んだ。

 眉をひそめるハルト。

「まだ言ってんのか」

「本当…よ!わたしは今日からこの家に住む。あなたのお父さんが決めたことなの!」

「親父が…!?」

 彼の手が止まった。

 ミレイは水面ぎりぎりに顔を出して、誤解を解こうと必死だった。

「理事長から連絡がきて…っ…、わたしは東城家に住むようにと」

「……」

「案内だって受けたわ……。お風呂はここを使うように言われたから、来ただけ……!!」

 誤解を解いたところで、自分がハルトに歯向かったという事実は変わらない。

 それでも……!!

「わかったでしょ?あなたに抱かれたいだなんてこれっぽっちも…──」

「……、へぇ?」

 ミレイは言葉に詰まる。

 この時ハルトが浮かべたのは

 今まで見た中で最も危険な笑みだった──。




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