魔力がなかったので能力を磨いてみたら、新しい幸せに巡りあえそうです!

泳ぐ。

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1 再会。

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「あ、来ましたよ、今門を通った背の高い黒髪の…、あの男性がヒュー・ボーグです」

朝の出勤で多くの人が歩く正門から玄関までの道のり。まだ遠くにいながらも整った顔だちをしていることがわかる黒髪の背の高い男性を、私の隣の案内人が指さして教えてくれた。

私はドクンドクンと大きく跳ねる心臓の音が体内に鳴り響くのを感じたまま、視線で彼を追った。

だって会えるのは9年ぶり。
髪の色と瞳の色はあの時のまま。でもそりゃあ9年経ってるし、だいぶ背が伸びて大きくなっていて。
9年前のあの時はあどけない顔をして泣いていたのに、すっかり泣き顔なんか想像できないぐらいの大人の顔になってる。

……良かった、ちゃんと無事だったんだ。それに元気そう。
隣の人と話しながら歩いてくる彼に駆け寄って、急いた心のままで声を掛けた。


「ヒュー、私を覚えてる? 9年前にあの海で会った……」

私の言葉に、急に周りが驚くほどシン…と静まり、緊張感に包まれるのが解った。慌てて言葉を濁す。
私が声を掛けたヒューであろう男性はただずっと無表情のまま、私を見下ろすように見ている。近づけばとても背が高いのが解った。あ、まず名乗るのが礼儀だったか…と口を開きかけた瞬間。

「はぁ? あんた、誰? 何? いい加減にして!!」

急な怒鳴り声が、ヒューの隣の赤髪の妖艶な美女から私に発せられたのはそのすぐ後。
あまりの強い言葉に、私は何かを大きく間違えたんだと瞬間で悟る。

9年ぶりに近くで顔を合わせたヒューは、驚きもせずさっきの無表情のままだった。


あ。
その時、私に怒鳴った妖艶な美女とヒューが、手を繋いでいることに気が付いた。
しまった。そうか……!

独占欲激しい彼女なのかもしれないと謝ろうとしたのだけど。言葉が口から出る前に、妖艶な美女は私を斜め上から下まで観察するように見て、そのままフン! と首を振りながら横を通り過ぎて建物中に入っていった。勿論、ヒューも手を繋いだまま一緒に。

どうやら私の登場は、彼の彼女の逆鱗にふれてしまったようです…。
あちゃー。



 初対面の女性に怒鳴り声をあげられ、言い返せもせず放置された私はそのままうつむくより為す術がなかった。
さっきヒューを指さしたこの訓練場の管理長は心底申し訳なさそうに、

「も、申し訳ございません……、彼はちょっと特殊な……、あ、えと、色々アレでして……」

謝ってくれて。何だろう、色々アレって? 色恋沙汰だから説明できないって感じ?と察した私は

「あ、いえ、私こそ…、突然失礼致しました……」

謝り返すしかなくて。私は「そうなら先に言ってよ…」という気持ちを申し訳なさそうな顔の彼には伝えられないまま、足元も小石をぐりぐりと靴で踏みつぶし心の中で叫んだ。
な、なんで急に怒るの……?!!


 *


 私、ニナ・メルニックは、魔力で魔法を使うこのフィクティ王国、中央地区の商会と研究所に籍を置き、あちこち出張で飛び回りながら魔力の研究もしている。

 学院を18歳で卒業して4年、海辺の街に出張が決まるたび、9年前に一度会ったっきりのヒューをなんとなく探すのがお決まりになっていた。
この王国の中で海辺を所有するのは南部地区に多い。

 今回の出張は朝早くに南部に着き、そのままここの訓練場に向かった。
そして見学をさせて貰うこの南部の訓練場に到着したのは、赤髪の妖艶な美女に怒鳴られる1時間前のこと。


 南部に来ると、日差しの強さに最初はいつも驚く。
私の故郷の北部より濃度が濃く感じ、植物の緑色も日光をたっぷり浴びて深く、とても大きい。

包み込んでくれる感じの温かさと生命力を感じるエネルギッシュさ、海の音と匂いがふとした瞬間に漂うこの街に、海辺の街らしい懐かしさも感じながらここに足を踏み入れた。


 訓練場施設内の応接室で、来る前から何度もやりとりをさせて戴いていた管理長の男性に挨拶をする。

「ニナ・メルニックです。この度はお招きくださりありがとうございます」

「ここの管理長を務めますアーク・ホルヴァートです。遠いところはるばるありがとうございます。…不躾にすみません、メルニックさんのすごく澄んだ北部の香り、学生の時以来でとても懐かしく感じます。良い香りですね」

そう言って管理長は穏やかな顔で目を細めた。

 年齢は私より少し上ぐらいだろうか。
 この国では、北部・南部・東部・西部・中央地区のそれぞれ本家とその血統にだけ解る香りがあり、血筋が誤魔化せない。故郷である北部を出ると、必ずこの話題になる。

「ありがとうございます。とはいえ本家と言えども私は5番目で魔力なしです。香りを褒められたのは久々で…。ホルヴァートさんも、南部の温かみのある香りですね」
「ありがとうございます。確か私の兄がメルニックさんのお兄さんと学院の同級生で。一度我が家にいらして戴いたことがあるんですよ」
「そうなんですね、兄たちが…!」
「はい。北部のご当主と言えば、今や水の魔力の使い手としては当代一でしょう。私はまだ学生の時でしたがご挨拶させて戴けてとても光栄でした。実は私も南部本家といえど3番目の魔力なし。お互い苦労しますね…」

お互い苦笑をしながらなんとなく窓の方へ視線をズラし、窓から入りこむ日差しが少し光を濃くしたように感じて目を細めた。

 生まれ持った血筋と魔力の量、使える魔法。これが人生を大きく左右する世界。
魔力が無くても充分暮らしていける世界ではあれど。

「北の5番目、魔力無し」それはどこへ行ってもわたしに付いて回る俗称。
そして二の句は「お兄さんは当代一なのに」
それが現実。

 でも。気にしても何も変わらない。だから私はここで私の本題を切り出した。

「そうですね…。あ、えっと、ホルヴァートさん。この街に黒髪、赤い瞳のヒューという男性はいませんか? 確か今年で18歳ぐらいの…」

思い切って聞いてみると。思いのほか、あっけなく返ってきた言葉に心が躍る。


「ああ、ヒュー・ボーグですよね? ここの水の訓練場の監視員です。そろそろ出勤してくる頃ですよ、入り口に出てみましょうか」

そしてその10分後、私は妖艶な美女に怒鳴られて立ちすくむ。


 *

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