15 / 105
目覚め
しおりを挟む───…
...コチ コチ コチ
翌日の朝。無機質に刻まれる秒針の音でミレイは目を覚ました。
べつに、起きたくもなかった……。
けれど長年のくせで、外が明るくなると彼女は眠りから覚めてしまう。
薄レモン色のレースカーテン
そこから射し込む朝日を顔の右半分に浴びながら、ミレイはうっすらと瞼を上げた。
彼女は自室──つまり、理事長に貸された東城家内の自分の部屋に、戻っていた。
ベッドの上でむくりと起き上がる。
“ はぁ……、身体が重たい…っ ”
昨日はいったい、何時に眠りについたのだろう。
部屋を見ると、荷物を出した後のキャリーバッグが真ん中に放置されたままだった。
デスクには筆記具や小物類がまとめて置いてあり、まだ整理しきれていない。
──…この状況から推測するに、自分は " あの " 後、この部屋に戻って何もせずにベッドで眠りこけたということか。
パジャマに着替えてもいない。風呂に着て行ったのと同じ服が、すっかりしわくちゃになっている。
ギシッ
布団から脚を出して降り立つと、ベッドと一緒に自身の下半身がきしむ。
「……っ」
べつに……記憶がまるっきり無いわけじゃない。
自分を解放してあの男が去った後、なんとか服を着て……ふらつきながらここまで帰ってきた。
ちゃんと覚えている。
ちゃんと……
「…っ…いや」
あの男に、どんな屈辱を受けたかを。
そして自分の身体が……どんな反応をしたのかも。
一晩という短い時間は、彼女からその悪夢を取り去ってくれないようだ。
……忘れたいのに
《 エロい声出すなよ 》
忘れたい
《 正義感の強いお嬢さん── 》
忘れたい…!
《 自分の弱さを、思い知れば? 》
ギュウゥ‥‥
思い出すことで震えた身体を、自身の片腕で抱き締めた。
そんな彼女は続き部屋へ向かう。
そこにはトイレと洗面台があり、電気を付けて前に広がる鏡に視線を上げた。
“ ああ…… ”
意外だった。
“ 昨日はあれから……泣かなかったんだ ”
鏡に映る自分の目元に、指を当てる。
もともと腫れにくい体質ではあるけれど、予想していたよりずっと普通だ。
水を出して顔を洗えば……きりりと締まった顔があった。
「昨日はあんなに弱かったくせに……」
なによ、その顔。
ミレイは自分で自分に嫌味を投げ付ける。
“ 負けるなってこと? ”
「……大丈夫だよ、負けないから」
洗顔を終えて着替えたミレイは、授業の支度をして筆記具を鞄に入れた。
デスク上の小物には、あのブローチがある。
中に入っているのは二つのバッジ。
彼女は大切なそれを、失くさないように引き出しにしまった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
138
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる