魔力がなかったので能力を磨いてみたら、新しい幸せに巡りあえそうです!

泳ぐ。

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15 あの場所。

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 ありふれた黒いシャツとチノパンを着ているだけなのに、背が高いしイケメンだしでとても困る。
 くわぁぁ!と大きなあくびをしながらだらだらと歩いているのに、格好良くて困る。

 そんなヒューは歩くのが少し早くて、私は時々駆け足になりながら後ろをついていく。
 訓練場のボイラー室の階段は手を引いてくれていたけれど、私が人の目を気にして離して欲しいとお願いしちゃったから。前後になって歩いている。

 いつもここへ来るときに通る正門とは違う方向に歩いていくから。

「ヒュー、待って、どこから行くの……?」
「あ、裏門から行った方が近いから」

 ザリザリと土の道を踏みしめながら歩いて行く。
 夕方になる少し前だというのに、まだ日差しは強いままで。ただ時折大きな枝を有する木々の葉がつくる木陰に入ると、風がとても気持ち良かった。

 色の濃いお花がところどころ咲いていて、北部にはない色彩に目を奪われる。
 濃い草の香りと花の香りが混ざって、暑さの中にある南部ならではの季節を感じた。

 歩いて歩いて進んでいくと、海のにおいがぐんぐん近づいてくる。
 ヒューは慣れた道をぐんぐん歩いていく。私の前をただぐんぐん歩いていく。
 私は一生懸命にヒューの背中を追いかけた。


 だんだん足元に細かい砂浜の砂が混ざってきたなと思うと、海に近づいてきたんだと解る。
 波の音が大きくなってくる。
 風に混ざる海のにおいが強くなってくる。

 海に到着する少し前から、朧げに知っている道とか砂浜の形とか、沖の手前にある大きな岩が目に入って懐かしくなる。うん、あの時の海だ。来たことがある海だ。


 ヒューは速度を落とさずただ進んで、砂浜には入らず手前で右側の道を黙って進んだ。

「あ、ねぇ、砂浜へは行かないの……?」
「うん、こっち」

 砂浜の砂が混ざる上り坂をヒューについて進むと、木々に覆われた道が続いていた。一昨日の強い雨の影響か、まだぬかるんでいるところが幾つもある。

 暫く木陰の中を進むと、見晴らしの良い岬に出た。


 急な崖の下に海の波が見える。その崖の途中に大木が一本あり、海の方へ枝を伸ばしていた。その枝に触れるか触れないかのところに、灰色の大きな岩がある。

「あ、この下のここ……!!」

 私は崖スレスレの木製の柵のところまで駆け寄ると、下の海を見てからヒューを見た。
 ヒューはゆっくりと頷いて、ゆっくりと私に行った。

「確か、会ったのってこの下のあの岩のところじゃない……?」
「そう……! あの岩! あの岩のところまで泳ぎ着いたら、ヒューがいたの」

 覚えてる? そう言いかけて、口を噤んだ。そうだ、ヒューは記憶が……。

「ごめん、覚えてはいないんだけど、あの岩がお気に入りの場所だったって姉さんに聞いてて」
「あ、うん。そう言ってた。お気に入りの場所なんだって。他の友達はここまでは泳いで来られないから一人で来る場所なんだって言ってた」
「うん」

 ヒューがちょっとだけ寂しそうに、ちょっとだけ恥ずかしそうにこっちを見るから。
 私はこれ以上は話さないようにしたらいいのか、それとも詳細に話すべきかとても迷った。

 砂浜には海を楽しむ人がいたけれど、流石にここや下の海には人はいなかった。
 確かあの時も、兄さんの魔力を分けてもらっていた私でさえ一生懸命に泳いでここへ辿り着いたのを覚えている。だから先に人が居たことに驚いたんだった。それが自分より小さい子だったことに尚更びっくりしたんだった。


 波の音が崖に打ち付けられて、大きく響いた。
 風が強く吹いていた。暑さが和らいでいくようなその風の中で、ヒューも私も髪を風の形に揺らし続けた。
 

 ヒューは私と向かい合う位置にゆっくりと来て、うつむいたまま私の手を取った。

「うん」

 ヒューはもう一度それだけ言って、それは先を促しているように思えたから、私は話を続けてみた。

「ヒューは泣いてた」
「……うん」

 大事な家族と喧嘩をしちゃったんだ。黙って一人でここに来たから怒られるかもしれない。そう言ってボロボロと泣いて。濡れた髪の雫と涙が次々と顔に滴っていって、それはどっちなのか解らなくなってた。
 私を見ながら顔をぐちゃぐちゃにして泣くのに、赤い丸い目がくりっとしていて可愛い子だなって思って見てた。

 暫く話して、私が「雨が降るよ」って言ったら「え! こんなに晴れてるのに……?」って驚いた後、「解るんだ……! すごいね」って言ってた。一昨日と全く同じに。


 あたりさわりのないところだけ話す私に、ヒューは急かすでもなく表情を変えるでもなく、うつむいたまま「うん」とただ相槌をうった。時折、握られている手に力が入ってギュっとされた。

「その後、ヒューは何かに気付いたかのように辺りを見回して」
「うん」

「火の魔法を爆発させたの。あの木の枝もあっという間に燃えるぐらいの大きな火だった」


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