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目覚め

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───…


 ...コチ コチ コチ


 翌日の朝。無機質に刻まれる秒針の音でミレイは目を覚ました。

 べつに、起きたくもなかった……。

 けれど長年のくせで、外が明るくなると彼女は眠りから覚めてしまう。

 薄レモン色のレースカーテン

 そこから射し込む朝日を顔の右半分に浴びながら、ミレイはうっすらと瞼を上げた。

 彼女は自室──つまり、理事長に貸された東城家内の自分の部屋に、戻っていた。

 ベッドの上でむくりと起き上がる。

“ はぁ……、身体が重たい…っ ”

 昨日はいったい、何時に眠りについたのだろう。

 部屋を見ると、荷物を出した後のキャリーバッグが真ん中に放置されたままだった。

 デスクには筆記具や小物類がまとめて置いてあり、まだ整理しきれていない。

 ──…この状況から推測するに、自分は " あの " 後、この部屋に戻って何もせずにベッドで眠りこけたということか。

 パジャマに着替えてもいない。風呂に着て行ったのと同じ服が、すっかりしわくちゃになっている。

ギシッ

 布団から脚を出して降り立つと、ベッドと一緒に自身の下半身がきしむ。

「……っ」

 べつに……記憶がまるっきり無いわけじゃない。

 自分を解放してあの男が去った後、なんとか服を着て……ふらつきながらここまで帰ってきた。

 ちゃんと覚えている。

 ちゃんと……

「…っ…いや」

 あの男に、どんな屈辱を受けたかを。

 そして自分の身体が……どんな反応をしたのかも。

 一晩という短い時間は、彼女からその悪夢を取り去ってくれないようだ。


 ……忘れたいのに


《 エロい声出すなよ 》


 忘れたい


《 正義感の強いお嬢さん── 》


 忘れたい…!


《 自分の弱さを、思い知れば? 》



ギュウゥ‥‥


 思い出すことで震えた身体を、自身の片腕で抱き締めた。

 そんな彼女は続き部屋へ向かう。

 そこにはトイレと洗面台があり、電気を付けて前に広がる鏡に視線を上げた。

“ ああ…… ”

 意外だった。

“ 昨日はあれから……泣かなかったんだ ”

 鏡に映る自分の目元に、指を当てる。

 もともと腫れにくい体質ではあるけれど、予想していたよりずっと普通だ。

 水を出して顔を洗えば……きりりと締まった顔があった。

「昨日はあんなに弱かったくせに……」

 なによ、その顔。

 ミレイは自分で自分に嫌味を投げ付ける。

“ 負けるなってこと? ”

「……大丈夫だよ、負けないから」

 洗顔を終えて着替えたミレイは、授業の支度をして筆記具を鞄に入れた。

 デスク上の小物には、あのブローチがある。

 中に入っているのは二つのバッジ。

 彼女は大切なそれを、失くさないように引き出しにしまった。





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