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3 訓練場。
しおりを挟むここ、南部の訓練場には約一週間の滞在予定で、私は地域の商会を回ったり訓練場の見学、訓練場の備品の取引について管理の担当者との会議が何回か設けられている。
使用している備品等の説明を管理長から受けながら、訓練場を見学して回った。
お昼休みになると施設内の食堂に案内され、そこでも仕入れの状況や人員についてなどの説明を受けた。北部には少ない南部らしい魚介のメニューが多くて少し心が浮足立った。
ふと食堂の入り口に目を向けると、友人たちと話しながらメニューを見ているヒューとフィーの姿が目についた。やはり手を繋いでいる。
彼らの周りの友人たちも、そのことについては特に気にしていないようだった。
その一団はこちらの視線に気付くことなく、手慣れた様子で食事を受け取りに行った。
彼らはぴったりと隣の席に座り、食事の間こそ繋いだ手は離していたものの、ふと背中に手を置いたり腕に触れたりしている。まるで恋人同士のように見えた。
あまりじろじろと視線を向けてはいけないと思いながらも、華がある二人には人も群がり、ざわめきも沸き立つ。ついつい目がいってしまう。
私はそれを案内の担当者たちに見つからないようにするので精一杯だった。
*
頑丈な防火壁に囲まれた大きな体育館のような施設の中に、朝、私に怒鳴り声を上げた赤い髪の美女が凛として立っていた。
この人は本当に絵になる容姿をしている。
冷たい目もキリリとした高身長も赤い髪も全てが魅力的だった。
どうやら火の使い手らしく、火の魔法訓練を若者にキビキビと指導していた。
妖艶な外見で火を扱っているところを見ると、遠目でも女戦士のように見えた。
「……あちらがえっと、あの、先程の、フィー・ボーグです。南部本家の分家の長子で、戦場に出られる程の魔力量の持ち主。親族が戦場には出したくないというので、ここの教官になりました」
朝の一件を始終見ていたホルヴァートさんが、少し申し訳なさそうな顔のまま説明をしてくれた。
この施設の中では、火を大量に使うだけあり大きな換気扇が何基も大急ぎで回り、大きな音があちらこちらで渦巻いている。その大きな音の中で、訓練生に声が届くよう指示を年前にしながら動く彼女はとても綺麗だと思えた。
その様子を見ながら、施設の使用方法や備品について説明を受けていると。
そのフィー・ボーグが大股で真っすぐにこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
私は自分にはない彼女の妖艶さに圧倒され、ピリリと丹田に響く緊張を押し隠し、何とか彼女に向き合った。
「あなた、朝の人よね? なんでこんなところにまで入ってきてるの? ヒューのことを探っているの? 今すぐやめてよ! ヒューに余計なことを言わないで、絶対!」
鋭い視線のまま、捲し立てられた。
それは火の玉を今すぐに投げ込まれそうな勢いに感じられて、少し足が震えた。
後ろに居たホルヴァートさんが私を庇うように前に出ようとしてくれたけれど、それを大丈夫ですと止めて。緊張を自分の奥に抑え込み、口を開いた。
「私はニナ・メルニックです。朝は名乗りもせず突然ごめんなさい。私はここへ来るのは九年ぶりで、昨日北部を出て今朝ここに着きました。事情があるなら、あの日のことはヒューに話さないと約束します。邪魔もしないつもりです。言われた通りにしますから」
出来る限り、ゆっくり穏やかに話そうと努めてそう言った。
私は何かを壊しにきたわけじゃないし、何かを奪ったり変えようとも思っていない。それをどうしてもこの人に伝えたかった。
ただあの日、悲しんで泣いて泣いて悔やんでいた彼が、今元気に笑っているならそれだけでいい。
そう思っていることを伝えたかった。
フィーは表情を一つも動かさないまま、何も言わずくるりと回れ右をして訓練に戻って行った。
これ以上こちらに口を挟む隙間はなかった。
……もしかして、彼女はあの事故のことを知っていて何かヒューに隠している?
疑問に思ってホルヴァートさんを見ても、彼もフィーの後ろ姿をじっと見つめ続けていて、私の視線にはいつまでも気付きそうになかった。
*
「こちらが水の訓練を行うプールです。こちらではフィー・ボーグの弟、ヒュー・ボーグが訓練の監督を行っています」
朝の玄関前、昼の食堂で目にした九年ぶりのヒューが訓練生に指導をしていた。
朝の服装と違ってウェットスーツに身を包む彼は全身に水を滴らせていて、さっきとは少し雰囲気が違っていた。
術者が次々に繰り出す水の魔法を、彼は訓練生の後ろから説明をしつつ実際に避けたり動き方の指導をしている。
「…もしかして、ヒューは魔力無しですか…?」
失礼を承知でホルヴァートさんに小声で尋ねると「そうです」と小声で答えが返ってきた。
確かに、今の訓練の様子を見ているとそうとしか思えない。
ただ、あの九年前の事故の時は確かに彼から魔力が出ていたはず。私は九年前、それを目の前で見ている。
でも今、彼に魔力が無いとしたら。
あれは何だったのだろうか。
そして、彼の姉があの強い口調で「余計なことを言わないで」という理由は、これに関連しているのか。私は訓練の様子に視線を向けながら、ただぐるぐると考えていた。
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